「……なんで全員赤ちゃんになってんだ」
リビング。
ソファの上に、三人の赤ん坊が並んでいた。
ゲーミング電柱から出てきたばかりのかぐやの外見を元にしたKG型。
そして、FUSHIに義体を与えるにあたって作られたFS型。
……本人の希望で、俺の赤ん坊時代を元にした男性型だ。
「テスト用の赤ん坊型義体だよ」
彩葉が白衣のまま、メモを取りながら言った。
「そりゃ見りゃわかるが、研究所のやつを持ち帰って良いのか」
「緊急のトラブルシューティングでさ、環境変えた方が良いかと思って」
「……でもまさか三体同時に不具合出るとは思わなかったな」
「どんな不具合だ」
「ログアウト機能が一時的にロックされた。二時間くらいで解除されるはずだけど」
二時間。
ローテーブルの上の三体を見る。
YC型の赤ん坊が、もちもちした手をぱたぱたさせている。
KG型の赤ん坊が、きょろきょろと周りを見回している。
FS型の赤ん坊が、じっとこちらを見つめていた。
「……しゃべれるのか、これ」
「音声出力は生きてるよ」
YC型が口を開いた。
ソファに肘を掛け、ふんぞり返ったどや顔で。
「で、ヤッチョが産まれたってわけ∩∩」
「…………」
「発音完璧なんだが」
「義体だからね」
ネットミームやるくらいには余裕あるのかよ。
KG型が続いた。
「かぐやっほー!!」
声量だけは本人と変わらなかった。
隼斗は少しだけ眉を寄せた。
「声量落とせ」
「おっきいこえしかでんない!!」
FS型はまだ黙っていた。
じっとこちらを見ている。
「FUSHIは?」
「……人間の赤ん坊の動作を学習中なんだと思う。しばらく観察してから動くタイプだから」
なるほど納得。
「……どうすりゃいいの?」
「普通にしてれば良いよ。二時間したら解除される」
彩葉がローテーブルの前にクッションを置いて、ノートPCを開いた。
「私はここで作業するから、ちょっと見ててくれる?」
「見てるだけで良いのか」
「うん。転落防止だけお願い」
「……分かった」
ソファに腰を下ろす。
三体と目が合う。
YC型がまたぱたぱたした。
「なんだ」
「なんでもにゃいよ~」
「にゃい、ってなんだ」
「なんごがでるの~」
発音完璧じゃねえじゃねえか。
体に引っ張られるのか?
KG型がソファの端ににじり寄ろうとしている。
「あんま普段の感覚で動くな、落ちるぞ」
「だいじょーぶぁ!」
「大丈夫じゃない。戻れ」
「えー」
「戻れ」
KG型がしぶしぶ真ん中に戻った。
FS型がそのやり取りをじっと観察していた。
「FUSHIは何か言わないのか」
「……」
少し間があって。
「おとなしいほうがいい子なんだろ」
「大人しすぎてもな、親は不安になるんだよ。赤ん坊は騒いでるくらいが丁度いい」
「かぐやみたいにか?」
「ここまで騒がしいのはちょっと」
KG型が抗議した。
「かぐやはおとなしくない!?」
「どうかんがえてもそうだろ」
「やっちょとふしにくらべればうるちゃいよね」
「みとめるな!!」
赤ん坊三体がテーブルの上で言い争いを始めた。
なんかちゃむちゃむしてる。
「「「ギャーギャーばぶばぶきゃうきゃう!!!」」」
「……」
うるせー、おしゃぶり咥えさせてやろうか。
しばらくそれを眺めていたが、ふと気が付く。
「彩葉」
「なに?」
「……これを、二時間?」
「頑張って」
「お前も見ろよ」
「バグ取り作業があるから」
「俺も作業あるんだが」
「あなたの方が向いてるでしょ」
「根拠は」
「鶫ちゃんが赤ちゃんのころ見てたんでしょ」
「……」
反論できなかった。
YC型がこちらに向かってにじり寄ってくる。
もちもちした手が、隼斗の膝に乗った。
「…………」
「はやと」
「なんだ」
「だっこちて」
「……」
仕方なく、片手でYC型を膝に乗せた。
「はやとおっきい~」
「赤ん坊の視界だからな」
KG型がそれを見て立ち上がろうとした。
「かぐやもいく~」
「無理すんな、立ち上がれないだろ」
「いける!」
が、赤ん坊型の重心の問題で盛大にすっ転んだ。
