今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

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ライバー名の由来は名前から連想して、
『たか』ば『隼』斗→鷹隼→入れ替えて隼鷹→JunY0u(ジュンヨウ)になります。


7話

「おおぉ!すげー!面白そうなもんが死ぬほどある!」

 

露店を見つけるたび、かぐやはふらふらと吸い寄せられていく。

あっちを覗き、こっちで立ち止まり、次の瞬間にはまた別の屋台へ飛んでいく。

 

「超楽しい~♪」

 

いまは露店の人形屋ででっぷりとした招き猫に頬ずりをしている。

酒寄は呆れ半分、微笑ましさ半分といった顔でかぐやを眺めている。

母親か。

母親みたいなもんだったわ。

 

白いもふもふしたものが、風船のように宙を漂いながらかぐやに近づいてきた。

ツクヨミのマスコットキャラクターにしてヤチヨの傍にいつもいるウミウシ、FUSHIだ。

 

「初ログインおめでとう!」

 

FUSHIが膨らみ、ポンっと軽い音を立てて弾けると、巻物がかぐやを中心に開かれるような演出が始まった。

 

「ツクヨミではみんなが表現者!君も何かをして人の心を動かしたら、

 運営から『ふじゅ~』がもらえるよ!」

 

要するに、初ログイン向けのチュートリアルと、ツクヨミ内で使う金の説明ってワケだ。

アイテム購入、投げ銭、ユーザー間取引。

全部この『ふじゅ~』で回っている。

現実の金銭に変換することも可能で、それはつまり俺の飯の種でもある。

ってかあの巻物、よく見りゃライバー紹介も兼ねてんのか。

オタ公とか黒鬼だけじゃなくて俺――ジュンヨウまで映ってんじゃねえか。

……勘弁してくれ。

 

「はやt……ジュンヨウ!ジュンヨウいた!」

「こっぱずかしいからやめろ。あと変装の意味無くなるっての、あんまはしゃぐなって」

「はいはい、漫才してないで。ライブまでちょっと時間あるからお茶でもしよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとしきり露店を冷やかした後、俺たちは足湯カフェへと向かった。

 

「私みたいな貧乏人でも、ここでならいくらでも遊べるんだよね~」

「接続料とかねえしな、このパフェもタダだし」

 

カフェで足湯に浸かりながら、酒寄がのんびりとパフェをつついている。

その隣で、俺はスプーンを咥えたまま足を投げ出す。

かぐやも目を輝かせて生唾を飲み込みながら、我慢できないとばかりにスプーンでパフェを掬って口に運ぶ。

とはいえ、この世界には触覚・嗅覚・味覚は実装されていない。

つまりは──

 

「んっ……味しな~いぃ!」

「味とか匂いとかはまだ全然ムリみたいよ」

「見た目は楽しめるけどこればっかりはな」

 

第一、ツクヨミに入るためのデバイスはスマコンのみだ。

付属しているイヤホンも含めれば聴覚と視覚までは再現できても、嗅覚・味覚となるとまた別のデバイスが必要になるだろう。

『美味そう』という視覚情報に、脳がバグらされる感覚。

食いしん坊やら料理好きにはある種の拷問だな、これ。

 

「ホンモノは売ってないのぉ?」

「家に届けてくれるのもあるけど、リアル並みの値段なのでとてもとても」

「エリアの問題もあるしな」

 

だから結局、この世界で美味そうなモンを見つけたら、リアルで形にするしかない。

見た目から味と食材を想像して、現実で再現してみる。

俺がたまに投稿してる再現レシピの再生数がそこそこ回ってるのも、そのせいだろう。

 

「私は特技とかないから、ゲームで小遣い稼ぎするくらいが関の山だし」

「お前が……特技が……無い……?」

「なによ、言いたいことでも?」

 

お前、自分のスペック見誤りすぎだろ。

 

「あ、あれか。何でもできるから特筆すべきものが無いっていうアレ?」

「どういう意味よ」

 

そうこうしていると、酒寄の手元にウィンドウが出現し、現在時刻を知らせてくる。

──20:20

 

