時系列は37話~Ex.十年後①の間になります。
宮島口の案内標識が見えてきたところで、隼斗がぽつりと言った。
「……マジで来たんだな」
助手席のヤチヨが窓の外を見ていた。
「うん。だって、厳島神社見たかったんだもん」
「お前から二人で行きたいって言われた時、てっきり別の場所かと思ったわ」
「なんで?」
「もっとお前らしい場所があるかと」
「ヤッチョらしい場所ってどんなとこ?」
「……古墳とか、大阪城?」
「行きたいけど、それは今回じゃないかな~」
「で、なんで厳島神社なんだ」
「……あの鳥居がね」
ヤチヨが少し考えた。
「ツクヨミの鳥居に似てるんだ。ずっと気になってて」
「ツクヨミのあれか」
「うん。最初に作った時から、なんでこの形にしたんだろうって思っててさ」
「あとから知ったんだ。厳島神社の鳥居が元になってるかもしれないって」
「お前が作ったんじゃないのか?」
「私が作ったツクヨミの元は、もっと昔の記憶から来てるからさ」
「だから、自分でもなんでこの形なのか分からなかったんだ」
「……それで気になってたのか」
「うん。八千年も気になってたんだよ」
「……まあ、それなら行く価値あるな」
信号待ちで隼斗が言った。
「隼斗が誘ってくれたんじゃなくて、こっちから誘ったんだけどね」
「言い方の問題だ。お前が誘ってくれたから、行こうと思ったわけだからな」
「……ありがと」
ヤチヨが少しだけ笑った。
時間は丁度お昼時。
市街地のお好み焼き屋。
鉄板の前のカウンター席に並んで座る。
「広島焼きって言うと現地の人は嫌がるらしいぞ」
「知ってる。ただのお好み焼きでいいんだよね」
「詳しいな」
「事前に調べた」
「俺と同じことしてるな」
ヤチヨが少し笑った。
そばと卵と豚肉が重なって焼かれていく。
へらで切り分けられる音。
「……うまそうだな」
「うん」
出来上がったお好み焼きが二人の前に置かれる。
「いただきます」
「いただきます」
ヤチヨが一口食べて、しばらく黙った。
「……どうした」
「……美味しい」
それだけ言った。
「お前のリアクション、たまに静かになるよな。何か考えてる時」
「考えてるというか、味わってる」
「それは良いことだ」
「次は何食べようかなって考えてる。」
「もう次の話?今食ってるヤツに集中しろよ」
「楽しみで、事前に色々調べてたから~」
「下調べの量がすごいな」
三枚のお好み焼きを二人で食べ終わり、本題へ。
フェリーで宮島へ渡る。
潮が満ちていて、大鳥居が海に浮かんでいるように見えた。
「……凄いな」
ヤチヨがしばらく無言で見ていた。
「……これだったんだ」
「
「ん~……分かんないや。隼斗と彩葉以外の昔のことは、もうだいぶ曖昧だし」
「これも何度か建て替えられてるはずだしさ。でも……」
ヤチヨが少し目を細める。
「この形自体は、ずっとここにあったんだろうね」
「写真撮るか?」
「うん」
スマホを構える。
「並んで撮るか?」
「良いの?」
「誘ってくれなきゃ二人で来ることもなかったろうからな」
「……うん」
他の観光客に頼んでスマホを渡し、二人並んで写真を撮った。
お返しに、こちらも相手のスマホで写真を撮って、礼を言い合って別れた。
参道を歩く。
厳島神社の社殿が、潮の上に浮かんでいるように見える。
「……綺麗だな」
「うん」
「お前、こういうとこ来ると静かになるな」
「考えることが多いから」
「八千年分のことか」
「半分はそうかな。半分は……」
少し止まる。
「今のことを考えてる」
「今のこと?」
「うん。八千年前から気になってたものを、今こうして隼斗と一緒に見られてること」
隼斗が少し黙った。
「……まあ、来て良かったな」
「うん。今度はみんなで来たいな」
社殿を回る。
お守りを売っている場所で、ヤチヨが足を止めた。
「これ、買おうかな」
「縁結びのか」
「うん」
「お前、縁結びとか興味あるんだな」
「あるよ。今の縁を大事にしたいから」
「……そうか」
ヤチヨが縁結びのお守りを買った。
隼斗も少し考えて、同じものを買った。
「隼斗も買うんだ」
「お守りはお守りだろ」
「ふふ。これ、彩葉とかぐやの分も買おうかな」
「土産か」
