⑤ ゲリラ歌枠
「よー、ジュンヨウだ。深夜に歌いたくなった、それだけだ」
配信タイトルは【ゲリラ歌枠】急に歌いたくなった【JunY0u】
「特に理由はない。歌いたくなる日があるんだよ」
マイクの音量を確認する。
軽く咳払い。
「まず一曲。『ベテルギウス』」
イントロ。
少し間を置いて、歌い始める。
──空にある何かを見つめてたら──
──それは星だって君が教えてくれた──
深夜の静けさに合っていた。
力の抜けた、でも芯のある歌い方。
曲が終わる。
「……はい」
ウィスキーを一口。
「次、『RE:I AM』」
数曲、淡々と続ける。
喋りは少ない。
歌と歌の間に短いコメント拾いが入るくらい。
「……次は」
と言ったところで。
防音室のドアが開いた。
「……」
振り向いて下手人を確認する。
特徴的な、艶のある白髪。
ヤチヨだ。
「寝てんじゃなかったのか」
「隼斗が歌ってるの聴こえてきたら眠れなくなった」
「嘘吐け防音室だぞ。配信見てたな?」
「~~~♪」
配信タイトルが更新される。
【ゲリラ歌枠】急に歌いたくなった【JunY0u×月見ヤチヨ】
「……まあ、来たなら歌うか」
「うん!何歌う?」
「お前のリクエストから行こう」
「じゃあ……『目抜き通り』」
イントロ。
ジュンヨウが先に入る。
──D'où venons-nous. Que sommes-nous Où allons-nous?──
次にヤチヨ。
──Lorsque nous mourrons, Aurons-nous les reponses?──
交互に入れ替わる歌い方が決まっていた。
ヤチヨの澄んだ声と、ジュンヨウの低音が、奇妙なくらい合う。
二人の声が重なった。
────誰も知らない わたしが何なのか 当てにならない 肩書きも苗字も────
曲が終わる。
「……うん、合うな」
「合う!二人の声、合うんだよね~♪」
「初めて歌ったのいつだっけ」
「……ずっと前だね」
「次、俺からリクエストしていいか」
「もちろん!」
「『W-B-X ~W-Boiled Extreme~』」
「親の影響だな。小さい頃よく観てた。これはリアタイじゃねえけどよ」
「俺、産まれたのは平成だけど初めてちゃんと見たライダーは令和世代だし」
「うわ~ニュージェネレーションだぁ」
「ヤチヨはリアルタイムで観てたんだっけ?」
「観てたよ~。放送当時に映画館も行ったし~」
「それリアルタイムって言えるのか?お前の場合」
FUSHIの体で?
「エターナルカッコ良いよね~」
「なんかお前が言うと重いんだよな」
「まあ行くか。歌詞割りはそのままで」
イントロ。
ヤチヨのコーラスから入った。
──W-B-X Crime and the city──
リクエストしたは良いけど、俺の出番ほぼねえのよなこの歌。
あ、でもそろそろか。
──闇に潜む Keyword──
────見つけ出そう────
──1人では届かない夢──
──検索する無限のアーカイヴ 記憶という海へとDive──
二人のやり取りが決まっていた。
Cメロ。
ヤチヨの透明感のある歌声が響く。
──そこに人がいなくちゃ 街は空虚な箱さ──
────僕らを繋いだ風を 止めたくない!────
曲が終わった。
「あはは、流石にそんな物騒なもの付いてないよ~。ね、隼斗」
「………………」
「……付いてないよね?」
「さ、次の曲入れるか」
「ねえ隼斗!?こっち向いて隼斗!!」
カセットアームくらいならイケるかなって検討はした by.副所長
使用者からの希望があれば義体に備え付けます by.所長
「ヤチヨ、次『ラフ・メイカー』」
「あとで詳しく聞かせてもらうからね!」
「ラフ・メイカー部分は俺、それ以外はヤチヨで行くか」
「了解!」
イントロが始まる。
ヤチヨのパートから入る。
──涙でぬれた部屋に ノックの音が転がった──
声が夜に溶ける。
──「名乗るほど 大した名じゃないが 誰がこう呼ぶ "ラフ・メイカー"──
ジュンヨウが畳みかける。
ヤチヨが受ける。
またジュンヨウ。
また返す。
掛け合いが決まっていた。
──「アンタの泣き顔笑えるぞ」──
──呆れたが なるほど 笑えた──
「次はヤチヨのリクエスト」
「じゃあ『オツキミリサイタル』!」
「……ヤチヨがリクエストしてくる曲、たまに刺すな」
「そう?」
「月の曲が多い気がするんだが」
「……そうかな~?」
少し間が空く。
「まあ、行くか」
──「もう、どうやったって無駄かもな」泣きそうな顔 見ていた──
──「諦めないでよ」みたいな言葉じゃ 全然足りない!──
ヤチヨの声が少しだけ変わった気がした。
コメント欄の流れが自然と遅くなる。
曲が終わって。
「……ヤチヨ」
「なに?」
「月の曲、好きなのか」
「……うん」
それだけだった。
「んじゃ次は俺から。『JANE DOE』
ヤチヨが女声パート、ジュンヨウが男声パート。
──まるでこの世界で二人だけみたいだね──
──錆びたプールに放たれてく金魚──
二人の声が交わる。
──この世を──
────間違いで満たそう────
ただし、このフレーズのみ。
それ以降、声が重なるパートはない。
──まるでこの世界で二人だけみたいだね──
──なんて少しだけ夢を見てしまっただけ──
コメント欄がほぼ止まった。
曲が終わる。
しばらく誰も何も言わなかった。
「……この辺で〆っか」
「そだね~」
「みんな欲張りだな~」
「まあ、気持ちは分かるけど」
ジュンヨウが顎に手を当てて、少し考える。
「なんか明るい曲あるか。湿っぽくならないやつ」
「ん~~~」
ヤチヨが少し考えて。
「じゃあこれ!」
「『ケロッ!とマーチ』!」
「……まあ、良いか」
苦笑しながらイントロに入る。
──ケロッ!ケロッ!ケロッ!
