オタ公がスケッチブックを掲げる。
「今回作ってもらうのは!」
《ペラッ》
『休日ピクニックデートのお弁当』
「お弁当?」
「そうです!」
「ジュンヨウさんと一緒に休日、ピクニックに出掛けるなら!」
「持って行きたいお弁当を作ってください!」
ジュンヨウが即座に手を挙げる。
「待て、またデートじゃねぇか」
「ピクニックです!」
「言い換えただけだろ!」
「仕方ないですねぇ」
『休日ピクニックデートのお弁当』
「消すなら最初から書くなや!」
ROKAが笑う。
「でも今回は服と違って料理」
「何を作るか」
「何を食べてもらいたいか」
「そこに性格が出るよ」
TSUGUM1も頷く。
「普段の生活が見えますね」
するとオタ公が続ける。
「さらに!」
《ペラッ》
『使用食材はスーパーで買えるもの限定』
「高級食材は禁止!家庭料理勝負です!」
「ようやく普通のルールが来たな……」
ジュンヨウはほっと胸を撫で下ろす。
「あと!」
《ペラッ》
『完成したお弁当は審査員の皆さんに加え、ジュンヨウが試食します』
「…………」
ジュンヨウが固まる。
「俺も食うの?」
「もちろんですよ。テーマがジュンヨウさんへ作るお弁当なので!」
「逃げられねぇじゃん……」
その瞬間だった。
三人の表情が、それぞれ変わる。
彩葉は小さく考え込む。
「お弁当……」
「隼斗は昔から」
「唐揚げ好きだったよね……」
「あと卵焼き」
「野菜もちゃんと入れないと」
高校時代。
朝早く起きて、隼斗と並んでお弁当を作った朝。
そんな記憶が、少しだけ蘇る。
「……久しぶりだけど」
「きっと、手は覚えてる」
ヤチヨは腕を組む。
「なるほど~」
「冷めても美味しい料理か」
「配信のお仕事でも差し入れってあるし」
「そういう考え方もできるね」
既に頭の中では、お弁当の完成図まで組み上がっていた。
「写真映え」
「食べやすさ」
「栄養」
「全部入れようかな♪」
そして、かぐや。
「おべんとーーーー!!」
飛び跳ねる。
「隼斗!いっぱい入れていい!?」
「食いきれる量ならな」
「やったぁ!」
「唐揚げ!」
「おにぎり!」
「ウィンナー!」
「ハンバーグ!」
「卵焼き!」
「あとミニトマト!」
「全部入れる!」
「重箱でも足りねぇぞ」
ROKAは三人を見比べながら笑う。
「三人とも、もう考え方が違うね」
TSUGUM1もメモを取る。
「いろPさんは『相手の好み』に加えて『健康』」
「ヤチヨさんは『完成度』と『見栄え』」
「かぐやは『楽しい思い出』」
「もう勝負が始まっています」
オタ公が高らかに宣言する。
「それでは!」
「最終決戦!」
「休日ピクニック弁当対決!」
「スタート!!」
《ピーーーッ!!》
タイマーが動き始める。
三人が一斉に調理台へ向かった。
最初に動いたのは彩葉だった。
冷蔵庫から鶏もも肉を取り出す。
「まずは……唐揚げのお肉」
「下味をつける時間が欲しいから、一番最初に」
下味を付け始める。
ジュンヨウが思わず笑う。
「段取り変わってねぇな」
彩葉は顔を上げる。
「……そう?」
「高校の頃から同じ順番だったろ?まあ、唐揚げは作り置きが多かったけど」
「……あっ」
「いま思い出した顔だな?」
「……」
気まずげに沈黙する彩葉に、ジュンヨウは苦笑した。
その顔を見て彩葉はくすっと笑うと、小さく舌を出した。
「うそ。ちゃんと覚えてる。……大事な思い出だから」
「焦った~。覚えてんの俺だけかと」
いたずらが成功した彩葉も少しだけ笑った。
一方、ヤチヨ。
「さて」
まな板の上へ食材を並べる。
「まず完成図」
紙へさらさらと弁当箱のラフスケッチを書き始める。
「左にメイン」
「右に副菜」
「赤」
「黄色」
「緑」
「最後に余白で抜け感」
