フットボールフロンティア3回戦、その当日。
晴れ渡る空の下、会場である福岡・博多ベイスタジアムにて、南雲原サッカー部は試合前最後の作戦会議に励んでいた。
「何度も説明しましたが、今回の試合ではほとんどのメンバーが守りに徹することになります」
「何だかんだ攻撃力よりも守備力が高い……それが南雲原サッカー部よ。君達防御好きね。待ちガイル専?」
「「「誰のせいだと思ってんだ!!?」」」
変幻自在の神話生物、ミームによって攻撃力よりも防御力が高まっている南雲原サッカー部。もちろん攻撃力も上がってはいるが、どうすればサラダチキンを貪っている神話生物を止められるのかを考え続けているせいで防御力が全国レベルに到達しかけているのだ。
まぁ、そんな南雲原サッカー部の悲しき守備力向上の原因はさておいて、今回の南雲原サッカー部の作戦は守り続けて時間とスタミナを削り、その間にスピードキャラが点を取りに行くという防御からの速攻を意識したものとなっている。考案者は存外に理詰め思考な征と神話生物とつるみ過ぎてちょっと脳筋思考に寄っている雲明、ブラッシュアップを行ったのは改コーチだ。
敵陣を少し見れば分かることだが、南雲原サッカー部と東風異国館サッカー部の体格差は凄まじい。キャプテンの
「────だからこそ、攻めの主力はスピード自慢の桜咲先輩、忍原先輩。そのフォローを小太刀先輩と柳生先輩にお願いします」
「おう。……古道飼もスピード自慢だと思うんだが、DFだからな」
「ええ。亀雄には死ぬほど走ってもらうつもりです。前々から思っていましたが、亀雄はその瞬発力と体格を活かした守備が上手いですから。兵太と組ませたら突破できる人間は少ないでしょう」
「痒い所に手が届く守備範囲……それが亀雄と兵太です」
「な、なんか凄く期待されてる……?」
「プレッシャー凄い……」
確かに、と元北陽学園のメンバーが苦い顔を浮かべた。試合で戦った時、守備で最も嫌だったのは誰かと聞かれたら亀雄だったのだ。そしてその嫌な守備に合わせて噛みついてくる兵太という男のインターセプト……その後ろにいつの間にかいる妖士乃を筆頭としたDFの厚み。一枚目の分厚い城壁を突破したと思ったら、第二、第三の分厚い城壁が待っていたかのような防御力は、初手から必殺タクティクスを切らなければ点数が取れていなかったと思うほどであった。
そんな厄介なDF達の評価をしていると、相手チームのベンチから歩いてくる人影があった。
「ヘイ、ミーム!」
「ん? おお、カイ! 元気そうじゃんか」
相手チームのベンチからやってきたのは一人の外国人選手、カイ・吉崎。東風異国館のFWを務めている男であり、東風異国館イレブンの中でも体格に恵まれている人間の一人でもある。
そんな男は、旧友に会ったかのようにミームに声をかけて熱いハグを交わしてから、がしっ、と力強い握手を交わしていた。
「驚いたよ、まさかイベントで友となった君にこんなところで会うなんて!」
「ククク……南雲原の神話生物とはこの俺! 悪名高い寝戸壬為夢よ……!」
「相変わらずのようで何より……で、いいのかい?」
「そういうお前は相当がっしりしたな。あの細いカイ・吉崎はどこ行った」
「やめてくれよ! 家族にも揶揄われてるんだぜ、それ!」
HAHAHA! と互いに笑い合う二人に唖然とする南雲原サッカー部。なぜ今から試合をする相手とそこまで親しく話をしているのか────誰もがそう思う中、雲明が呆れたような顔でミームに問いかける。
「知り合いですか」
「おう。ちょっとしたイベントで知り合ってな。今はサブカル仲間よ」
「今日はよろしく頼むよ、南雲原」
「────ええ、こちらこそ」
想像していたよりもフレンドリーなカイに対して困惑を隠せずにいる南雲原サッカー部だったが、ミームと仲良くやれるのであればこのくらいフレンドリーであっても納得できると深く頷く。神話生物と仲良くしているという不名誉を賜るカイは、代表して握手を交わした雲明と征、そして鞘と七南を何度も見比べる。
