「ねえねえ隼斗!!」
休日の昼下がり。
リビングでスマホをいじっていたら、かぐやが飛び込んできた。
「なんだよ、どうした?」
「『踊ってみた』やりたい!!」
「……Shortみてえなの?」
「そう!!かぐやとヤチヨで前から話してて!!やってみようってなったんだけどさ!!」
「それと俺に何の関係が?」
「隼斗にも踊ってほしいの!!!」
「嫌だ」
即答した。
「えー!!なんで!!」
「踊れねえからだよ」
「踊れなくていいよ!!かぐやたちが教えるから!!」
「嫌だって言ってる」
かぐやがしょんぼりした顔をした。
が、一秒後に顔を上げた。
「彩葉は!?」
「……私も聞いてたけど」
いつの間にか彩葉がリビングの入り口に立っていた。
「彩葉もやる!?」
「……どんな曲?」
「こっちで決めてある!!見てみて!!」
かぐやがスマホを彩葉に向けた。
彩葉が画面を見て、少しだけ考えた。
「……これなら動きはそんなに難しくない、か」
「でしょでしょ!!四人でやったら絶対かわいいと思って!!」
「まあ……やってみても良いかな」
「やった!!」
「俺は嫌だと言った」
隼斗がもう一度言った。
かぐやとヤチヨが向かい合ってから、隼斗を見た。
「ヤッチョ、作戦会議」
「うん」
二人がひそひそし始めた。
「……なんの相談だ」
ヤチヨがこちらを向いた。
「隼斗ってさ、やりたくないことでも理由に納得できたらやる人だよね」
「……まあ、そうだが」
「じゃあ理由を考えよう」
かぐやが手を挙げた。
「Short動画は拡散力があって新規リスナーが増えやすい!!」
「……それは分かってる」
「四人でやる方が再生数が伸びる!!」
「……それも分かってる」
「隼斗が踊れないのは知ってるけど、それが逆に面白い!!」
「……理解はしたけど納得したくねえ~」
渋い顔をしていると彩葉が口を挟んできた。
「そもそもアンタ、別に踊れないわけじゃないでしょ。踊らないだけで」
「えっ、そうなの?」
「高校の時の体育祭、応援団で踊ってたでしょ」
「だってこいつらが持ってくる振付かわいさ全振りとかなんだもんよ。キャラに合わん」
「じゃあ~、かわいいやつじゃなければ踊ってくれるの?」
「持ち帰って検討させていただきます」
「大人になりやがって~!」
かぐやが口を尖らせて不満を露にする。
いやだってなぁ、アイドルダンスとかどう考えても俺に似合わんし。
「じゃあ、今日はこういうのをやりたいんだけど、これならどう?」
ヤチヨがスマホの画面を見せつけてきた。
「だから検討って言って……」
……あ~……。
「これならちょっとやってみたいかもな」
「えっ、マジで!?ヤチヨなに見せたの!?」
「船のヤツ~」
「あ~」
「……船のヤツ?」
「隼斗にもやって欲しいのはこういうのなんだけど、どう?」
「にも、ってことはお前らだけで踊るのもやんの?」
「うん。ヤッチョだけとかかぐやだけとか、彩葉だけにやってもらいたいのもあるよ~」
「えっ、初耳なんだけど」
「「彩葉~彩葉に踊って欲しいな~」」
「うぐっ、ヤチヨは言うまでもないとしてかぐやも顔が良い……!」
「……俺のソロは無いんだよな?」
「次回までに考えておくけど、今回は無いかな~」
「次がもう予定されてるのは聞こえなかったことにして、なら良いか」
「よ~し!じゃあ配信部屋にれっちご~!」
【踊ってみた!】夜の踊り子【かぐや×JunY0u×月見ヤチヨ】#shorts
「え?なにこれ」
「いま流行ってるの!」
「噓でしょこれが?」
撮影し、簡単に編集された動画を見た彩葉が目を瞬いている。
そうもなるだろうな、元ネタ知らなきゃ。
でもちょっとやってみたかったんだよなこれ。
「バズりもバズり散らかしてるぞ」
「ミーム寄りだけどね~」