「サンドイッチなら断面も映えるし♪」
ROKAが思わず笑う。
「設計図まで描くの?」
「料理って『食べるデザイン』だから♪」
「先に完成形を決めるの」
TSUGUM1は素早くメモを書く。
「工程管理」
「効率的ですね」
そして。
「ふんふふ~ん♪」
かぐや。
もう鼻歌を歌っている。
ボウルへ唐揚げのもも肉。
ソーセージ。
卵。
ハンバーグ。
おにぎりの具。
調理台へ次々と並べる。
ジュンヨウが目を丸くした。
「……多くね?」
「いっぱい食べてほしいから!」
「俺じゃなくてお前基準だろ」
「えへへ!違うもん!」
「隼斗がお腹空いたらかわいそうじゃん?」
ROKAが笑う。
「量も愛情なんだね」
「うん!残ったら一緒に食べる!」
「最初からその予定かよ」
スタジオが笑いに包まれた。
「それでは調理開始から十分経過です!」
オタ公の声がスタジオへ響く。
最初に香りが立ち始めたのは彩葉だった。
《ジュワァァ……》
フライパンの上で卵が静かに焼ける。
火加減は弱火。
菜箸で何度も形を整えながら、丁寧に巻いていく。
「焦らない……」
「ゆっくり」
「きれいに」
ジュンヨウは思わず笑う。
「その卵焼きも変わってねぇな」
彩葉は少し照れながら答える。
「……隼斗はしょっぱい方が好きでしょ」
「お、よく覚えてんな」
「そりゃ覚えてるよ」
残っている卵液に少しだけ出汁を足す。
その隣。
《トントントントン》
ヤチヨの包丁が一定のリズムで響く。
ブロッコリー。
パプリカ。
ミニトマト。
色ごとに小鉢へ分けていく。
「彩り担当~♪」
「料理は見た瞬間もおいしいからね」
ROKAが思わず感心する。
「盛り付けまで逆算してる」
「うん」
「配信サムネも同じだもん♪」
まみまみも身を乗り出した。
「お弁当ってね、開けた瞬間が一番大事なの」
「その一秒で食欲が決まるから」
「ヤチヨちゃん、それ分かってるね」
そして。
「できたーー!!」
まだ三十分ちょっとしか経っていない。
かぐやが元気よく手を挙げた。
「早っ!」
オタ公が驚く。
「もうできたんです!?」
「うん!あと詰めるだけ!」
ジュンヨウが弁当箱を覗き込む。
「……全部茶色だな。高校野球部の弁当か?」
「え?」
かぐやも覗き込む。
「……ほんとだ」
唐揚げ。
ハンバーグ。
ウィンナー。
見渡す限り。
茶色。
茶色。
茶色。
彩りは、ほぼゼロ。
辛うじて、おにぎりだけが違う色ではあるが。
おかずは全部、きれいな茶色だった。
「お前、野菜と卵焼きは?」
「あっ!!忘れてたーー!!」
ダッシュで冷蔵庫へ向かうかぐや。
TSUGUM1が思わず吹き出した。
「あんた『Reply』あるでしょ」
「『カラフル』だの」
「『
「彩り忘れてどうすんの」
《ドッ!!》
慌てて冷蔵庫へ駆け出すかぐや。
コメント欄が一斉に流れる。
ROKAは笑いながら頷いた。
「これも、かぐやちゃんらしいね」
「好きなものを全部詰め込んじゃう」
「そこから『あっ』って気付くのも含めて」
TSUGUM1も頷く。
「まず好きな物を詰める」
「あとから栄養を思い出す」
「なんというか、かぐやらしいですね」
《ジュウウウウ……》
彩葉の唐揚げが、静かに油の中で色付いていく。
火加減を見ながら、一つずつ丁寧に裏返す。
「……まだ」
「もう少し」
「焦ると固くなるから」
横からジュンヨウが覗き込む。
「昔より上手くなったな」
「え?」
「高校の頃、最初の何個か焦がしてただろ」
彩葉は一瞬だけ目を丸くしたあと、小さく笑った。
「……あったね」
「懐かしいな」
「そのとき隼斗が全部食べてくれた」
「多少焦げてても食えるし」
「……昔から優しいよね」
「もったいなかっただけだ」
「素直じゃないなぁ」
