今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

99 / 107
読者募集ネタになります。

8/32の画像よく見たらYachi8000一般視聴者にもバレとるやないかい!


Ex.花火大会を、もう一度②

 

店内へ入ると、壁一面に色鮮やかな浴衣が吊るされ、その奥には帯や巾着、下駄などの和装小物が整然と並んでいた。

マネキンには、夏らしい柄を合わせたコーディネートが何種類も飾られている。

 

白。

紫。

赤。

深緑。

朝顔、金魚、撫子、桔梗。

 

見ているだけで夏祭りの空気を感じさせる。

 

「うわぁ……」

 

かぐやの目が一瞬で輝く。

 

「いっぱいある!」

「どれも着てみたい!」

「全部は無理だ」

 

隼斗が苦笑する。

 

「一人一着」

「えぇー!せめて二着!」

「ダメ」

 

彩葉が笑う。

店員も思わず笑みをこぼした。

 

「皆さんで花火大会ですか?」

「そうなんです」

 

ヤチヨが微笑みながら答える。

 

「それならこちらのコーナーがおすすめですよ」

 

案内された先には、落ち着いた色味から華やかな柄まで幅広く並んでいた。

 

「よーし!」

 

かぐやは拳を握る。

 

「今日はみんなで選びっこだからね!」

「自分で選ばせてくれねえの?」

 

隼斗が呆れる。

 

「もちろんダメ!今日は隼斗も着せ替え人形!」

「俺に人権は?」

「ありません!」

「即答かよ」

 

やりとりに彩葉が吹き出す。

 

「……まあ、前もそんな感じだったよね」

 

その一言で四人は顔を見合わせる。

 

十年前。

浴衣を選んで笑い合った記憶。

十年前にはいなかったヤチヨが、今は当たり前のように隣で笑っている。

それだけで、不思議なくらい胸が温かくなった。

 

「では、まずはどなたから選びますか?」

 

店員がにこやかに尋ねる。

 

その瞬間。

 

「もちろん隼斗!」

 

かぐやが迷いなく指を差した。

 

「なんで俺なんだよ」

「だって一番難しそうだもん」

「どういう意味だ、それは」

 

四人が笑っていると、店員が数枚の浴衣を抱えて戻ってきた。

 

「男性でしたら、この辺りが人気ですね」

 

濃紺。

深緑。

墨色。

白地に藍の縞。

どれも落ち着いた色合いだ。

 

「おぉ……」

 

隼斗が思わず声を漏らす。

 

「こうして見ると全然違うな」

「じゃあ、まずはこれ!」

 

かぐやが真っ先に手に取ったのは、白地に濃紺の流水模様。

 

「爽やか!」

「いや俺そんな爽やかなイメージじゃねえだろ」

「見た目だけでも!」

「さらっと理由が酷ぇな」

 

彩葉は笑いながら、今度は深緑の一着を手に取る。

 

「私はこれかな」

 

落ち着いた深緑に、細かな麻の葉文様。

派手さはないが、上品な印象だった。

 

「RX-8と同じ色」

 

隼斗が思わず笑う。

 

「それで選んだわけじゃないけどね。隼斗、深い緑色は好きでしょ」

 

彩葉も照れ笑いを浮かべる。

 

「でも、確かに似合いそう」

 

ヤチヨは墨色の浴衣を手に取り、隼斗の肩へ軽く当ててみる。

 

「これもいいね。落ち着いて見える」

「もう十分落ち着いてるだろ」

「そういう意味じゃなくて、大人っぽい」

「今でも十分大人だろ」

「見た目じゃなくて雰囲気」

「余計分からん」

 

三人が次々に違う浴衣を当てては首を傾げる。

隼斗は完全に着せ替え人形状態だった。

 

「俺の意見は?」

「聞くだけ聞くよ!」

「あ~はいはい。実質参考外ね、了解(りょ~かい)」

 

隼斗は肩を落とす。

店員も微笑ましそうに四人を見守っていた。

 

「次これ!」

「まだあるのか」

「もちろん!」

「何着試着させる気だ」

「全部!」

「全部!?店閉まるぞ。お前らのも選ぶんだぞこの後」

「その前に決めるもん!」

 

彩葉が別の一着を手に取る。

 

「これは?」

 

淡い灰色に藍色の縞。

 

「……あ、これ良いな」

 

隼斗が初めて素直に反応した。

 

「え」

 

三人が同時に振り返る。

 

