今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

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1話で終わると思ったか!


Ex.パーティーの後で

ベランダから戻ると、リビングには温かな空気が流れていた。

 

テーブルの上には食べ終えたケーキの皿。

飲みかけのコーヒーカップ。

プレゼントを包んでいた包装紙が、ソファの横に積まれている。

 

さっきまでの賑やかさが少しだけ落ち着き、

リビングには、家族だけが知っている静かな時間が流れ始めていた。

 

かぐやはソファの背もたれから身を乗り出し、彩葉は湯呑みに新しくお茶を淹れている。

 

彩葉は二人が戻ってきたのを見て、ふっと笑った。

 

「あ、戻ってきた!」

 

かぐやがソファから身を乗り出した。

 

「そろそろ本命のプレゼント行こうよ!」

「本命?」

「朝日たちのプレゼントはもう貰ったけど、隼斗と彩葉のはまだじゃん!」

 

隼斗が少し目を逸らした。

 

「……忘れてたわけじゃないぞ」

「言い訳っぽい」

「言い訳じゃない。じゃあ俺から行くか」

 

隼斗が寝室から二つの箱を持ってきた。

一つは小ぶりな箱、もう一つは細長い箱だった。

 

「……実はさ」

 

隼斗が頭を掻いた。

 

「何買うか、一番悩んだ」

「え?」

「アクセサリーは彩葉とかぶる気がしたし」

「女ものの服は、流行りとか好みが移り変わる」

「食い物は消える」

「だから形に残る物にした」

「残る物?」

「かぐや、これ」

 

小ぶりな箱を渡す。

かぐやが慎重に開けると、中には小さなギターのピックが入っていた。

本物の楽器店で使われているような、丁寧な仕上げのものだった。

 

「……ピック?」

「歌配信よくやるだろ?マイク持つのもいいけどよ」

「たまには俺のギターに合わせて手拍子するより、ちゃんと楽器やってみたらどうかと思って」

「え、かぐやギター弾けないよ?」

「教える」

 

かぐやの目が丸くなった。

 

「……本当に?」

「本当に。時間あるときになるけどな」

「隼斗が直接教えてくれるの……!?」

 

かぐやがピックを両手で包み込んだ。

 

「大事にする!絶対使う!」

「使い潰したらまた買ってやる」

「優しすぎる……!」

「安物じゃねえしな、これ。ライブ用」

「え?」

「店員に初心者向け聞いて、一番丈夫なの選んでもらった」

「ま、だからって気後れすんな。さっき言った通り、使い潰したらまた買ってやる」

「形に残るものっつったけど、消耗品だしな」

 

ピックをキラキラした目で見たかぐやが、その目を隼斗に向けた。

 

「いま弾いてみてもいい?!」

「……夜中だから、少しだけだぞ」

 

隼斗は立ち上がると、自室からギターケースを持ってきて、ゆっくりと蓋を開いた。

 

「わぁ……!」

 

かぐやの目がさらに輝く。

 

「今日はアンプ使わないで、生音だけな」

 

ギターを取り出し、ソファへ腰掛ける。

軽く弦を鳴らすだけで、柔らかな音色が部屋に広がった。

 

「はい」

 

一本のピックを差し出す。

 

「持ち方はこう」

 

隼斗が自分の指を見せながら説明する。

 

「親指と人差し指で軽く挟む。力入れすぎるな」

「こ、こう?」

 

ぎこちない手つきで真似するかぐや。

 

「そう。それで六本全部を軽くなぞる」

 

恐る恐る弦を弾く。

 

ジャラン

 

「わっ!」

 

思った以上に大きな音が鳴り、かぐやが肩を跳ねさせた。

 

「鳴った!」

「うん、ちゃんと鳴らせたな」

「すごい!」

 

もう一度。

今度は少しだけ綺麗な音が鳴る。

 

「楽しい!」

 

嬉しそうに笑うかぐやを見て、隼斗も少しだけ口元を緩めた。

 

「今日はここまで」

「えぇ~」

「続きは今度」

「約束?」

「ああ」

「やった!」

 

