ハァイ、南雲原。サッカー楽しんでる?   作:エヴォルヴ

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宇宙を感じている猫

 南雲原サッカー部と元北陽学園サッカー部の壁を粉砕するための茶番が終わった頃。

 スタメンを決めるための個人技選手権や監督対決などをほっぽり出して融和を進めた雲明と改は、休憩を済ませた南雲原、元北陽のメンバーを集めていた。

 

「皆さん、お疲れさまでした。これで今回の諸々は終了────と、言いたいところなのですが」

 

「まだやってもらうことがあるそうだ」

 

「今度は何をするんですか?」

 

 元北陽学園の征が雲明と改に対して何をするつもりなのかと問いかけると、雲明が一呼吸置いてから口を開く。

 

「今から北陽の皆さんにはある人と対戦してもらいます」

 

「ある人?」

 

「もう来てますよ」

 

 雲明の発言に首をかしげている元北陽学園サッカー部を他所に、南雲原サッカー部はいつもいるはずの生物がいないことに気付いて、嫌な予感を抱えていた。

 

 そしてその予感はしっかり的中することになる。

 

「アイアン木場がグラウンドから蘇る!!」

 

「「「!?!?!?」」」

 

 突然グラウンドの一部が隆起したかと思えば、その中から一人の男が拳を突き上げながら生えてきた。地面から生えてきたというのに、土による汚れが付いていない。

 

「モグラフェイント、その応用よ……必殺技を日常的に使うことで見えてくる世界がいくつもある」

 

「相変わらず変なところで応用利かせますね」

 

「ラ・フラムを料理で使うことで極強火ができることは皆も知っているな?」

 

「「「知らねぇよ!!?」」」

 

「ウッソだろお前! 遅れてんなァ、オールドタイプか?」

 

 貴様のようなニュータイプがいて堪るかと言いたいところだが、新人類を超えた新人類、神話生物の深淵に片足どころか潜行して深淵の中にいる連中と仲良くなって、近付いてきたやつらを軒並み進化させようとムゲン・ザ・ハンドで捕まえようとしてくるような存在がこのミームという怪生物なのだ。なお、逃げても深淵と一緒に回り込んでくる。この神話生物、質が悪い。

 

「知っている人もいるかもしれませんが、この人……人……? 人でいいんだよなこの人……?」

 

(((どんなところで悩んでるんだ!?)))

 

「とにかく、彼が寝戸壬為夢……僕の腐れ縁にして、ここにいる全員の中で最も強い神話生物です」

 

「オナシャス、センセンシャル」

 

「この怪生物が吐く戯言は無視して結構です」

 

 真面目に受け取ると精神が汚染されるので、と唾を吐き捨てるかのような辛辣さでミームを紹介した雲明。南雲原サッカー部の初期メンバーはつい最近のことだというのに、こんな紹介されたなぁと懐かしそうにし、征は納得の表情で頷き、北陽学園の選手達は突然現れた変人が最強であると言われて困惑のあまり騒然としている。

 

「……笹波君、私は事前に説明は受けていたが、もう一度説明をしてもらえるか?」

 

「はい。……そこで残像が見えるくらいの高速ストレッチを繰り返している怪生物はバランスブレイカーを超えたバランスブレイカーなのでベンチに座ってもらっています」

 

「のびーるのびーる……ストップ。ストレッチパワーが溜まってきただろう?」

 

「少し黙ってもらえますか神話生物」

 

「しょうがねぇなぁ……」

 

 雲明の指摘に黙ったミームだったが、動きを止めろとは言われていないので高速ストレッチを止めないミーム。ストレッチはゆっくりやるべきなのだが、この男、なぜか高速でやってもストレッチパワーが溜まっていく。やはりこいつは人間ではないのではないか。

 

「身も蓋もないことを言うと、これがいるだけで地区予選は事足ります。次の対戦相手である東風異国館相手であっても」

 

 まぁ、そうだよなぁ……とミームの神話生物ぶりと、雲明がサッカーに対してどこまでも誠実で真摯な漢であることを知っているために納得の表情を浮かべて頷く征だったが、他の北陽学園のメンバーは違った。

 

「そこのふざけたやつが最強って言われて、すぐ納得できるか!?」

 

「でしょうね。だから知ってもらいます。信じてもらいます。荒療治にはなりますが」

 