「今、自分で選んだ?」

「いや、良いって言っただけ」

「採用!」

「早ぇよ」

 

ヤチヨが首を傾げる。

 

「でも、私は彩葉が選んだ深緑も好きだな」

「私も!RX-8みたい!」

「結局そこなのか」

 

すると店員が一歩前へ出る。

 

「よろしければ、一度試着されますか?」

「「「お願いします!」」」

 

三人が同時に返事をした。

 

「俺の返事は?」

「聞いてない!」

「やっぱりかぁ……」

 

店員に案内され、隼斗は半ば押し込まれるように試着室へ入っていった。

 

「逃がさないよぉ」

 

カーテンを閉めながら、かぐやがにやりと笑う。

 

「逃げねぇよ」

「怪しいなぁ~~~???」

「信用ねぇなぁ……逃げようねえだろ」

 

隼斗が苦笑しながら浴衣へ袖を通していく。

慣れない帯を締め終え、鏡の前で軽く身なりを整える。

 

「……こんなもんだろ」

 

カーテンを開ける。

 

「お待たせ」

 

その瞬間。

 

「…………」

 

三人の時間が止まった。

 

「……え?なに、この空気」

 

隼斗が首を傾げる。

 

最初に口を開いたのは、彩葉だった。

 

「……似合う」

 

ぽつりと漏れたその一言に、かぐやも大きく頷く。

 

「思ってたよりずっと似合う!」

「思ってたよりってなんだよ」

「もっと地味になると思ってた!」

「褒めてる?」

「褒めてる!」

 

ヤチヨも満足そうに微笑んだ。

 

「落ち着いてるのに華があるね。ロータリーエンジンみたい」

「その例えはおかしいだろ」

「静かなのに存在感があるって意味」

 

隼斗が笑う。

店員も頷いた。

 

「深緑もお似合いですが、こちらの灰色もすごく雰囲気に合っています」

 

鏡に映る自分を見る。

確かに悪くない。

 

「……これなら着てもいいかな」

「決定!」

「まだ決めるには早いよ」

 

かぐやをヤチヨが止めた。

それもそうだと思い直したかぐやが、次の浴衣を手渡す。

 

「次!」

「まだ着替えるの?」

「もちろん!」

「まだ三着残ってるよ?」

 

ヤチヨがさらりと言う。

 

「……俺、今日何回着替えるんだ?」

「「「全部終わるまで!」」」

 

三人の声がぴたりと揃った。

隼斗は観念したように肩を落とす。

 

「はいはい……今日は俺が主役じゃなくて、着せ替え人形なんだな」

「ようやく理解したかぁ!」

 

かぐやが満足そうに笑い、彩葉とヤチヨも顔を見合わせて笑い合う。

店内には、穏やかな笑い声が響いていた。

 

 

 

 

隼斗が着替えのため再び試着室へ戻ると、かぐやはすぐに彩葉の腕を掴んだ。

 

「はい次は彩葉ぁ!」

「え、もう?」

「もちろん!」

「私は自分で選べるから……」

「ダメ!」

 

即答だった。

 

「今日はみんなで選ぶ日なの!」

「隼斗だけじゃ不公平でしょ~?」

 

ヤチヨも笑顔で頷く。

 

「公平に着せ替えてもらおうね~」

「その『公平』って絶対意味違うよね……」

 

彩葉は苦笑しながら肩を落とした。

すると、かぐやは迷わず一着の浴衣を引き抜く。

 

「これ!」

 

かぐやが手に取ったのは、新橋色(ターコイズブルー)を基調にした浴衣だった。

生地には細かな和柄が織り込まれ、差し色の鮮やかな水色が全体を引き締めている。

華やかすぎず、それでいて祭りらしい明るさもある浴衣だった。

 

「えっ、私には少し華やか過ぎない?」

「そんなことないよ!お祭りなんだから!」

 

かぐやが胸を張る。

 

「もっと可愛くなっていい!」

 

その言葉に彩葉は思わず照れてしまう。

 

「可愛いって歳でもないよ」

「「ある!」」

 

かぐやとヤチヨの声がぴたりと重なった。

 

彩葉は困ったように笑う。

その様子を、試着室のカーテン越しに伺っていた隼斗が思わず吹き出した。

 

「今度は彩葉が着せ替え人形か」

「隼斗、助けて」

「悪い」

 

隼斗は笑いながら肩をすくめる。

 