「うん。帰ったら見せながら話す」
宮島近くのホテル。
食事処の個室で、瀬戸内懐石が並んでいく。
「すごい品数だな」
「楽しみだね」
先付。
お造り。
焼き物。
牡蠣の土手鍋。
「これ、写真撮っておくか」
「撮ろう。後で彩葉とかぐやに見せる」
スマホで一品ずつ撮影していく。
「ヤチヨ、こういう写真の撮り方、丁寧だよな」
「美味しそうに見えるように撮りたいから」
「配信者意識か」
「そういうわけじゃないけど……まあ、似たようなものかも」
牡蠣を一口食べたヤチヨが、また少し黙った。
「……どうだ」
「美味しい」
「短いな、感想」
「美味しい時ほど、言葉少なくなるんだよ」
「それもそうか」
懐石の最後にデザートが出てくる頃には、二人とも満腹になっていた。
「食べすぎたな」
「うん。でも全部美味しかった」
「……明日も色々食う予定だけどな」
「楽しみ」
2ベッドの和洋室。
隣り合ったベッドに、それぞれ腰掛ける。
「……本当に同室で良かったのか?」
隼斗が部屋を見渡しながら言った。
「なんで?」
「2ベッドとはいえ、同室だからな」
「せっかく二人で旅行してるのに、お部屋別だと寂しいじゃん」
「寂しいって」
「それに同室の方が少しお安くなるし~」
「……まあ、それもそうか」
「隼斗が気にしてくれるのは嬉しいけど、大丈夫だよ」
ヤチヨがスマホを取り出しながら続けた。
「私、義体だからさ。万が一夜中になにかあっても隼斗を助けられるじゃない?」
「なにかってなんだよ」
「地震とか、停電とか」
「……お前、そういう心配の仕方するんだな」
「八千年分の用心深さかな~」
「そうか」
「明日はどこ行く予定だっけ?」
ヤチヨがスマホで予定を確認しながら言った。
「朝、ロープウェイで弥山に登って、それから市街地に戻って原爆ドームと平和記念公園を回る」
「……原爆ドームか」
ヤチヨが少し声のトーンを落とした。
「……行きたかった場所の一つ」
「重くなりすぎるなら無理しなくていい」
「無理じゃないよ。八千年の中で、人がどれだけのことをしてきたか、ちゃんと見ておきたい」
隼斗が黙って頷いた。
「弥山の後、昼飯は穴子にするか」
「穴子飯食べたい」
「予約は」
「もう取ってある」
「お前も下調べしてたのか」
「隼斗に任せっきりも悔しいし」
「対抗意識持つようなことか、これ」
「持つよ」
ヤチヨが少し笑った。
しばらく予定の確認が続いた。
「お土産、何にするか考えてる?」
「もみじ饅頭は決定だな」
「ベタだけど美味しいやつだよね」
「あとは……牡蠣の加工品も良いかもな」
「彩葉好きそう」
「かぐやは食べ物全般好きだから何でも喜ぶだろ」
「それはそう」
予定の話が、自然と雑談に変わっていく。
「……次、四人で来る時はどこ泊まろうか」
「お前、もう次の話してんのか」
「だって楽しみだから」
「気が早いな」
「八千年分の楽しみを取り戻してるところだから」
隼斗が何も言わなかった。
「……まあ、好きなだけ計画立てれば良い」
「ほんと?」
「お前が楽しそうなら、それで良い」
ヤチヨが少しだけ嬉しそうな顔をした。
スマホの画面を見ながら、二人でぽつぽつと話を続けた。
「明後日は何時頃に出るの?」
「……昼くらいかな」
「もう少し早くても」
「いや、ゆっくりで良い」
「そっか」
会話が、少しずつ間延びしていく。
「……隼斗」
「なんだ」
「今日、ありがとう」
「もう何回目だその礼」
「言い足りないから」
「……」
返事がなかった。
「隼斗?」
「Zzz……」
ヤチヨが隣のベッドを見ると、隼斗は目を閉じて寝息を立てていた。
「……ふふ、流石に運転で疲れちゃったみたい」
ヤチヨが小さく笑って、隼斗の髪を手櫛で梳かすように撫ぜた。
くすぐったそうに眉をひそめ、少しだけ身を捩る。
その様子に、ヤチヨはまた小さく笑った。
スマホをそっと置いて、部屋の明かりを落とす。
窓の外、宮島の夜景がぼんやりと見えていた。
「……おやすみ、隼斗」
それだけ呟いて、ヤチヨも静かに目を閉じた。
お気に入り登録いただいた方々もありがとうございます。
とても励みになります。
活動報告の方でネタの募集も始めておりますので、ご一読いただければと思います。