と、いうワケで喰らえオラッ!!!
「おはよ!隼斗!プレゼント二人分!!!」
朝七時。
リビングに響き渡るかぐやの声。
「声量」
隼斗が寝ぼけ眼のまま言った。
朝から頭に響くわぁ。
「だって!!今日誕生日だし!?かぐやとヤチヨ!!プレゼント二人分用意してくんなきゃ!!」
「分かってる。分かってるから声を落とせ」
騒がしさに彩葉がキッチンから顔を出した。
「もうケーキの予約もしてあるよ」
「一個?二個?」
かぐやが食い気味に聞いた。
「……そこ気にすんのかよ」
「大事なとこでしょ!!」
台所の隅で、ヤチヨが静かにコーヒーを淹れていた。
「私は一個で良いけど」
「え~!!せっかくだから二個にしようよ!!」
「かぐやがいろんな味食べたいだけでしょ」
「バレたか」
「プレゼント、俺はもう用意してある」
隼斗が言った。
「見せて見せて!!」
「夜まで秘密」
「えー!!」
「彩葉は?」
「私も用意してあるよ」
「ヤチヨは自分の分どうするの?」
「私?」
「誕生日プレゼント、自分にあげたりする?」
「……考えたことなかったな」
「じゃあ今日一緒に考えよ!!ちなみにかぐやは~ヤチヨの分も用意してま~す!」
「ヤッチョもかぐやのは用意してるよ~」
かぐやが強引に話を進めていく。
朝から騒がしい一日が始まった。
ああ、まだ言ってなかった。
「二人とも」
「「?」」
「誕生日、おめでとうな」
二人の笑顔が咲いた。
「まだ早くな~い?プレゼントまだ貰ってないよ~」
「うっせ、何回言っても良いんだよ」
義体研究所。
所長室で、彩葉がスケジュールを確認していた。
「今日は午後休みにするよ、みんな」
「所長、急にどうしたんですか」
田辺が聞いた。
「かぐやとヤチヨの誕生日だから」
「……あ、そういえば今日でしたね」
「うん。だから研究所のみんなにも……被験者への労いって名目で少し協力してもらいたくてさ」
彩葉がホワイトボードに書き出していく。
「装飾は総務にお願いしたら、家で飾りつけ。ケーキは私が手配済み。あと……」
「所長」
石動が手を挙げた。
「法務部からもお祝いのメッセージカードと、ささやかですが贈り物も用意しました」
「……ありがとう、でも良いの?」
「かぐやちゃんとヤチヨさんには、所員全員お世話になってるようなものですから」
一方、隼斗は研究所外の面々に連絡していた。
「朝日、今日の夜って空いてるか?」
「空けてるよ。誕生日会だろ」
「知ってたのか」
「かぐやちゃんが自分で言ってた。SNSで」
「あいつ……」
「乃依も行くってさ」
「了解、ありがとな」
雷からも着信が返ってきた。
「行くよ」
「ありがとな」
「プレゼントは幾らまで?」
「遠足じゃねえんだぞ」
隼斗が今度は芦花にメッセージを送った。
『前々から言ってたけど、今夜かぐやとヤチヨの誕生日会やるんだけど来れるか?』
既読がすぐについて、返信が来た。
『勿論行かせて。何時から?』
『十九時から。真実にも伝えといてくれ』
『言っとくね。事前にプレゼントも買っておいたから、楽しみにしててって伝えて』
『それは自分で言ってくれ』
真実からも別で連絡が来た。
『聞いた!行くね!旦那と子供たちも連れて行っていい?』
『もちろん良いぞ。二人も喜ぶ』
『やった!かぐやちゃんとヤチヨちゃん、何が好きなんだっけ?』
『みんなから貰うもんなら大体喜ぶ』
『了解、了解~!』
鶫からもメッセージが届いた。
『お兄ちゃん、かぐやとヤチヨさんの誕生日会あるって芦花さんから聞いた!行っていい?』
『もちろん』
『何か手伝うことあるかな?』
『特にない』
『とは言ってもなんか持ってきたいなら好きにしな』
『分かった!!プレゼントも買ってあるから楽しみにしといてって伝えて!』
『自分で言えって』
あいつ、芦花の影響受けすぎて思考も似通ってきてねえかな。
隼斗がスマホを置いて、少し息をついた。
「……賑やかになりそうだな」
夕方までに、リビングには風船と横断幕が用意されていた。
「これ誰が作ったの!?」
かぐやが目を輝かせた。
「総務の皆。文化祭みたいで楽しかったとよ」
「すごい!!大きい!!」
「文字だけでも半日かかった」
「愛がすごい……!!」
夜、誕生日会が始まった。
芦花、鶫、真実ファミリー、朝日、雷、乃依も合流し、リビングは賑やかになった。