「今、俺も同じ目に遭っててな。諦めてくれ」

「そんなぁ」

「俺は仲間が増えて嬉しいぞ」

「そんな連帯感いらない!」

 

店内にまた笑い声が響いた。

隼斗が深緑の浴衣を着たまま試着室から出てきた。

入れ違いに、彩葉は少し照れくさそうに試着室へ入っていく。

 

「そんなに期待しないでね?」

 

カーテンを閉める直前、困ったように笑う。

 

「期待しかしないよぉ!」

 

かぐやは満面の笑みで答えた。

 

「彩葉なら何着ても似合うからね~」

 

ヤチヨも穏やかに続ける。

 

「ハードル上げてやんなよ」

 

隼斗が苦笑いで二人に釘を刺す。

 

「ホントにね」

 

彩葉の苦笑混じりの声がカーテンの向こうから聞こえた。

 

 

 

 

 

数分後。

 

「……お待たせ」

 

遠慮がちな声と共に、カーテンがゆっくり開く。

 

そこに立っていたのは、浴衣を纏った彩葉だった。

新橋色(ターコイズブルー)の浴衣は彩葉の落ち着いた雰囲気によく馴染み、

裾から胸元にかけて水色の花や流水の柄が涼しげに広がっている。

白い帯が全体を引き締め、明るい色合いでありながら派手すぎず、普段より少しだけ柔らかく見える。

 

「…………」

 

今度は隼斗の時間が止まる。

 

「……え?」

 

彩葉は恥ずかしそうに裾をつまんだ。

 

「そんなに変かな?」

「いや」

 

隼斗は素直に首を振る。

 

「……似合ってる」

 

飾らない一言だった。

 

その言葉に彩葉は一瞬目を丸くし、

 

「……ありがと」

 

照れたように笑う。

その横で、かぐやがにやぁっと笑みを浮かべた。

 

「隼斗ぉ?」

「ん?」

「今、見惚れてた?」

「……は?」

「止まってたよねぇ?」

「三秒くらい」

 

ヤチヨまで追撃する。

 

「いやいや」

 

隼斗は慌てて否定する。

 

「普通に似合ってると思っただけだ」

「へぇ~~?」

 

かぐやが顔を近付ける。

 

「普通に?」

「普通に」

「本当に?」

「本当に」

「目、逸らしてるけど?」

「うるせぇ」

 

思わず笑ってしまうかぐやとヤチヨ。

彩葉も堪えきれず吹き出した。

 

「ふふっ」

 

その笑顔を見て、かぐやは満足そうに頷く。

 

「よし!この浴衣、候補一位!」

「まだ決めるには早いよ」

 

ヤチヨが苦笑する。

 

「他にも着てみよう?」

「えぇ~」

 

彩葉が少し困ったように笑う。

 

「これ、結構気に入ったんだけど」

「それでも!」

 

かぐやはびしっと指を立てた。

 

「もっと似合うのがあるかもしれない!」

「完全に店員さんより熱心だね」

 

店員も思わず笑う。

 

「皆さん、本当に仲が良いですね」

「はい!」

 

かぐやが元気よく返事をする。

 

「家族みたいなものだから!」

 

その言葉に、一瞬だけ空気が柔らかくなる。

 

「今さら、『みたい』でもねぇだろ」

 

隼斗が少しだけ訂正した。

 

かぐやが目を瞬く。

そのすぐ後、にかっと笑顔を咲かせた。

 

店員は微笑みながら頷く。

 

「こちらもおすすめですよ」

 

店員が次に持ってきたのは、淡い藤色を基調に、桔梗が散りばめられた浴衣だった。

 

「わぁ……」

 

彩葉は思わず声を漏らす。

 

「これも綺麗」

「着てみて!」

「お願い!」

「試してみりゃ良いんじゃねえの」

 

三方向からお願いされ、

 

「……はいはい」

 

彩葉は苦笑しながら、再び試着室へ入っていく。

 

数分後、再びカーテンが開いた。

藤色の浴衣も上品で美しかったが、三人はしばらく彩葉を見たあと、顔を見合わせて頷いた。

 

「……やっぱり、最初の水色のが良いかも」

 

彩葉がぽつりと言うと、かぐやとヤチヨが同時に頷く。

 

「私もそう思う!水色の柄、彩葉に似合いすぎる」

「派手すぎず、でも印象に残る色合いだよね」

 

彩葉は少し照れくさそうに笑った。

 