「荒療治? 彼とサッカーバトルでもするのか?」

 

「いいえ……今回やってもらうのは────元北陽学園とミームの鬼ごっこです。蹂躙されないように頑張ってください」

 

 サッカーバトルではなく、鬼ごっこをやると言われて疑問符が頭上に浮かび上がる北陽学園のメンバー達。鬼ごっこで蹂躙されるというのは、足が速いということなのだろうか? それだけで最強と謳われるほどサッカーというのは甘くないというのに。

 

「雲明、俺達は……?」

 

「北陽学園の後にやってもらいますよ。毎日やってるでしょう?」

 

「「「ですよねー……」」」

 

「逃がさんぞ? さて、俺も蹂躙されんように気を付けないとな」

 

「あんた蹂躙する側でしょうが」

 

「分からんぞ? サプライズニンジャが登場するかもしれん。もしくはサプライズギャラクティック・ノヴァが現れるかもしれん」

 

 これから行われるらしい鬼ごっこに対して何やらトラウマがあるらしい南雲原サッカー部と、北陽学園のメンバーが困惑している中でも相変わらず胡乱な言葉を吐き続けるミーム。

 今からやることは南雲原サッカー部ではただの練習風景ではあるのだが、事情を知らない人間が見ればただの数の暴力、ただのリンチ。いじめにすら見えるような練習が日常的に行われている。そんないじめにも見えてしまうような練習とは────

 

「今から皆さんにやってもらう鬼ごっこは通常の鬼ごっことは違います。鬼はミームで固定、ボールを奪われ、ゴールされる度に一人ずつ脱落してもらうのですが……今回は脱落は結構です」

 

「逆にそっちがゴールを決める度に俺は重りが追加されるんだよね。怖くない?」

 

「今回は30分間行い、そちらが1点でも入れたら勝利です」

 

「……それはただのサッカーバトルでは?」

 

「品乃先輩、失礼を承知で言います。この神話生物とサッカーバトルができる領域に皆さんは至っていない。だから鬼ごっこです。ミームに遊んでもらう……そのレベルなんです」

 

「舐めてんのか笹波雲明……!? 俺達がそんな雑魚だとでも!?」

 

「いえ、皆さんが強いのは重々承知です。ですが、ミームはその先を行く」

 

 ただ、それだけのこと。サッカーバトルとして成立するくらいまで成長しきっていないと断言されたことで、自分達を貶されたと感じた者もいるだろう。北陽学園のメンバーの顔には不満と憤慨の文字がべったりと書かれているようだった。

 

「皆、やろう!」

 

 そんな中、キラキラを通り越してギラギラと目を輝かせて闘志を燃やす人間がいた。元北陽学園サッカー部キャプテン、空宮征である。

 

「そ、空宮……?」

 

「ネットとサッカーするなんて経験、しなきゃもったいない! 本当に凄いんですよネットのサッカー!!」

 

「お、おお……なんか、凄いギラギラしてんな……?」

 

「だって、ぶつけてみたい戦術がいっぱいあるんだ……!! どれを使おうかなぁ!!」

 

 征のことをサッカーモンスターとは言わないが、神話生物ミームとサッカーをやって離れたりバケモノだと恐れるどころかどうすれば勝てる、どうすればもっと楽しくできるか、などと考えてミームと関わり続けた男の面構えはやはり違った。鬼ごっこを始める前だというのに、今の自分がどれだけミームに食らい付けるのかと戦術を組み立ててギラギラと目を輝かせている。

 

 そんな征の言葉に動かされてか、他の元北陽学園の選手達もこれから行うことに肯定していく。ただし、最強という言葉を鵜呑みにしたわけではなく、ミームの実力を自分の目で確かめてやるという思いが込められている。

 

「やる気になってくれて何よりです。元北陽イレブンは好きな戦術をぶつけてください。それをすり抜けてくるのがそこの神話生物です」

 

「皆丸太(戦術の隠喩)は持ったな!? 行くぞぉ!!」

 

 テンションがバグっているミームがグラウンドの中心に向かっていく。これからはこんな神話生物と共にサッカーをやっていくのだから、元北陽学園サッカー部のSAN値が心配になってくるところである。

 

「……空宮、寝戸壬為夢……その実力は本物か?」

 

「本物を超えた本物ですよ、品乃先輩……! 見てくださいよ俺の手……武者震いでスマホみたいになってます」

 

