ハァイ、南雲原。サッカー楽しんでる?   作:エヴォルヴ

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ビッタだ

 フットボールフロンティア地区予選3回戦目の日が近付いている中、巨大なトラック用タイヤを百裂ショットで跳ね返しているミームは近くで練習に励んでいる少女達に目を向けた。

 

「……増やすと弱くなるわね……減らしても制御が効かないし……」

 

「ふむ、提供されたデータを鑑みるに、力も技も申し分ないはずだが……今の状態をさらに磨く方向で行ってみるべきかもしれないな」

 

「アトラス────あれっ!?」

 

「エネルギーが分散したな。巨剣を展開するところまでは問題は見受けられない。あとは振り下ろすタイミングだな」

 

 合併やら何やらで午前授業になった南雲原中の生徒達は各々思い思いの時間を過ごしていた。そんな中で、南雲原サッカー部は今日も今日とて練習に励んでいるわけだが、現在ミームの近くにいるのは必殺技の改良を目指す二人の少女────鞘と七南である。それを補助しているのは、監督の立場からは身を引いたものの、南雲原と元北陽学園の声もあってサッカー部のコーチ兼アドバイザーとして残ることになった下鶴改監督改め、下鶴改コーチだ。

 

 そもそもここに生息している神話生物の被害をこの人だけ受けないなんてことを、サッカー部に所属している人間が許すはずもない。南雲原も神話生物との付き合い方を理解し始めている。

 

「小太刀君と古手打君の技は間違いなく次の試合で鍵となるだろう。無論、他のメンバーもな」

 

「次の対戦相手……東風異国館、でしたっけ」

 

「ええ。外国人留学生が多い学校ね」

 

 南雲原サッカー部が次に対戦する相手は東風異国館。恵まれた体躯を持つ外国人選手の圧倒的なフィジカルは、まさに圧巻の一言。個々のフィジカルに物を言わせた連携のデータが少ない個人プレーの毛色が強い学校だが、間違いなく強敵と言っていいだろう。

 

 なお、ミームが入れば簡単に粉砕できるレベル帯である。個人プレーの毛色が強いからこそ、それ以上の圧倒的な個をぶつけられると簡単に潰れてしまうのである。なお、それをすると南雲原サッカー部の誰かが故障してしまう可能性があるのでまだそれをやる時ではない。

 

「個人の強さを重視しているからこそ、こちらは数の力を押し付けて挑むわけだが……必殺技の精度を高めるのも必須事項だ。となれば────」

 

「ウチは【グラディウスアーチ】の強化と、見切るための目を育てる必要がある」

 

「私は【アトラスソード】の完成を頑張ります! 伝来宝刀とか、スピニングカットも!」

 

 それぞれがそれぞれの課題解決に向かって邁進している。わだかまりがないわけではなかった南雲原と元北陽の仲も、鬼ごっこと歓迎会と雲明のサッカードリームプランで解消されている。むしろミームに一泡吹かせてやるという思いで団結している節がある。共通の敵を見つけると人間は団結するのだ。

 

「ああ。……しかし、驚いたな。寝戸君、正直君のことは本能系のプレイヤーだと思っていたんだが、存外理系なんだな」

 

「あー、それなんですけど、いっつも思うんですよ。道筋立てて伝えられないのは、ちゃんとできてないのと同じでしょって」

 

 擬音まみれの説明とか、読めない文字とかもっての外過ぎて笑っちゃうんすよね。

 そう言ってタイヤを蹴り飛ばしたミームは、右手を小指から順に握り、エネルギーを握りこぶしに集めていく。

 

「集めたエネルギーを前方に突き出して展開することで、ゴッドハンドが使えるわけですが……これを、握ったまま力強く踏み込み────」

 

 収束したエネルギーを迫りくる巨大なタイヤに向けて放ったミーム。全身の関節を回転、連動させた動きによって放たれた拳からは、黄金回転の軌道を描く巨大なエネルギーの拳が現れ、迫りくるタイヤを殴り飛ばした。

 

「とまぁ、こんな風に体の捻りを加えて拳のまま放てば正義の鉄拳になるわけです」

 

「……見事なまでに再現しているな」

 

「苦労しましたよ。当時の円堂大介監督の解説が擬音ばっかりで。必殺技集が公開されてなかった頃はマジで苦労しました」

 

 ああ……と、どこか納得の表情を浮かべる改。サッカー界のレジェンド円堂守の祖父、円堂大介が二本への一時帰国を果たした時のインタビューで、必殺技について話をした時口にしたのが────『正義の鉄拳の極意は────パッと開かずグッと握ってダン! ギューン! ドカーン!! だ!!』である。意味が分からない。

 

