今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

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Ex.いろかぐヤチジュンWithROKAまみTSUGU&黒鬼ライブ《ray》④

完全に暗転したステージ。

誰もいないような静寂。

 

さっきまで会場を揺らしていた歓声すら消えていた。

 

誰も叫ばない。

誰も動かない。

 

数万人が同じ方向を見つめている。

ただ次の一音を待っていた。

 

そして、闇の中から。

 

──もう忘れてしまったかな──

 

透き通るような歌声。

息を呑む音すら聞こえそうな静寂の中。

いろPのアカペラだけが会場へ広がっていく。

 

──夏の木陰に座ったまま、氷菓(アイス)を口に放り込んで風を待っていた──

 

誰も歓声を上げない。

上げられない。

 

ほんの数秒前まで帝が暴れ回り。

ジュンヨウが煽り。

数万人が叫んでいた会場とは思えなかった。

 

ただ歌だけがある。

ステージはまだ見えない。

照明も点かない。

 

それでも、誰もがそこにいろPがいることを知っていた。

 

──忘れないように 色褪せないように──

 

闇の中にいろPの歌声だけが響く。

 

──形に残るものが全てじゃないように──

 

ヤチヨは静かに目を閉じた。

形に残らなかったものは数え切れない。

 

失われた街。

失われた人。

守れなかった約束。

八千年の旅の中で消えていった景色。

 

それでも、確かにそこにあった。

 

──言葉をもっと教えて 夏が来るって教えて──

 

サビに入ったその瞬間、水色のスポットライトが灯る。

 

客席から小さなどよめき。

 

ステージ中央。

マイクスタンドの前に立つ彩葉。

白いワンピースの裾が揺れていた。

 

──僕は描いてる 眼に映ったのは夏の亡霊だ──

 

照明が少しずつ広がる。

 

スクリーンに映るのは夏空。

見たことがないものもいるだろう。

 

だが、なぜだろう。

 

誰もがその景色を知っている気がした。

 

入道雲。

蝉時雨。

照り返すアスファルト。

遠くで静かに、だが確かに鳴っている風鈴。

 

観客の中には、そっと目元を拭う者もいた。

 

──忘れないように 色褪せないように──

 

二番。

 

彩葉は客席ではなく、舞台袖の方を見ていた。

まるでそこにいる誰かへ歌うように。

 

──歴史に残るものが全てじゃないから──

 

ヤチヨは思わず息を止めた。

歴史に残らなかった時間なら、誰よりも知っている。

 

八千年、歩き続けた。

 

その時間を、彩葉が肯定してくれている気がした。

 

 

 

隣で聞いていたかぐやは、ただ静かに目を細めていた。

季節は知っている。

 

夏も。

秋も。

冬も。

春も。

 

十年前は夏しか知らなかったけれど、二人のおかげで四季を知った。

けれど、今はそれよりも。

 

身体で感じるこの一瞬が、どうしようもなく愛おしかった。

 

 

 

そしてラスサビ。

 

照明は最大。

客席には無数の水色の光。

 

──今も見るんだよ 夏に咲いてる花に亡霊を──

 

スクリーンに映る夏の景色。

その中に一瞬だけ。

 

幼い彩葉と隼斗。

 

そして、誰かを待っているような少女の影が、二つ。

 

記憶。

出会い。

別れ。

再会。

 

全てを抱きしめるように。

彩葉は歌い上げた。

曲が終わりへ向かう。

 

ドラムが消える。

ギターが消える。

キーボードだけになる。

 

そして。それすら消えた。

 

残ったのは、彩葉の声だけ。

 

照明も少しずつ落ちていく。

 

水色のスポットライトが細くなり、最後には輪郭だけになる。

 

──もう忘れてしまったかな──

 

完全なアカペラ。

 

──夏の木陰に座ったまま、氷菓(アイス)を口に放り込んで風を待っていた──

 

歌声が消える。

照明も消える。

完全な暗闇。

 

誰も声を出せなかった。

拍手すら忘れるほどの静寂。

 

その余韻だけが、会場を満たしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数万人。

その全員が次の一音を待っていた。

 

 

息遣いすら聞こえそうな沈黙。

 

 

 

 

 

 

 

 

カツン

 

暗闇の中でスティックの音が鳴る。

客席がざわつく。

 

もう一度。

 

カツン

カツン

 

誰かが息を呑んだ。

 

そして

 

ドンッ―――!!

 

TSUGUM1のキック。

続いてジュンヨウのギター。

 

ジャカッ!!

 

聞き慣れたフレーズ。

 

その瞬間、会場が爆発した。

 

「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」

 

イントロだ。

 

誰もが知っている。

誰もが待っていた。

スクリーンに巨大な文字が浮かぶ。

 

 

 

 

GO!!!