彩葉は少しだけ笑いながら、次の唐揚げを裏返した。
やり取りを横目に、まみまみが解説する。
「低温でゆっくり火を入れてる」
「衣も立ってるし。この唐揚げ、かなり期待できるよ~」
その頃。
ヤチヨは黙々と盛り付けを進めている。
「ブロッコリーで緑」
「ミニトマトで赤」
「卵焼きで黄色」
「……うん」
「ここにレタス」
弁当箱を少し離して眺める。
「バランス良し♪」
ROKAが感心する。
「料理というよりデザインだね」
「お弁当って開けた瞬間が一番大事だと思ってるからさ♪」
「最初の一秒で『美味しそう』って思わせたいの」
TSUGUM1が静かに頷く。
「第一印象まで計算していますね」
その頃のかぐやはというと。
「できたー!」
ジュンヨウが覗く。
「……すげぇな、完璧じゃん」
色も。
栄養も。
配置も。
さっきまで茶色一色だったとは思えない。
ものの数分で、見違えるほど完成度の高い弁当へ変わっていた。
まみまみが瞠目する。
「さっきは真っ茶色だったのに」
「十分でここまで直せるの?」
「修正力すっごぉ~」
「でしょぉ~!えへへ!」
腰に両手を当て、胸を張るかぐや。
「ほら!ちゃんと彩りある!」
「最初からそうしろ」
「忘れてたんだもん!」
「威張るな」
スタジオがまた笑いに包まれる。
ROKAが弁当を覗き込んだ。
「……でも、本当に綺麗」
TSUGUM1も頷く。
「修正時間は十分もありませんでした」
「にもかかわらず」
「配置まで整っています」
「料理そのものの技術は高いですね」
「えへへ♪」
かぐやは照れくさそうに笑う。
「料理、大好きだから!」
その声に、ジュンヨウも自然と笑っていた。
「知ってる。普段から作ってくれてるもんな」
「うん!だから今日はもっと頑張った!」
そんなこんなやっていたら、調理ももう終盤。
「残り十分でーす!」
オタ公の声が響く。
三人とも、いよいよ最後の仕上げへ入る。
彩葉は唐揚げの油を丁寧に切りながら、レタスの上へ一つずつ並べていく。
ヤチヨは弁当箱全体を少し離して眺め、ミニトマトをほんの少し右へ寄せた。
「……うん」
「これで完成」
そして、既に完成していたかぐやはというと――
「旗!」
「まだ何か足すのか?」
「ピクニックだからさ!」
どこからともなく小さな国旗ピックを取り出し、ウィンナーへ勢いよく刺した。
「テンション上がるもん!」
「小学校の運動会?」
「大事だよ~!」
《ドッ!!》
「残り時間も短くなってきました!あと五分!」
「盛り付けを終えてください!」
オタ公の声がスタジオへ響く。
三人とも最後の確認へ入る。
彩葉はレタスの向きをほんの少し整えた。
「……これで、大丈夫かな」
最後にミニトマトを一つ。
赤が加わるだけで、お弁当全体がぱっと明るくなった。
「よし」
その隣ではヤチヨ。
「うーん……」
ほんの数ミリ。
ブロッコリーを左へ寄せる。
「こっちかなぁ。……いや、こっち?」
ROKAが吹き出す。
「そこまで見る?」
「見るよ~♪写真撮ったとき左右の重心違うもん」
「なるほど……」
TSUGUM1は真剣な顔でメモを書く。
「最後まで構図を調整していますね」
一方。
「えへへ♪」
かぐやは完成した弁当を見つめながら満足そうに頷いた。
「隼斗」
「ん?」
「これね、絶対外で食べたら美味しいよ!」
「料理じゃなくて景色込みなんだな」
「うん!」
「芝生!」
「青空!」
「レジャーシート!」
「あとお昼寝!」
「最後まで予定立ててるじゃねぇか」
《ドッ!!》
コメント欄が怒涛の勢いで流れた。
「タイムアップ!!」
《ピーーーッ!!》
完成した三つのお弁当が、ゆっくりターンテーブルへ並べられる。
彩葉。
ヤチヨ。
かぐや。
三者三様。