かぐやは大事そうにピックを握りしめた。

 

「今度まで練習する!」

「ギターどうする?俺のを貸しても良いけど、自分のアコギもあったろ」

「せっかくなら隼斗の借りたいなぁ~」

「良いぞ、ただ勝手に持ってくなよ」

「分かってるよぉ~」

 

ホントに分かってんのかね。

隼斗は苦笑しながらギターをケースへ戻した。

 

「ヤチヨにはこれだ」

 

細長い箱をヤチヨに渡す。

開けると、小さな徳利とおちょこのセットが入っていた。

渋みのある藍色の陶器で、手に馴染む形をしている。

 

「……徳利」

「お前、いつも適当な湯呑みで飲んでたろ。ちゃんとした酒器で飲んだ方が味も変わる」

 

ヤチヨがしばらく無言でそれを見つめていた。

 

「……ありがとう」

 

静かな声だった。

 

「気に入らなかったか」

「そうじゃなくて」

 

ヤチヨが少し笑った。

 

「隼斗が私の普段の飲み方、ちゃんと見ててくれてたんだなって」

「まあ、毎日一緒に飯食ってるからな。気づくだろ、普通に」

「普通じゃないよ。ちゃんと見てないと分からないことだから」

 

徳利を持ち上げる。

思っていたより軽い。

けれど薄すぎない。

指先へ伝わる、ひんやりとした土の感触が心地いい。

 

「……持ちやすい」

「そこ重要だからな。酒器って、口当たりで味変わるから」

「へぇ」

「試してみるか?」

「今はお茶だけにしとこうかな。彩葉、ちょっと注いでもらってもいい?」

「もちろん」

 

彩葉がお茶を急須から徳利へ静かに注ぐ。

細い湯気が立ち上り、白い陶器の内側をゆっくり満たしていく。

 

「はい」

 

徳利を受け取ったヤチヨは、少しだけ傾けておちょこへ注いだ。

 

とく、とく、とく

 

心地よい音が静かな部屋に響く。

 

「……なんか、良いね」

 

思わず零れた言葉だった。

おちょこを両手で持ち上げ、一口。

 

「どう?」

 

彩葉が尋ねる。

 

「……同じお茶なのに」

 

ヤチヨは少し驚いたように目を丸くした。

 

「柔らかい」

「器で変わるんだよ」

 

隼斗が頷く。

 

「酒もお茶も、器一つで味の印象は変わるからな」

「なるほど」

 

もう一口。

今度はゆっくり味わう。

 

「これ、お酒で試したくなってきちゃった」

「今日は我慢しろ」

「誕生日なのに?」

「もう十分飲んだだろ」

「バレてた」

 

くすっと笑うヤチヨ。

徳利を優しく撫でながら、小さく呟く。

 

「これからは、この子で飲もうかな」

「そうしてくれ」

「ありがとう」

 

隼斗は照れ隠しのように鼻を掻いた。

 

「次、私からだね」

 

彩葉が二つの紙袋を持ってきた。

 

「かぐやは、これ」

 

かぐやが袋を開けると、中には可愛らしいデザインのエプロンが入っていた。

 

「わあ!これ、隼斗が料理配信で使ってるやつと似てる!」

「うん。かぐやのエプロン、ちょっと古くなっちゃってるし。せっかくならと思って、お揃いのヤツ」

「彩葉も同じの持ってるの?」

「持ってる。色違いだけどね」

 

かぐやがエプロンを広げて、体に当てた。

 

「わあ、可愛い……!彩葉、ありがとう!」

「どういたしまして」

「着て良い!?着る!」

「今!?」

「今!」

 

かぐやがそのまま、エプロンの首紐に頭を通した。

呆れながら、彩葉が背中のリボンを結んでやる。

 

「どう?どう?」

「可愛い」

「似合ってるよ」

「やった!」

「今度一緒に何か作る?」

「作る作る!!配信しよ!」

「配信するかは置いといて、ヤチヨにはこれ」

 