「じゃあ、こっちに決める」

「決定ぃ!」

 

かぐやが両手を挙げて喜んだ。

彩葉は新橋色(ターコイズブルー)の浴衣を手に、試着室のカーテンを閉める。

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿を見送ると、かぐやはくるりと振り返った。

今度はヤチヨへ人差し指を向ける。

 

「その間に!次はヤチヨ!」

「私も逃げられないんだねぇ」

 

ヤチヨは小さく笑った。

 

「もちろん!」

「今日は全員着せ替え人形だから!公平に!」

「その『公平』って便利な言葉だね」

 

ヤチヨは肩をすくめる。

そのやり取りを見ながら、隼斗は小さく笑う。

 

「……なんだかんだ言ってこういう休日、悪くねぇな」

 

かぐやがにっと笑う。

 

「でしょ?思い出、どんどん増えてるもん!」

 

その言葉に、隼斗は三人を見回した。

十年前、花火大会へ向かう前に浴衣を選んだ時は三人だった。

 

今は四人で、

同じように笑って、

同じように騒いで、

同じように「似合う」と言い合える。

それだけであの日ともまた違う、悪くない景色になっていた。

 

「じゃあ次はヤチヨ!」

 

かぐやが勢いよく一着の浴衣を掲げる。

 

「これはどう?」

 

かぐやが掲げたのは、紫を基調にした浴衣だった。

夜空を思わせる深い色合いに、金色の意匠が控えめに星のように散っている。

帯は白く、大きなリボンのような結び方になっていた。

 

「わぁ……綺麗」

 

ヤチヨは浴衣を両手で受け取り、小さく微笑む。

 

「少し上品すぎないかな?」

「そんなことない!」

 

かぐやは首をぶんぶん振る。

 

「ヤチヨはねぇ、こういう綺麗なの絶対似合う!」

「私もそう思う」

 

いつの間にか試着室から出てきている彩葉も頷く。

 

「ヤチヨって落ち着いた雰囲気だから」

「そうだな」

 

隼斗も自然に口を開く。

 

「紫って、ヤチヨのイメージそのままだろ」

「……ありがと」

 

少しだけ照れたように笑って、ヤチヨは試着室へ入っていった。

 

数分後。

カーテンが静かに開く。

 

「お待たせ」

 

そこに立っていた瞬間。

 

「…………」

 

今度は三人とも言葉を失った。

 

紫の浴衣が、ヤチヨの銀髪を美しく引き立てていた。

白い帯飾りが胸元で大きなリボンのように結ばれ、全体を優しくまとめている。

落ち着いた配色の中にも上品な華やかさがあり、まるで夏祭りの夜景に溶け込むような美しさだった。

 

「綺麗……」

 

彩葉が思わず呟く。

 

「……うん」

 

隼斗も静かに頷いた。

 

「似合うな」

 

短い一言。

 

けれど飾らないその言葉に、ヤチヨは嬉しそうに目を細める。

 

「ありがとう」

 

その横で、かぐやだけは腕を組んで首を傾げていた。

 

「むぅ……」

「どうしたの?」

 

彩葉が尋ねる。

 

「なんか悔しい」

「え?」

「ヤチヨだけ美人すぎる」

 

店内が一瞬静まり返ったあと、

 

「ふふっ」

 

ヤチヨが吹き出し、

彩葉も笑い、

隼斗も堪えきれず肩を震わせる。

 

「褒めてるの?」

「もちろん!」

 

かぐやは胸を張った。

 

「でも悔しい!」

「なんでだよ」

 

隼斗が笑う。

 

「だって私も可愛くなりたいもん!」

「十分だろ」

 

隼斗が何気なく返す。

 

「んぐ…………ん?」

 

今度は、

 

かぐやの時間が止まった。

 

「……え?」

「ん?」

「今なんて言った?」

「いや?」

「言ったよね?」

「言った」

 

彩葉が笑いを堪えながら頷く。

 

「隼斗、『十分可愛い』って」

「…………」

 

 

 

 

 

隼斗は数秒固まり、

 

「あ」

 

とだけ呟いた。

 

「聞いたぁぁぁぁ!!」

 

かぐやは満面の笑みで飛び跳ねる。

 

「いや待て、『可愛い』までは言ってねえだろ。……言ってねえよな?声に出てた?」

「言ってないけど」

 

ヤチヨが浴衣の袖で口を隠しながら、上品に笑う。

 