同じ「ピクニック弁当」でありながら、並べてみると驚くほど個性が違っていた。
オタ公が大きく息を吸う。
「完成です!」
「それでは――」
「最後の審査へ移ってまいりましょう!!」
《パチパチパチパチ!!》
三つのお弁当が、審査テーブルへ運ばれる。
同じテーマで作られた三つ。
それなのに、並んだ瞬間、その違いは一目瞭然だった。
彩葉の弁当は、毎朝誰かのために作り続けた積み重ねを感じさせる王道のお弁当。
蓋を開けた瞬間、「いただきます」と言いたくなる温かさがある。
ヤチヨの弁当は、彩りと配置まで計算された一品。
思わず写真を撮りたくなる、美しさと完成度を兼ね備えていた。
そして、かぐや。
唐揚げ、おにぎり、ウィンナー、ハンバーグ、卵焼き。
ボリューム満点なのに、最後には彩りまでしっかり整えられ、見ているだけで自然と笑顔になる。
ウィンナーに突き刺さった日の丸のピックはご愛嬌。
オタ公が満足そうに頷く。
「いやぁ……同じテーマなのに、ここまで違うとは思いませんでした」
ROKAも笑みを浮かべる。
「三人とも、その人らしさがちゃんと出てる」
TSUGUM1がメモを閉じる。
「お弁当って、料理というより性格なんですね」
まみまみは三つのお弁当を見比べながら、感心したように頷いた。
「面白いね~」
「三人とも料理は上手なのに、目指してるゴールが全然違う」
「だから全部違うお弁当になってる」
「審査するのが楽しみ~」
「では――」
オタ公がジュンヨウへ向き直る。
「まずは、今回の主役」
「ジュンヨウさんから試食、お願いします!」
ジュンヨウは三つのお弁当を見比べ、大きく息をついた。
「……これ、最初に選ぶのが一番難しいやつじゃねぇ?」
三人の視線が、一斉にジュンヨウへ集まった。
「「「…………」」」
「圧が強ぇ」
スタジオが笑いに包まれた。
ジュンヨウは三つのお弁当をもう一度見比べ、小さく頷く。
「……よし、最初は――」
ゆっくりと手を伸ばす。
その先にあったのは、彩葉のお弁当だった。
彩葉が小さく息を呑む。
「……」
ジュンヨウは蓋を開ける。
その瞬間。
ふわりと立ち昇る。
出汁の香り。
唐揚げの香ばしい匂い。
どこか懐かしい家庭の香りが、静かに広がった。
まみまみが思わず目を細める。
「この香りだけで分かる」
「出汁の香りがちゃんと立ってる」
「卵焼きと唐揚げの匂いが喧嘩してない」
「これ、絶対おいしい」
ROKAも頷いた。
「食べる前から安心する」
TSUGUM1もメモを開く。
「香りまで含めて家庭のお弁当ですね」
ジュンヨウは静かに卵焼きを箸で持ち上げた。
「……いただきます」
ジュンヨウは静かに卵焼きを口へ運ぶ。
ふわり。
出汁の香りが広がる。
噛むたびに優しい甘みと塩味が混ざり合い、どこか懐かしい味が口いっぱいに広がった。
「……これ」
思わず笑みがこぼれる。
「高校の頃と同じ味だ」
彩葉が驚いたように顔を上げる。
「えっ……」
「これこれ」
「朝、寝ぼけながら食ってたやつ」
「卵焼きだけ先につまみ食いして、お前に怒られてた」
彩葉は一瞬きょとんとしたあと、吹き出した。
「そうだった。私が作るときは毎回だったね」
「唐揚げも一個なくなってるんだよな」
「……犯人がなんか言ってる」
「俺が作るときはお前もやってたろ、おあいこだ」
スタジオが笑いに包まれる。
ジュンヨウは続いて唐揚げを頬張る。
《サクッ》
軽い音。
衣は香ばしく、中は驚くほど柔らかい。
肉汁がじゅわっと広がる。
ジュンヨウは思わず目を丸くした。
「うまっ。これは高校の頃よりうまい」
彩葉は照れくさそうに笑う。
「十年だからね。練習したし」
その一言に、スタジオが少しだけ静かになる。
ROKAが微笑みながら口を開いた。
「十年分の積み重ね、ちゃんと味に出てるね」