「寄りって言うかそのものずばりネットミームだろ」
「次のやつは彩葉も出てもらうからね!」
【踊ってみた】好きすぎて滅!【かぐや×月見ヤチヨWith.JunY0u×いろP】#shorts
「これ私たちマイクになってるってこと?」
「そう!いろPスタンドマイクとJunY0uスタンドマイク!」
「商品化しねえでくれ」
「非売品~」
「次はなに撮るの?」
「次はね、彩葉とかぐやの二人で撮るよ!これ!」
「うわ、マジで?……ちょっと練習時間もらえる?」
「へぇ、これ撮るんか。二人のダンスの違い出そうだな」
「……練習は見ないでくれない?」
【二人で踊ってみた!】DISCOTHEQUE【かぐやいろP】#shorts
「アラサーの、研究者に、踊らせるダンスじゃないって……!!」
「彩葉カッコよかったよ~!」
「そう言って、くれるなら、頑張った甲斐は、あったけどさ」
「楽しそうだったぞ、二人で息ピッタリで」
「まあ、そりゃ、久しぶりに体動かしたしね」
「そしたら、彩葉はちょっと休んでもらおうかな~。次はヤッチョ一人のヤツ~」
【踊ってみた】ビビデバ【月見ヤチヨ】#shorts
「ずっと踊ってみたかったんだよね~。すいちゃんの曲」
「靴投げたいって言ってたもんね」
「踊ってみたショートじゃ出来ないから、今回はお預け~」
「かぐやも『ステラステラ』好きって言ってたよね」
「いつか歌ってみた出したいな~って!」
「そういや、ラジオのオファー来てなかったか?」
「そう!今度すいちゃんと会ってくるの!」
「……先方の失礼にならないようにな、マジで」
「その言い草はかぐやに失礼じゃない!?」
「次、彩葉のソロね~。はい、曲はこれ」
「うわ、これ?……先に誰か撮ってくれない?これやるなら本腰入れないと」
「じゃー先にかぐやのソロ撮る~!」
【踊ってみた!】盛れ!ミ・アモーレ【かぐや】#shorts
「ぎゃー!?股関節外れたー!?!?」
「上げすぎだアホ!!」
「あ、ハマった……ふぃー焦ったぁ」
「お前、痛覚のフィードバックレベル下げてるな今……」
「い、彩葉にはいまの言わないでぇ?お願い☆」
「……今度オーバーホールするからな」
「ただいま~☆」
「お、おかえりぃ~」
「とりあえず、形にはなったかな。……なんかあった?」
「「い~やぁ?」」
「なに~ヤッチョと彩葉には内緒~?」
「……いや、そのうち分かるだろうから」
「?……まあいいか、さっさと撮っちゃうね」
【踊ってみた】IRIS OUT / 米津玄師 さん【いろP】#レゼダンス #shorts
「カッコいいじゃん彩葉」
「かぐや、ストーリーあんま好きじゃないけど、デンジとレゼの関係性は好き~」
「ハッピーエンドとはあんま言えねえからなぁ」
「ヤッチョはデンジとマキマさんの関係性も好きなんだけどな~」
「あれはメリバ……メリバ……?あれはいったい何エンドと言えばいいんだ……?」
「ねえ、なんで誰も私と目線合わせてくれないの」
「「「いや今はちょっとメロ過ぎて……」」」
「メロ過ぎてってなに?」
「メロ過ぎて滅……」
「やかましいな」
「次で今日撮るヤツ最後ね。隼斗のチャンネルで上げてもらうよ~」
「ええ?うちなの?」
【踊ってみた】心予報 / Eve【JunY0u×かぐやいろP×月見ヤチヨ】#shorts
「隼斗かわいい!」
「クソ、騙された」
「騙してないよ~」
「かわいいやつ以外ならやるって言ったのに、流れでやっちまった」
「でも似合ってたよ?」
「似合ってたね~♪」
「彩葉まで言わんでくれ」
彩葉が小さく笑っていた。
「……パート分け、仕組んでたな」
「ヤッチョがやりたいって言ったし、そりゃ~事前に考えておくよね~」
「今日、何本撮ったっけ」
ふと、彩葉が確認するように言った。
「七本かな~!」