「おめでとうかぐやちゃん、ヤチヨちゃん」
朝日が言った。
「ありがと朝日!!」
「……ありがとう」
乃依が花束を渡した。
「これ、俺のセンスだから」
「わあ、綺麗!!」
「あとで花瓶に飾るね、ありがとう乃依」
雷は無言でプレゼントの袋を差し出した。
「開けていい?」
「うん」
中にはハンドメイドのアクセサリーが入っていた。
「雷が作ったの!?」
「時間あったから」
「器用すぎるでしょ!!」
芦花からはかぐやとヤチヨ、それぞれに合わせたスキンケア・コスメセット。
「かぐやちゃんには明るめのメイク用に色々、ヤチヨちゃんには艶感重視のスキンケアセット」
「ちゃんと二人の雰囲気に合わせて選んだから」
「わあ!!ありがとう芦花!!」
「……こんなに?」
ヤチヨが少し戸惑いながら受け取る。
「義体だから成分とか気にしなくて良いのは羨ましいけど、
質感とか使用感は人間と同じように楽しめるでしょ?だから本気で選んだんだ」
「……ありがとう、芦花。大事に使うね」
「普段から使って。そうしたらまた贈れるでしょ?」
鶫からは自分がモデルをしている案件で使ったものから、芦花に相談して選んだアクセサリー。
「これ、この前の撮影で着けてたのと同じシリーズなの。かぐやとヤチヨさんに似合うと思って」
「え!!鶫が撮影で着けてたやつ!?」
「うん。芦花さんに『似合いそうな人いる?』って聞かれて、二人が真っ先に浮かんだから」
「……ありがとう、鶫」
かぐやが騒がしく、ヤチヨが少し照れくさそうに受け取った。
「お兄ちゃんの家族なら、ウチにとっても家族だからさ」
「鶫~♡」
「だ~かぐや暑苦しい!離れなさい!」
真実ファミリーから、特に印象に残った店の商品券とお取り寄せグルメの詰め合わせ。
「かぐやちゃんは食べるの好きだから、色んなジャンルのお店の商品券にしたよ!」
「ヤチヨちゃんには日本酒に合うおつまみのセット!」
「わあ!!嬉しい!!これから使いに行く!!」
「ヤチヨちゃんは日本酒好きだから、それに合うやつ厳選した!」
「……詳しいな、私のこと」
「そりゃ~ね!友達ですから!」
真実とヤチヨがやり取りしていると、双子が後ろ手にもじもじしている。
「ん?どったの?」
かぐやが尋ねると、双子が折り紙のメダルを二つ、背中から差し出した。
「「かぐ姉、おたんじょうびおめでとう!!」」
「わあ~!!ありがとう!!」
かぐやが両手で受け取って、すぐに首から下げた。
「「ヤチ姉も、おたんじょうびおめでとう!!」」
「……ありがとう」
ヤチヨが同じようにメダルを首から下げた。
「ふたりともおひめさまみたい!」
「お姫様!かぐや、昔お姫様みたいなもんだったよ!!」
「え、ほんと!?」
「ヤチヨもね!」
「じゃあいろは姉ちゃんもおひめさま?」
「わっ、わたし!?」
「そしたら、じゅん兄ちゃんおうじさま?」
「俺は王子ってガラじゃねぇな」
「じゃあ、おひめさまをまもるきしさま!」
「そっちの方がしっくりくるね!」
「守んなきゃいけねえ姫様が多くて大変だわ」
賑やかな時間が過ぎていった。
「そろそろケーキの時間にしよっか」
彩葉が声をかけると、キッチンから彩葉と隼斗でろうそくを灯した二つのケーキが運ばれてきた。
「わあああ!!二個ある!!」
かぐやが目を輝かせた。
「二個で良かったんだよね?」
彩葉がヤチヨに確認した。
「うん。二個が良い」
ヤチヨが言った。
「私のケーキも別に欲しいから」
「そっか」
「今までなかったものだから、今年からはちゃんと自分の分が欲しい」
かぐやが隣で頷いていた。
「良いじゃん!ヤチヨのケーキ、かぐやのケーキ。二個並んでるの!」
朝日が音頭を取った。
「よし、みんなでハッピーバースデー歌うか」
「「「ハッピバースデートゥーユー……」」」
大合唱になった。
双子が一番大きな声を出していた。
歌が終わって。
「ろうそく消して!!」
かぐやとヤチヨが、それぞれのケーキのろうそくを同時に消した。
拍手が起きた。
「「「おめでとーーー!!」」」
「写真撮ろうよ!!みんなで!!」
かぐやが叫んだ。
「良いね、撮ろう撮ろう」
真実が自分のスマホを構える。
「隼斗くんのスマホでも撮ろう。二枚とも良い写真になるように」
全員がリビングに詰めて並んだ。
朝日、雷、乃依、芦花、鶫、真実、真実の旦那、双子、彩葉、隼斗、かぐや、ヤチヨ。
