前半戦がまもなく終わる頃、東風異国館の選手達はようやく相手がまぐれで勝ち上がってきた無名チームではないと理解したのか、ほんの少しだけ焦燥感を滲ませながら攻めに入っていた。準決勝まで勝ち上がってきているとはいえ、自分達のフィジカルに物を言わせた個人技で圧倒できると思っていたというのに────そんな現実はやってこなかった。
「あら、隙だらけですわね」
「クソが!? 何度も喰らうワケねえだろうが!!」
「後ろからごめんよ!」
「いつの間────いない!?」
「騙されたね。トリックだよ」
横から入り込んできた少女、井馬里の必殺技モーションに気を取られたその一瞬の隙で妖士乃がボールを奪い取る。
どれだけ攻め込んだとしても、ツーマンセル、またはスリーマンセルで進路を潰され、空いている場所にボールを出したらそこにはもう亀雄がいたり、雅士がいたり、征がいたりなど、必ず南雲原イレブンの誰かがフォローに入っているせいでパスが繋がらない。
(ははっ、本当に強いなこいつら!?)
東風異国館のキャプテン、東洋は思わずといった様子で口角を上げた。サッカーへの情熱が溢れているカイと長い時間練習に明け暮れていたせいか、カイの相手が強ければ強い程燃えるという性質も若干伝染している節がある。
今のところ、南雲原が先制点を取った後は失点していないが、このままでは時間の問題だろう。動きを観察していれば分かる────南雲原イレブンは、間違いなくこちらのパターンを全て頭に叩き込むか、体に覚えさせている。データを見て、実際に仮想敵を作ってやってみようとしても、上手くいかないというのに彼らはそれを可能としていた。
(その一端を担っているのが────彼らというわけか)
東洋が一瞥したのは数名の人間。
膨大なデータを組み合わせて無数の戦術を編み出して相手を攻略していくデータのサッカーを行ってきた北陽学園サッカー部の空宮征、品乃雅士。彼らとも何度か試合をしてきたが、戦術を用いて思うように動けないという状況に追い込まれることが何度もあった。現在の試合も、彼らが必ずチームのフォローに入っているせいもあって堅牢な壁となっている。
そしてベンチに座って試合の行方を見ている笹波雲明と、どこから取り出したのか、レモンと蜂蜜が詰まった巨大な瓶からシロップを取り出してスポーツドリンクを作っている寝戸壬為夢────彼らが南雲原イレブンの厄介さを何段階も跳ね上げているのだろうと東洋は察していた。同じチームでサッカーをしているカイから、ミームのサッカープレイヤーとしてのレベルを聞いていたゆえに、東洋は試合でぶつかる前に個人的にデータを集めて調べ……雷門中や帝国学園からのスカウトを蹴ったという信じられない情報を得た。
そんな奇特な男はカイ曰く、厳重に封印されている状態であるという。恐らく南雲原イレブンが敗北するかもしれない、ともなれば出てくるかもしれないが、現状ミームが出てくる気配はない。ならば、どうにか同点に持ち込み、膠着状態を生み出してギリギリの勝負をするか────そんな考えが浮かんだ瞬間、東洋は自身を嘲笑するように息を吐いて笑う。
「それは雑魚の思考だろう……がぁ!!」
「なっ────」
ボールを保持して前線を上げようとしていた丈二から、ボールを奪い取った東洋が走る。早くはない。丈二であれば簡単に追いつける。特段足が速いわけではないから、ブロックのために南雲原イレブンの誰かが間に合う。
「ふっ────!」
「うわっ!? ごめん抜けられた!!」
「なんてボールコントロールなの……!?」
だが、奪えない。誰も東洋からボールを奪うことができない。奪おうとして仲間の邪魔になりそうになったりもしている。
フィジカルでは東風異国館のサッカープレイヤーの中でも下から数えた方が早い東洋は、考えた。自分が東風異国館でサッカーをするために、どんなプレーをすれば勝てるのか。自分よりもフィジカルに長けた選手にパスを回せるようにする? 否。自分がフィジカルを鍛えて彼ら並みになる? それも否。
考えに考え抜いた末、東洋が行きついたのは技術の向上。力で勝つことができないのならば、技で勝つ。必殺技を磨くだけが、技術の向上ではない。どれだけマークされたとしてもボールを持ったらパスを出すまで絶対に奪われないようにボールコントロールを鍛えた。今まで雰囲気でやっていた動きを一つ一つ丁寧に行い続けた。なんとなくでやっていたことが、一つ一つを丁寧にしていくだけで地獄のような特訓と化した。何度も止めたいと思ったが、それでも続けた先で────山之内東洋という男は、フィジカルエリート集う東風異国館サッカー部の数多くいる部員を押しのけて、キャプテンという存在となった。