「今ので言ったようなものだよね」

「録音したかった!」

「すんな」

「今のは永久保存版!」

「勝手に保存すんな」

「ヤッチョの方でメモリにあるよ~」

「言い値で買おう!」

「取引すんなよ」

 

店内には、また四人の笑い声が広がった。

 

 

 

 

 

 

「さて」

 

ヤチヨが袖を整えながら笑う。

 

「残るは一人だね」

 

三人の視線が、一斉にかぐやへ集まる。

 

「……え?」

 

かぐやが一歩後ろへ下がる。

 

「え、なに?」

「次はかぐやでしょ」

 

彩葉がにっこり笑う。

 

「うん」

 

ヤチヨも頷く。

 

「もちろん。公平だもんね?」

「うえぇぇぇ!?」

 

かぐやは両手をぶんぶん振った。

 

「私は最後でいいの!」

「もう最後だからだろ」

 

隼斗が笑う。

 

「ほら」

 

棚から一着の浴衣を手に取る。

 

赤を基調に、大きな白いリボンの帯飾りが胸元で目を引く浴衣。

金色の文様が夜空の花火のように散り、元気いっぱいの印象を与えていた。

 

「……これ」

 

隼斗が静かに差し出す。

 

「え?」

 

かぐやは目を丸くする。

 

「俺はこれがいいと思う」

 

かぐやの目が一瞬で輝いた。

 

「かわいい!」

「うん」

 

ヤチヨも頷く。

 

「かぐやらしいね。元気で明るくて、見てるだけで楽しくなる感じ」

 

隼斗も浴衣を見つめながら笑う。

 

「派手だけど、かぐやなら着られる」

「それ褒めてる?」

「褒めてる」

「やったぁ!」

 

かぐやは浴衣を抱き締める。

 

「じゃあ着てくる!」

 

勢いよく試着室へ飛び込んでいった。

 

「相変わらず早いな」

 

隼斗が苦笑する。

その隣で彩葉は、ふと十年前のことを思い出していた。

あの頃も、こんなふうに浴衣を選んで笑っていた。

違うのは、今は隣にヤチヨもいること。

 

そして、もう「別れ」を心配しながら笑う必要がないことだった。

 

彩葉は静かに微笑んだ。

 

「……本当に。思い出、増えたね」

 

かぐやが試着室から飛び出してくる。

 

「どう!?どう!?」

 

くるり、と一回転。

 

赤と白の浴衣がふわりと広がる。

 

大きな白いリボンの帯飾りが揺れ、満面の笑みを浮かべたかぐやは、

まるで祭りそのもののように明るかった。

 

「……」

 

三人は一瞬だけ言葉を失う。

 

「似合ってる」

 

最初に口を開いたのは隼斗だった。

 

「やったぁ!」

 

かぐやはその場でぴょん、と跳ねる。

 

「これにする!」

「うん」

 

彩葉も頷く。

 

「かぐやらしい」

 

ヤチヨも微笑む。

 

「見てるだけで元気になれるね」

 

店員も嬉しそうに笑う。

 

「皆さん、本当にお似合いですよ。もしよろしければ、四名様並んで鏡をご覧になりますか?」

 

案内された大型鏡の前へ四人が並ぶ。

 

左から

ヤチヨ。

かぐや。

彩葉。

そして隼斗。

 

紫のヤチヨ、赤のかぐや、新橋色(ターコイズブルー)の彩葉、そして落ち着いた深緑の隼斗。

浴衣姿の四人が並ぶ。

十年前には存在しなかった景色。

 

誰も欠けていない。

誰も泣いていない。

ただ、笑っている。

 

鏡を見つめながら、かぐやが小さく呟いた。

 

「……うん。今年は、ちゃんと楽しい花火大会になりそう」

 

彩葉は隣のかぐやの手をそっと握る。

 

「なるよ」

 

隼斗も笑う。

 

「今度は最後まで笑って帰ろうぜ」

「「「うん」」」

 

三人の返事が綺麗に重なった。

 

 

 




彩葉、かぐや、ヤチヨの浴衣は『ファナティック・オマツリ・ガール』の浴衣verをイメージしていただければと思います。

ktkrさん、評価いただきありがとうございます。

ROSOさん、感想いただきありがとうございます。

お気に入り登録、ここすきをしていただいた方々もありがとうございます。
とても励みになります。

活動報告の方でネタの募集も始めておりますので、ご一読いただければと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。