「その時に気付いたんです。自分だけ分かっていても、他の人が分からないのなら意味がないこともあるって」

 

「壬為夢君の胡乱な言葉とか?」

 

「あれは意味が分からなくてもいい言葉だからいいんだよ、鞘ちゃん」

 

 ミームはタイヤを受け止めつつ続ける。

 

「可能な限り擬音を省いて、分かりやすい解説。これがなければ必殺技を教えるなんてできないし、教えられたとしても習得も時間がかかる。その時間で他の練習もできたかもしれない」

 

 時間が限られているのなら、詰め込み式であってももっと効率を考えるべきだとミームは思う。試合に出る選手が努力することは当たり前だが、教える側もその努力に報いるために分かりやすい指導をする必要がある────ミームも、雲明もそういう考えを持って指導をしている。

 

「気付きを得るってことも重要さ。だけど、時間が足りなくて負けたら、俺や雲明は皆にどう詫びればいいんだって話さ」

 

「……なるほど、案外君は指導者向きかもしれないな」

 

「冗談。……まぁ、元ネオジャパンの改コーチにそう言われるのは嬉しいことですわ」

 

「うん? 私の経歴を知っていたのか」

 

「YES、YES、YES! 治おじさんから聞いてたんすよね」

 

 ミームがそう言って笑うと、改は納得したように頷いた。

 

「ああ、君はあの園とも交流があるんだったな」

 

「あの人もマジで強いっすよね」

 

「当然だ。彼もまたネオジャパンの選手であり、私達のキャプテンだった男だからな」

 

 円堂守率いるイナズマジャパンが世界を相手取っていた時、円堂守世代の選手は指を咥えて見ていたわけではない。彼らが不甲斐ない戦いを見せた時、その席を奪い取らんとして虎視眈々と牙を研いでいた選手達がいた。それこそがネオジャパン。かつて下鶴改を含めた日本の実力者が集まっていたチームである。

 

「砂木沼さんは元気か?」

 

「滅茶苦茶元気ですよ。施設の皆からオサームおじさんって呼ばれてましたね。……あ、ちょっとした劇で熱血系の悪役の役がめっちゃ似合ってました」

 

「ふ、そうか」

 

 昔話に花を咲かせたいところではあるが、時間は有限であることは間違いない。しかも今回の相手はU-15杯でもベスト4という成績を収めているような強豪校なのだ。どれだけ時間を費やしても足りないくらい、その時は刻一刻と迫っていた。

 

「……おっと、そろそろ笹波君との打ち合わせだ。すまないが、私はこの辺りで」

 

「ええ。ありがとうございました」

 

「ありがとうございました!」

 

 東風異国館のフィジカルに物を言わせた脳筋スタイルと戦うための、新たな必殺タクティクスを構築する────そのための打ち合わせに向かった改を見送り、ミームは鞘と七南に目を向ける。

 

「タクティクスは雲明と改コーチが組み上げてくれるとして……とりあえず七南の必殺技からか」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

「とはいえ、巨剣を発生させるところまでは完璧なんだよな」

 

 ミームの言う通り、七南が完成させようとしている必殺技、【アトラスソード】に必要な巨剣を生み出すところまで、七南は完璧に成功させていた。問題はその後────引き抜いた巨剣を持って天高く飛び上がって振り下ろすという行動が上手くいかないのである。

 

「そもそもこの必殺技ってブロック技じゃないですよね?」

 

「そうだよ(肯定ペンギン0号)。でもオフェンス技をブロックに使っちゃいけないなんてルールはないからな」

 

 七南が発生させた巨剣とはまた違う形をした巨剣────剣と呼ぶにはあまりにもボロボロで刃毀れがあるそれを地面から引き抜いたミームは、巨剣を肩に担ぐように構えて姿勢を低くする。まるで獲物を狙う狼のような構えから放たれる切り上げは、生半可な突破力では切り裂かれて終わるような鋭さを宿していた。

 

「そして叩き付けるだけが正解じゃないっていうのも肝だな。剣道でも面だけを狙うわけじゃないだろ?」

 

「あ、そっか。胴とか小手狙いでもいいですもんね」

 

「七南ならそこら辺見出すと思ってたけど……まぁ、これは俺の教え方が悪かったな」

 

 最初の手本を通常のアトラスソードだけで固定してしまったがゆえのミス。七南がアトラスソードの完成に至るまでに時間がかかったのはその辺りも起因しているのだろうと、ミームは心の中で反省した。あれこれ言葉を弄したところで、人に物を教えるというのはかくも難しい。

 

「下手すると、この必殺技からまた別の必殺技を作る方が七南には合ってるかもな」

 

「私が、ですか?」

 

