今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

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読者募集ネタになります。
時系列は前話同様、37話~Ex.十年後①の間になります。


Ex.隼斗とかぐやの二人旅

「おほーっ!!カーブでぐわんぐわんする!!ジェットコースターみたい!!」

 

朝のいろは坂。

かぐやが助手席で窓に張り付いていた。

 

「落ち着いてくれ」

「でも凄い!!こんなにカーブが続くの!!」

「四十八のカーブがある。下りと上りで別の道だ」

「四十八!?そんなにあんの!?」

 

ヘアピンカーブをひとつずつ丁寧に処理しながら、隼斗が言った。

 

「あ、いろは坂って書いてある!!彩葉の名前が付いた坂やべー!!」

「こっちが先だわ。字も違うし」

「あ、そっか。いろはにほへとのいろはかぁ」

「そう」

「……わぁ、紅葉綺麗!!」

 

車窓を埋め尽くす紅葉。

赤、橙、黄色、そして稀に緑色。

様々な(いろ)が山の斜面を覆っている。

 

「……あ、彩葉のお母さんじゃないからね!紅葉!」

「分かっとるわ」

「ははっ、ごめんごめん。なんか言いたくなっちゃって」

 

かぐやがもう一度窓の外を見た。

 

「……凄いなぁ」

 

今度は静かな声だった。

 

「同じ色じゃないもんね。それぞれ色が全然違う」

「同じ赤でも、葉っぱの種類によって全部違うからな」

「一枚一枚が違う色なんだ……」

 

しばらくかぐやは無言で景色を眺めていた。

ルームミラーから見えるそれが、昔花火大会に行った時の横顔と重なった。

 

「来て良かったな、今の時期に」

「うん!!来て良かった!!」

 

思わず声を掛けると、声量が戻った。

やかましいなぁ、ったく。

 

 

 

 

 

 

日光の蕎麦屋。

古い木造の建物で、窓から庭の紅葉が見える。

 

「お蕎麦かぁ、最近よく食べるようになった」

「好きか」

「好き!!なんか、つるってしてる感じがして」

「つるってしてる」

「なんて言えば良いんだろ。口の中でするって消えるような感じ?」

「まあ、蕎麦はそういうもんだな」

 

そういや、ドリアの次に食ったのはうどんだったか。

そん時もつるつるしてるとか言ってたな。

なんて考えていたら、二人分の蕎麦が来た。

俺の天ざるとかぐやの大海老天ざる。

 

「いただきます」

「いただきます!」

 

かぐやが一口食べて、目を輝かせた。

 

「んーっ、美味しい!!」

「ここの蕎麦、石臼で挽いてるやつだからな」

「よく知ってるね」

「来る前に調べた」

「さすが!!」

 

かぐやが続けて食べながら、窓の外を見た。

 

「……なんか、蕎麦食べながら紅葉見るの贅沢だなぁ」

「そうだな」

「こういう時間も好きだな」

 

しんみりと言われて、少し黙った。

 

「……まあ、たまにはな」

「たまにって言うけど、隼斗が誘ってくれなかったら来なかったよ」

「お前が行きたそうにしてたから声かけただけだけどな」

「それが嬉しいんじゃん!!」

 

 

 

日光東照宮で。

 

「でっか!!」

 

陽明門を見上げてかぐやが叫んだ。

 

「声量が?」

「だって!!でっかくない!?」

「でかい」

「彫刻がすごい!!全部違う!!」

 

かぐやが石段を上りながら、あちこちに目を向けていく。

 

「眠り猫!!あれじゃん!!」

「そうだな」

「小さいのに存在感あるね」

「寝てるのに迫力があると言われてる」

「ほんとだ……なんか不思議な感じがする」

 

また少し静かになった。

 

「三猿もいたよね」

「見ざる言わざる聞かざるのか。どこだっけか」

「こっちこっち!!」

 

かぐやが走りかけて、石畳で少し足を取られた。

 