彩葉がもう一つの袋を渡す。

中には、上品な意匠の和装小物入れが入っていた。

布地には月をモチーフにした刺繍が施されている。

 

「……月」

 

ヤチヨが少し息を呑んだ。

 

「気づいた?ちょっと分かりやすすぎたかなとも思ったんだけど」

「ううん。……嬉しい」

 

ヤチヨが小物入れを胸に抱いた。

 

「なんだかんだ、結局(かぐや)のルーツは月だからさ」

「こうやって形にしてもらえるの、なんか特別な感じがする」

「気に入ってくれたなら良かった」

 

彩葉が微笑んだ。

 

「あと、これ普段使いできるサイズにしたからさ。スマホとか、お財布とか入れてね」

「ちゃんと使うね」

「じゃあ最後」

 

かぐやが立ち上がった。

 

「かぐやとヤチヨから、お互いへのプレゼント交換!」

「まず、かぐやからヤチヨへ!」

 

かぐやが小さな包みを差し出した。

開けると、髪飾りが入っていた。

月をモチーフにした、繊細な細工のものだった。

 

「……月」

「かぐやも同じこと考えてたみたい!彩葉と被っちゃったね」

 

かぐやが少し照れたように笑った。

 

「でも、ヤチヨの雰囲気に一番合うと思ったから。ずっと似合いそうだなって思ってた」

 

ヤチヨが髪飾りを手に取った。

 

「……ありがとう、かぐや」

「気に入った?」

「うん。すごく」

「付けてもいい?」

「もちろん!」

 

ヤチヨが髪飾りを手に取って、かぐやへ差し出した。

 

「かぐや」

「んぇ?」

「付けてくれる?」

「え?」

「お願い」

「まかせて!」

 

かぐやはヤチヨの後ろへ回り込んだ。

 

「ちょっとじっとしててね~!」

「うん」

 

長い銀色の髪を優しく持ち上げる。

 

「わぁ……サラサラ」

「そこ?」

「だって本当に綺麗なんだもん」

 

彩葉が笑う。

 

「ヤチヨの髪って手入れ大変そう」

「毎日隼斗が乾かしてくれるから」

「言い方」

「事実」

 

隼斗がため息をつく。

 

「お前が雑なの。自然乾燥だと風邪ひくし、ダメージ入るだろ」

「優しいねぇ」

「普通だ」

 

かぐやは慎重に髪飾りを差し込んだ。

 

「あっ」

 

少し曲がる。

 

「もう一回!」

 

付け直す。

少し離れて眺める。

また近付いて角度を直す。

 

「……よし!」

 

ヤチヨが振り返る。

 

「どう?」

 

かぐやが期待いっぱいの目で三人を見る。

彩葉が最初に笑った。

 

「すごく似合ってる」

「うん」

 

隼斗も頷く。

 

「似合ってる」

 

少し間を置いて、

 

「……ヤチヨの髪に映えるな」

「ほんと?」

「ホント」

 

ヤチヨはスマホのインカメラでそっと確認する。

月の髪飾りが銀色の髪によく映えていた。

 

「……綺麗」

 

小さく呟く。

 

「ありがとう、かぐや」

「えへへ」

 

その一言だけで、かぐやは嬉しそうに笑った。

お返しに、ヤチヨも微笑んだ。

 

「じゃあ、私からかぐやへ」

 

ヤチヨが小さな箱を差し出した。

開けると、可愛らしいデザインの手帳が入っていた。

表紙には小さな竹の模様があしらわれている。

 

「……竹」

「かぐや姫だしね。実際は電柱だったけど」

 

ヤチヨが静かに言った。

 

「かぐやが色々経験して、色々覚えていくの、私、ずっと見てたいから」

「この手帳に、これからの日々のこと、書き留めてってもらえたら良いなと思って」

 

かぐやの目が潤んだ。

 

「……ヤチヨぉ~」

「泣かないでよ、まだ何も書いてないのに」

「泣くよ!!だってヤチヨがそんなこと考えてくれてたなんて!!」

 