「当たり前だよなぁ? カウンター系と相性良さそうだし、その方向で色々試すのもアリだろ。前に渡した動画でコレってやつあるか?」

 

 ミームが言う動画というのは、世界サッカー協会が公式チャンネルで公開しているレジェンド達の必殺技集ではなく、雲明に言われてミームが作ったミームが現在使える必殺技集である。一人で使える必殺技から、複数人で使う必殺技まで網羅しており、興味がある技があれば本人に聞いて習得のコツを学べるという贅沢仕様であった。

 

「ううん……武神連斬・偽とかですかね? 偽って書いてたのが気になりますけど」

 

「あれか……あれは本来なら化身技だから疑似再現なんだよな。化身技はほとんど偽って書いてあるはずだぞ」

 

「というか七南、あれシュート技よね?」

 

「あ、それはそうなんですけど……シュート技でシュートブロックとかできればいいかなって」

 

「おっけ、そっちの方向で考えてくか」

 

 シュートはシュートでも、防御するためのシュート技。その方向で七南の強化プランを組み上げていくことにしたミームは、アトラスソード完成から七南だけの必殺技完成へと思考を移していく。幸いなことに、七南はカウンター系とすこぶる相性がいい。今回の対戦相手はフィジカルに物を言わせた大雑把な力任せなプレーが多いため、そういう相手を刈り取るのにも間違いなく七南は役立つだろう。

 

「というわけで感覚を掴んでもらうために、七南には鞘ちゃんの【グラディウスアーチ】を弾き続けてもらう」

 

「へ?」

 

「もちろん手本は見せるから安心しろ」

 

「「参る……」」

 

 そう言ってミームは何の前触れもなく二人に増えた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 憧れた人がいる。

 

 一人は剣道をやっている人なら誰でも知っている天才と謳われた私の先輩、小太刀鞘先輩。剣道の神がいるのなら、神様は彼女に剣道の才を余すことなく与えた……なんて言われるくらい、凄い人だ。

 

 かくいう私が剣道を始めたのも、鞘先輩のことをテレビで見かけたからだ。どこまでも強く、真っ直ぐで、自分の道を剣一本で切り開くような強い姿に憧れて、剣道を始めた。鞘先輩とは我ながら結構波長が合ったのか、仲良くなるのにそこまで時間はかからなかった。もちろん、凄く仲良くというわけではなくて、仲の良い先輩と後輩って関係ではあったけれど。

 

 今日も練習を頑張ろうと意気込んで小学校の体育館に行った────その日は休みの日だったけど────ある日、鞘先輩が凄く楽しそうに、キラキラとした目で何かの対策をしていたのを見かけた。

 

「このタイミングじゃ躱されるわね……じゃあこれなら? ……ダメね。あの子のことだから達人の間合いだの言って避けるわ」

 

 何かの映像を見ながらブツブツと何かを呟いている鞘先輩は凄く楽しそうで、剣道ではほとんどつまらなそうにしていたのを見ていた身としては凄く驚いたのを覚えている。

 

「鞘先輩、何してるんですか?」

 

「────あら、七南。少し、面白い人と戦う機会があって、それの対策よ」

 

「面白い人、ですか?」

 

「ええ。ウチとは結構長い付き合いの子よ」

 

 ほら、と渡されたスマホに映し出されていたのは、スポーツチャンバラとかで使われているエアーソフト剣を持ち、大太刀くらいのサイズのエアーソフト剣を背負う少年の姿。対するは竹刀と同じくらいの長さのエアーソフト剣を構える鞘先輩の姿。

 

『よっ、ほいっ、どしたどした!! ジャスパ余裕だぜ鞘ちゃん!!』

 

 鞘先輩の攻撃をほとんど完璧なタイミングで弾き返すその人は、凄く楽しそうに笑っている。構えが全くの自然体でいたから不思議に思っていたけれど、凄い実力者なんだってことは何となく理解できた。……でもなんで裸足なのかな? 砂利で痛くならないのか疑問な所だ。

 

『ほらほらほらほら』

 

 弾くだけ、凌ぐだけかと思ったところで攻撃に転じた少年の動きは────凄く自由だった。剣道では絶対に見ないような型のない、様々な動きが混ざった動きは一見するとただの悪ふざけに見えるのに、いざ挑むと絶対に厄介だろうなと分かるような動き。攻撃が来るその瞬間まで動作が見えず、見えて防いだと思ったらすぐにやってくる次の攻撃。剣から手を離して別の手に切り替えたり、足で掴んで振るうなんて誰が予想するのだろうか。

 

『イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! ────おっぶえ!? グワーッ!?』

 

『なーんちゃって! 戦いにおいてそれはチョコラテだよ鞘ちゃん!』

 