TSUGUM1も頷く。
「相手の好きなものを覚えていて、それを今でも作れる」
「これがお弁当の強さなんでしょうね」
まみまみは唐揚げをひと口食べると、思わず笑顔になった。
「唐揚げって冷めると硬くなることが多いんだけど」
「これはちゃんと下味と火入れを考えて、そうならないようにしてる」
「お弁当用の唐揚げだね」
ジュンヨウは小さく頷いた。
「……これなら、毎日食えるわ」
その一言で、彩葉の肩からふっと力が抜ける。
「……よかった」
少しだけ照れたように笑う。
「でも、毎日はやめなさい。太るよ」
「いまそれ言う?俺この後真っ茶色だった弁当も食うんだけど」
「もう真っ茶色じゃないよ!!」
ジュンヨウは最後にもう一度卵焼きを見つめた。
「……ごちそうさま」
箸を置く。
オタ公が笑顔で頷いた。
「それでは!彩葉さんのお弁当!」
「採点をお願いします!」
まみまみが最初に札を掲げる。
『9.8』
「ほぼ満点!」
「冷めてもおいしいことまで考えられてる」
「家庭のお弁当として完成度がすごく高い」
ROKAも続く。
『9.8点』
「毎日食べたくなる」
「派手じゃないけど、それが一番難しい」
TSUGUM1は静かに札を上げた。
『9.9点』
「テーマとの一致率が高いです」
「お兄ちゃんが好きな物」
「健康」
「思い出」
「全部詰め込まれていました」
オタ公が集計する。
「合計!」
「29.5点!」
《パチパチパチ!!》
彩葉は少しだけ目を丸くする。
「そんなに……?」
まみまみが笑った。
「家庭料理ってね」
「派手じゃないから点数が伸びにくいと思われがちなの」
「でも今日のは、本当に完成度が高かった」
彩葉は照れくさそうに笑う。
「ありがとう」
オタ公がジュンヨウを見る。
「さて!二つ目のお弁当は?」
ジュンヨウは腕を組む。
「ここも難しいんだよなぁ……」
コメント欄が一斉に流れ始める。
ヤチヨは腕を組みながら笑う。
「ふふ~ん、自信あるよ?」
一方のかぐやは前のめりになっていた。
「隼斗!まだ温かいよ!」
「弁当は逃げねぇよ」
「逃げないけど!今が食べ頃なの!」
「弁当なんだからいつ食べても良いだろ」
《ドッ!!》
ROKAが笑う。
「圧がすごい」
まみまみも苦笑する。
「二人とも隠す気がないなぁ」
ジュンヨウは苦笑しながら二つのお弁当を見比べる。
「……よし」
ゆっくりと手を伸ばす。
その先にあったのは──
ヤチヨのお弁当だった。
ヤチヨは小さくガッツポーズを作る。
「よしっ♪」
反対に、かぐやは口を尖らせた。
「むぅ~」
「ちゃんと食べるから」
「約束?」
「約束」
それを聞いたかぐやは、すぐ笑顔へ戻った。
「えへへ♪じゃあヨシ!待ってる!」
ジュンヨウはヤチヨのお弁当へ箸を伸ばす。
サンドイッチ。
断面がきれいに並び、色鮮やかな野菜が顔を出している。
「いただきます」
一口。
「……すご」
思わず言葉が漏れた。
パンはしっとり。
野菜はみずみずしいのに、水っぽくない。
チキンは驚くほど柔らかい。
噛んだ瞬間、マスタードがふわりと香る。
酸味が全体を引き締め、自然と二口目へ手が伸びた。
「これ、外で食うこと考えて作ってるな?」
ヤチヨが得意げに笑う。
「当たり~♪」
「レタスはちゃんと水切りしてるし」
「トマトも種を取ってる」
「パンもバター塗ってるから水分が移らないよ♪」
まみまみがすぐ反応する。
「そこ!」
「普通は気付かないけど」
「自作のサンドイッチって時間が経つとベチャッとなりがちなの」
「これはちゃんと防いでる」
ROKAも笑う。
「完成形だけじゃなくて、食べる時間まで設計してるんだ」
TSUGUM1が書き留める。
「見た目だけではありません」
「料理というより、体験を設計していますね」
