かぐやいろP配信より
「ねえねえ、リスナーさんに聞かれたんだけどさ」
かぐやがコメント欄を見ながら言った。
配信は特にテーマを決めない雑談枠で、リスナーからのマロやコメントを拾いながらだらだら喋る回だった。
「ジュンヨウってかぐやといろPにとってどういう存在なの?って」
「……急だね」
彩葉が少し笑った。
「急だけど!気になるんだってさ!かぐやが先に答えるね!」
かぐやが少し考えて。
「なんか……頼れる人、大事な人って感じかな。最初に会った時から面倒見がよくてさ」
「そしたら、強くてかっこよくて、でも意地悪じゃなくて」
「ちゃんと向き合ってくれる人だなって思った」
「でもさ、最初の頃ってジュンヨウ怖くなかった?ちょっと無愛想だし」
「怖くなかった!!なんか……怒ると叱るって違うじゃん?」
「叱られたことはあっても、理不尽に怒られたことは無いしさ~」
「……それ、鋭いね」
彩葉がしばらく黙った。
少し考えるように視線を落としてから、静かに続けた。
「思い返せば確かに、アイツが誰かに理由もなく怒ってるところ、見たことないな」
「でしょ!!怒る時はちゃんと理由あるし、それで叱られても、なんか納得できるんだよね」
「そういうところ、変わらないよね。十年前から」
彩葉がぽつりと言うと、かぐやが大きく頷いた。
「変わらない!でも、優しいところは増えたと思う。前より」
「増えたんじゃなくて、隠すのが下手になっただけかもね」
彩葉がくすっと笑った。
「いろPは?ジュンヨウってどういう存在?」
「……私はね」
少し間を置いて。
「隣にいてくれる人、かな」
「最初は同じクラスの人で、隣の部屋の人で。気づいたらずっと隣にいた」
「特別なことをしてくれるわけじゃないけど、なんかいると安心するんだよね」
「それって好きってことじゃん!!」
「……まあ、そうなんじゃないかな」
彩葉が少し顔を逸らした。
「……昔、なにも考えられなくって、学校にも行けなかった時があったんだけど」
「なにを言うワケでも無く、一緒にいてくれたんだ」
「それがすごく、嬉しくて、安心したんだ」
思い返すように、目を閉じた彩葉。
「安心する、って言葉、シンプルなんだけど一番強い言葉な気がするな~」
かぐやが真面目な顔でそう言うと、彩葉が少し驚いた顔をした。
「……たまにかぐや、鋭いこと言うよね」
「たまにって何!いつも鋭いよ!」
「はいはい」
彩葉が笑いながらあしらった。
「……でも、アイツに言わなくて良いよ。リスナーさんたちもね。鳩禁止」
「なんで!?」
「恥ずかしいから」
「絶対SNSで広まるじゃん!!」
「……まあ、それはそれで、ね」
彩葉が照れたように、少しだけ笑った。
「あと」
かぐやが付け足すように言った。
「かぐやも一つだけ言っておくとさ~」
「ジュンヨウがいなかったら、かぐや今頃どうなってたか分かんないんだよね」
「……急にシリアスになった」
「だって本当のことだもん」
「義体になれたのも、こうやって毎日楽しく過ごせてるのも、全部隼斗と彩葉がいてくれたから」
「だから、二人にはすっごく感謝してるし、大好き!!」
彩葉が少し黙って、それから静かに頷いた。
「……まあ、感謝はしてるよ、私も」
「二人とも同じこと思ってるんだね」
「思ってるけど、あんまり口に出さないだけ」
彩葉が肩をすくめた。
「今日、この話するつもりじゃなかったのにぃ~」
「かぐやが持ち出したんじゃん」
「そうだけどさ!!」
二人で顔を見合わせて、少し笑った。
「まあ、たまにはこういう話も良いよね」
「良いね。……でも本当に言わないでよ、隼斗には」
「言わない言わない!たぶん!」
「たぶんって言った」
「言ってない!!」
かぐやが慌てて手を振ると、彩葉がまた笑った。
その後もしばらく、二人は他愛のない雑談を続けた。
月見ヤチヨ配信より
雑談の途中でコメントが流れた。
「……ジュンヨウか~」
ヤチヨが体を傾けながら少し考えた。
おちょこを一旦置いて、膝の上で手を組む。
「難しいな~、これ」
普段の彼女らしくない反応だった。
即答することの多いヤチヨが、珍しく言葉を探すように黙り込んでいた。
「難しいんだよ~。なんか、色々ありすぎて一言で言えない」
少し間を置いて。
「ヤッチョにとってジュンヨウは……信頼できる人、かな。あと」
少しだけ声が柔らかくなった。