「三、二、一」
シャッター音が二回鳴った。
みんなが笑っている大所帯の写真が撮れた。
夜も更けて。
芦花、鶫、真実ファミリーと黒鬼の三人が帰った後、リビングには四人だけが残った。
片付け途中の風船が、まだいくつか天井に浮かんでいた。
「……今日、楽しかったね」
彩葉が言った。
「うん」
かぐやが少し疲れた、でも満足気な顔で頷いた。
ヤチヨはソファに座って、静かにグラスを傾けていた。
「ヤチヨ、大丈夫か」
隼斗が聞いた。
「うん、大丈夫」
少し間があった。
「……ただ、ちょっと考えてた」
「なにを?」
ヤチヨがグラスを見つめながら言った。
「……八千年間、誕生日なんて忘れてたんだ」
リビングが静かになった。
「八千年前に着いちゃってから、ずっと。最初の方は、日付なんて分かんなかったし」
「暦ができて、7月12日が来ても、特に何も思わなかった。ただの日付だった」
かぐやが黙って聞いていた。
「祝ってくれる人はいなかったし、私自身も自分の誕生日をどう扱えばいいか分からなかったし」
「ただ、時間が過ぎていくのを見てただけ」
グラスを持つ手が少しだけ震えていた。
「……こうやって誰かに祝ってもらえる日が来るなんて、思ってなかったんだ」
「しかも今日は、こんなに大勢に囲まれて」
彩葉が少し考えて、静かに言った。
「……そっか」
ヤチヨが顔を上げた。
「じゃあ、今年から数え直す?」
「……数え直す?」
「うん。八千歳じゃなくて、こうして祝ってもらえるようになった年から、改めて数え始めるの」
ヤチヨが少し目を見開いた。
「……そんなこと、していいの?」
「良いに決まってる」
隼斗が言った。
「年齢なんて、お前が決めりゃ良い」
少し間があって、隼斗が続けた。
「……一個聞いていいか」
「なに?」
「体の無かった十年間は、年齢数えないのか?」
「義体になる前。俺たちと再会して、ツクヨミだけにいた時期のことだけど」
ヤチヨが少し考えた。
「……あの十年は、数えなくていいかな」
「なんでだ」
「あの頃はまだ、分からなかったからさ、色々」
「だから、歳を数えるのは義体を貰ってからにしたいな」
「……そうか」
彩葉が頷いた。
「じゃあ、義体になった年から一年目、ってことだね」
「うん。それで良い。……それが良いな」
しばらく、ヤチヨは何も言わなかった。
目に少し光るものが浮かんでいた。
その時。
「じゃあ今日から二人とも一歳!!」
かぐやが突然叫んだ。
「……は?」
「かぐやも一歳!ヤッチョも一歳!」
「今日から数え直すってことは、今日が誕生日なんだから、今日で一歳ってことだよね!!」
「……」
「ほら、乾杯しよ!一歳おめでとう!!」
かぐやがグラスを持ち上げた。
沈黙。
それから。
「……ふふっ」
ヤチヨが小さく吹き出した。
「一歳って」
「一歳だよ!!」
「……ふふ、あはは!」
ヤチヨが声を上げて笑った。
涙が浮かんだままの顔で。
「かぐや、それは酷い」
彩葉も笑いながら言った。
「酷くないよ!!新しい始まりだから一歳で良いじゃん!!」
「……お前、いいタイミングで台無しにするな」
隼斗も少し笑っていた。
「台無しじゃないよ!!みんなが笑えるようにしただけ!!」
かぐやがそう言って、グラスを掲げた。
「じゃあ改めて、乾杯!!」
「「「乾杯」」」
四つのグラスがチン、と澄んだ音を鳴らした。
片付けも終わった後、隼斗とヤチヨがベランダに出ていた。
夜空に月が浮かんでいた。
「……今日、ありがとう」
ヤチヨが月を見上げながら言った。
「礼を言うのは俺たちの方だ」
「なんで」
「お前がここにいてくれるから」
ヤチヨが少し黙った。
「……八千年、見てるだけだった景色が、今こうして隣にある」
「そうだな」
「来年もこうやって、祝ってくれる?」
「当たり前だろ」
隼斗が月を見上げながら言った。
「来年も、その先も。ずっとだ」
ヤチヨが微笑んだ。
「……うん」
リビングから、かぐやと彩葉の声が聞こえてきた。
「ヤチヨ!隼斗!ケーキ余ってるからもう一切れ食べよ!!」
「太るよ」
「今日は特別だから良いの!」
「おう、いま行く」
隼斗が振り返った。
「行くか」
「うん」
月明かりの下、二人が部屋に戻っていった。
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