『筋肉が躍動する!! 当たらないよ!』

 

 無茶苦茶だった。無茶苦茶で、よく分からなくて……でも、凄く自由で、楽しそうで。鞘先輩も凄く楽しそうに、嬉しそうに笑っていた。

 

「なんか、すっごく自由ですね?」

 

「ええ、凄く自由な子よ。……今日もやるつもりだけど、見ていく?」

 

「いいんですか?」

 

「もちろん。一緒に対策も考えてくれるとありがたいわ」

 

 それから、映像でずっと楽しそうにしていた寝戸壬為夢先輩に会って、首根っこ掴まれて連れてこられた笹波雲明君とも仲良くなって……なぜか私もミーム先輩とスポーツチャンバラVS剣道の戦いをすることになって────

 

 

 

「くらえッ! DIOッ! 半径20m【グラディウスアーチ】をーッ!」

 

「無駄無駄無駄無駄ァ!! そんな眠っちまいそうな動きでこのアトラスソード(仮)が止められるか!!」

 

 なぜか今、分身しているミーム先輩の弾き合いを見学している。シュート技でシュート技をブロックするという技術の手本を見せてくれると言われて見学しているけど、これは参考になりそうにないというか……

 

「……ふぅん?」

 

「鞘先輩?」

 

「七南、気付かない? 壬為夢君の……防御してる方の動き」

 

 鞘先輩にそう言われて、本体であろうミーム先輩の動きをよく見てみると────凄く見覚えがあった。その動きは見覚えがあるどころか、私の体に染み付いている剣道の動き。ひたすらに凌いで隙を見つけてチャンスを掴み取るという、カウンター型の動きだ。

 飛んでくる【グラディウスアーチ】の剣を徹底的に弾き落とし、相手の隙を伺い続け────緩んだところにミーム先輩は切り込んだ。

 

「これが────【ツバメ返し】だ」

 

 空を飛ぶツバメを撃ち落とすかのような動き。上段から切り裂くように放たれた右脚という名の一刀が、地面に着く寸前でサマーソルトキックへと変化した。とんでもない動きだけれど、多分ミーム先輩のアレンジが加わっているのだろう。映像で見た動きと全然違うし。

 

「影落とし、お返しいたす」

 

「見事、なり……」

 

 分身のミーム先輩が本体に戻り、一人となったミーム先輩は少しだけ息を整えてから私の目を真っ直ぐに見つめた。

 

「こんな感じでシュート技を弾き返し続けてもらう。鞘ちゃんのグラディウスアーチとか伝来宝刀の強化もできて一石二鳥って俺は思うワケ」

 

「できますかね、私に」

 

「? できるだろ」

 

 何を言ってるんだと言わんばかりの表情を浮かべたミーム先輩は、私に対していつもの楽しそうな笑みとは違う、柔らかい笑顔を浮かべて口を開く。

 

「俺が知ってる七南は俺の予想を飛び越えていく凄いやつだからな。昔っからずっと」

 

「……」

 

「? どした、フリーズして」

 

 本当に、いつもそうだけど、ミーム先輩は私に────皆に凄い期待をしてくる。その期待を飛び越えてくると確信している。背中で語るどころか新幹線を超えた速度で爆走して、追いついて来いと言ってくるような先輩だけど……いや、そんな先輩だからこそなのか、応えてやりたくなる。予想以上のことをやってやろうと思わせてくる。

 

「……よし、頑張ります! よろしくお願いします、鞘先輩!!」

 

「ええ、こちらこそ。頑張りましょうね」

 

「んじゃ、何か困ったら声かけてくれ。俺はスペースキャット使ってるから」

 

「「…スペースキャット???」」

 

「来いよ、【星追いスペースキャット】!!」

 

 ヌルリと現れた黒い影を見て、私達の腹筋が壊れたのは別の話。なんで頭に花が乗せられた瞬間にあんな顔になるのさ……




七南
ミームから「鉄より硬くて丈夫なブリキでできた心の持ち主だもんなぁ、ブリキだぞオメェ!それが噛み合ってビッタだ」と意味の分からないが凄く高い評価を受けてる少女。剣道部から雲明とミームのタッグでレスバして強奪してくる予定だった。
何がどうしてそうなったのか知らんが、ミームを憧れの先輩として見ている。考え直してどうぞ。
スペースキャットに腹筋をバーストされた。

星追いスペースキャット
スペースキャット。茶虎だったり、キジトラだったり、猫ミームになったりする。化身かもしれないし、ソウルかもしれないし、ミームに寄生している別の謎生物かもしれない。普段から宇宙の真理を悟ってそうな顔をしている。
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