「時間だ、行くよ」

「へいへい」

 

だが、かぐやはまだ呆けたように、ツクヨミの空に浮かぶ満月を模したミラーボールを見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酒寄に連れられ、俺とかぐやはライブ会場に飛び込んだ。

時間は20:58。

酒寄が空間をスワイプして表示した握手券付きチケットに記載された開演時間は『21:00』。

……ギリギリだったな。

 

「ンフーッ」

 

酒寄は何度も抽選に応募して、何度も外れて、それでも抽選に応募し続けてようやく手に入れた

プラチナチケットを眺めてにやけている。

よほど嬉しいのか、狐耳と尻尾が落ち着きなく揺れている。

その尻尾が何度も俺の腕を擦り、アバター同士が押されるたびに視界がわずかにブレる。

ぐらつく視界に若干うんざりしていると、ライブ会場の巨大モニターに『JUST A MOMENT』と

デフォルメされたヤチヨの姿が映し出される。

 

『キタキタキタキター!!

 これが無いとツクヨミの夜は始まらない!

 本日のヤチヨミニライブ!!

 今夜も完全生中継をツクヨミ各地でもお届け中で~す!!!』

 

マイクを握り、自身の興奮と熱狂を会場はおろかツクヨミ全土に響かせんと声を張るのはMC担当ライバー・忠犬オタ公。

犬とアイヌの衣装をモチーフとした褐色の女性ライバーの実況に会場のボルテージは最高潮だ。

巨大モニターに10、9、8と開演までのカウントダウンが表示される。

10カウントが始まると同時に、流れ星のような、オーロラのような光の奔流がライブ会場の中央へと流れていく。

酒寄は流れ込む光をうっとりと見上げ、

かぐやは「わぁ~!」とはしゃぎながら辺りを見回している。

二人が光に気を取られている間にウィンドウを操作。

左目の眼帯を消すと目に飛び込んでくる情報量が倍増する。

それでも、ライブの開演直前ということで会場全体の光量が落とされているだけ、

幾分マシだった。

 

『5……4……3……』

 

会場のカウントダウンに合わせるように、ツクヨミ各地からも無数の声が重なった。

 

『2……1……』

 

光の奔流が巨大な鳥居を形作る。

鳥居の神額にはこの世界を漢字表記した『月夜見』の三文字。

 

『0!』

 

その神額のちょうど真上、笠木の真ん中。

どこからか鐘の音が響き渡り、一際強い光が弾けたかと思うと、彼女はもうそこにいた。

 

「おまたせっ!えっへへへ」

 

月見ヤチヨ。

仮想世界ツクヨミの管理人にして歌姫。

 

「ヤオヨロ~!神々のみんなー!今日も最高だった~?」

 

大歓声がライブ会場、のみならずツクヨミ中に響き渡る。

かぐやも興奮しているが、酒寄は心ここにあらずといった風情だ。

両手を組んでヤチヨに見惚れ、口まで開きっぱなし。

かぐやが肩を掴んで揺らしてもヤチヨから目を離さない。

触覚なんて無いはずなのに、酒寄のアバターは面白いくらい揺さぶられていた。

 

「うんうん。よ~し!今宵もみんなをいざなっちゃうよ~!Let's go on a trip!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──幾千の時をめぐって今、僕ら出会えたの。ほら、見失わないように。手を離さないで──

 

 

 

 

 

 

ヤチヨが右腕を天高く、空へと伸ばす。

その流れるような動作に紛れて、一瞬。

ほんの一瞬だけ、その手が狐を思わせる形に見えた。

 

影絵のようなその形は、瞬きする間にも満たない時間で霧散する。

持ち上がった手はすぐに開かれ、次の瞬間には何かを掴むように握り込まれる。

そして、人差し指だけが鋭く天を指した。

直後。

世界が水に沈んだ。

 

足元から透き通った水が立ち昇り、ライブ会場そのものが海底へ沈んでいく。

観客の歓声すら泡に包まれ、青い光の中へ溶けていった。

かぐやが一瞬息を止めたが、我慢出来ずに口から気泡を吐いた。

 