 

 

 

 

白い照明が一斉に解放された。

 

ステージ中央。

 

ジュンヨウ。

 

彩葉。

 

ヤチヨ。

 

かぐや。

 

帝。

 

雷。

 

乃依。

 

まみ。

 

ROKA。

 

TSUGUM1。

 

全員。

 

今日、ここまで歌い続けてきた全員が並んでいた。

 

客席が揺れる。

歓声。

悲鳴。

笑顔。

涙。

 

全てが混ざり合う。

ジュンヨウがマイクを掲げた。

彩葉が笑う。

かぐやが楽しそうに客席を見る。

ヤチヨは静かに微笑んだ。

帝がニヤリと口角を上げる。

そして。

全員同時に前へ踏み出す。

 

 

────We are Fighting Dreamers 高みを目指して────

 

照明が炸裂した。

 

────Fighting Dreamers なりふり構わず────

────Fighting Dreamers 信じるがままに────

 

緑。

水色。

黄色。

白。

薄黄色。

桃色。

赤。

紫。

ピンク。

 

会場中のペンライトが一斉に揺れる。

 

ドラムが加速する。

ギターが駆ける。

ベースが追いかける。

 

 

「声出せお前らァ!!!」

 

ジュンヨウがマイクを客席に向けた。

他のメンバーも一斉にマイクを向ける。

 

「「「「「「「「「「Oli Oli Oli Ohー!」」」」」」」」」」

 

──Just Go My Way!──

 

数万人の大合唱。

 

もうライブではなかった。

会場全体が一つのステージになっていた。

 

────Right here Right now────

「行くよ~!Bang!」

「「「「「「「「「「Bang!」」」」」」」」」」

 

────ぶっ放せ Like a 弾丸ライナー!────

 

────Right here Right now────

 

──ぶった斬ってくぜ!?──

「「「「「「「「「「Get the Fire!!!」」」」」」」」」」

 

会場の熱気はまるで冷めない。

それでも曲は止まらない。

 

ジュンヨウのギターが再び走る。

熱狂はさらに加速していく。

 

──さぁ心の目 見開いて しかと真実(いま)を見極めろ──

「「「「「「「「「「Yeah!!!」」」」」」」」」」

 

──失うモノなんて無いさ──

 

かぐやとヤチヨが顔を見合わせて笑った。

 

────いざ参ろう!────

 

TSUGUM1のドラムが一発、高らかに鳴り響いた。

 

────We are Fighting Dreamers

──高みを目指して──

 

「「「「「「「「「「Oli Oli Oli Ohー!」」」」」」」」」」

 

──Just Go My Way!──

 

ジュンヨウと帝の低音が響く。

奇しくも刀を武器とする二人だ。

 

────かざした鋭い刀で 己の未来(あす)切り開け!────

「「「「「「「「「「Yeah!!!」」」」」」」」」」

 

──保証なんてどこにも無いさ──

 

────なぁ そうだろ?────

 

その瞬間、TSUGUM1がクラッシュシンバルを叩き割るように振り下ろした。

爆発。

そうとしか表現できない音圧だった。

 

ドドドドドドドドッ!!

 

ツーバスが暴れる。

ステージが震える。

客席が震える。

心臓まで同じリズムで叩かれているようだった。

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」」」」」」」

 

歓声を切り裂くように、今度はジュンヨウのギターが駆け上がる。

 

ジャカジャカジャカジャカッ!!

 

高音。

低音。

唸るようなリフ。

暴れ回るフレーズ。

 

まるでステージの上を獣が走り回っているようだった。

 

ジュンヨウは笑っていた。

弦を掻き鳴らしながら。

心の底から、楽しそうに。

 

その背後ではTSUGUM1も負けていない。

スティックが見えない。

振っているのではない。

嵐そのものになっていた。

 

ドラムとギター。

 

二人(兄妹)が互いを煽る。

 

会場では深緑と翡翠色の光が、まるで競い合うように揺れていた。

 

押し上げる。

加速する。

 

演奏しているというより、戦っているようだった。

 

客席のペンライトが荒波のように揺れる。

 

緑。

水色。

黄色。

白。

薄黄色。

桃色。

赤。

紫。

ピンク。

そして翡翠色。

 

会場全体が巨大な渦になっていた。

 

その中心で、ジュンヨウがふっとギターの勢いを緩めた。

余韻だけが残る。

 

TSUGUM1も同時に手数を落とした。

 

さっきまで暴風のようだったドラムが、心臓の鼓動を刻むようなリズムへ変わる。

 

