開演15分前
ツクヨミに特設されたライブステージ。
客席は既に埋まっていた。
数千人規模のホール。
天井近くまで伸びる観客席。
中央には巨大なステージ。
その背後には超大型LEDスクリーン。
開演前のBGM。
揺れるペンライト。
客席を埋め尽くす色彩。
白。
水色。
黄色。
緑。
推しごとの色が混ざり合う。
「やばいな」
「人多すぎる」
「そりゃそうだろ」
開演を待つ観客。
「かぐや復活してからライブ見るの初めてなんだよな」
「ジュンヨウの生ギター楽しみ」
「黒鬼来るの反則だろ」
「TSUGUのドラム絶対上手いぞ」
大型モニターに映し出されたカウントダウン。
00:14:58
歓声。
SNSでは既にトレンド入りしていた。
#いろかぐヤチジュンLIVE
【会場やばい】
【満席】
【ツクヨミの会場外も人ヤバい】
期待が膨らむ。
バックステージ
ステージ裏。
照明が落とされた待機エリア。
ギターを抱えながらスクリーンを見ていた。
客席映像。
びっしりと席を埋める観客。
「すげぇな」
思わず漏れる。
かぐやも同じ映像を見ていた。
「うわ、ほんとにいっぱい……」
「今さらか?」
「だってさ……」
かぐやが笑う。
「彩葉、さっきから三回くらい同じこと言ってる~」
「緊張してんの!」
「意外だねぇ」
「こういうの慣れてそうなのに」
芦花と真実が彩葉をからかうように笑いながら言う。
「研究発表とライブは別!!」
全員が笑う。
少し離れた場所で、
「楽しみだな。お兄ちゃんと同じステージ」
雷は腕を組んだまま。
「騒がしい連中だ」
「お前もだろ」
すぐさまツッコんだ。
乃依が笑う。
「そうかもね~」
「にしても豪華なライブだな、
帝が楽しそうに笑いながら皮肉気に言ってきた。
「すまんね、主役は俺らなんで」
苦笑しながら言ってやった。
ヤチヨは静かにモニターを見ていた。
客席。
無数の光。
「……みんな楽しみにしてくれてる」
かぐやが頷いた。
「かぐやたちも楽しまなきゃ!そしたらみんな楽しんでくれるから!」
ヤチヨも微笑みで返した。
「そうだね」
開演1分前。
楽屋モニターに「本番60秒前です」とメッセージが表示された。
空気が変わる。
全員の表情が切り替わる。
歓談が止む。
ステージの向こう。
観客の歓声。
既に名前が飛び交っている。
「かぐやーー!!」
「ジュンヨウーー!!」
「ヤチヨーー!!」
「いろPーー!!」
会場全体が熱を帯びていた。
大型スクリーンがカウントダウンを始めた。
10
9
8
観客が数字を叫び始める。
7
6
5
かぐやが拳を握る。
4
3
ギターを構える。
2
1
暗転。
会場全体が闇に沈む。
そして次の瞬間。
巨大スクリーンに、
いろかぐヤチジュンLIVE
のロゴが爆発するように表示された。
地鳴りのような歓声。
ステージ中央を照らすスポットライト。
最初に聞こえたのは、ジュンヨウのギターと、TSUGUM1のドラムだった。
ジャカッ―――!!
ドドン!!
TSUGUM1のバスドラ。
ストロボ。
白い光。
観客の悲鳴。
「行くぞ!!ついて来いよ!!!」
ジュンヨウの叫び声。
────ブリキノダンス────
会場が爆発した。
──さあ憐れんで血統書、持ち寄って反経典──
──沈んだ唱導、腹這い幻聴。謁見、接見、妄信症──
かぐやとヤチヨのアップテンポな歌い出しから始まった。
ジュンヨウのギターとTSUGUM1のドラムがテンポを支える。
──不気味な手 此処に在り──
──理性の目 咽び泣き──
──踵返せ遠くに──
──偲ぶ君の瞳を──
サビ前の4つに分けられたパートを、かぐや、ヤチヨ、いろP、ジュンヨウでそれぞれ歌い分ける。
ペンライトが一斉に振り上がる。
誰もがサビを待っていた。
最後のジュンヨウのガナり。
そして。
ドン!!