──いざ進め~ッ 地球侵略せよ──
ヤチヨが楽しそうに歌う。
ジュンヨウもつられて少しだけテンションが上がる。
──「気をつけ~ッ、目を喰い縛れェェ!!!」──
──カレーのライスを炊き忘れ──
曲が終わる。
「……うん、これで終わりにするか」
「今日楽しかった!また歌おう!」
「また気が向いたらな」
「気が向かなくても呼んで~」
「……まあ、そういうことにしとくか」
「今日はここまで。おつかれ~」
「またね~♪」
⑥ギター弾き語り
「よー。今日はギターを弾く」
配信タイトルは【弾き語り】深緑のレスポールで【JunY0u】
それだけ言って、チューニングを始める。
深緑のレスポール。
復活ライブで使ったやつだ。
弦を一本ずつ確認していく。
「……うん、合ってる」
ピックを手に取る。
「今日は適当に弾く。ミスっても知らん」
「まず一曲。『ヘビーローテーション』」
「冗談だ」
「『サウダージ』から行くか」
イントロ。
レスポールの音が部屋に広がる。
アコギとは違う、少し重みのある音。
──私は私と はぐれる訳にはいかないから──
──いつかまた逢いましょう その日までサヨナラ恋心よ──
力の抜けた歌い方。
でも弦の音が芯を持っていた。
曲が終わる。
「……次、『美しい鰭』」
数曲、淡々と続ける。
派手さはない。
ただ弾いて、歌う。
コメントから。
「あれはあれで良かったな」
弦を軽く鳴らしながら。
「今はこっちが性に合ってる」
「アコギは近い感じがするけど、レスポールは……なんか、ちゃんと鳴らしてる感じがする」
「まあ、どっちも好きだけどな」
麦茶を一口飲む。
「次、『君にこの声が 届きますように』」
イントロのカッティング。
意外と合っていた。
──君にこの声が 届きますように──
──絡み付く風をすり抜け 今 願うよ──
しばらく弾いた後、麦茶の氷がカランと鳴った。
「……次は『またあえる日まで』にするか」
「この曲好きなんだよ」
軽く言いながら、イントロを弾き始める。
どこかノスタルジックなイントロ。
弦が鳴る。
──青い空白い雲 勇気をもって踏み出そう──
──思い出すと笑い合える 楽しい思い出──
最後のコードが鳴り終わる。
少しだけ沈黙。
「……次は本当に最後にするか」
麦茶を一口。
「最後に一曲」
コードを押さえようとしたところで、配信部屋の扉が開いた。
かぐや。
ヤチヨ。
彩葉。
三人がドアの向こうで笑っていた。
「……タイミング計ってたろ」
「「「計ってた(うん)!」」」
声が揃った。
「……まあ、来たなら歌うか」
コラボ申請を承認する。
配信タイトルが更新される。
【弾き語り】深緑のレスポールで【JunY0u×いろP×かぐや×月見ヤチヨ】
「かぐやっほー!!待ってたよ!!」
「いろっぴー。いろPで~す。……ちゃんと準備してたからね」
「ヤオヨロ~♪ヤッチョも来たよ~」
「彩h……いろP、キーボード繋いだのか」
「一応ね」
「準備してたとはな」
「計ってたから当然」
「……開き直ってんなぁ」
「最後の一曲、何弾くつもりだったの?」
「COLORSだ」
「「「じゃあそれで!(それで!)(それ!)」」」
また揃った。
「お前らな」
苦笑しながらレスポールを構え直す。
「彩葉はキーボードの準備、かぐやとヤチヨはマイク確認してくれ」
「「はーい!(うん!)」」
少しの準備時間。
「……行くぞ」
イントロ。
彩葉のキーボードが重なった。
かぐやの声が入る。
──自分を、世界さえも変えてしまえそうな──
ヤチヨのハーモニーが重なる。
────瞬間はいつもすぐそばに……────
ギターが鳴る。
キーボードが支える。
二つの声が絡み合う。
四人の音が、揃った。
サビ。
かぐやが声を張る。
ヤチヨがそれを支える。
彩葉のキーボードが場を整える。
ジュンヨウのギターが鳴り続ける。
ライブのような大きさはない。
でも今夜の四人には、これがちょうど良かった。
最後のコード。
音が静かに消えていく。
しばらく、誰も何も言わなかった。
コメント欄も、少しの間だけ止まった。
それから一気に流れ始めた。
「またやろ!!」
かぐやが真っ先に言った。
「気が向いたらな」
「またそれ!!」
「それが俺のスタイルだから」
「言い訳にしてる」
彩葉がぼそっと言った。
「んなことはない」
「してる」
「してない」
「「してる(してるよ)」」
かぐやとヤチヨが揃った。
「……まあ、気が向いたら」
少しだけ口元が緩んだのを、コメント欄は見逃さなかった。
「今日はここまで。おつかれ~」
「おつかれ~!!」
「おつかれ」
「またね~♪」
ゆー_yuuさん、評価いただきありがとうございます。
お気に入り登録いただいた方々もありがとうございます。
とても励みになります。
活動報告の方でネタの募集も始めておりますので、ご一読いただければと思います。