「……おい、ヤチヨ。どういうことだこれは」
「うわぁ~!隼斗かんわいいぃいい~!!!」
「かぐや、次。次は私だからね」
「彩葉姉さん、その次ウチですからね」
順番待ちしてんじゃねえよ。
中身アラサーだぞ。
しかも鶫まで来てんのか今日。
なんでだよ。
ここ俺のプライベートハウスだぞ、ツクヨミの。
「う~ん、バグかにゃ~?」
「随分都合のいいバグがあったもんだなオイコラ」
手を顎に当てて首を傾げるヤチヨ。
アバターが幼児化して、
ログアウトも出来なくて、
しかも見た目が『
「かぐや?」
「はぁい。まだ足りないなぁハヤトニウム」
圧を掛けて無理やり順番を譲らせた彩葉。
そこまで?
そんなに中身アラサーのガキに構いたいか?
かぐやから順番を引き継いだ彩葉が、しゃがんでこっちの目線に合わせてくる。
そんでなんだよハヤトニウムって。
新元素作んな。
「……その目やめてくれん?」
「どんな目?」
「めちゃくちゃ嬉しそうな目。……あとなんかこわい。捕食者の目ぇしてる」
「気のせいじゃない?」
そのまましばらく無言で見つめてくる。
絶対気のせいじゃないって。
「……なんだよ」
「こんな顔してたんだって思って」
「俺のガキん頃の話すんな」
「目の形、今と同じだ」
「……用が済んだなら離れろ」
「もう少し」
「離れろって」
「もう少し」
「こっちに顔寄せてくるな」
「かわいい」
「男にそれは褒め言葉じゃねえんだってんぬ」
両手で頬をむにむにと捏ねられる。
やめろって、ツクヨミに触覚も実装済みなんだから。
喋りにくいしこそばゆい。
「
「……かわいい」
話聞いちゃいねえわコイツ。
どうにかできるやついねえか。
すると、どこからか「ジリリリリ!!」と、けたたましい音が鳴った。
えっ、なにこれ。
残念そうな顔をした彩葉が下がっていく。
それまで少し離れた場所で様子を見ていた鶫が、おずおずと近づいてきた。
タイマーかよさっきの音。
「……お兄ちゃん」
「なんだよ」
「ちょっとだけ近くで見てもいい?」
「お前まで何言い出すんだ」
「だって」
鶫はしゃがみ込む。
俺と同じ目線になって、そしてまじまじと顔を覗き込んできた。
「……本当にお兄ちゃんだ」
「だからそう言ってるだろ」
「いや、そうなんだけどさ」
納得していないような顔で首を傾げる。
「ウチが知ってるお兄ちゃんって、もうずっと大きかったから」
「そりゃそうだろ」
「お父さんの撮った写真とか、動画でしか見たことなかったし」
「やめろその話。見に行くとか言い出すやついるから」
案の定、後ろの方で「ちっちゃい隼斗の写真!動画!見たい!」と言い出すかぐやの声。
その隣で「お義母さんに言えば見せてくれそう。また行こっか。隼斗抜きで」とか言ってる彩葉。
えっ、俺抜きで
なにそれ知らない。
「七五三と小学校の入学式のやつと同じ顔だ。あっちの方が無邪気に笑ってたけど」
「今は眉寄せちゃってムスッとしてるもんね~」
「やめろって言ってんだろ」
鶫はくすっと笑った。
そのまま俺の頭の上にぽん、手を置いた。
「……なんだよ」
「いや」
ぽんぽん
「本当に小さいなぁって」
「感想が雑なんだよ」
「でも不思議」
鶫の手が止まる。
「お兄ちゃんって最初からお兄ちゃんだった気がしてたんだよね」
「意味分かんねえ~」
「だって物心ついた時にはもうお兄ちゃんだったからさ」
「そりゃお前は妹で、俺は兄貴だからなぁ」
「でもこうして見ると、本当に子供だった時があったんだなぁって」
「当たり前だろ」
「うん」
少しだけ嬉しそうに笑う。
その顔を見ていると、妙に文句が言いづらかった。
「……見たいもの見たなら終わりか?」
「もうちょっと」
「お前もか」
「だって次いつ見られるか分からないし」
「二度とねえよ」
「えー」
「えーじゃねえ」
すると鶫は真面目な顔で言った。
「でも」
「?」
「小さい頃から面倒見良さそうな顔してたんだね」
「顔で判断すんな」
「なんとなく分かる」
「分かるかんなもん」
「分かる」
妙なところで断言された。
なんなんだこいつ。
その時だった。
後ろからかぐやの声が飛んでくる。
「鶫だけズルい~!そろそろ時間切れ!」
「待ってかぐや、鶫ちゃんのご機嫌損ねたら出禁喰らうかも」
「ヴェッ、それはやだ!」
「いや、そんなことしませんけど」
「……お前ら全員いい加減にしろ?」