「走るな、転ぶぞ」

「転ばなかった!!」

「転びかけてたろ今」

「義体だから大丈夫だよ」

「義体でも転ぶ時は転ぶ。いまは痛覚も切ってねえだろ」

「うっ、そうだけど……」

 

かぐやがゆっくり歩き始めた。

 

「……三猿、見ざる言わざる聞かざるって、なんか良いよね」

「どのへんが?」

「全部正しいことを言わなくてもいい時ってあるでしょ?」

「知らないふりをする優しさ、みたいな感じ?うまく言えないけど」

「もともとは論語の教えに由来してるとも言われてるけど、解釈は色々あるな」

「隼斗って本当に物知りだよね」

「調べてきただけだ」

「それが大事なんじゃん!!かぐやに教えてくれるために調べてきてくれたってことでしょ」

 

照れくさくて、少し早足になる。

三猿の横の内番所で、かぐやがおみくじを引いた。

 

「大吉!!」

「そうか」

「隼斗も引いたら?」

「……いや、良いや」

「なんで!!」

「今が良い状態なら、あとは下がるだけだろ」

「なにそれ!?」

「現状維持で十分だ」

「それ大吉より良いの?」

「考え方次第だな」

 

かぐやがおみくじの結び所に向かう途中で、思い出したように声を掛けてくる。

 

「ねえ、かぐやの大吉、なんか良いことあるのかな?」

「読んでみりゃ良いじゃん」

「うーん……縁が結ばれる、的なことが書いてある」

「十分だろ」

「もう結ばれてるからね!!」

 

かぐやが笑いながら言った。

 

「……まあ、そうかもな」

 

照れ隠しにそっぽを向きながら返した。

あ、そういえば。

 

「かぐや、おみくじは結ばなくても良いんだぞ」

「え、そうなの?大吉だと?」

「結果にかかわらず、だ」

「良い結果ならもちろん持って帰って良いし、凶や大凶なら逆に滅多に出ねえから縁起物って考えもある」

「ほえ~!おもろ~!」

 

目を輝かせてかぐやが言う。

 

「持って帰った後はどうするの?」

「ん?ん~……正月に地元の神社で引いた奴は、次の初詣んときにお焚き上げしてもらってっけど」

「それまでは?」

「俺はスマホケースに挟んでる」

「じゃーかぐやもそうしとこ!」

 

かぐやはいそいそとおみくじを折りたたんで、透明なスマホケースの背中に忍ばせた。

 

「そしたら、来年また来ようよ!」

「紅葉の時期にきてお焚き上げってしてもらえんのかな」

「聞いてみよ!」

 

神厩舎横の内番所で聞いてみると、通年で「古札納所」というものが設けられているとのことで。

そこにおみくじとお気持ちを納めればよいとのことだった。

 

「じゃあ来年また来ればいいね」

「そうだな。……今度は彩葉とヤチヨも誘うか」

「いいね!またいろは坂行こ!」

「お前名前弄る気満々だろ」

「~~~♪」

 

口笛出来てねえって。

 

 

 

 

 

晩御飯。

宿泊の予約を入れたホテルのレストラン。

フランス料理のディナーが始まる。

 

「なんか緊張する……!」

 

かぐやがメニューを見ながら言った。

 

「フォーマルだけど、そんなに難しくないぞ。外側のフォークとスプーンから使えばいい」

「教えてくれるんだ」

「知らないと困るだろ」

「ありがとう!!」

 

アミューズが出てきた。

 

「ちっちゃい!!でも綺麗!!」

 

声を少し抑えながらかぐやが言った。

 

「盛り付けがうまい店だな」

「一口で食べていいの?」

「食べ方に決まりはない」

 

かぐやが一口で食べた。

 

「……美味しい!!なんか、色々な味がする!!」

「前菜はそういうもんだ。口を馴らしてから次の料理に備える」

「馴らす」

「準備だ」

 

次々とコースが進んでいく。

 