俺も思わず視線を上げる。

ヤチヨは腹部のメンダコのマスコットから取り出した和傘を広げて、

鳥居から伸びた光り輝く水の回廊を優雅に歩いている。

けど。

さっきの手の動きだけが、妙に眼に焼きついて離れなかった。

深海テーマの曲に、狐。

ただの振り付けの見間違いだろう。

たまたま手の形が、見覚えのあるものに見えただけ。

……気のせい、か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────叶うさ、いま────物語を巡ろう────

 

 

曲の終了と同時に、出現した時と同じ位置に舞い戻ったヤチヨ。

 

「うぅ……うっ、うっ……ヤチヨぉ……」

 

隣の狐はまだ手を組んだまま、涙と鼻水を垂らして感極まっている。

おい涙はともかく鼻水はなんとかしろ華の女子高生だろ。

その反応を見て面白くなさそうな、訝し気な顔をするかぐや。

 

「ヤチヨー!」「今日のライブも最高ー!」と歓声が響く。

 

「イェーイ!感謝!感激!雨アラモード!ううっ、ヤチヨは果報者なのです」

 

飛び跳ねて喜んだかと思うと目尻から涙を流してそれを拭うヤチヨ。

頭を下げたヤチヨの肩に、FUSHIが登って行った。

 

「あっ、ここでお知らせ!『ヤチヨカップ』ってイベントを開催しま~す!」

 

FUSHIの目から光が投影され、巨大なディスプレイが表示された。

 

「参加資格があるのはツクヨミの全ライバー!

 一ヶ月の期間の中だけで、最も多く新規ファンを獲得した人が優勝だよ!」

 

FUSHIが詳細をアナウンスする。

同時にディスプレイには表彰台と、その一位に輝くデフォルメされた狐の男性アバターが映し出された。

──また、狐。

 

「優勝者にはなんと!ヤチヨとのコラボライブの権利を進呈!

 世界一盛り上がるコラボライブステージを、一緒に作れるよ!」

 

先ほどの男性アバターとヤチヨが背中合わせで並んでいる姿。

スライドはどんどん変わり、既存のライバー──例えば、オタ公とヤチヨが並んでいる姿。

琴とヤチヨが並んでいる姿。

テレリリ・ティートテートとヤチヨが並んでいる姿などが移り変わり表示されている。

おいまたジュンヨウが並んでるのもあるじゃねえか。

 

「うっそ、コラボぉっ!?」

 

うっわ隣のヤチヨガチ勢が急に覚醒した。

おいリアル側でも聞こえたぞどんな声量だ。

 

「それ、すごいの???」

「すぅ、すごいもなにも、配信のコラボはあったけど、

 ライブはいつも一人で歌ってたんだよ!?」

 

酒寄の視線が一瞬だけ右上へ跳ねる。

 

「なに!?誰とぉ!?!?」

「情緒ぐちゃぐちゃで草。脳焼かれすぎだろ」

 

エフェクトの滝汗を流し、両手を頬に当てながら絶叫する酒寄。

しかし新規ファン、コラボライブねぇ……。

 

「へぇ~!じゃあ彩葉、隼斗も一緒にやろ!」

「私らみたいなモブとやるワケないじゃん。

 こういうのは最初から誰になるかだいたい決まってんの!」

 

お前らがモブ……?

生活費と学費を自力で稼ぐ才色兼備超人と、月から来たかぐや姫が?

なんて思っていると、そこで一度言葉を切ってこちらに視線をやる酒寄。

 

「例えば、そこのSETSUNAレコードホルダー様とか」

「なんも聞いてねぇぞ俺ぁ。あとまた名前で呼んだろかぐやコラ」

「ん~っ!」

 

頬を膨らませて抗議するかぐや。

「ヤぁチヨぉ~!!」じゃねえよ隣のお姫様構ってやれ、俺の方に来て袖ぐいぐい引っ張ってるから。

 

「ねぇ~隼斗一緒にやろぉ~?」

「無理だな~」

「なんでぇ~!?」

 

……無理な理由は色々有るが。

 