まみまみが頷きながら。
「いろPは『積み重ね』」
「ヤチヨちゃんは『設計』」
「同じお弁当でもアプローチが全然違うね」
「こうなると、かぐやちゃんも楽しみだね~」
ヤチヨは胸を張る。
「……そこまで考えてたのか」
「当然♪だって隼斗に食べてもらうんだもん」
ヤチヨは少しだけ照れたように笑った。
「だって今日は、隼斗が主役なんだから♪」
「……いや、この企画の主役はお前らだろ」
言いながら、ジュンヨウはもう一口、サンドイッチを頬張る。
「……うん」
ゆっくりと頷く。
「これ、ピクニックで食うことまで考えてある」
「移動して」
「少し時間が経って」
「景色を見ながら食べる」
「そこまで全部計算されてる」
ヤチヨは嬉しそうに笑った。
「えへへ♪そこまで伝わったなら大成功♪」
まみまみが札を掲げる。
『9.9点』
「サンドイッチとして完成度が高い」
「時間が経っても味が落ちない」
「これはプロでもちゃんと考える部分だから」
ROKAも続く。
『9.8点』
「見た瞬間に食べたくなる」
「料理だけじゃなくて体験までデザインしてる」
TSUGUM1。
『9.9点』
「テーマとの一致率が非常に高いです」
「『休日のピクニック』という情景まで設計されています」
オタ公が集計する。
「合計!29.6点!」
《パチパチパチ!!》
ヤチヨは小さく拳を握った。
「やった♪」
ジュンヨウはゆっくりと箸を置いた。
「ごちそうさま」
自然と笑みがこぼれる。
「うまかった」
ヤチヨは小さく息を吐く。
「……よかったぁ」
さっきまで余裕そうに笑っていた表情が、少しだけ緩んだ。
ROKAがその様子を見て笑う。
「緊張してたんだ」
「そりゃするよ〜」
ヤチヨは肩をすくめる。
「今日は隼斗に食べてもらうお弁当なんだから」
ジュンヨウは苦笑する。
「なんか今日、お前ら全員重くないか?」
「重くないよ~♪」
「いや、重い」
《ドッ!!》
コメント欄が一気に埋まった。
オタ公が笑いながら手を叩く。
「さぁ!いよいよ最後です!」
その一言で、スタジオの空気が変わる。
ターンテーブルの上。
最後に残った一つのお弁当。
かぐやは椅子の端にちょこんと座りながら、パタパタと足を揺らしていた。
「……」パタパタ
「……」
「……」パタパタ
ジュンヨウが苦笑する。
「落ち着け」
「む~り~!」
即答だった。
「早く食べて」
「まだ審査始まってねぇ」
「でも早く」
「逃げないって」
「……ほんと?」
「ほんと」
その言葉を聞くと、かぐやは安心したように笑った。
「えへへ」
ROKAが思わず笑う。
「今までで一番素直だね」
TSUGUM1も頷く。
「料理の出来より、感想が気になっているようです」
まみまみが三つ目のお弁当へ視線を向ける。
「まあ、かぐやちゃんだからね。料理自体は心配してないよ」
ジュンヨウはゆっくりと弁当箱へ手を伸ばした。
「それじゃ、いただきます」
ジュンヨウは、そっと蓋を開けた。
「……おぉ」
思わず声が漏れる。
唐揚げ。
卵焼き。
ハンバーグ。
切れ目の入ったウィンナー。
色鮮やかなブロッコリー。
ミニトマト。
小さな国旗ピック。
そして、おにぎり。
具はツナマヨと、塩昆布。
どれも見慣れた定番のお弁当だった。
「いただきます」
最初に口へ運んだのは、唐揚げだった。
《サクッ》
衣は軽く、中は驚くほどジューシー。
思わず笑う。
「……これ、うまい」
かぐやの顔がぱっと明るくなる。
「ほんと!?」
「うん」
「彩葉のとどっちが美味しい?」
「こらかぐや」
「両方美味い。差なんて付けれんわ」
苦笑いしながら、続いて卵焼き。
出汁も利いているが、少し甘め。
「……あ」
ジュンヨウが笑う。
「俺用じゃないな」