出来るだけ低い声で言ってみたが、今の状態でどれだけ効果があるか分からん。
全員が微笑ましいものを見るような目を向けてきてるし。
「ぜんっぜん怖くない」
「今すっごい高い声が出たよお兄ちゃん」
「なんでだよ、リアルの声帯は変わってねえだろ。
……え、変わってないよね、マジで声変わり前の声になってんの?」
「うん、うろ覚えだけどちっちゃいころの声だと思うよ」
「嘘だろどうなってんだよ。はよ直してくれヤチヨ」
「ん~頑張ってはいるんだけどね~」
「頑張ってる顔じゃないんだが」
「隼斗ちょっとのあいだ良い子にしててね~」
「良い子にしてての使い方が違うだろ」
ヤチヨに
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
「なんだ」
「抱っこできそう」
「やめろ」
「できそう」
「やめろ」
「やってみる?」
「やめろって言ってんだろ」
「ジリリリリ!!」と、タイマーが鳴ると同時にかぐやがまたこちらに突進してくる。
「かぐやの番また来た!!!隼斗手繋いでいい!?」
「……一回だけだぞ」
「やった!!」
ちっちゃい手を握られる。
ふにふにと感触を確かめたかと思うと、かぐやは満面の笑みで手を引っ張ってきた。
えっ、ちょっと待て。
アバターの筋力も見た目相応の判定になっているのか、全く抵抗できず。
ソファに座っているかぐやの膝に座らされた。
かぐやの両手を腹に回され、すっぽりと体が収まってしまっている。
「隼斗ちっちゃ~い!!可愛いぃいい~♪」
「かぐやズルい、私は我慢したのに!」
「離せコラ。彩葉もなに言ってんだ、欲望抑えろせめて声に出すな」
「「
「声揃えんな」
「いいなぁ」
鶫もボソッと羨ましがるんじゃねえよ。
何度も言うけど中身アラサーだからな。
「元に戻ったら普通の大きさだからな」
「分かってる!!でも今はちっちゃい!!」
「ヤチヨ、どうだ」
「あと少し~」
「蕎麦屋の出前じゃねえんだぞ早くしろ」
「う~ん……うん、直ったよ~!」
目の前が一瞬白くなった。
視点が元の高さに戻る。
いつものジュンヨウのアバターだ。
「……戻ったか」
思わず自分の手を確認した。
「え~」
かぐやが少し寂しそうな顔をした。
「なんだよ」
「ちっちゃい隼斗と遊びたかったなぁ、もうちょっと」
「アラサー男を幼児扱いするな」
あと「と」じゃなくて「で」だろ絶対。
「……ねえ、あの見た目と声って本当に昔の隼斗だったんでしょ?」
彩葉がぽつりと言った。
「……まあ、そうだろうな。実家のアルバムで見た憶えあるし。声は鶫が言う通りだろ」
「どこで取り込んだの?そのデータ」
確かに。
ヤチヨを見る。
「∩∩?」
しれっとした顔をしている。
「ヤチヨ」
「なんだいなんだい?」
「鶫と組んで実家のアルバム取り込んだか?」
「さあ?証拠はないよね~」
「……バグじゃなかったな、これ。管理人の職権濫用だわ」
「そんなことないよ~。バグだよバグ~」
「…………」
ジトっとヤチヨをねめつけるが、ヤチヨは変わらずにこにこしている。
「可愛かったでしょ、昔の隼斗」
「それ見せたかったのかよ、彩葉とかぐやに」
「うん」
少し間を置いて、溜息を吐きながら。
「……次やったら8000暴露するからな」
「それは困るな~」
かぐやが手を挙げた。
「かぐやはもう一回見たい!!」
「見せねえよ」
「え~!!」
「見せねえ」
鶫がひそひそとかぐやに耳打ちしていた。
多分「実家にアルバムあるよ」みたいなことを言っている。
「……鶫。聞こえてるぞ」
「なんのこと~?」
「実家に連絡してお前のアルバムも漁るぞ」
「ごめんなさい」
彩葉とかぐやが小さく笑っていた。
ヤチヨも笑っていた。
「……なんだよ」
「「「かわいい」」」
また言いやがった。
……いまは元のアバターだぞ。
…………そういや、なんで声までガキの頃になってたんだ?
「かわいかったでしょ」って言ってたが、なんで昔の俺を知ってる風の言い方なんだ?*1
……これ深く考えるのやめとこ。
大木桜さん、評価いただきありがとうございます。
ポジテンさん、以前評価いただいたかと思いますが、再度評価いただきありがとうございます。
女郎花さん、感想いただきありがとうございます。
お気に入り登録いただいた方々もありがとうございます。
とても励みになります。
活動報告の方でネタの募集も始めておりますので、ご一読いただければと思います。