「取れよ!! カイ!!」
パスが繋がる。絶妙なカーブがかかったパスは、湾曲しながら伸びていき。ついにゴール前で待ち構えていたカイへと届く。
「行くぜ、南雲原! これが俺の────【チートブラスター】だッ!!」
気合の籠った叫びと共に出現した無数の火球にシュートを打ち込むカイ。炎を纏ったボールが火球にぶつかった瞬間、その火球を取り込みながら次の火球に向かっていく。ぶつかり、取り込み、反射して……その度に威力と速度が上がっていき、遂に全ての火球を取り込んだシュートは上空から我流が守るゴールへと迫る。
『出たぁああ!! カイ・吉崎の【チートブラスター】!! 全国レベルで通用する高威力なシュートが南雲原のゴールに迫る!!』
『さぁ対するは南雲原のキーパー四川堂我流! 前半戦もあとわずかのこの状況、このシュートを止められるのでしょうか!?』
南雲原サッカー部のシュート技を持つ丈二達のシュートと遜色ないか、それ以上の威力を孕んだシュートを前にして、我流は緊張で体を強張らせることはなく、冷や汗を流しながらも笑みを浮かべて構えた。
「止めてみせるさ……! 僕は南雲原のキーパーなんだ!!」
我流の周囲に冷気が迸り、冷気が彼を包み込むことでまるで雪化粧のような着物を生み出す。
「【氷結の舞】!! 」
美しい舞が鋭く、正確な一閃を迫るシュートに激突する。一瞬の拮抗の末、巨大な火球を完全に封じ込めるように氷塊が火球を包み込む。誰もがカイ・吉崎渾身のシュートを止めた────そう思う中、真っ先に異変に気付いたのはシュートを止めた我流であった。
「────ボールがない!?」
氷塊の中に封じ込められた火球の中にはボールがなかった。放たれた火球には確かな質量があったが、それはボールではなく火球の質量であり、ボールではなかったのだ。
では、ボールはどこに行ったのかと探そうとした瞬間、真正面から先程の火球とは比べ物にならないサイズの火球が迫っていた。
「止めると信じてたさ。だから本命を残していた」
「くっ……!? う、ああああああ!!?」
最初に撃ち込まれた巨大な火球の後ろに隠されていた、本命の【チートブラスター】が南雲原のゴールネットを強く揺らす。フィジカルに任せるだけの必殺シュートではなく、相手を騙す技術が込められたシュートにより、東風異国館に1点の得点が入った瞬間である。
『ゴォオオオル!! カイ・吉崎の【チートブラスター】が南雲原のゴールを貫いたァ!!』
『隙を生じぬ二段構えの必殺シュート! 前半戦終了間際で同点に持ち込んでみせました!!』
実況解説の声が響く中、前半戦終了のホイッスルが響く。まさかまさかの展開を前にして、東風異国館が勝つと考えていた観客からもどよめきと番狂わせを期待する歓声が響く。
「次は、止めるよ」
「ははっ、いいね! そう来なくちゃ!」
(俺がもう一度シュートを打てる機会があればいいんだけどな)
互いのベンチに戻る時、すれ違った我流の呟きにカイは強気に笑う。点数的には互角。だが、間違いなく東風異国館は追い詰められている────カイは、何となくそう感じ取っていた。
* * *
「ははーん、さては隙を生じぬ二段構えファイアートルネード診療所を忘れたな貴様」
「うん、返す言葉もないのは分かっているんだけれど、その分身指差しは止めてくれないかい? 頬に刺さってるんだ」
某ポプテピピックの指差しのようになぜか手が無数のマスターハンドになっているミームが、我流の頬に人差し指が突き刺さる勢いで彼を突く。この先を見据えた特訓の中にあった、隙を生じぬ二段構え必殺シュートを対策する特訓をしていたというのに、ミーム以外でそんなことをしてくるわけがないと可能性を除外していたのだ。
まぁ、こんな神話生物がポンポン生まれていたら世界が滅んでいるか、世紀末まっしぐらなので、我流が可能性から除外していても仕方がないところがある。
「山之内東洋、カイ・吉崎、マルティノ・レオーネのスタミナが想定よりも多いことは予想外でしたが、それ以外は戦術が刺さってると言っていい」