「……どうかしましたか?」
「ああ、悪いね。どうしても気になることがあってさ」
「気になること?」
「ああ。…………誰がミームのコレだい?」
小指を立てる仕草を見せるカイと、彼の言葉の意味を繋ぎ合わせ────雲明と征は背後にきゅうりを置かれた猫のように急速にミームと距離を取って首を高速で横に振った。何もミームが嫌いなわけではなく、勘違いされるとヤバイと理解しているからだ。
「僕じゃないです」
「俺でもないよ!」
「じゃあ、そっちのお嬢さん達のどちらか……いや、両方だったりするのかな? ミーム、君の甲斐性なら────」
「いや全然! 鞘ちゃんと七南とはそういう関係じゃないってそれ一番言われてるから」
食い気味でカイの言葉を否定するミーム。南雲原サッカー部の空気が曇天の如く重くなったが、ミームもカイも気付かない。
「じゃあどういう関係なんだい?」
「友達、家族を超えた存在────そう、魂のブラザーさ……! ブラザーバンド組もうぜ。トライブキングやりたい」
「「ふんっ!!」」
「ごるぱ」
変な断末魔を上げて崩れ落ち、そしてすぐに起き上がるミーム。鞘と七南の蹴りを喰らってもなお大したダメージが入っていないのはさすがの耐久力と受け能力である。背中に鬼神が宿り始めているだけある肉体、その全てを余すことなく利用したマッスルコントロールによるダメージの無効化に成功しているのだ。こいつは本当に人間なのだろうか。
「ところで俺を蹴る必要あったか? 動物裁判どこ行った? あれは(法の下に)平等だぞ?」
「いや、何かイラっときたので。今のもクリーンヒットした音だけでちゃんと入ってないでしょ」
「壬為夢君に裁判なんて上等なもの与えられないわ」
「そうか、裁判ってのはいつの間にか高級品になってたんだな……」
「ははぁ、中々苦労してるみたいだな、そっちは」
何やらミームを取り巻く────というよりも、南雲原サッカー部を取り巻くどころか馬鹿みたいな吸い込み性能で、渦中に引きずり込んでくる神話生物の暴れっぷりを察したカイはクツクツと笑った。
「ミーム、君は試合に出るのかい?」
「いや? 俺はドギンダムⅩ並みに封印されてるからな。……でも、俺がいなかろうとこいつらは強いぞ」
「HAHAHA! それは何となく察してるさ。……うちのチームは結構慢心気味で参っちゃうけどな」
ま、試合が始まれば嫌でも本気になるだろ、と肩を竦めたカイは改めて南雲原サッカー部の面々の顔を一人一人覚えるように見回し────強者の風格が漂う笑みを浮かべた。
「楽しもうぜ、南雲原イレブン。ミームが見込んだ連中が相手なら、俺はマジの本気で挑ませてもらうつもりだからね」
サッカーモンスターとまでは行かずとも、ミームと関わった結果サッカーへの情熱が溢れているカイからの熱い挑戦に闘争心を燃え上がらせない人間は、この南雲原サッカー部にはいない。この男は間違いなく、南雲原サッカー部が今まで相対したサッカープレイヤーの中でも屈指の強敵になる────そんな予感があった。
* * *
まもなく試合が始まる────各チームが配置に着いて試合が始まるのを今か今かと待ちわびる中、神話生物と関わりがある男、カイ・吉崎は己の中から湧き上がるワクワクと闘争心を冷静に抑えるようにしながら、南雲原サッカー部を観察していた。
(強い……あのザ・ジャパニーズ不良って感じの彼の脚……相当に練り上げられている)
まず目に付いたのは、南雲原サッカー部のFWにして点取り屋の一人、桜咲丈二の脚。雲明や唯奈に「10万人に1人の脚」と絶賛されるほどの健脚は、海外のサッカープレイヤーも知っているカイの目からしても中々お目にかかれないレベルに練り上げられている。脚に自信のある人間は東風異国館にもいるが、丈二と張り合える者となれば────相当に数が限られていくだろう。