かぐやがヤチヨに抱きついた。

 

「ありがとう!!大事にする!!毎日書く!!」

「毎日は大変だと思うけど、無理せずにね」

「隼斗、何か書くものある?」

「いま書くのか?」

「書く!」

 

隼斗が引き出しから、万年筆を一本取り出した。

 

「ほれ」

「ありがと!」

 

かぐやは嬉しそうに受け取ると、テーブルへ座った。

そっと表紙を開く。

新品の紙。

真っ白な一ページ目。

 

「最初は……」

 

少しだけ考える。

 

そして日付を書いた。

 

『7月12日』

 

少し笑う。

 

「今日はね~」

 

ペン先がゆっくり動き始めた。

 

『今日は一回目のお誕生日!』

 

『朝日たちがみんな集まってくれた!』

『乃依も、雷も、芦花も、鶫も、真実たちも、双子ちゃんも来てくれた!』

『みんなでケーキを食べて、』

『プレゼントも貰っちゃった!』

 

少し止まる。

ちらりと周りを見る。

 

隼斗。

彩葉。

ヤチヨ。

 

三人とも自然にそこにいる。

また書く。

 

『隼斗にギターのピックを貰って』

『ギターも教えてもらった。ちょっと指が痛かった』

 

『彩葉に、隼斗と彩葉とお揃いのエプロンをもらった!これ付けてなに作ろうかなぁ』

 

『ヤチヨに手帳をもらった!いま書いてるこれ!』

 

少し考えてから、

最後に一行だけ書き足す。

 

『今日は、とっても幸せだった。これからずっと、こんな日が続くといいな』

 

書き終えると、かぐやは満足そうに本を閉じた。

 

「書けた!」

「早いね」

 

ヤチヨが笑う。

 

「だって忘れたくないもん」

 

手帳を胸に抱える。

 

「これから毎日書いていく!」

「十年後も?」

「百年後も!」

「その前にページが足りなくなるだろ」

 

隼斗が苦笑する。

 

「じゃあ無くなったら二冊目!今度は自分で同じの買おうかな」

「そのうち本棚一つ埋まってそうだな」

「埋める!」

 

かぐやは力強く頷いた。

その笑顔を見て、ヤチヨも穏やかに微笑んだ。

 

隼斗と彩葉が、その様子を少し離れたところで見ていた。

「……良い誕生日だったな」

 

隼斗がぽつりと言った。

 

「うん」

 

彩葉が頷いた。

 

「来年もこうやって、みんなで祝えたら良いね」

「そうだな」

 

隼斗が窓の外を見た。

夜空にはまだ月が浮かんでいる。

 

「……来年は、もっと賑やかになるかもな」

「既に賑やかすぎるくらい賑やかだったけど」

 

彩葉が笑いながら言った。

 

「まだまだ、こんなもんじゃ足りないだろ」

 

かぐやとヤチヨが贈られたばかりのプレゼントを互いに見せ合いながら、楽しそうに笑っていた。

その光景を、隼斗と彩葉はしばらく黙って眺めていた。

 

隼斗は静かにソファへ腰掛けた。

目の前では、

 

「それ貸して!」

「ダメ、まだ見る」

「写真撮ろう!」

「その前に並べようよ」

 

と、プレゼントを囲んで騒ぐ二人。

 

ほんの十年と少し前。

 

一人で飯を食べて、一人で配信して、一人で寝ていた生活からは想像もできない光景だった。

 

気付けば。

俺の周りには、笑い声があることが当たり前になっていた。

 

「……幸せだな」

 

誰にも聞こえないくらい小さな声。

その呟きを聞き取ったのは彩葉だけだった。

彩葉は何も言わない。

 

ただ隼斗の隣へ座り、同じ景色を眺めながら、穏やかに微笑んだ。

 

窓の外では、月の光が静かに四人の夜を照らしていた。

 

 




ROSOさん、感想いただきありがとうございます。

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活動報告の方でネタの募集も始めておりますので、ご一読いただければと思います。
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