「え?」
「これ、お前が好きな味だろ」
「昔、俺が渡した弁当の味に似てる」
「甘めなのも、砂糖入れると冷めてもふんわりするし、防腐効果があるからな」
「俺がそうしてたし」
かぐやは照れくさそうに笑う。
「……バレたぁ」
「よく見たら他の具も、あんとき入れてたやつが入ってるし」
「おにぎりもツナマヨと塩昆布だったしな」
「ウィンナーの切れ目まで」
スタジオが小さく笑う。
「でもさ」
ジュンヨウは箸を止めない。
「これでいい」
「?」
「お前が美味しいと思う物を一緒に食べたいんだろ?」
「だからこの弁当なんだろ?」
その一言に、かぐやは目を丸くした。
「……うん」
小さく頷く。
「一緒に食べたかったんだ」
「だから好きなもの、いっぱい入れた」
ジュンヨウは笑う。
「分かってるよ。お前らしい弁当だ」
その瞬間、かぐやの肩から力が抜ける。
「……えへへぇ」
目元が少しだけ潤んでいた。
オタ公が満足気に札を手に取る。
「それでは!最後の採点です!」
まみまみが笑いながら頷く。
「かぐやちゃんのお弁当はね」
「技術ももちろん高い」
「でも一番感じたのは――」
「『一緒に食べたい』って気持ち」
「ただ、途中までバランスに気が付かなかったのは減点かな~」
「まみまみ厳し~ぃ」
「気持ちだけね、ほんのちょっとだけ」
ROKAも頷いた。
「料理そのものじゃなくて、その先の一日が見えるんだよね」
TSUGUM1は静かに続ける。
「このお弁当には、ピクニックが完成した後まで入っています」
「芝生」
「お昼寝」
「一緒に笑う時間」
「その全部です」
かぐやは照れくさそうに笑った。
「……だって、一緒に食べる方がおいしいもん」
まみまみが札を掲げる。
『9.9点』
ROKA。
『10点』
TSUGUM1。
『10点』
オタ公が計算する。
「合計!29.8点!!この種目のトップとなりました!」
《パチパチパチ!!》
スタジオが拍手に包まれる。
ジュンヨウは三つのお弁当を見比べて、小さく笑った。
「……結局さ、どれもテーマが違うだけなんだよな」
「彩葉は毎日食べたくなる弁当」
「ヤチヨは一日を楽しむ弁当」
「かぐやは一緒に食べる弁当」
「全部、好きだわ」
三人は同時に顔を赤くする。
「「「……えっ」」」
「だから順位なんか付けられねぇなぁ」
オタ公が苦笑する。
「それ、審査番組で言っちゃいます?」
ジュンヨウは肩をすくめた。
「だって本音だし」
その一言に、スタジオは大きな拍手に包まれた。
「まあ、ジュンヨウさんは審査員じゃないので、もとから順位付ける権限無いんですけど」
「俺の立ち位置って結局なんだったの?」
「それでは!三番勝負の得点を合計し、優勝者の発表に移りま~す!」
「聞けや」
スタジオ中央。
モニターへ三競技の得点がゆっくり表示される。
「それでは!」
オタ公が封筒を高く掲げる。
「三競技総合――」
「優勝者を発表します!」
《ジャジャーン!》
画面いっぱいに順位が映し出される。
《パチパチパチパチ!!》
「まさかの!同点優勝ーー!!」
スタジオが歓声に包まれる。
彩葉は思わず目を丸くした。
「……え?」
隣ではヤチヨも驚いたように画面を見つめる。
「えっ、本当に?」
ROKAが笑う。
「最後まで並んだね」
TSUGUM1も頷く。
「どちらも違う方向性で完成されていましたから」
一方。
「むぅ……」
かぐやはほっぺを膨らませていた。
「負けちゃった……」
ジュンヨウが苦笑する。
「そんな顔すんな」
「でも三位~……」
「弁当対決は一位だったろ」
「え?」
「総合点で負けただけ」
「しかも、お前は料理よりピクニック作ってたし」
「ま、第一種目のライダーでの減点が痛かったけど」
《ドッ!!》
スタジオが笑いに包まれる。