ソファで良かったな、床だと頭打ってたかもしれん。
「んぎゅっ」
「だから動くなって言っただろ」
隼斗がもう片手でKG型を拾い上げた。
「……なんで両手塞がってんだ俺は」
彩葉が振り返らずに言った。
「似合ってるよ」
「うるせ~。見てから言えせめて」
FS型だけがソファの真ん中で四つん這いのまま、じっとこちらを見ていた。
「……FUSHIはどうすんだ」
「……ぼくはここでいい」
「そうか」
しばらく沈黙。
「……でも」
FS型が少し間を置いて。
「……ひとりはさびしい」
「……」
隼斗が片方の膝を空けた。
「来い」
FS型がゆっくりとにじり寄ってきた。
三体が膝の上と腕の中に収まった。
「……重っ」
「義体だからね、普通の赤ん坊より重いよそりゃ」
「にしても重いぞ。仕様より重量増えてねえか」
「護身用の機能色々付けたからかな」
「赤ん坊になにを付け……いや、良い。聞かなかったことにする」
彩葉がこちらを向いた。
メモを取りながら、少しだけ笑っていた。
「……なんだよ」
「ううん。データが取れてるから良かったなと思って」
「そのためにこうなってんのか」
「違うよ。ただ……」
彩葉が少し笑った。
「良い絵だなと思っただけ」
「……うるさい」
KG型が隼斗の腕の中からコメントした。
「ほんとにいいえだね!!」
「お前は少しくらい静かにできない?」
「やだ!!」
YC型がきゃっきゃと笑っていた。
FS型は黙ったまま、隼斗の膝の上でじっとしていた。
「……FUSHIはしゃべらないのか」
「しゃべらなくてもさびしくないんだ。みんなといっしょだから」
「そうか」
膝の上のYC型がもぞもぞしている。
「ヤチヨ、どうかしたか?」
「はやとぉ、あのね」
「うん」
「なんかくちさびしくて」
「うん?」
「て、かして?」
「なんて???」
困惑していると、彩葉がノートPCから目を離さずに口を挟んできた。
「貸してあげて~。なんか悪影響出るかもしれないし」
「雑じゃね?」
「はやとぉ」
「あ~……はいはい……」
呆れながらYC型の前に手を出してやると、小さな両手で掴まれた。
そのまま手を口に持っていって、指をしゃぶられる。
「くすぐったいんだけど」
「
「これ汚くねえの、手ぇ消毒してねえぞ」
「まあ、義体だから大丈夫」
「万能じゃねえからなその言葉」
二時間後。
三体が元に戻る直前。
YC型が言った。
「また赤ちゃんになれる?」
「ならんでいい」
「えー」
「義体があるだろ、普通の」
「でもはやとのおひざにのれないじゃん」
「……普通の義体でも乗るは乗るだろ」
「!!」
KG型も声を上げた。
「かぐやものる!」
「二人同時には体格的に無理だわ」
「えー!!」
「えー、じゃない」
FS型が静かに言った。
「ぼくはもうすこしおおきいぎたいがいいな。ちいさいからだは、ひとりじゃなにもできない」
「そうか。それは彩葉に言え」
「うん」
彩葉がノートPCから顔を上げた。
「聞こえてたよ。検討する」
「ありがとな、いろは」
ログアウトのカウントダウンが始まった。
3、2、1。
三体が同時に動きを止めた。
リビングが静かになった。
「……終わったな」
言いながら、三人の義体をローテーブルに置く。
意思が無くなった義体は、気のせいか先ほどよりも重く感じた。
隼斗が空になった膝を見下ろした。
「おつかれさま」
「おう、これ三人は今どうなってんだ?」
「FUSHIはツクヨミに戻ってる。二人は部屋にある普段の義体に戻ってるよ。多分感覚が違うから、すぐには下りてこれないと思うけど」
彩葉が立ち上がって、三人の義体を回収し始めた。
「二時間、どうだった?」
「……まあ」
少し間を置いて。
「悪くはなかったよ。赤ん坊の相手なんて久々だったし」
「予行演習になった?」
「……えっ?」
その一言に驚いて、彩葉の顔を見つめた。
「冗談、まだ予定は無いよ」
彩葉が悪戯っぽく笑った。
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