ドン……

 

ドン……

 

ドン……

 

客席の熱狂が少しずつ揺らぎ始めた。

叫び疲れたわけじゃない。

誰もが知っているからだ。

 

来る。

 

この曲で一番熱い場所が。

 

照明が落ちる。

 

赤。

紫。

ピンク。

薄黄色。

桃色。

 

次々と消えていく光。

 

残ったのは深緑。

翡翠色。

水色。

白。

黄色。

 

ジュンヨウ。

TSUGUM1。

彩葉。

 

ステージ中央へ自然と視線が集まっていく。

彩葉が静かにマイクを握った。

ジュンヨウは客席を見渡す。

 

かぐやとヤチヨも一歩前へ出た。

 

──We are Fighting Dreamers この仲間たちと──

 

ジュンヨウの声が響く。

 

叫びではない。

 

宣言だった。

 

──Fighting Dreamers 全てを巻き込み──

 

彩葉が続く。

 

その声に客席のペンライトが揺れた。

 

──Fighting Dreamers 志高く──

 

かぐやとヤチヨ。

 

二人の声が重なる。

 

その歌声は真っ直ぐ天井へ突き抜けた。

 

「「「「「「「「「「Oli Oli Oli Ohー!」」」」」」」」」」

 

観客の大合唱。

数万人の声が一つになる。

 

ジュンヨウが拳を掲げた。

彩葉も。

かぐやも。

ヤチヨも。

 

ステージの全員が同じ空へ手を伸ばす。

 

TSUGUM1がスティックを高く掲げた。

 

音が消える。

会場の全員が息を止めた。

 

そんな静寂の中で、

かぐやとヤチヨは顔を見合わせた。

 

八千年。

十年。

 

違う時間を生きた二人(一人)だった。

それでも今は同じ夢の続きを見ていた。

 

 

 

ドンッ―――!!

 

────We are Fighting Dreamers────

 

──高みを目指して──

 

────Fighting Dreamers────

──なりふり構わず──

 

────Fighting Dreamers────

 

────信じるがままに────

 

「行くぞォ!せぇーのぉ!!!!」

 

帝が観客を煽った。

 

「「「「「「「「「「Oli Oli Oli Ohー!」」」」」」」」」」

──────────Oli Oli Oli Ohー!──────────

 

 

 

────Just go my way!────

 

 

帝がマイクを掴んで、ニヤリと笑った。

 

その瞬間、重低音だけが残る。

 

ドン。

ドン。

ドン。

 

心臓を直接叩くようなビート。

 

会場が息を呑む。

そして帝が叫んだ。

 

「まだ終わりじゃねぇだろォ!!?」

「「「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」

 

観客が拳を突き上げる。

 

帝と一緒に雷が前へ出た。

 

帝の赤髪と、雷の銀髪が照明を弾く。

 

その視線が客席を貫いた。

挑発するように。

煽るように。

 

けれどどこか楽しそうに、二人の声が交差する。

 

ラップパート、言葉は聞き取れない。

 

歓声が大きすぎた。

 

それでも伝わる。

 

前へ進め。

立ち止まるな。

昨日より遠くへ。

もっと高くへ。

 

帝が客席へ拳を突き出す。

雷が天井を指差す。

 

会場中のペンライトが一斉に跳ねた。

 

緑。

翡翠色。

水色。

白。

黄色。

薄黄色。

桃色。

赤。

紫。

ピンク。

 

光の波が揺れる。

まるで巨大な海だった。

 

二人は観客を煽る。

観客は叫ぶ。

 

さらに煽る。

さらに叫ぶ。

 

言葉ではない。

衝動だった。

 

八千年も。

十年も。

昨日も。

今日も。

 

全部置き去りにして。

 

ただ前へ。

ただ高く。

 

夢の続きを掴むために。

 

 

 

TSUGUM1がスネアを叩いた。

 

パァン!!

 

会場の空気が弾ける。

 

ジュンヨウが歌う。

まみまみとROKAとTSUGUM1が、手を銃の形にして客席に向けた。

 

────BANG!────

 

彩葉とヤチヨが歌う。

黒鬼の三人が声を合わせた。

 

────Burn!────

 

──ぶった斬ってくぜ──

────Get the Fire!────

 

────Burn!────

「「「「「「「「「「「Burn!!!!!」」」」」」」」」」」

 

 

全員だった。

 

ステージの十人。

客席の数万人。

 

誰一人欠けることなく、全員が同じフレーズを叫んでいた。

 

照明が炸裂する。

ペンライトが揺れる。

歓声が爆発する。

夢が燃えていた。

 

会場そのものが、その熱量で燃えていた。

 

 

 

 

 

 

ジュンヨウが最後のコードを叩きつけた。

 

ジャァァァァァァァァン―――――!!!!