まみまみも笑いながら頷く。
「そうそう」
「料理だけなら十分優勝争いだったよ」
「今日は『一緒に過ごす一日』まで作っちゃったからね」
かぐやは少し考えてから、小さく笑った。
「……じゃあさ!今度、本当にみんなでピクニック行こう!」
彩葉が笑う。
「いいね」
ヤチヨも手を挙げる。
「賛成~♪」
ジュンヨウは三人を見回し、小さく肩をすくめる。
「結局そうなるか」
「いいじゃん!」
「今日のお弁当、今度は本当に外で食べようよ!」
その一言に、誰も反対しなかった。
オタ公が笑いながら締めに入る。
「ということで!」
「三番勝負、これにて終了!」
「優勝は――いろPとヤチヨさん!」
「そして!」
「今日一番の笑顔賞は、かぐやさんです!」
《ワァァァァァァ!!》
拍手と笑い声がスタジオいっぱいに広がる。
カメラは、笑い合う四人をゆっくり映し出しながらフェードアウトしていった。
調理スタジオ。
収録も終わり、スタッフが撤収を始めていた。
出演者たちの笑い声も少しずつ遠ざかる。
その様子を見送りながら、TSUGUM1が静かに息を吐いた。
「……終わりましたね」
まみまみも笑う。
「うん。大成功じゃない?」
少し離れた場所で、ROKAはジュンヨウたち四人が笑いながら帰っていく姿を眺めていた。
彩葉が何か言って。
ジュンヨウが苦笑して。
かぐやが笑って飛びついて。
ヤチヨがその様子を撮影している。
いつもの四人だった。
ROKAは、小さく笑う。
「……戻ったね」
TSUGUM1が頷く。
「はい。昔の彩葉お姉さんに」
まみまみが腕を組む。
「最初は心配だったんだよ」
芦花は、誰にも聞こえないくらい小さな声で笑った。
「服も、メイクも、料理も」
「全部できる子なのに」
「自分から『やってみよう』って思えなくなってた」
「似合う服を選ぶことも」
「おしゃれを楽しむことも」
「誰かのためにご飯を作ることも」
「全部『私なんかが』って、どこかで止めちゃってた」
まみまみが静かに頷く。
「だから最初の勝負はファッションだったのね」
「うん」
「鏡を見ることから逃げなくなるように」
「次は、自分で選ぶ楽しさを思い出してもらうため」
TSUGUM1も小さく笑う。
「そして最後が、お弁当」
芦花は、ターンテーブルの上に並ぶ三つのお弁当を見つめる。
「料理はもともと上手だった」
「だから技術を取り戻したかったわけじゃない」
「誰かに『食べてもらいたい』って思う気持ち」
「その楽しさを思い出してほしかった」
ステージの向こうでは、彩葉が照れくさそうに笑っている。
さっきまで自信なさげだった表情は、もうどこにもなかった。
まみまみは優しく笑う。
「……取り戻したね」
芦花も頷く。
「うん」
「女子力って、服でも料理でもないんだよ」
「自分を好きになって」
「その自分で、誰かを笑顔にしたいって思えること」
「それが、彩葉の女子力だから」
TSUGUM1はメモ帳を閉じ、小さく笑った。
「今回の企画、大成功ですね」
「ただし、取り戻したんじゃありませんよ。最初から、持っていました」
「少しだけ、奥の方にしまい込んでしまってただけです」
まみまみが頷く。
「それを引っ張り出したのが、今日だった」
三人はもう一度、楽しそうに帰っていく四人の背中を見る。
四人は何かを話して、また笑っていた。
ROKAが小さく微笑む。
「……さて、次は誰で遊ぼっかな」
TSUGUM1が苦笑する。
「その言い方、黒幕みたいですよ」
まみまみが吹き出す。
「でも、次の企画も面白そうだね」
三人の笑い声が、静かになったスタジオへ溶けていった。
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