「いや、それは止めておけ」

 

 そうは言いつつも、サッカーのことになると豹変する征がこうも楽しそうに、ギラギラと目を輝かせているところなんて中々見たことが無い雅士もまた、期待していた。ミームという男がそれほどまでに凄まじい存在なのかと。そして気付く。対面する神話生物を前にして、自分も小さく笑みを浮かべて武者震いをしていることに。

 

(見せてもらおうか、寝戸壬為夢。お前の強さを)

 

 両者の準備が整ったところでミームがニッコリと笑みを浮かべて雲明を見る。

 

試合(デュエル)開始の宣言をしろ、雲明ェ!!」

 

「言われなくても。────始めッ!!」

 

 ホイッスルの甲高い音が鳴り響き、南雲原サッカー部トラウマ筆頭鬼ごっこが始まった。

 

「行くぞ! まずはトライダイブだ!!」

 

「「「おう!!」」」

 

 鬼ごっこ開始直後から攻撃的な姿勢を見せる元北陽イレブン。征を中心にして3方向に分かれて敵をかく乱しつつ前線を押し上げる必殺タクティクス【トライダイブ】によって、前線を猛烈に押し上げてボールを奪われる前に勝ちを獲りにいく算段である。

 

「おー、正面から見ると結構面白いな」

 

 対するミームは警戒するどころか面白いと笑いつつ、バイキングにでも来てどれを食べようかと迷っている子供のように目を輝かせていた。

 そんなミームを振り切る元北陽イレブン。この程度で最強と言われていたのか? という強烈な違和感を感じつつもパスを回しながらゴールを目指して突き進む中────

 

 

 

「ハァイ、騎士部ェ」

 

 

 

 先程振り切ったはずのミームがボールを持っているMF騎士部(きしべ)登和(とわ)の目の前に現れた。

 

「必殺タクティクス使いこなしてる?」

 

「ッッッ!?」

 

「Oh……強いのに」

 

 突然の神話生物出現に対してSAN値チェックに失敗した登和からボールを軽々と奪い取ったミームは、まるで初めて来た街を散策するかのような足取りで動き出す。

 

「なっ……!?」

 

「いつの間に!?」

 

 先程まで中心部分にいたはずなのに、いつの間に追いついてきたのかと困惑が隠せない元北陽イレブンたちの隙間を通り抜けるようにミームは前線を駆け上がっていく。足取りは軽く、草原を自由に跳ね回る兎のごとし。

 

「行かせるか!!」

 

「じゃあオラオラ来いよオラァ!!」

 

 前線を一気に上げてきたミームと相対するは元北陽イレブン二年のDF、壁のごとき魔人の異名を持つ男、城壁道(じょうへきどう)三瓶(さんぺい)。北陽学園が誇る鉄壁のDFの一人だ。城を築き上げるが如き安定した防御は間違いなく鉄壁だろう。だが、城壁であっても見えないもの、すり抜けてくるものに対しては無力なのだ。

 

「【ディープ・ミスト】」

 

(それはディフェンス技だろう……!!?)

 

 ミームを中心にして深い霧が発生する。かつての雷門イレブン、女子だけじゃなく男子にもモテモテだったという霧野蘭丸が得意としていた必殺技、【ディープ・ミスト】だ。

 ちなみにミームがこの技の進化前である【ザ・ミスト】を使うと、ランダムなハーブの香りの霧が発生する。朝にどんなお茶を飲んできたのかで香りが変わるという不思議な現象が起こるのだ。ちょっと気持ち悪いかもしれない。

 

「ディフェンス技をオフェンスに使っちゃダメなんてルールないだろ」

 

 濃霧で三瓶の視界を完全に奪い取ったミームは、霧の中を抜けてゴールまで抜けてきた。霧はまだ晴れておらず、視界を完全に塞がれてしまうほどの濃霧の中で真っ直ぐに突破してくるのは難しい。突破できずに手をこまねいているとなれば、必然的に北陽の守護神陣内伍兵との一騎打ちとなる。

 

「来いよ寝戸壬為夢!!」

 

「よし、じゃあぶち込んでやるぜ」

 

 そう言って笑ったミームは両腕にプラズマをスパークさせ始める。蒼白い雷光を見た南雲原サッカー部は「うわでた」と呆れるような、トラウマを掻きたてられたかのような反応を見せて地面に伏せる。ドリンクとタオルの準備をしていたマネージャーや、顧問の栄子も慣れた動きで地面に伏せた。

 

「今ここに再誕する────ッッ!!」

 

 両腕に生み出した蒼白い雷光が迸り、ハリケーンのような暴風がミームとサッカーボールを覆い尽くし────その中で嵐のように獰猛な笑みを浮かべたミームが右足で強烈なシュートを叩き込みながら叫ぶ。

 

 

 

【グレートマックスなオレ】!! スーパーァアアアアアッ!! 