と、TSUGUM1のドラムから、一気にサビへと雪崩れ込んだ。
────さあ皆舞いな空洞でサンスクリット求道系────
────抉り抜いた鼓動咲かせ咲かせ────
元々テンポが速かった曲がサビに入ってさらに速くなった。
だが、四人の息はピッタリ合っている。
ただでさえ難しい曲を、少しもズラさずに。
いつの間にか、ラスサビも終わりに近づいていた。
その瞬間、ドラムが炸裂する。
ギターが唸る。
ベースが腹を揺らす。
ステージ上の四人が同時に前へ出た。
「「「「「「うおおおおおおおおお!!」」」」」」
客席が跳ねた。
数千本のペンライトが一斉に振り上がる。
黄色。
水色。
白。
緑。
光が観客席を波打つ。
まるで海だった。
──もう漠然と九番目が盲如く──
────御手々を拝借────
────ブリキノダンス────
ジャカァァァン!!
最後のコード。
TSUGUM1がシンバルを叩き切った。
悲鳴にも似た歓声と拍手で、会場が揺れた。
「こんばんはーーー!!!」
真っ先に叫んだのはかぐやだった。
「「「「「こんばんはあああああ!!!」」」」」
「ツクヨミーーーー!!!!!」
さらに歓声。
ジュンヨウが笑いながらMCを引き取った。
「最初から飛ばし過ぎんなよ。まだ一曲目だぞ」
「無理ーーーーー!!!!!」
「じゃあかぐやの体力が切れる前に、二曲目行っとくかァ!」
歓声。
「まだ行けるかー!!?」
「「「「「うおおおおおおおおお!!!」」」」」
「聞こえねぇぞォ!!」
さらに大きな歓声。
ジュンヨウが笑う。
「よし」
ギターを鳴らす。
ジャラン
「じゃあ次は―――」
ドラムの
笑いながら、応えるようにTSUGUM1がスティックを掲げて。
「暴れろ!!!」
一気に振り下ろした。
ドドドドドドドッ!!
ベース。
ギター。
ドラム。
そして、先ほどは無かった、高らかに鳴り響くサックス。
その瞬間。
「うおおおおおおお!!」
「やべええええ!!」
「最高ォォォ!!」
客席から歓声が上がった。
イントロだけで分かる。
誰もが知っている曲だった。
かぐや、ヤチヨ、いろPの三人が笑いながら、二曲目を叫んだ。
「「「『ミックスナッツ』!!」」」
──袋に詰められたナッツのような世間では──
──誰もがそれぞれ出会った誰かと寄り添い合ってる──
──そこに紛れ込んだ僕らはピーナッツみたいに──
──木の実のフリしながら微笑み浮かべる──
最初のフレーズを四人で分け合って歌った。
パッケージに詰められたナッツを分け合うように。
TSUGUM1のハイハットが刻む。
スネアが跳ねる。
リズム隊が観客の身体を揺らしていく。
────テーブルを囲み手を合わすその時さえ────
────ありのままでは居られないまま────
そしてBメロ。
サビ前のフレーズに入り、四人全員の歌声がハモった。
客席のペンライトが揺れた。
誰もが次に来るサビを知っている。
────隠し事だらけ継ぎ接ぎだらけのhome,you know?────
かぐやが笑いながら観客席へ指を向ける。
ヤチヨがそれに合わせる。
いろPが横へ駆ける。
ジュンヨウはギターを掻き鳴らしながら叫んだ。
そしてラスサビへ続く。
一瞬だけ音が落ちる。
客席が息を呑んだ。
ジュンヨウのギターが跳ねる。
TSUGUM1がスティックを振り上げた。
ドン!!