「七本……」
彩葉がため息をついた。
「よく一日で撮れたな」
隼斗が言った。
「かぐやの企画力とヤチヨの段取りが良かったからだよ」
「ヤッチョがあらかじめ曲と振り付けと撮影順全部決めてきてたからね~!」
「ヤチヨが全部段取りしてたのか」
「うん♪ かぐやが曲選んで、ヤッチョが構成考えてくれたの!」
「……だから朝から機材のセッティングが終わってたのか」
「前日から準備してたよ~」
隼斗が少し黙った。
「……そっか」
「どうかした?」
「いや。……ありがとな、二人とも」
「「!!」」
かぐやとヤチヨが同時に声を上げた。
「え、隼斗が感謝した!!」
「珍しい」
「珍しくねえだろ」
「珍しいよ」
「……まあ、一日付き合わせたからな」
「逆じゃない?かぐやたちが隼斗付き合わせたほうだよ?」
「そうだよ~、またやりたいし」
「彩葉は?」
かぐやが彩葉を見た。
「私は……思ったより楽しかった」
「ほんと!?」
「ほんとに思ったより、だけどね。久しぶりに体動かした」
「またやろう!!次回はもっとたくさん撮ろう!!」
「次があるなら練習時間をちゃんとちょうだい。今日は本腰入れる時間なかったから」
「うん!!次は彩葉ソロのために一日丸ごと空けるね!!」
「一日は大げさだけど……まあ、また企画してくれれば考えるけどさ」
「やった!!確約もらった!!」
「確約とは言ってない」
「「ほぼそうだろ(でしょ~)」」
ヤチヨと隼斗の声が揃った。
「……二人とも、なにが『そう』なの」
「彩葉が『考える』って言ったらやるし~」
続いて、隼斗が言った。
「俺も『気が向いたら』って言ったらやるしな。同じだろ」
「……そんなことないと思うけど」
「あと、なんだかんだお前も『おし』に弱いからな」
「なんか含みがあるわね」
「『推し』のヤチヨとかぐやの『押し』に勝てた例がないだろ」
「上手いこと言わないでよ」
後日、それぞれのチャンネルで動画が上がって数時間後。
リビングで全員がスマホを見ていた。
「……再生数えぐいな」
隼斗がぼそっと言った。
「どれが一番回ってる?」
かぐやが覗き込んできた。
「心予報が一番伸びてる。次が好きすぎて滅」
「ハート効果!!」
「ハート効果か~」
「次回もハートやってくれる?」
「……次回の内容による」
「やってくれそう!!」
「やるとは言ってない」
ヤチヨがスマホを傾けながら言った。
「夜の踊り子もじわじわ伸びてるよ~。ミームは時間差で来るから」
「あれは俺もちょっと楽しかった」
「でしょ~!」
「……まあ、ああいうのなら」
「次もああいうのにしよっか」
「次が早すぎる」
「企画は温めておかないとね~♪」
「……はいはい」
彩葉がお茶を持ってきて、テーブルに置いた。
「おつかれさま」
「彩葉もな」
「私、ダンスって研究所の発表以来くらい体使ったかもしれない」
「それは全然使えてないだろ。発表で体使わん」
「うるさい」
かぐやがお茶を一口飲んで、三人を見回した。
「楽しかったね、みんなで踊るの!」
誰も何も言わなかった。
少しだけ間があって。
「そうだな」
隼斗が言った。
「また企画してくれ」
「!!」
「……え、自分から言った」
彩葉が少し驚いた顔をした。
「たまにはな」
「やった!!じゃあまた曲考えておくね!!」
「まだ疲れが残ってるんだが」
「次の企画はね~!!」
「聞けよ、アラサーの回復力の無さ舐めんな」
ヤチヨがくすくすと笑った。
「次回も楽しみだね~」
「……まあ、そうだな」
窓の外が夕暮れに染まっていた。
ROSOさん、感想いただきありがとうございます。
お気に入り登録いただいた方々もありがとうございます。
とても励みになります。
活動報告の方でネタの募集も始めておりますので、ご一読いただければと思います。