配信タイトルは【8番出口】異変を全部見つけるまで帰れません【JunY0u】
「よー、ジュンヨウだ。今日は有名な異変探しゲーム『8番出口』を、全異変コンプまでやる」
画面には無機質な地下通路。
「簡単にゲーム内容を説明すると、異変があったら戻る」
「無ければ進む。それを8回繰り返せばクリア」
「……簡単そうじゃね?」
「まあ今日は異変コンプまでやるんだけどさ」
「コメントの治安が悪いな」
苦笑しながらスタートボタンを押した。
「じゃ、行くか」
地下通路は静かだった。
一定間隔で並ぶ蛍光灯。
白い壁。
広告。
遠くへ伸びる一本道。
「……何もねぇな」
数歩進んでは壁を見る。
天井を見る。
床を見る。
「こういうゲームは、全部見るのが基本だしな」
しばらく歩き。
「……これは普通。異変はないな」
そのまま前へ。
看板の数字が『0番』から『1番』へ切り替わる。
「よし、まず一つ」
「なるほど、こんな感じか。今回はノーマルだったけど異変のパターン見たいな」
順調だった。
二回目。
三回目。
「ポスター違うな」
「戻ろ」
コメント欄も少しずつ落ち着いてきた。
「観察ゲームだからな」
「眼が良いのがウリなもんで」
そのまま四周目。
歩いている途中、ジュンヨウが突然立ち止まる。
「……ん?」
画面を凝視する。
「いや」
「ここ、違うな」
「言わない」
「リスナーも考えてみ」
「教えませ~ん。戻ろ戻ろ」
来た道を引き返す。
正解。
「お」
「意外と分かるもんだな」
その後も順調に進む。
「これ普通」
「進むか」
「これ分かりやすいな~」
「……いや違うな」
コメント欄も推理大会になっていた。
「コメント見ると逆に迷うわ」
「いっそ閉じるかな」
「いやでもそれも配信の醍醐味か」
笑いながら先へ進む。
その瞬間だった。
「……っ!」
ジュンヨウの肩がびくりと跳ねた。
一瞬だけ声が詰まる。
「……おお」
「いや今のは反則」
「いきなりくんのは普通びっくりするだろ」
胸を押さえながら苦笑する。
「ホラー耐性はそこそこある方だけど、不意打ちは勘弁だわ」
「俺をなんだと思ってんの?」
その後も集中力は切れない。
壁。
床。
照明。
広告。
一つずつ確認していく。
……見落としはない。
「8番まで来たな。これで最後か?」
「あー最後って、異変が無い場合じゃないとクリアにならんのだっけ?」
「まあそりゃそうか。『異変があったら引き返せ』だもんな」
「異変無しで抜けなきゃか」
「ま、そしたら念入りに見ていきますかねっと」
「……よし」
画面が切り替わる。
エンディング。
「クリアだ」
「いやぁ。思ってたより難しかったわ」
「簡単そうって言った俺を殴りたい」
「コメント欄うるせぇな。でも面白かったわ」
「観察ゲーム好きな人にはおすすめ」
「そしたら……」
一度、ゲーミングチェアの背もたれに寄りかかり、大きく息を吐く。
「はい、ここから異変コンプまでぶっ続けでいくぞ~」
かぐやの場合
配信タイトルは【8番出口】絶対帰る!!……帰れるよね?【かぐや】
「かぐやっほー!月から来たかぐやだよ~!今日は8番出口!プレイしていきま~す!」
「みんなのコト、ハッピーエンドに連れてってやるぜ!」
「ジュンヨウがクリア出来たんだから、かぐやも余裕!」
ゲーム開始。
地下通路へ一歩踏み出した瞬間。
「……怖い」
「だって怖くない!?」
一歩進む。
止まる。
「……これ異変?」
もう一歩。
「これは?」
さらに数歩。
「これ絶対異変だよぉ!!」
「違いが分かんない!!!!」
「全部怪しく見える~~~!!」
コメント欄が笑いで埋まる。
その中に、一つだけ見慣れた名前が流れた。
「隼斗!帰って!」
「コメントしないで!」
「見てるもん!」
「全部見てるもん!」
かぐやは慎重に歩き始める。
そして数秒後――
「えっ、ちょっと待って」
画面を凝視したまま固まった。
「…………これ、どっち!?普通!?異変!?!?!?」
「分かんないよぉぉぉ!」
地下通路に、かぐやの悲鳴が響き渡った。
いろPの場合
配信タイトルは【8番出口】なんかやれって言われたので。観察力には自信があります【いろP】
「いろっぴー。いろPでーす」
軽く手を振る。
「なんか、かぐやから『絶対やって!』って言われたので」
「今日は8番出口、やっていきまーす」
「ジュンヨウの配信も、かぐやの配信も見てない。初見でやりたかったし」
「でもルールは分かってる」
画面には地下通路。
「異変があれば戻る」
「無ければ進む」
「それだけだよね」
「じゃ、始めていきまーす」
歩き始める。
広告。
壁。
床。
照明。
一つずつ確認していく。
「……普通かな」
そのまま進む。
一周目。
二周目。
三周目。
サクサクとクリアしていく。
「ここ変だね」
「違う、戻ります」
迷いなく引き返す。
正解。
「考え過ぎても分からなくなっちゃうから」
「違和感を信じる」
淡々としている。
実況というより独り言だ。
「普通」
「普通」
「これは違う」
「進む」
コメント欄は逆に盛り上がる。
途中、一度だけ。
「ひぅっ」
小さく声を漏らした。
「……びっくりした」
「悲鳴じゃない」
「びっくりしただけ。反射だよ」
「違う」
真顔で否定した。
そのまま順調に進み。
「……クリア~」
画面が切り替わる。
エンディング。
「うん」
「普通に面白かった」
時計を見る。
「……あれ?」
配信時間。
まだ三十分程度。
「……短いね」
「さすがに三十分で終わると、ちょっと物足りないな」
「リスナーの皆もそうだよね?」
コメント欄がざわつく。
いろPはマウスを操作する。
「ジュンヨウもやってたし」
「異変コンプ」
「やってみますか」
二周。
三周。
「……出ないね。異変無しだ」
五周。
七周。
「あ、やっと異変来た」
「これ初めてのヤツだ」
十分後。
「……普通」
十五分後。
「異変無しね」
二十分後。
「……」
無言。
コメント欄だけが盛り上がる。
「ジュンヨウ」
ぼそっと呟く。
「来てた」
「出ないんだけど」
「そうなんだ」
「……じゃあ仕方ないか」
さらに三十分。
「……やっと来た」
思わず前のめりになる。
「これ初めて見たな。双子?」
戻る。
正解。
「よし!」
「コンプまで」
画面右上を見る。
「あと一つだ」
「……そんな気はしてるよ」
苦笑する。
そして、その予感は的中する。
十分。
二十分。
三十分。
出ない。
そもそも異変が来ない。
「……」
「最後の一つだけ」
「全然来ないね」
「こういうゲームにもあるんだ、そのセンサー」
さらに二十分後。
「あ」
画面を見た瞬間。
「これ」
「初めて見た……と、思う」
慎重に引き返す。
画面が切り替わる。
コンプリート。
「……終わったぁ~~~~……」
椅子にもたれ掛かる。
「普通にクリアして終わってれば三十分」
「気軽にコンプ挑んだせいで、二時間」
「……配信って大変だ~」
「……もう二度と軽い気持ちでコンプ挑戦しない」
そう言いながらも、どこか満足そうに笑う。
「今日はここまで」
「お疲れ様でした」
配信画面が暗転した。
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