スープ。

魚料理。

肉料理。

かぐやは毎回、一口食べてから「美味しい!!」と言った。

毎回同じリアクションで、毎回本気だった。

 

「……お前、毎回同じこと言うな」

「だって全部美味しいんだもん!!」

「それはそうだな」

 

デザートまで終わって。

 

「……お腹いっぱいだ~」

「そうだな」

「でも全部美味しかったぁ」

「明日も食うぞ」

「食べられるかな……」

「江戸村だから、屋台みたいなのもあるかもしれん」

「じゃあ食べられる!!」

「切り替えが早いな」

 

 

 

 

 

夜。

デラックスツインルームにて。

 

「本当に同室で良かったんだよな?」

 

ベッドに腰掛けながら言った。

 

「なんで?」

「一応、確認しとこうと思って。予約んときにも確認したけどよ」

「せっかく二人で来てるのに、部屋分けたら寂しいじゃん!!」

「まあ、そうかもしれんが。ただもし嫌なら、いまからでも他の部屋取るけどと思って」

「一緒のが良いの!それに折角デラックスツインって良いお部屋取ってくれたんだし、一人で使うのもったいないよ~」

「……まあ、お前がのびのび出来るように予約したわけだから、喜んでくれて良かったけどさ」

 

かぐやが少しだけ黙った。

 

「……隼斗、そういうとこあるよね」

「なにが」

「さらっとそういうこと言う」

「なんか言ったか俺?」

「言ったじゃん今ぁ!!」

「あ~夜なんだからあんまり騒ぐな。それで、明日の江戸村なんだけど」

 

照れくさくて、即座に話を変えた。

 

「ちゃんと予習してきた!」

「珍しいな」

「だって江戸村、かぐやが行きたいって言ったからでしょ。調べたんだよ」

「どんな感じだ」

「時代劇の世界を体験できるやつで!でんでん太鼓とか、手裏剣投げとか、弓とか、からくり屋敷とかあって!」

「まあ、体験型の施設だな」

「衣装着て写真撮れるやつもある!!隼斗、着てくれる?」

「……まあ、考えとく」

「えっ、着てくれそう!?」

「考えるって言っただけだ」

「でも即座にノーじゃなかった!!着てくれる気がする!!」

「……まあ、お前が着たいなら合わせるよ」

 

ツクヨミのアバターと同じようなもんだしな。

かぐやが跳ね上がった。

 

「やったーーー!!!どの衣装にしようかな!!」

「決まってないのかよ」

「大体決めてたけど、隼斗が来てくれるなら一緒に着られるやつにする!!」

「お前、計画がころころ変わるな」

 

かぐやがスマホで衣装の写真を確認しながらあれこれ言い続ける。

相槌を打ちながら聞いていた。

 

「……これにしよっか!隼斗はこっちで!」

「……」

「隼斗?」

 

返事がなかった。

見ると、隼斗はベッドに仰向けになったまま目を閉じていた。

 

「Zzz……」

「……寝てる」

 

かぐやが少しだけ笑った。

掛け布団を掛けて、手櫛で髪を梳かすように撫でた。

 

「疲れたんだね。今日いっぱい運転してたし」

 

スマホをそっと置いて、部屋の電気を落とす。

カーテンの隙間から、月明かりが入ってきた。

 

「……隼斗、誘ってくれてありがとね」

 

返事はなかった。

かぐやは天井を見上げながら、今日一日のことを思い返した。

 

いろは坂の紅葉。

美味しかったお蕎麦。

三猿。

大吉のおみくじ。

初めて食べたフランス料理。

 

「……全部、楽しかったなぁ」

 

目が覚めたら、また楽しい一日が始まる。

わくわくを胸に、かぐやも静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 




図書館司書さん、藤の道さん、かけはしさん、ROSOさん、感想いただきありがとうございます。

お気に入り登録いただいた方々もありがとうございます。
とても励みになります。

活動報告の方でネタの募集も始めておりますので、ご一読いただければと思います。
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