「まず俺が既にライバーだから」

「?」

 

分かってねえ面だな。

 

「男女で組めば話題にはなる。

 けど、その分燃えやすいんだよ。特に新人側は『売名』だの『寄生』だの好き放題言われる」

「うげぇ……」

 

粉と水だけで焼いたパンケーキを食わされたみたいな顔になるかぐや。

 

「しかも今回は『期間内』の『新規ファン数』勝負だろ。

 だったら既にフォロワーのいる俺より、お前みたいなゼロスタートの方がむしろ有利だ」

「え、そうなの?」

「既存ファンは『新規』じゃねぇからな」

 

それよりは、全くの無名から一気にバズった奴の方が圧倒的に数字を積み上げやすい。

あともう一つ、と付け加える。

 

「……『ツクヨミではみんなが表現者』っつってたよな、FUSHIが。

 俺に乗っかって手に入れたチケットで、ヤチヨと並んで歌って、お前は本当に胸を張れるのか?

 それは、ハッピーエンドか?」

 

んぐっ、と言葉に詰まるかぐや。

言ってからちょっと意地悪だったか、強く言い過ぎたかと思う。

……発破掛けるか。

 

「ま、色々言ったが、理由の一番はよ」

「?」

「俺もライバーってことは、ヤチヨカップの優勝を狙うライバル同士ってことなんだぜ?」

「ライバル!」

「組むのも、まぁ悪かねえが。お互い競い合う、そっちの方が面白そうじゃねえか?」

「面白そう!」

 

さっきと打って変わって、かぐやは目を輝かせた。

……まあ実際、こいつの見た目とキャラでゼロスタートは反則級なんだが。

そんなことを考えつつ、目の奥に重みに似た倦怠感を少しばかり感じながら。

ライブも終わったことだし。と俺は再び眼帯を起動させた。

 

ヤチヨのライブ、そしてイベントの発表の余韻に浸る観客席。

その静寂に、ガラガラと回る車輪の音が鳴り響く。

地響きのような唸り声とともに、猛然と突き進んでくる影がある。

牛車――ならぬ、巨大な虎が漆黒の屋形を引く『虎車(とらぐるま)』だ。

黄金の瞳をギラつかせる虎が、観客の鼻先数センチで急停止する。

 

「なっ、なんだぁ!?」

「黒鬼じゃん!」

「帝様!?」

 

観客がどよめき、後ずさる。

虎車はピタリと動きを止め、一拍。

深呼吸のような静寂が訪れた、その直後だった。

 

――キィィィィィンッ!

 

鼓膜を突き刺すような鋭い金属音。

屋形の中から、目にも止まらぬ朱色の斬撃が四方八方に走った。

頑強そうな漆黒の屋形が、まるで紙細工のように四散し、ポリゴンの破片となって宙に弾け飛ぶ。

 

爆風とエフェクトの光が収まったその中心。

逆光を浴び、立ち上る火花を背負って三人の男が立っていた。

 

そのうちの一人が、巨大な金棒の鞘に日本刀を収める。

黒鬼のリーダー、帝アキラ。

 

ガチリ、と納刀の重厚な音が響くと同時に、会場のライトが一斉に彼を照らし出す。

 

「よう子ウサギども。――お前らの帝様が来たぜ!」

 

不敵に口角を吊り上げ、観衆を見下ろす帝。

圧倒的な存在感に、さっきまでのヤチヨの幻想的な空気は、一瞬で『祭りの喧騒』へと塗り替えられてしまった。

……相変わらず派手な登場だね、あいつらは。

その黒鬼の姿を認めた酒寄は「げっ」という顔をしながら、俺とかぐやの背に隠れる。

 

 

 

絶対何か関わりあるんだよな、こいつら。

食事中に先に嫌いなもん平らげる癖。

怒った時、片目がヒクついてから両目をかっぴらくとこ。

 

「なに、お前帝嫌いなの?アンチ?」

「違うけど!ちょっと……複雑なの!」

 

ほら、今もだ。

考え込むとき、右上に視線が逃げる。

 