(そしてその隣の可憐なお嬢さん……見るからに柔軟性に富んでいる。……ダンスかな? 自分のリズムってやつがある人間は強敵だ)
次に目に付いたのは丈二と軽く話をしている少女、忍原来夏の柔軟性。丈二と話をしながらも体を伸ばしたりしている彼女の柔軟性と、軽快なステップから彼女がダンスか何かをしていたと察する。この観察眼はミームと関わりを持った時から培い始めたものであり、まだまだ拙いところもあるが、間違いなくカイの武器となっているものだ。
(一歩後ろで控えている背の高い彼や、ミームと魂のブラザーらしいサムライガールズも侮れない────っと、もっと後ろの選手達もヤバいね……)
本当に油断なんてしようものなら確実に喰われる相手だと冷や汗をかきつつ、口角が上に上がっていくのを止められないカイは心を落ち着かせるように深呼吸をしつつ────自分が所属するチームの様子を見る。
「ヒューッ、見ろよ皆! キュートなお嬢さん達が混じってやがる!」
「へえ、本当だ。にしても……日本の選手は線が細いね!」
「おいおい、こっちのチームにだって線が細いレディがいるだろう?」
「HAHAHA! ハニトラでも仕掛けてみるかい?」
「ちょっと、止めなさいよ!」
思わず溜め息が零れそうになりながらも、カイは平静を装う。慢心していないのは自分と、キャプテンの山之内東洋、そしてゴールキーパーのマルティノ・レオーネしかいないという状況にはもう溜め息を吐きそうになるし、こんな醜態を晒してサッカーをするなど、サッカーに失礼だと思ってしまう自分がいる。そして何より────ミームという光を飲み込む漆黒の極光を知らなければ、彼らのように醜態を晒していたかもしれない、そう思う自分がいる。
「ヘイ、キャプテン」
「カイ、南雲原に知り合いがいたのか?」
「ああ。……分かっているかもしれないが、南雲原は強い。ミーム……さっき会いに行ったやつが見込んだやつらしか向こうにはいない」
「カイがそう言うなら、間違いなく強敵だな……気張っていこう」
「オーライ。……他のやつもそうあってほしいんだけどな。最初から」
「同感だ」
お互いに苦笑しながらも、試合開始の時間が刻一刻と近付いていく。南雲原サッカー部と東風異国館、お互いの緊張が高まっていく中────試合開始のホイッスルが鳴り響き、観客席から大きな歓声が轟き渡る。
さあ試合開始だ、と意気揚々と来夏からボールを受け取った丈二からボールを奪おうと動き出したカイは、南雲原の初手に戸惑うことになる。
「行くぜ!!」
「何ッ!?」
「バックパス!? 初手から!?」
ボールと共に前線に上がると思っていたのに、初手からボールを後ろに下げるという行為。そしてそのままFW二人はボールを無視して前線を上げまくる始末。しかもバックパスの先に選手はいない。相手にボールを取ってくださいと言っているようなものだ。
「ハッ! ここまで来たのはまぐれらしいな!」
そう言ってボールに飛びついたのは東風異国館のFWの一人、ジョン・ビート。適宜の判断で動くことこそが戦術の一つとなってしまうが故に、個人技頼りでありそれが最も強い武器である東風異国館の選手らしい個人による突出した動き。
「もらい! そのまま点も────!?」
普通ならばボールを奪ってゴールまでボールを運んで終わりになるところだが────それを許さないのが南雲原イレブンというチームである。
「はいはい、ごめんよ!」
「読み通りすぎて笑えちゃうね!」
「「【ザ・マトリックス】!!」」
ジョンがボールを取った瞬間、前後を挟むようにして割り込んできたのは、受け取り相手のいないバックパスに釣られたジョンを捕らえるために動いていた兵太と征。同時に発動されたブロック技、【ザ・マトリックス】に挟まれたジョンは成す術もなく数式に擂り潰され、ボールを奪われてしまう。
