時刻は夕方、夕日が眩しい時間帯。
神話生物ミームとの鬼ごっこを終えた南雲原サッカー部と元北陽学園サッカー部は、貸し切り予約を行っていた喫茶店、喫茶タンクで思い思いの飲み物を持って親交を温めていた。
「カステラパフェはカステラのアレンジにおいて最強。まぁ、それはそれとしてオードブル盛り合わせできたぞ」
「「「待ってました!!」」」
テーブルに次々と置かれていくオードブルの盛り合わせ。揚げたてらしくジュウジュウと音を立てる唐揚げ、ナポリタン、ハトシ、角煮まんなど、様々な料理が巨大な銀皿の上に盛りつけられており、食べ盛りの中学生、しかも運動部が満足できる量となっている。
「あっつ……うま……!」
「こってりナポリタンも凄く美味しい! 炒り卵入ってるんだ!」
「見ろよこのピラフ、滅茶苦茶パラパラなのにパサパサしてないぜ」
たくさん動いて空腹が限界を迎えていたサッカー部は、我先に料理を取り皿に盛りつけてがっついていく。ちなみにこの他にまだおかわりも作ってあるが、予算は一人1500円程度。物価高の中でこの金額、そしてこの量────喫茶タンクが赤字にならないか心配になるレベルである。
「ところミーム先輩」
「どした?」
「なんで調理側にいるんですか?」
七南が問うたのは、ミームがなぜ喫茶タンクの制服を着て仕事をしているのか。さっきまで南雲原サッカー部と元北陽学園サッカー部を相手していたはずなのに、ピンピンしている神話生物は、鷹揚に頷いて答える。
「うむ……昨今の事情もあって条件を満たせば中学生でもバイトが可能なんだよね」
「確かあれって成績が凄い高くないとダメじゃなかったか? 生活態度とかも見られたような……」
「ムフフフ、俺の校内順位はいつも4位なのん」
「「「釈然としない……」」」
「? ミーム先輩の勉強、凄く分かりやすいですよ?」
「そうですね、怪生物ですけど、そこは間違いないです」
こんな神話生物ではあるが、成績は高め。胡乱な言葉を吐いてはいるが、無駄に成績がいいのだ。成績を高めることで見えてくる世界もあるし、成績についてとやかく言われて無駄な時間を過ごさなくてもいい────そういう考えの下、ミームはしっかり勉強もしている。そしてその学習が正しいものであるかを確認するために、七南や鞘、雲明を交えての勉強会で教鞭を握ることもあるのだ。なんだこの神話生物。
「あと自由に使える金があると色々やりたいことができるんだ」
「まぁ、それは確かに……」
自由に使えるお金が増えれば、サッカーに使う手入れ用品を少しいいものに変えることができたり、練習試合で遠出する時にパーキングエリアでちょっと美味しいソフトクリームを食べることができたりなど、利点は多い。メリットとデメリットを天秤にかける損得勘定もできるのがこの悪名高い神話生物である。
「それにしても相変わらず凄かったな、ネットのサッカー!」
「ありがとナス! 征も強くなってんじゃんアゼルバイジャン」
「ボロ負けだったけどな……」
「ああ、その通りだ。彼が試合に出なかったことにホッとしている自分がいる」
「言っておきますけど、この神話生物は魔剣妖刀の類です。使えば間違いなく勝利を掴める、強くなった気になる……そんな力を持っている」
「強くなった気になる……?」
悲報、ミームは魔剣妖刀の類であった。
そんな冗談はともかくとして、雲明が言っていることを理解している南雲原サッカー部はしみじみと頷く。共に練習する機会が今回初だったということで、元北陽学園サッカー部は疑問符を浮かべて首をかしげていた。
「ポテンシャルを引き上げるのが上手いんですよ、ミームは」
「それは、いいことじゃないのか?」
「はい。いいえ。いいことでもありますが、それ以上にデメリットが勝つんです」
ポテンシャルを引き出すのが上手い、そんな特技があるのならば、試合に出し続ければ勝手に周囲もレベルアップしていくのに、雲明はミームを試合に出すことをしない。自分達の手に余る強さを持っているということが一つの理由ではあるが、もう一つはこの力が原因である。