「力は間違いなくあるんだけどなー……怒らないでくださいね。力だけでサッカーやるとか馬鹿みたいじゃないですか」
フィジカルは目を見張るものがあるし、個人技も大したものではあるとミームは思う。だが、足りていない。チームワークもスタミナも、技術もまるで足りていない。だから必殺タクティクスや二人がかりの必殺技を用いたブロックで擂り潰されたりしてしまう。
「ま、悲しいけどこれ、試合なのよね」
「ええ。戦術によってスタミナと精神を可能な限り削ったこともあって、後半、間違いなく動きが鈍くなるはずです」
肉体的にも、精神的にも削られている東風異国館の動きは、前半戦と比べて間違いなく鈍ってくる。そこを狙って攻め続けて点数を取る。万が一点を取られたとしても問題ないレベルまで、大量得点を狙って勝利する────それが今回の南雲原の戦術だ。
「うーん……このままだと私の新必殺技が披露できないまま終わりそうな予感がする……」
「七南、安心しろ。全国行ったら嫌でもやってもらうから。ところで旋風陣の進捗いかがですか」
「あー!? 進捗聞くのはルールで禁止ですよね!?」
「特訓にルールは無用だろ」
「ミーム先輩が設立したルールのはずですけど!?」
ギャンギャンと吠えるポメラニアンのように、進捗報告を聞いてきたミームへ迫る七南だが、「ははは、こやつめ」とペットの反抗を見守る飼い主のように笑うミームに頭をわしゃわしゃと撫でられて終わる。
重心を抑えられたことで前にも後ろにも進めなくなっている七南の頭を撫でまわしつつ、ミームは雲明の方を見て口を開く。
「そろそろ地盤固まってきたか?」
「ええ。この試合結果によっては────ミーム、君も解禁です」
「や っ た ぜ 。 投稿者:異常サッカー愛者」
「まだ早いですよ。あと異常サッカー愛者ってなんですか」
「サッカーを愛している者に贈られる
「「もはや不名誉まである」」
残念なことに、そのうち南雲原サッカー部のメンバーには平等に異常サッカー愛者の勲章が与えられることになっている。サッカーをやって、サッカーを愛し、サッカーに愛されてしまったのならば、この勲章を与えられることは当然の帰結なのだ。悔しいだろうが、仕方がないのだ。愛ほど歪んだ呪いはない。
「ほう、異常サッカー愛者は嫌かね……それならば……君達にサッカー狂信者の勲章を与えたいよ」
「「「もっと不名誉だろそれ!?」」」
試合よりもこいつの相手をする方が疲れるかもしれない……そんな今更な確信を得た南雲原イレブンは、無自覚の緊張が解れていることに気付くことなく後半戦に臨むためにコートに戻っていく。
「しかし、キツイ減量だったな、雲明」
「はい。ここまでプレッシャーになるとは思ってもみませんでした」
「これに勝ったら俺が実装……それが緊張に繋がるとは思わない……とは言わないが、ちょっと予想外かもな」
この試合の行方によってミームという神話生物がコートに立つかもしれない……ミームが試合に出られるか出られないかが、自分達の手にかかっているという状況────それが彼らに無自覚な緊張の根を生やしていた。
それに気付いてすぐに緊張を振り払うために一芝居打つことにした雲明と、それに便乗していつも通り胡乱な言葉を吐きまくったミーム。平常運転が過ぎる。
「ミーム」
「ん?」
「お待たせしました」
「大体1億2623万400秒か。早かったな」
「もっと待たせてる気がするんですけど」
「大体って言っただろ? 3153万6千秒を何回か加えても誤差だよ誤差。俺は雲明がいるサッカーがやりたくてここにいるんだからな」
ベンチで待機している予備の選手、マネージャーや顧問、コーチがミームの弾き出した秒数を聞いて何か変な生き物を見つけた時のような表情を浮かべる中、後半戦が始まる。
二人がかりでぶつかることでスタミナを削り取ってからボールを奪い取った南雲原イレブンは、今まで防御に専念していたメンバーも含めて前線を押し上げていく。まだまだ動ける人間と、スタミナ切れが近い人間の動きにバラつきが出て、連携をしようにもできなくなっているこの状況。地獄のサッカードリームプランを潜り抜けてきた南雲原イレブンに天秤は傾きつつある。
「カイ・吉崎と山之内東洋、あとはマルティノ・レオーネ以外のメンバーは、全力のその先まで戦ったことがないみたいですね」