 

同時に、TSUGUM1のスティックが振り下ろされる。

 

ドォンッ!!!!

 

一撃。

 

たった一撃。

 

それだけで、ライブの全てが終わったことを理解させる音だった。

 

 

 

暗転。

 

照明が落ちる。

 

音が消える。

 

ステージが消える。

 

さっきまで世界で一番熱かった場所が、嘘みたいに静かになった。

 

残ったのは耳鳴りだけ。

 

誰も動かなかった。

 

誰も帰ろうとしなかった。

 

ただ暗闇を見つめていた。

 

数秒、いや実際にはもっと短かったのかもしれない。

けれど観客には永遠のように感じられた。

 

誰かが叫ぶ。

 

「アンコール!」

 

別の場所から。

 

「アンコール!!」

 

また一人。

さらに一人。

 

「「「アンコール!!!」」」

 

「「「「「アンコール!!!!」」」」」

 

「「「「「「「アンコール!!!!!」」」」」」」

 

声が繋がる。

波になる。

会場全体へ広がる。

 

アンコール!!!

 

アンコール!!!

 

アンコール!!!

 

アンコール!!!

 

数万人。

 

全員が同じ言葉を叫んでいた。

終わらせたくない。

まだ聴きたい。

まだこの夢を見ていたい。

 

その願いが一つになって響く。

 

暗転したままのステージ。

もう何も映し出さないはずのスクリーン。

 

だが次の瞬間、客席の誰かが小さく息を呑んだ。

 

スクリーンに淡い蒼が灯る。

 

深海だった。

 

どこまでも蒼く、どこまでも静かな世界。

水中を漂う粒子が星屑のように揺れている。

 

海底には巨大な鳥居。

長い年月を海の底で過ごしたように。

静かに、ただ静かに佇んでいた。

 

その周囲を古生物、深海生物たちが泳いでいく。

 

アノマロカリス。

ダイオウイカ。

名も知らぬ巨大な魚影。

 

まるで太古の記憶そのものが海を漂っているようだった。

 

観客は言葉を失う。

誰も叫ばない。

ただ見入っていた。

 

ゆっくりと、映像は鳥居へ近づいていく。

 

その先。

 

深海の遥か上から、一筋の光が差し込んでいた。

 

暖かく、優しい光。

 

失われたものを迎え入れるような光。

 

カメラは静かに上昇していく。

 

そして、視界が一気に白く染まった。

 

深海を抜ける。

 

水面を突き破る。

 

光の世界へ。

 

そこにあったのは―――

 

太陽だった。

 

眩しいほどの黄金色。

 

世界を照らす巨大な光。

 

その瞬間、会場へシンセサイザーの音が流れ始める。

透き通るような旋律。

 

続いて、ジュンヨウのギター。

優しく、どこまでも優しく。

 

照明がゆっくりと灯る。

 

そこにいたのは。

 

彩葉。

かぐや。

ヤチヨ。

そしてジュンヨウ。

 

彩葉たちは海と巫女を思わせる衣装を纏っていた。

 

白を基調にした布地。

波を描くような水色の装飾。

風に揺れる袖。

神秘的でありながら柔らかい。

海そのものを纏ったような姿だった。

 

ジュンヨウもまた、白衣袴を思わせる意匠を取り入れた、水着のような衣装でギターを抱えている。

 

深緑と蒼。

海と空を映したような色彩。

 

ステージは透明だった。

ガラスのような、水面のような。

光を受けて輝いている。

 

まるで海の上に立っているようだった。

 

彩葉が笑う。

かぐやも笑う。

ヤチヨも笑う。

ジュンヨウが楽しそうにギターを鳴らす。

 

誰も戦っていない。

誰も叫んでいない。

 

ただ、そこには穏やかな時間だけがあった。

スクリーンいっぱいに光が広がって、静かに文字が浮かび上がる。

 

ray

 

会場が歓声に包まれた。

 

 




ライブ編はこちらで最終話になります。
理由?
rayのMVを描写するのは野暮かと思いまして。
読者各々方で、ギターを弾いている隼斗とドラムを叩いている鶫を想像いただければと思います。
なおボーカルはかぐやとヤチヨと彩葉の三人想定です。
いろPも歌ってくれ。

レイヴンィー゛さん、寝子の子さん、評価いただきありがとうございます。

ROSOさん、感想いただきありがとうございます。

お気に入り登録いただいた方々もありがとうございます。
とても励みになります。

活動報告の方でネタの募集も始めておりますので、ご一読いただければと思います。
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