ハァイ、南雲原。サッカー楽しんでる?   作:エヴォルヴ

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凄い数の猫ミームが集まってきてる!

『楽しそうだね』

 

 東風異国館との試合の日が迫るある日。今日も今日とて必殺技を打って必殺技で打ち返してその打ち返したボールをまた必殺技で打ち返すという、狂気の特訓を済ませたミームが寄り道に寄り道を重ねつつ帰り道を歩いていると、彼に何者かが声をかけてきた。

 

 先程購入した出来立てのコロッケを一息に食べ終えたミームが顔を上げると、フワフワと空中を泳ぐように浮遊している黒猫がいた。

 

「お前、俺の化身の自覚はある?」

 

『いいじゃないか。勝手に出てきて何をするでもない。君と話をするだけなんだから』

 

 くあぁっ、と欠伸をしたピンク色の花を頭に乗せた黒猫の姿が変わる。次は黄昏た顔をしているキジトラとなったそれは、瞳に宇宙の色を宿しながらミームの周囲をクルクルと旋回している。

 

『まあ、僕のことはどうでもいいだろう? 君が楽しそうにしているのを見るのは僕も嬉しい』

 

「そんなに楽しそうに見えるか?」

 

『見えるさ。試合には出られていないけど、それでも楽しそうにしている』

 

 キジトラから黒と白の縞模様に変わった猫は三日月のようににんまりと笑い、ミームの意外にもサラサラしている短髪を踏む。

 

『自分を追い越そうとしてくる人間がそんなに嬉しいんだね』

 

「まぁな。まだ発展途上で粗削りもいいとこだが、悪くねえ」

 

『大したもんだ、南雲原────って?』

 

 真夜中の月明かりのように蒼白い瞳を楽しそうに細めて喉を鳴らす猫は、まるでいつも胡乱な言葉を吐き出すミームのような声音でそう言う。

 

「おう。というか、お前も俺なんだから分かるだろ」

 

『確かに僕は君だ。でも、こうあってほしいと望んだのは君だろう?』

 

「はは、否定できねぇや」

 

『どうせなら会話ができて、自分で考える化身(あいぼう)がいい────そんな代物を望んで生み出すことができるのは、この世界で君だけだろうね』

 

「できるなって思ったのなら」

 

『その時既に行動は終わっているんだ、だろ?』

 

 どこで手に入れたのか、猫缶を取り出して器用にスプーンで食べ始める猫の姿をした化身────【星追いスペースキャット】。寝戸壬為夢という男がとある人物と出会った時に覚醒させた化身であり、他の化身と違ってなぜか喋る。会話ができる化身という特異な存在ではあるが、人前ではただの化身として振る舞っているためか、喋ることを知っているのはミームを除けばごく一部しか存在しない。

 

「他の化身使いも話せるようにすりゃあいいのにな?」

 

『ただでさえ消耗が激しいし、試合中にしか出さないのにかい?』

 

「化身との対話が云々で……あー、なんだったか……」

 

『アームド?』

 

「そう、それだ。それが使えるんだろ? ならなんで化身を喋るようにしねぇのか……コレガワカラナイ」

 

『そもそも、僕達化身は本来、もう一人の君達……君達のサッカーへの想いの具現だからね。サッカー好きに言葉はいらない……そういうことじゃないかな?』

 

 スペースキャットの言葉に納得いかないような表情で息を吐くミーム。胡乱な言葉を吐き続ける男ではあるが、フィクションの世界でもノンフィクションの世界であっても、奇跡が起きたとしても現象だけを理解してやらかすような人間が言葉は不要なんてことはない────そんなリアリストというか、夢の無いことを考えるのもミームである。

 

「ところでよ、スペースキャット」

 

『なんだい、相棒』

 

「ここんとこ、ストーカーとか不審者がいるらしいぜ。しかも大人って話だ」

 

『なんてことだ。そんなことをする大人がいるなんて、嘆かわしいね』

 

 まるで演劇で竹馬の友と会話しているシーンを見せられているかのような、仰々しくて鬱陶しい動きをするミームとスペースキャット。全てを焼き尽くすような恒星のごとき真っ赤な瞳と、どこまでも広がり続ける宇宙のような蒼白い瞳が楽しそうに細められ、互いを映し出す鏡のようにパックリと裂けた三日月のような笑みを浮かべた一人と一匹が────ぐるん、と後ろを見た。

 

「しかもそいつはサッカーやってる中学生をストーカーしてるって話だぜ。ずうっと舐め回すように見てるって話さ」

 

『ああ、本当に嘆かわしい。大の大人がコソコソと、しかも子供を舐め回すような目で見るなんて』

 

 カツ、カツ、とわざと音を立てるようにして歩き出したミームと、その隣で浮遊するスペースキャットの表情はいつだって笑顔だ。笑顔で、友達を迎え入れるようなそんな動きで、近付いていく。近付いてくる。そして気付いた時には────