「サッカープレイヤーダルルォ? しろよ、更に向こうへ……!!」
常に更に向こうへどころか、虹の彼方と繋がっているような神話生物が言うと説得力が違う。データでも、東風異国館はスタミナ不足で後半の得点率が低い。後半のボール支配率も低めになるところから、粘れば粘る程つけ入る隙が生まれてくる対戦相手でもあった。無論、それが難しいという話でもあるが。
想定以上の消耗に戸惑い、今にも倒れそうな程にフラフラしている選手もいる東風異国館の防御を抜けてゴールに辿り着くのは、獄卒達と縁側に座って茶を飲むような神話生物が贈る、雲明流サッカーエクスドリームプランの一部に触れた南雲原サッカー部にとって赤子の手をひねるようなものであった。
安心と信頼の兵太&征によるパス回しから始まるデータとデータの隙間を埋める安定感のある連携が、点取り屋達にボールを繋げていく。
「よし! 決めに行くよ桜咲君! 柳生君!」
「「おうっ!!」」
最初にボールを受け取ったのは征。彼のシュート技、【サンシャインブレード】を放つのかと観客の誰もが思っていたら、その予想を裏切る動きを征が始める。右手の人差し指と親指で輪を作り、口笛を吹いたのだ。
「お、完成したんだな」
「ええ、鬼気迫るギラギラ笑顔で桜咲先輩と柳生先輩を引き摺って完成させてました」
口笛が呼び水となってボコボコ、と地面から現れるのは数羽のペンギン。これこそがコウテイペンギンですと言わんばかりの堂々とした登場と共に飛び立ったペンギン達と共に征が放ったシュートを、さらに加速させるように丈二と駿河が同時にシュートを放つ。これこそは帝国学園の十八番であり、黄金時代から受け継がれてきた必殺技────
「「「【皇帝ペンギン2号】ッッッ!! 」」」
自由に空を泳ぐペンギン達と共にゴールに迫るシュートは、【春雷】や【剛の一閃】などに比べると古臭いようにも感じるが、威力は本物。その証拠に、【アウターワールド】を発動したマルティノだったが、ペンギン達の高速回転に網を破られてゴールを奪われてしまった。
『ゴール! ゴール! 南雲原2点目獲得!! まさかまさかの【皇帝ペンギン2号】が炸裂!!』
『皇帝ペンギンシリーズは進化を続けてきたことで、2号を見る機会はもうほとんどありませんでしたが、やはり凄まじい威力ですね!!』
観客も、実況解説も、南雲原も盛り上がる中、ミームは飛んでいったペンギンを見て違和感を覚えた。その違和感の正体を宇宙の真理を理解した猫のような表情で思案し……口を開いた。
「あれ、コウテイペンギンじゃなくてオウサマペンギンじゃね?」
「へ?」
「あんな流線型なボディしてねえのよ、コウテイペンギンって。寒さに耐えるためにずんぐりむっくりしてるんよね」
懐から取り出したノートに見事なペンギンの絵を描いたミームが、先程現れたペンギンと、コウテイペンギンの姿を隣り合わせにしてみせると────何だか色々と違うのが分かった。
「……ということは」
「自分のことをコウテイペンギンだと思っているオウサマペンギン……ってコトですか?」
「んにゃぴ……んまぁ、そう……よくわかんなかったです。俺もたまに皇帝ペンギンがマゼランペンギンとかになるし」
「「「ええ……」」」
ちなみにミームが打つ皇帝ペンギンは一人で打つせいで基本的に赤い。なぜ故障していないのか? それは召喚されたペンギン達も理解していないし、本人も故障していないからヨシッ! の精神で楽しんでいる。これを誰かに目撃された暁には石抱きの刑を行われること間違いなしである。
「まぁ、何にせよ……勝ったな」
「え? まだここから逆転される可能性も────ヒッ!?」
唯奈がミームの目を見てか細い悲鳴を上げた。
そこにあったのは虚無だ。全てを飲み込むブラックホールのような、色のない色。赤い瞳からハイライトどころか色すら消え去った、黒と白しか世界には存在しないと言わんばかりの虚無が、深淵がミームの目に宿っている。
「あーあ、つまんね。カイと東洋=サンとマルティノ=サンが可哀想だぜ。雲明、あの3人強奪しようぜ。レスバタッグバトルしようぜ。俺ステロ撒くから」
「確かに哀れですし、魅力的ですけど、止めましょう。虚無虚無プリンしてないで戻ってきてください、ミーム」