「下地ができていない状態でポテンシャルを引きずり出された人がどうなるのか……空宮君、君は見たことがあるはず」
「……あー、うん。あったなぁ、そんなこと」
「ククク……酷い言われようだな。事実だからしょうがないけど」
遠い目をして呟く征は、ミームの特技がどんなことをやらかしてしまったのかを思い出していた。
「正直事故もいいところでしょ、あれはさ……」
「ええ。ですがそれを知っているからこそ慎重にもなります」
「な、何があったんだよ……?」
ミームの過去をあまり知らないメンバー達が、雲明と征の遠い目を見てゴクリと息を呑む。
「ミームによって引き上げられたポテンシャルに振り回されて、再起不能とは言いませんが、故障してしまったことがありました」
雲明から語られる、ミームの力でポテンシャルを引き出された人間の末路の一つを聞いて顔を青くするサッカー部のメンバー達。当然だろう。現状のレベルであれば、自分達がそうなる可能性だってあるのだから。そんな中で最も震えていたのは────
「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ」
「「「なんでやらかした本人が震えてんだよ!!?」」」
ミームであった。呪われた日本人形か、コダマ並みにカタカタと鳴っているミームの顔色は悪いを通り越して極悪で、少しでも気を緩めたら隣に座っている鞘の腰に抱き着いてオロロンチョチョパァとガチ泣きを始めるレベルであった。
「その……あれにはちょっと僕も同情するというか……ミームが震えてるのも納得というか……」
「あの人が京都の方に引っ越すってなった時、ちょっとだけホッとしたのが俺なんだよね」
「ちなみにフットボールフロンティア本選常連校にいるらしいから、ぶち当たる可能性が高いんだよね。怖くない?」
「なんでそれを知っているんだ?」
「………………………………定期的に電話でやり取りしてるからだが? しないと直接会いに来そうで怖いんだ。悔しいだろうが仕方がないんだ」
「「あー……うん、なんか納得」」
「「「ええ……」」」
どこぞのウマな娘のようにオオン、オオン、と震えるミーム。今まで見たことがないようなミームの意気消沈ぶりにこれ以上触れるのはミームの精神衛生上悪く、こちらが精神汚染を喰らう可能性が高まると確信した南雲原と元北陽は、話題を別のものに切り替えることにした。共通の脅威を見つけると団結するのが人間という種族である。
「そ、そういえば、ミーム先輩ってどうしてサッカー始めたんですか?」
「あ、ああ! それは俺達も気になってたんだ! 何かきっかけとかあったのか?」
「そうですね……やっぱり俺は王道を往く……御恩人との出会いですかねぇ」
先程までの顔色はどうしたのかというレベルで回復したミームがニッコリと笑って、財布の中に入れている写真を取り出した。
その写真に写っていたのは、ボロ雑巾並みにボロボロになりながらも超新星爆発並みに輝いた笑顔を浮かべる少年と、そんな少年に呆れつつも微笑みかける青髪の女性と赤髪の男性の姿だ。
「俺の両親、忙しいからなー……結構この人達が運営してる施設に預けられてた時間あるのよ」
「へ、へぇ……」
(思ったよりとんでもない大物出てきたな……!?)
ま、小学校高学年になってからは一人で留守番することも増えたけど、と笑うミームが続ける。
「その時に施設の皆と遊ぶ機会もあって、そこで出会ったのがサッカーだったわけよ」
ミームがサッカーと出会ったのは、その時であった。施設に預けられて、皆でサッカーボールを追いかけるだけの、サッカーとは言えないようなボールを用いた追いかけっこのような遊びでサッカーと出会ったミームは、施設の子供達が他の遊びに興じている間も一人でサッカーボールを追いかけ続けた。
ただひたすらにドリブルとは呼べないような蹴っては走ってを繰り返すだけの遊びが、ミームにはとても面白い遊びに感じたのだ。
「ただなー……こう、上達してくるともっと凄いのを見たい、凄いのと戦ってみたいとなるのが昔の俺でさ」
「今と全く変わっていませんわね」
「今より酷かったぞ」
(((今より……!?)))