 

「『ハァイ、不審者さん(ジェントルマン)』」

 

 水路に手を伸ばした子供を引きずり込むピエロのように、そこにいる。深淵を覗き込むどころか、チラ見しただけで縁ができたと言わんばかりにやってくる質の悪い神話生物が、男の目の前にいた。

 

「なっ────いつの間に……!?」

 

「今、さっき。疾風ダッシュとそよかぜステップを使えば距離を詰めるなんて簡単だろ」

 

『相棒を標的にしたのが運の尽きだったね、不審者さん(ジェントルマン)?』

 

 黒いサングラスに、黒いマスクとスーツといういかにも「私は不審者です」というスタイルの男にニッコリと笑いかけるミームとスペースキャット。何を考えているのか分からない、ただ楽しそうに笑うピエロのような笑顔は、追跡がバレて壁際に追い込まれている男にとって恐怖でしかない。怒っているわけでも、呆れているわけでもない、ただ、笑っている。哂っている。嗤っている。

 

「何が、目的だ……?」

 

「それ俺のセリフな。ま、尋問とかは俺の役目じゃないんで……あと頼んでいいですか、鬼瓦さん」

 

「は……」

 

「もちろん。子供を追い回す悪い大人を捕まえるのも警察の役目だよ!」

 

 大通りに出る道に立っていたのは、一人の女性だ。芯が一本通った強い正義を宿した瞳と、茶髪に水色のメッシュを内側に差し込んでいる、緑色のジャケットを着た女性は正義感に満ちた笑みを浮かべて男に近付き、逃げられないように腕の関節を極めた。

 

「ぐ、うっ!?」

 

「サッカーで悪さを企むやつらは私達が許さないよ。目的とかは署で聞かせてもらうからね!」

 

 ガチャンと手錠をかけて地区のお巡りさんや近くの警察署などにテキパキと連絡をしていく女性は、偶然近くを巡回していたお巡りさん達に項垂れるストーカーを引き渡して一息つき……ミームとスペースキャットを見た。

 

「さてと……君達はお説教ね」

 

「『えっ』」

 

 正義に満ち溢れた女性の名は鬼瓦楓────サッカー界の治安を守る守護神の一人にして、サッカー界の治安維持において不死身の守護神と謳われた鬼瓦源五郎の孫娘であり、ミームの化身が喋ることを知っている一人である。

 

「当たり前でしょ! いきなり連絡してきたと思ったらストーカー捕まえるの協力してくださいって言ってくるんだから!」

 

「いざとなったら逃げる算段はあったもんで……ええ」

 

『僕もいるしね』

 

「それはそうかもしれないけど、子供が無茶しないために大人が頑張ってるの! 君は友達とサッカー楽しむことだけ考えればいいんだよ!」

 

「『すげぇ、園で会った時とは比べ物にならないくらいのまともな大人だ』」

 

「拳骨行っとこうか、壬為夢君とスペースキャット」

 

「『すみませんでした』」

 

 鬼瓦楓。ミームにとって頭が上がらない人間の一人である。滑らかな動きで黄金比率の土下座を敢行するミームとスペースキャットに対して、楓は本当にどうしようもない弟を見るような呆れた笑みを浮かべた。

 

「全く……次からはこういうことは大人に任せること! いい?」

 

「『うす』」

 

「本当に分かってるのかな……」

 

 小さい頃から全く変わっていない、ミームの分かったのか分かっていないのか分からない生返事に溜め息を吐いた楓は切り替えるように頭を振って笑う。

 

「まあいいや。調査協力の報酬ってことで、ラーメン食べに行こっか」

 

「ちゃんぽんじゃないのか……」

 

「ちゃんぽんはお昼に食べたからね。……というか化身出しっぱなしで疲れなかったの?」

 

「全然?」

 

 いつの間にか溶けるようにミームの中に戻っていったスペースキャットは少々他の化身とは違うが、化身は化身。体力の消耗が激しいということで廃れていったとはいえ、未だ猛威を振るうそれを結構な時間出しっぱなしにしていたというのに、ミームは全く疲れている様子がない。この無尽蔵の体力もまたこの男が神話生物だの、怪生物だの化生だのと言われる理由の一端なのだ。

 

「ところで南雲原サッカー部だっけ。君はまだ出ないの?」

 

「俺が出る土台が出来上がってないもんで」

 

「そっか。……サッカーやるなら、雷門とか、帝国に行く選択肢もあったと思うけど?」

 

「何度も言わさんでくださいよ、楓さん。俺は、雲明がいないサッカーに興味はない」

 