「ま、深く詮索はしねえよ。人間的な相性ってのは理屈じゃねえからな」

「だからアンチとかじゃ無いって!」

 

そんなやり取りをしていると、原形の無くなった屋形の上で帝がパチン、と指を弾く。

するとライブ会場のモニターがジャックされ、彼らのロゴが映し出された。

一瞬で彼ら自身のロゴはノイズが走って消え、スポンサー企業たちのロゴが代わりに映し出される。

その後は彼らのオリジナル曲をBGMに、彼ら自身の紹介PVが流れ始めた。

 

画面の中央に先ほど虎車から降り立った黒鬼のリーダー、帝アキラが大写しになる。

 

「また、祭りが始まるな」

 

フードを被った寡黙な男、雷。

 

「俺って、今日も作画良すぎ♡でしょ?」

 

地雷系ファッションの男性アバターの少年、乃依。

 

PVは彼らの大会実績が煌びやかに流れている。

隣からは「かぐやも!かぐやもあんな戦うやつやりたい!」

「ジュンヨウに聞いてみれば?」というやり取りが聞こえてくる。

おい俺に我儘お姫様を押し付けるんじゃねえ。

う~ん、やっぱ俺もSETSUNAの大会実績とかプロフに載せるか?

 

「俺たちに優勝してほしいよな?底なしの夢を、見せてやるぜ!」

 

帝が決め台詞と共にポーズを決めると、破裂音と共に紙吹雪が上がりライトが三人を照らし出す。

キラキラした紙吹雪にかぐやは目を輝かせるが、酒寄は辟易した表情を隠そうともしない。

 

「というわけで、俺たち優勝するから。ヤチヨちゃん。コラボ、よろしくね」

 

打ちあがった紙吹雪を一枚、指に挟むとそれに口づけをしながら宣言する帝。

既に頂点に君臨しているというのに、自身の優勝を疑いもしていない。

 

「そういう運命なら、もちろんヤチヨは従うよ~」

 

「最高なライブを約束するから、みんなドシドシ参加してね!

 一緒にハッピーになって、めでたししちゃお~!」

「しちゃう~~~」

 

目にハートを浮かべ、だらしない表情でとろけている酒寄。

それが面白くなさそうなお姫様は頬を膨らませて、肩をいからせる。

……あっ、コイツやらかすわ。

離れとこ。

そそくさと二人の近くを離れ、黒鬼の虎車の近くまで移動する。

帝がこっちに気づいた段階で、かぐやは既に息を吸い込んでいて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤチヨォォォオオオオーーー!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場全体、いやツクヨミ全土にも響いたかと思うほどの声量だった。

もちろん、そんなことをすれば目立つのは当然で。

観客たちの目はかぐやに集中していた。

 

「かぐやがヤチヨカップ優勝する!!そんで、絶対コラボライブする!

 彩h……むぐっ……隼t……んぐぐっ」

 

その宣言を、あわてて酒寄が口を塞いで中断する。

……おい俺の名前も言おうとしなかったか?

ふと、ヤチヨのほうに目をやった。

彼女は万感の思いを込めたような表情で、誰にも聞こえないような音量で、何かを呟いた。

「いとかわゆし」……聞こえなかったものの、唇の形はそう言っているように見えた。

 

「あんたは、いつも、勝手に!」

 

逃れようとするかぐやを、酒寄が羽交い絞めにする。

酒寄も本当は逃げたいのだろうが、生憎このライブの後にはあいつが一番楽しみにしていた『握手』が待っている。

 

「ヒュ~♪生きのいい子がいるもんだ。そう思わねえか、ジュンヨウ?」

「確かにな。ま、ヤチヨの目的は新人の発掘だろ。

 お前らが優勝目指すのは大人気ねえんじゃないのか?黒鬼さん方」

 

雷に乃依も久しぶりだな、と軽く挨拶をする。

 

「参加権は全ライバーにあるんだ、俺らくらい軽く超えてってもらわないと」

「アホ程高ぇわ壁が」

 

こいつは自分がトップライバーだという自覚があってこういうこと言うから性質が悪い。

 