この世全てがつまらない、そう言われているような瞳に映っていたのは、スタミナが切れかけて諦めモードに入りかけている東風異国館の選手をどうにか鼓舞して「ここから全てをひっくり返すぞ!!」と闘争心を燃やしている3人。もはやミームの瞳にはカイ、東洋、マルティノ以外の東風異国館のメンバーは映っていない。逆に南雲原イレブンのメンバーは全てミームの目に映っていた。
「久しぶりに見ましたけど、やっぱり虚無虚無プリンしてますよね、ミームのその状態」
「そんなに虚無虚無プリンしてんの? 」
「鏡見てどうぞ」
「お、結構虚無虚無プリン」
「他の人達の士気に関わるのでさっさと戻ってこい神話生物」
「俺が虚無虚無プリンの使令だ」
「どっちかと言えば愉悦か壊滅でしょうがあんた。……増えるから繫殖か?」
「え、やだ。俺あの倫理観育ってない人に研究されたくない」
「一回研究されたら大人しくなるんじゃないですか?」
クソほどどうでもいい会話をしながら、虚無虚無プリンな瞳から通常の赤い瞳に戻ったミームが気付けば試合が間もなく終わる時間。最後の最後、延長戦にもつれ込んででも勝ちを狙おうと今シーズン最大最強の【チートブラスター】をカイが放とうとした、その瞬間であった。
「────【ハヤブサ返し】」
次元を切り裂くハヤブサのように鋭い刃がカイを襲い、ボールを奪い取った少女がいた。七南だ。虎視眈々とボールを奪い取る機会を狙っていた柔の刃が、見事にボールを奪い去った直後、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
『ここで試合終了ー!! まさかの番狂わせ! 強敵東風異国館を打ち破り、見事勝利をもぎ取りました南雲原中!!』
『できたばかりの無名、南雲原サッカー部がまさかの大化け! 九州地区予選、益々目が離せません!!』
「勝ったな」
「勝ちましたね」
「実装は?」
「全国入ったら確実に実装します。予選は……次の特訓でのレベルアップ次第です」
「あいよ。……ま、とりあえず今は出迎えだな」
ベンチに戻ってくる南雲原イレブンに向けて歩いていくミームは、一瞬だけカイ達の方を見る。その視線に気付いたのか、カイはミームを見て、肩を竦め、申し訳なさそうに笑ってから自陣ベンチに戻っていった。
「お疲れー。勝ったな」
「ミーム先輩! 見ました!? やりましたよ!」
「やるじゃんね。でも我流に出番譲っても良かったんじゃねぇの?」
「はは、まぁ次もあるから僕は気にしてないよ。正直、彼のシュートを受けてみて、課題も出てきたしね」
「聖人かよ」
飼い主に褒められるのを待つ犬のような七南を褒めつつ、ミームは征に問う。
「征、あれオウサマペンギンじゃね?」
「あ、それ俺も思ったんだよね。イメージがちゃんとできてなかったのかな」
「勝ちは勝ちだ。……つか、寝戸だってマゼランペンギンだろうが」
「あれはコウテイペンギンじゃなくてもよくね? ってなった時だけだから」
それでできるやつもおかしい、とは誰もツッコまなかった。好き好んで深淵を覗き込む人間など、この世にそこまでいないのだから。一人一人に労いの言葉と反省点を聞いて回るミームは不意に、手を握られた。
「どした鞘ちゃん」
「大丈夫?」
手を握ってきた鞘は、どこか心配そうに問いかける。どこか痛い所はないかと聞いてくる心配性な姉のような、疑いと心配が混ざった空気と表情で。
「? 元気いっぱいだけど?」
「……そう」
「大丈夫だって安心しろよ~。ヘーキヘーキ、ヘーキだから。むしろ鞘ちゃんの方が疲れてるでしょ。シャトルバスで寝たら? 起こすから」
いつも通りの道化師のような笑みを張り付けたミームは平常運転。どこか棒読みっぽい声音で「帰りましょー」と言って帰宅準備を整えていく。その際に汗を拭き取るタオルと敏感肌にも優しいボディシートを全員分配っているのがこの男である。
ミーム
神話生物にして虚無虚無プリン。虚無虚無プリンするとヒソカに「ボクがキルアを殺するのはアリかい?」と聞かれた時のイルミみたいな目になる。もしくは無表情炭焼きの息子。あるいは渋谷事変覚悟完了虎杖。
雲明
虚無虚無プリンに対しても動じない精神力。やはりこの男は異常サッカー愛者の称号持ち。気持ちは分からんでもないと心の中で思っていた。
七南
なんかポメラニアンというか、ゴールデンレトリバーっぽいキャラになってしまっている。どうしてかは分からん。
鞘
試合中虚無虚無プリンモードに突入したミームに気付いた。