 

 

 

「グラビ────があああああああああっ!!?」

 

 オレンジ色の巨大な竜巻がゴールに向かって炸裂する。凄まじい威力のシュートは伍兵が十八番である【グラビティデザート】を発動する前に伍兵ごとゴールネットに到達し、周囲に天候が変わったのではないかと思うほどの乱気流を発生させた。もちろん【ディープ・ミスト】によって発生した濃霧も消し飛んでおり、風圧でしたたかに尻を強打したらしい北陽イレブンも見えた。

 

「初っ端【グレートマックスなオレ】は酷くないですか?」

 

「インパクトって、大事だろ?」

 

「必殺技、使う必要あったかと聞いてんですよ天然ジゴロクソボケ神話生物」

 

「んー、ないな!」

 

 ハッハァ! と笑ったミームは乱気流が収まった後に近付いてきた雲明と談笑する。

 ゴールからゴールまで風のような速さで走った後、あれだけの規模の必殺技を打ったというのに、息が乱れるどころか汗一つかいていない神話生物は、立ち上がった北陽イレブンを見てニッコリと、楽しい玩具を見つけた子供のような無垢かつ残虐な笑みを浮かべて口を開いた。

 

「ようこそ、北陽。南雲原サッカー部は君達を歓迎しよう。盛大にな!!」

 

 溶鉱炉のように真っ赤な瞳はキラキラと輝いており、「もっとワクワクさせてくれよ」と訴えているかのよう。そんなミームを前にして、征が笑う。

 

「やっぱり凄いなぁ、ネットのサッカー……! 必殺技だけじゃないっていうかさ!」

 

 征が言う通り、ミームのサッカーは馬鹿みたいな量の必殺技だけではない。その必殺技の使いどころ、体の使い方、ボールのコントロール、相手との駆け引きなど────様々な要素が高水準で纏まっているのだ。

 

 その中でも征が見事だと感じたのは、鍛え上げられた体から放たれる爆発的なパフォーマンス。登和の前に突然現れた時、ミームは必殺技を使ったわけではなく、その異常なまでの身体能力を駆使して跳躍してきたのだ。

 

 まるで海を縦横無尽に泳ぎ回るペンギンのように、強い踏み込みによる助走をつけて、空を泳ぐように登和の目の前に現れたのである。誰にでもできるわけではない、というわけでもなく、死ぬほど鍛えて体の使い方を覚えればこの世界の人間ならできないことはない見事な身体操作である。これにはミームの御恩人もにっこりと笑っているだろう。

 

「さて……皆さんの中にあった慢心はもうありませんね?」

 

 雲明が北陽イレブンの面々を見渡して問いかける。もうここにいる人間はミームに対して慢心も油断もしていなかった。

 凄まじい肉体と、技術……そして必殺技とそれを使う想像力。インパクトある自己紹介にしては強すぎる衝撃によって、北陽イレブンの闘志が燃え上がる。この得体の知れない神話生物の肝を少しでも冷やしてやろう────そんな闘志が彼らに灯った。

 

「ちなみに残り28分間、どれだけ点数獲られてもタイムアップか北陽イレブンが1点取るまで終わらないのでそのつもりで」

 

「「「え゛っっ」」」

 

「歓迎会をするのでそれを楽しみに頑張ってください」

 

「耐えてください」

 

 この後(南雲原サッカー部も交えて)滅茶苦茶鬼ごっこした。




ミーム
相も変わらずグレートマックスな神話生物。久しぶりに征とサッカーする機会なのでちょっと張り切ったえらいハリキリ☆ボーイと化した。

空宮征
神話生物に怯むことなく突っ込んでいくとんでもない胆力の持ち主。
「やっぱり凄いや、ネットのサッカー!!」
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