──普通などない 正解などないLife,and I know──
──仮初まみれの日常だけど──
────ここに僕がいてあなたがいる────
────この真実だけでもう胃がもたれていく────
────この一掴みの奇跡を噛み締めていく────
「「「「「「「「「うおおおおおおおお!!」」」」」」」」」
客席が爆発した。
待ち望んでいた瞬間。
ペンライトが一斉に揺れる。
黄色。
白。
水色。
緑。
会場中の色が混ざり合っていた。
「ありがとーーーー!!!」
かぐやが両手を振る。
客席から大歓声。
ペンライトの海が揺れる。
「最高だぞーー!!」
「かぐやーー!!」
「ヤチヨーー!!」
「ジュンヨウーー!!」
「いろPーー!!」
「TSUGUM1ーー!!」
観客一人一人の推しの名前が飛び交う。
ジュンヨウは肩で息をしながら笑った。
「まだ二曲しかやってねぇのに熱量おかしいだろ」
「ジュンヨウが煽るからでしょー!」
「俺のせいかよ」
「絶対そう!」
客席から笑いが起こる。
その横でTSUGUM1がドラム席からマイクを取った。
「でもみんな元気だねー」
「お前もな」
「ウチはまだ全然いけるよ?」
ドラマーは体力だからね!と、くるくるとスティックを回す。
それにファンが歓声で応える。
「TSUGUー!!」
「ありがとー!」
元気よくドラムスティックを持った手を振る。
その隣では、いろPが少し照れ臭そうにマイクを持った。
「……こんな景色を見る日が来るとは思ってなかったな」
客席が少し静かになる。
いろPはステージの先を見渡した。
無数の光。
色とりどりのペンライト。
ずっと遠くまで続いている。
「最近はさ」
少し笑う。
「研究ばっかりしてたから」
会場から笑い。
「いや本当に」
「知ってるー!」
「知られてるじゃねぇか」
さらに笑いが起きる。
「でも今はこうして、みんなと同じ景色を見られてる」
その言葉に、かぐやが隣で頷いた。
ヤチヨも静かに微笑む。
「だから今日は最後まで楽しんでいって欲しいな」
客席から拍手。
ジュンヨウが少しだけ客席を見渡した。
無数の光。
黄色。
白。
水色。
緑。
「……正直よ」
珍しく真面目な声だった。
会場が静かになる。
「俺もこんな日が来るなんて思ってなかった」
かぐやが少しだけ目を見開く。
ヤチヨも隣を見る。
「色々あったしな」
苦笑。
「でも今、こうしてまた全員で同じステージに立ててる」
客席が静かに聞いていた。
「だから次の曲は」
ジュンヨウがギターを握る。
「俺が一番、今歌いたい曲だ」
「おぉ~珍しく良いこと言った~」
かぐやが茶化した。
客席から笑いが零れる。
「うるせぇ」
ジュンヨウが即答する。
「感動シーンだったのに~」
「ぶち壊してんのお前じゃねーか」
「えへへ」
再び笑いが起きる。
「ほら、休憩だろ。さっさとハケろ」
「はーい」
かぐやが笑い、ヤチヨも頷いてステージからハケていく。
TSUGUM1がスティックを握る。
いろPがステージに設置されたキーボードの前で構える。
「俺から、ファンのみんなへ」
一度だけ客席を見る。
「そして―――」
隣でハケていくかぐや達を見る。
「俺の大事な人達へ」
照明が落ちる。
静かな歓声。
キーボードの音。
先ほどまでの二曲とは違う、ゆったりとしたドラム。
客席のペンライトが揺れる。
ジュンヨウがマイクに息を乗せた。
「聴いてくれ」
「―――『シアワセネイロ』」
ROSOさん、感想いただきありがとうございます。
お気に入り登録いただいた方々もありがとうございます。
とても励みになります。
活動報告の方でネタの募集も始めておりますので、ご一読いただければと思います。