「祭りがあるなら、参加しないわけにはいくまい」

「俺と話してるときは語録使わなくても……。

 ああ、こんだけ周りの目があるとそういうワケにもいかないか」

「そういうことだ」

 

素の雷は割と愉快なやつなんだが、天然すぎる。

そのため、表に出るときは寡黙なキャラを被った上で乃依の作った『雷用台詞集』からの引用でしか基本発言をしない。

 

「次はいつKASSEN来るの?そろそろリベンジしたいんだけどな~」

「いや暫くは良いわ。勝ち逃げさせてくれ」

「絶対逃がさ~ん」

 

乃依はKASSENで狙撃が得意ということで、お互いがお互いをライバル視している。

前回KASSENで当たった時は運よく俺が勝ちを拾ったが、次はどうなるか分からん。

 

「ま、お前もヤチヨカップには参加するんだろ?」

「いやぁ、どうだかな。ライブっつっても俺はオリ曲とかねえしなぁ」

 

お前らと違って。

 

「三対一だが恨むなよ」

「抜かせ、頭数を言い訳にゃしねえよ」

「その意気だ。そのうちまたコラボしようぜ」

 

いつの間にか屋形が修復された虎車に乗り込みながら帝が言う。

雷は既に乗り込んでおり、乃依は簾が閉じるまでリスナーにファンサをしていた。

 

気が付けば周囲の人はまばらで、分身したヤチヨが握手券が当選したであろう観客一人一人と雑談をしている。

酒寄のところにも一人……なんか一人だけちっちぇな?

あっ酒寄固まってら。

 

「お忘れかな~?ヤチヨカップの参加はライバー限定なのです♪」

「そっか!じゃーかぐやライバーになる!準備準備~」

 

かぐやのアバターが青白い光に包まれたかと思うと、無数の羽のように霧散しログアウトした。

残されたのは推しのレアな幼女姿に限界化している酒寄のみ。

その酒寄はかぐやのログアウトと入れ替わったかのようにようやく自我が戻ってきたようだ。

 

「あっ、はっ。今日はじゃあ……これで」

 

お前何のために抽選申し込んでたんだ。

この瞬間のためだろうが。

溜息を吐きながら、酒寄の背中を軽く押した。

 

「待っわぷっ」

「やっヤチヨっヤチヨが私の胸にっ何してくれてるの高羽でもありがとっ!!!」

「怒ってんの?感謝してんの?」

 

酒寄を引き留めようとしたであろうヤチヨが、酒寄が押されて前に出てきた分だけ勢い余って

酒寄に飛び込む形になってしまった。

その酒寄は怒りながらにやけて、でも顔を青くしたり赤くしたりという器用なことになっている。

 

「これじゃ握手券じゃなくてハグ券になっちゃったねぇ。嫌じゃなかった?」

「嫌なんてことありえないですとても光栄です良い匂いがしました」

「匂いしねえだろ」

「ありがとうございましたっ!」

 

逃げるようにログアウトした酒寄。

その場に残された俺とヤチヨ。

 

「ほんじゃ、俺もこの辺で。握手券も持ってねえしな」

「キミはライブに来るのも珍しいからね。大丈夫だった?」

「あ~……管理人様には隠せねえか。ま、今日は大分マシだよ」

 

眼の事をヤチヨに話したことも無いのに、知ってる素振りなのは流石管理人様と言うべきか。

実際、今日のライブは一曲だけかつ演出は水が主体だったため、眼と頭の負担はそこまでじゃない。

ライブ中は眼帯を外してるのも、ヒトが作り上げたモノに敬意を払うため、という自己満足が大きい。

 

「うん、良かった。それじゃ今日はゆっくりおやすみなさい。また今度ね、ジュンヨウ」

「おう、ヤチヨカップ。楽しませてもらうぜ。おやすみ」

 

先にログアウトした二人を追うように、俺もログアウトする。

 

「……いつも来てくれてありがとね、彩葉。また来てね、隼斗」

 

ログアウトする直前、ヤチヨの声が聞こえたような気がした。

 

 

 

 




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