「ちゃんとヒトのことを考えて、そこにいてくれる人」
言葉を選びながら、丁寧に。
「義体になる前、もうず~っと前にさ。ジュンヨウとやり取りしたんだよね」
「詳細は省くけどさ、ちゃんとヤッチョの気持ちを考えてくれたんだ」
「それがすごく嬉しかったんだ」
おちょこを両手で包むように持ちながら、ヤチヨが続けた。
「他にもさ」
「ヤッチョ、義体になったばっかりの頃、色んなことに戸惑ってたんだよね」
「触った感触とか、味とか、匂いとか」
なんせ、全て八千年ぶりなのだ。
長い間、ずっとずっと、感じることのできなかったもの。
「その時、ジュンヨウといろPがずっと隣で色々教えてくれた。急かさずに、ゆっくり」
「……あの時のことは、今でもよく覚えてる」
少し目を伏せて、当時を思い出すように。
「初めて食べたご飯の味とか、初めて嗅いだ雨の匂いとか」
「全部、二人が一緒にいてくれたから、怖くなかったんだと思う」
「まあ、本人には言わないけどね~♪」
「言うと本人たち照れるからさ~」
「それはそれ~♪∩∩」
ヤチヨがにこにこしながら着物の袖で口を隠した。
その表情は、いたずらっぽくもあり、どこか穏やかでもあった。
「じゃあ最後に一個だけ」
ヤチヨが少し姿勢を正した。
おちょこを置いて、両手を膝の上できちんと揃える。
「ヤッチョ、八千年生きてきて、色んな人と出会って、色んな人を見送ってきたんだけど」
「……ジュンヨウとかぐやと彩葉のことは、ちゃんと最後まで一緒にいたいって思ってるんだ」
「これだけは、本人にも言おうかな。いずれ、ちゃんと」
その声には、いつもの軽やかさとは違う、静かな重みがあった。
「八千年って、本当に長いんだよ。何度も、色んなものを見送ってきた」
「だからこそ、今こうして『一緒にいたい』って心から思える人たちがいるのが、どれだけ幸せなことか」
しばらく沈黙が続いた後、ヤチヨが小さく笑った。
「……ちょっと湿っぽくなっちゃったね。次のマロ行こうか」
その切り替えの早さもまた、彼女らしかった。
後日。JunY0u配信より
雑談の途中で。
「……なんの話?」
コメント欄がかぐやいろPとヤチヨの配信について盛り上がっていることに、隼斗が気づいた。
「……あ~」
少し黙った。
「……見てない」
「……まあ、なんか言ってたのは知ってるけどさ」
「知ってんじゃん!!」というコメントが流れた。
「……把握はしてる。その、色々と。SNSで流れてくるしな」
少し間を置いて。
「……俺にとってもあいつらは大事な連中だよ。あいつらがいなきゃ今の俺はねえからな」
それだけ言って、強引に話題を変えようとした。
だが。
「……」
隼斗の動きが、一瞬止まった。
「……聞いてない」
しばらく画面を見つめたまま、何も言わなかった。
「……まあ、いつか言われるなら、ちゃんと受け止める」
少し間を置いて。
「……あいつら全員、俺にとってもそうだ。ずっと一緒にいたいと思ってる」
隼斗は少しの間、それを黙って見ていた。
普段なら軽く流すようなコメントも、今日はどこか胸に残るようだった。
「……とりあえずゲーム画面戻すぞ。話しすぎた。あと鳩やったやつ、イエローカードな」
「あ~うるせえうるせえ、その内な」
「なにこの勢い怖い」
強引に話題を切り替えたが、その日の配信、隼斗は最後まで少しだけ機嫌が良さそうだった。
普段よりも笑う回数が多く、リスナーとのやり取りも心なしか丁寧だった。
誰にも指摘されなかったが、配信が終わった後。
バレないように自室にて、スマホで。
かぐやいろPとヤチヨの配信のアーカイブを、こっそり最初から再生していた。
「……ふっ」
思わず笑みが零れた。
「こっ恥ずかしいこと配信で言いやがって」
しばらくアーカイブを眺めたまま、隼斗は動かなかった。
かぐやの声。
彩葉の声。
ヤチヨの声。
それぞれの言葉が、頭の中で静かに反芻される。
「……まあ」
スマホの画面をそっと消して、枕元に置いた。
「大事なのは、お互い様か」
それだけ呟いて、隼斗は静かに目を閉じた。
なお、JunY0uアカウントの視聴履歴諸々は把握されている模様。
完全怠惰宣言さん、キュケオーンさん、ROSOさん、感想いただきありがとうございます。
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