何か悍ましいものを見たと言わんばかりの少年少女の反応を気にする素振りもなく、ミームは笑う。
「なんやかんやあって、施設のサッカー上手い人たちに喧嘩売ったよね」
「脈絡がねぇな!?」
ミームが施設の大人にサッカーバトルを仕掛けたのは小学2年生の頃。同世代とのサッカーがつまらなかったと言えば嘘になるが、実力を抑えてのサッカーも縛りプレイという観点から見ればそれはそれで面白いものではあった。結局縛りを自分で破って自分のサッカーをやってしまうせいで周囲から孤立してしまったものの、ミームはそこまで気にしなかった。
孤立していることを気にすることはなく、自分より強い相手をどうやって攻略するかを考えていた方が楽しかったミームはひたすらに施設の大人にサッカーバトルを仕掛け続けていた。そして仕掛ける度に敗北した。敗北し続けてもなお、挑み続けて、紆余曲折ありながらも遂には必殺技を使わせるまでに至り────写真のようにボロ雑巾になったのである。
ちなみにミームは全く気にしてないどころか気付いてもいなかったが、孤立した原因はミームに対するいじめも少々含まれている。のちに出会う雲明や征に話をして「それはいじめだよ」と言われるまで気付きもしなかった。気付いたところですぐに忘れて気にも留めなかったが。この神話生物をいじめる勇気があった子供達の度胸は凄まじいものである。
「他の大人も真剣にやってくれたけど、子供の遊びだって笑わずに俺とたくさん勝負してくれたのがこの二人でな」
「負け続けて嫌になったりとかはしなかったんですか?」
「全然? むしろ嬉しかったよ。俺が全力出しても勝てない人がいるって、滅茶苦茶嬉しいことだったから」
超える壁は高ければ高い程、分厚ければ分厚い程いい────そんなマゾヒズム染みた思考も兼ね備えているミームにとって、自分が全力を出しても勝てない相手がいるというのは僥倖以外の何でもなかったのだ。
「んで、雲明とか征と知り合うちょっと前に、もう二人御恩人が現れてな……」
「もう二人……ネットを超える実力者が……」
「あれは確か……寒い雪の日の朝……」
ミームが思い出すのは、冬のある日。いつものようにサッカーボールに黄金の回転を加えて遊んでいた時だ。
「当時の俺はサッカーボールに黄金長方形の回転をかけることがブームでな……」
「なんだそのブーム……」
当時、恩人二人から勝利をもぎ取る対策の一つとして、完全なる黄金の回転エネルギーを炸裂させることで、凄い必殺技を作れないかと色々と試行錯誤を繰り返していたミームは、砂浜でボールに回転を加えつつ散歩していた。
その日の風は比較的強く、海風も中々冷たいものだった。そんな中で散歩していたミームは、砂浜を離れて船着き場の辺りに来たところで後方から飛んできた何かに気付くのに遅れ、その何かが起こした突風で海に落下したのである。
「さすがに死を覚悟したんだよな、あれには」
サラッと命の危機を語るミームは続ける。
「あ、これ死んだ……って思った時に飛び込んで助けてくれたのがその御恩人二人でな」
「その二人がいなかったら、寝戸は死んでたってことか……」
「マジでその二人に感謝してくださいよ」
「してるんだよなぁ……毎朝拝むくらいには。……んで、色々あってその人達とサッカーすることになってな……この二人も強いのなんの」
またもや現れた自分よりも強いサッカープレイヤーに嬉々として挑みかかった当時のミーム。なお、バトルと言ってもミームがボールを持って、二人の防御を突破してゴールするというルールのサッカーバトルであった。
「時間が許す限り挑んで、挑んで、挑み続けて……ついぞ勝てなかったんだよね。凄くない?」
「その人たちは今どこに?」
「さぁて……どこにいるんだろうな?」
ま、いつかは会えるだろ。
そう言ったミームの表情はいつもの笑みではなく、子供らしい、無邪気な笑顔だった。
ミーム
恐らく永劫回帰しても普通に記憶を保持してるタイプの神話生物。サッカーが消滅しても本能でサッカーを見出して暴れ散らすタイプの怪生物でもある。こいつサッカーモンスターを超えた何かなのでは?
「負けてるのに楽しいのが俺なんだよね。(御恩人たち)凄くない?」
小太刀鞘
ミームがガタガタとたけししていた時にちょっとだけゾワゾワと背筋が震えた。なんでだろうね。
御恩人(未来)
命の恩人。溺れてたミームを飛び込んで救った。時空最強イレブンの飛び込み選手権1位とは彼のことよ。(風評被害)
「さすがは必殺技の世界図書館……幼少期でも凄いサッカープレイヤーだったんだね」
御恩人(未来)
命の恩人その2。溺れてたミームとミームを助けた恩人その1を餅で引っ張り上げた。時空最強イレブンの一本釣り師とは彼女のことよ。(風評被害)
「あの子とのサッカー、すっごく楽しかったやんね!キャプテンたちとも一緒にできたら良かったのに」
???
ミームを恐れさせる謎のキャラ。登場したらタグが増える予定である。ポテンシャルを引きずり出されて一度故障したようだが……?