「っし! 小太刀先輩!」
もはやシュートではないかと思う勢いで放たれた征からのキラーパスは真っ直ぐ、ただひたすら真っ直ぐに────7本の剣を展開している鞘の下へ。
「【グラディウスアーチ・改】ッ!!」
キラーパスを受けた鞘が放つのは地獄の特訓を経て強化された【グラディウスアーチ】。しかし、今までの【グラディウスアーチ】ではない。馬鹿みたいな挙動を見せるミームの【グラディウスアーチ】を見てきた鞘が至ったのは、ボールを蹴るだけではなく────剣の柄頭を蹴って加速させるという選択肢。
ボールを蹴った後すぐに1本目の剣を蹴り飛ばす。1本目の剣がボールに突き刺さらんばかりの速度で追従していく。続いて2本目、3本目と剣道で培ってきた正確かつ力強い蹴りが剣を加速させていく。7本目を蹴り飛ばした時には、近付くもの全てを切り裂く嵐と化したシュートは最前線へと辿り着いていた来夏に届いていた。
これもまた南雲原イレブンの十八番、シュートチェイン。神話生物と殴り合うために南雲原イレブンが覚えざるを得なかった、ロングシュートによるキラーパスを超えた超キラーパスシュートチェイン。こんなものを覚えないと神話生物と相対することができないという南雲原サッカー部に悲しき過去。
「さっすが小太刀先輩、ドンピシャ! 行くよ、桜咲!!」
「しゃあ、来い!!」
シュートチェインを目的としたキラーパスに、すかさず強烈な回転を掛けたシュートを叩き込む来夏。馬鹿みたいな速度と、馬鹿みたいな回転のシュート。これだけで必殺技と呼んでいい代物に、それ以上の韋駄天の如き俊足で追い付いてきた丈二が空へと飛び上がり、ドンピシャで全力のシュートをぶつけた。
「「【春雷・改】ッッ!!」」
放たれたシュートは剣の残滓が地面に突き刺さったことで土煙を生み出し、紫電の閃光を生み出す。土煙の中を蠢き、ゴールに向かって放たれた【春雷】は【グラディウスアーチ】の威力を上乗せした状態で────具体的には、紫電を纏う剣を伴ってゴールに迫る。
「【アウターワールド】ッッ!!」
マルティノが迎え撃つために発動したのは、己が最も得意とする必殺技、【アウターワールド】。発生させたエネルギーの糸によってシュートを絡め取り、放たれたシュートを止める強力な必殺技だが……剣を伴った【春雷】はその糸を軽々と引きちぎってしまう。
「グ……ううううおおおおおおおおおっッ!!?」
それでもなおゴールは決めさせないと言わんばかりに全身でシュートを受けるマルティノだったが、抵抗虚しくシュートがゴールネットを強く揺らした。
『ゴールッッ!! なんということでしょう!? 先制点を取ったのは南雲原!! 見事な連携で東風異国館の意表をついてみせた!!』
『バックパスをミスしたように見せかけ、油断を誘う戦術も見事の一言! まさかまさかの展開です!!』
実況解説の席や、観客からの興奮した声を耳にしながら、カイは拳を強く握って笑みを浮かべた。強敵であればあるほど燃える────神話生物との邂逅を経てサッカーの情熱が燃え盛る彼にとって、南雲原イレブンは最高の相手であった。
カイ・吉崎
超会議的なサムシングのイベントで神話生物との邂逅。なんか意気投合してサッカーへの情熱が溢れている愉快な選手となった。体格に恵まれた外国人版空宮征と呼ぶべきかもしれない。
鞘
神話生物の馬鹿みたいな挙動をするグラディウスアーチを見ていて色々ひらめいた結果菊一文字みたいなグラディウスアーチをやるようになった。神話生物はゲラゲラ笑いました。
魂のブラザー認定が気に入らなかったので蹴った。
七南
ミームからすれば可愛い後輩枠。可愛い子には旅をさせよと言わんばかりの地獄の特訓で彼女は一周目隻狼で首無し獅子猿(一回目)を倒した辺りの狼くらいには研ぎ澄まされた……かもしれない。
魂のブラザー認定が気に入らなかったので蹴った。なんか死ぬほどモヤットボール。