 笹波雲明という男が、最も上手く自分を動かせる。笹波雲明という男のサッカーこそが、最も心を揺さぶるサッカーだった。恩人とのサッカーも心を揺さぶられたが、同世代とのサッカーとなれば最も心を揺さぶってくるのが雲明であり、最も退屈させないのは征である。そして最も恐れたのは京都に引っ越した何者かである。

 

「それが雷門や帝国からのスカウトを蹴った理由?」

 

「そんなの来てたんすね。知らなんだ」

 

「言われてたでしょ、ご両親に。学校からも言われたんじゃない?」

 

「あー…………あった気がしますけど、その時はもうサッカーから離れてたもんで」

 

 哀れ雷門と帝国。もっと早ければワンチャンあったかもしれないが、そんな未来はなかった。そのワンチャンも最終的には「うーん、やっぱ違うんで南雲原行きますね! やっぱ時代は雲明のサッカーよ!」で転校されて終わりという無法。猫は気ままなのだ。そしてネットミームというのも流行りがどんどん変わっていくが故に、いつの間にかどこかに消えていくのだ。

 

「それでも必殺技は磨き続けてた。それはどうして?」

 

「決まってるでしょ。雲明が帰ってくると確信してたからだ」

 

 どれだけサッカーを否定しようとしても、笹波雲明という男はサッカーを愛し、サッカーに愛されている。サッカーから逃げ続けても、サッカーが逃がすことはない。それを理解していたからこそミームは、雲明が再びサッカーに向き合うことができるまでサッカーから離れながらも必殺技による特訓は欠かさなかった。

 

「それに……」

 

「それに?」

 

「最初から強い連中と一緒にサッカーやるよりも、俺はその強い連中と戦いたい。叩き潰したい」

 

 にんまりと笑ったミームの全身から溢れる闘争心は、空気をピリつかせるには十分すぎる熱量があった。いつも胡乱な言葉を吐いて、いつもニコニコと笑っている変な生物であり、神話生物であるミームだが、強いと言われている相手と戦い、叩き潰したいという闘争心もちゃんと宿している。

 久しぶりに見たミームのその表情に対し、楓は呆れたように笑う。

 

「結構戦闘狂だよね、君って」

 

「そういうのは柄じゃないんだ。俺のキャラじゃないしね。ただ、やるからには本気でやった方が楽しいだろ?」

 

「そういうところが戦闘狂だって言ってるんだよ。……っと、着いた着いた。ここ美味しいんだって」

 

 夕日が沈んでいく時間帯、夜になっても賑わい続ける繁華街の中でも仕事帰りのサラリーマンや、土木工事従事者などで賑わうラーメン屋に入った二人は、最近の出来事を話しながらラーメンに舌鼓を打ったのであった。




ミーム
化身は喋れた方がいいと思ってやってみたらできちゃった神話生物。そいつ本当に化身か?
実は雷門と帝国からスカウトのお話が来ていたが、全く興味がないまま終わった男。サッカーは好きだが、それ以上に雲明がいないサッカーに興味がない男。恐らく御恩人の一人の「好きだよ、円堂くん…君のその目!」的な性質を受け継いでしまったのだと思われる。御恩人、どうにかしろ。
「そういえばなんかお偉いさんかなって人となんか話した気がするなー……興味ない話すぎて忘れちまったよ」

星追いスペースキャット
恐らく化身。恐らく犬。恐らく亀。恐らく猫。姿がどんどん変わる。動く。喋る。光る。男の子が好きなギミックが詰め込まれた化身。こいつは恐らくDX。
御恩人達から「なにそれ、しらん…こわ…」と言われたのは恐らく喋るからだと思われる。

鬼瓦楓
不死身の鬼瓦源五郎の孫娘。手のかかる弟みたいな神話生物から久しぶりに電話が来たと思ったらストーカー捕まえるの手伝えという旨の連絡で相変わらず過ぎて呆れた。



雷門(みゃくなしのすがた)
この辺(長崎の隠喩)にぃ、上手いサッカー少年いるらしいっすよ
あっ、そっかぁ
(スカウトしに)行きませんか
行きてぇなぁ
ですよね。じゃけん夜(スカウトの隠喩)行きましょうね
(To Thousand years Later……)
あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(スカウト蹴られるどころか認識もされなかったをミームの両親から知らされたことによる絶叫)

帝国(みゃくなしのすがた)
この辺(長崎の隠喩)にぃ、上手いサッカー少年いるらしいっすよ
あっ、そっかぁ
(スカウトしに)行きませんか
行きてぇなぁ
ですよね。じゃけん夜(スカウトの隠喩)行きましょうね
(To Thousand years Later……)
ヌゥン!ヘッ!ヘッ!

ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛
ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!
ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!!!
フ ウ゛ウ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ン!!!!
フ ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥン!!!!(スカウト蹴られるどころか認識もされていなかったことをミームの両親から知らされたことによる野獣の咆哮)
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