ハァイ、南雲原。サッカー楽しんでる?   作:エヴォルヴ

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軽いし短い繋ぎのお話…っぽい何か。多分。

寝戸壬為夢の容姿はこう…やる前に回避しそうだけど、指を口に捻じ込まれてえずいたり、首絞められて口から唾液を垂らして視界の端で火花がチカチカ瞬くような状態になってるのが似合いそうな感じ。そうなる前に回避するけどな!!


君達は生き残ることができるか

 東風異国館との試合を終えた翌日。自宅でサッカーニュースをラジオで聞きながら過酷な筋トレを行っていたミームは、いつもの笑みを消して真剣な表情を浮かべていた。

 

『雷門中のエース、円堂ハル選手が試合中に怪我をしました』

 

『怪我はかなり酷く、再起不能であると考える専門家もいるようです』

 

『怪我の原因についてサッカー協会、警察、学校などが目下捜査中で────』

 

 そこまで聞いてからラジオの周波数を変えて音楽番組へ切り替えたミーム。全身余すことなく汗でびしょ濡れになっている神話生物はタオルで汗を軽く拭きつつ、シャワーを浴びる。防水仕様で風呂で水没しても壊れないどころか、健在というとんでもラジオから聴こえてくる音楽はロックとクラシックの融合という一風変わった音楽。

 

 あまり聴かないながらも、存外に悪くないと思いつつ、ミームは先程のニュースについて頭を回し────多分戻ってくるだろう、と結論付けてすぐに別のことに思考を割き始めた。この男、切り替え速度が人外のそれである。

 

『ところでお菓子の準備はできてるのかい?』

 

「もち。昨日焼いたやつの他にも今オーブンに入ってるやつも含めて完璧よ」

 

『紅茶も用意してるし、用意周到だね』

 

 濡れることを気にすることなく、湯船に浸かるアンニュイな顔をした巨大なキジトラ猫スペースキャット。姿がどんどん変わることに定評があるこの化身、風呂でも平常運転である。頭の上には手ぬぐい、手元にはヒノキで作られた桶と徳利と猫草が入った器。もちろん徳利の中身はお酒ではなくマタタビジュース。この程度では酔わないのがこのスペースキャットという化身である。

 

『シュークリームにクッキーに、ショートケーキ……手の込んだものばかりだ』

 

「しかもプロテインを加えることで筋肉への栄養にもなる……筋肉にはチートデイが必要なのだよ」

 

『チートデイでもプロテインを欠かさないその精神は尊敬に値するよ』

 

「嗜む程度だけどな。あくまであれは補助……日々の食生活の改善こそが体を磨くことに繋がる」

 

 そう言って全身の泡という泡を流して垢すりで全身の垢を削ぎ落していくミーム。をプロテインを使わずとも背中に鬼を宿しかけている男だ。面構えが違う。

 

 全身の汚れという汚れを落とし切ったミームは入浴剤を入れた湯船に浸かり、過酷な筋トレで酷使した肉体を癒していく。分身しながら筋トレと菓子作り、それと洗濯や洗い物といった家事を熟すことで自身の体力と筋肉を磨きつつ日々のタスクを並行して消化する無駄に洗練された神業だ。

 

 この分身のことを教えた恩人も、まさかこんなところで分身が使われているとは思わないだろう。知ったら確実に困惑するか、友人達と共に爆笑するかの二択なのは間違いなしだ。

 

「そういえば京前嵐山勝ったらしいな」

 

『みたいだね』

 

「電話越しでも熱がこもった声だったの怖い……怖くない……?」

 

『お、そうだね。君が来るのを確信している声だったね』

 

「そしてマネージャーさん? から怒られてて思わず笑ったのは……俺なんだ!」

 

『全く堪えてなかったけどね』

 

 ミームが震えているせいで、湯船が音叉を放り込まれたかのように震えて水面が揺らいでいるのはご愛嬌。全身スマートフォンバイブレーション機能と化した男は、突然スン、と表情を消して脱衣所の方に目を向けた。

 

「早ぇよホセ」

 

『インターホンが鳴ったね』

 

「仕方ねえな……プライベートで風呂入ってる時に……」

 

『お風呂はいつでもプライベートだよね』

 

 もう少し時間があると思っていたが、来客は予定よりも早くミームの家を訪ねてきたようだ。深淵から深き者達と共に止まらないオルガBBしながら【ムゲン・ザ・ハンド】でカバディしてくる神話生物の家を訪ねてくるとは、中々に肝が据わっている客人である。

 

 客人を待たせるのは流儀に反すると、髪を乾かすこともせずに体の水気を拭き取るだけ拭き取り、動きやすいポロシャツと黒いパンツというシンプルな部屋着に着替えたミームは、インターホンを一定間隔で鳴らす客人を出迎えるために鍵を開けようとして────外から鍵を差し込まれてガチャリと鍵が開く。客人はどうやら痺れを切らして鍵を開けたらしい。

 

「壬為夢君、入るわ────ね……?」

 

「早ぇよ鞘ちゃん。いらっしゃい。雲明は?」

 

「────────」

 

「? 七南、雲明は?」

 

「────えっと、飲み物買いに行ってますよ! コーラとか、ドクペとか!」

 

「三ツ矢サイダーを忘れてはいけない(戒め)。まぁ、それはそれとして、入ってどうぞ」

 

 一般家庭の一軒家としては結構広めなミームの家にやってきたのは、腐れ縁レベル60の鞘と腐れ縁レベル30の七南。今日はミームに誘われてスイーツを集り(風評被害)に来た。

 

 コーラなどの飲み物を買いに行くという口実を作って一定時間逃走することに成功した雲明と征は、時間が経ちすぎるとミーム自ら探しに来てリアルガチの女装大会が始まることになっている。ミームの家に遊びに行きながら逃げようとするという行為には、そういったリスクが常について回るのだ。この女装大会は異常サッカー愛者たる雲明と征であっても、バチバチに女装を決めた自分を鏡で見せられて羞恥心よりも先に、新しい扉が開きかけるというとんでもない大会である。恐らくミームはカマバッカ王国でも上手くやっていける素質があると思われる。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 さて、視点を鞘と七南の二人に変えよう。

 東風異国館との試合に勝利し、フットボールフロンティア本選出場まであと一歩というところまでこぎつけることができた南雲原サッカー部のいつもと変わらぬ過酷な特訓をしていたある日。久しぶりに腐れ縁全員で集まろうという話になったのだ。ちなみにお泊りである。許可? ミームの家に行くと言えば鞘の両親も七南の両親も二つ返事で許可をくれるし、雲明と征の家も言わずもがな。ジュースみたいな軽い手土産を持っていきなさい、くらいしか言われない。

 

 そんな感じでとんとん拍子でお泊まり会が決行されることが決まった腐れ縁共。下手をすれば馬に蹴られるかもしれない可能性だってあったというのに、何だかんだと言いつつワクワクしている雲明と征も中々大概である。恐らく内なるサディストだけではなく、内なるマゾヒストも飼いならしていると思われるが……

 

 腐れ縁達のお泊まり会は朝から背徳を感じるところから始まる。普段はやってはいけないことだと理解しているからこそやらない、朝っぱらからスイーツとジュースを飲むという背徳。そのための準備を欠かすことはできないので、お泊まり会の前日から色々と準備をしていた腐れ縁達。過酷な特訓にいつも以上に熱が入ったのはここだけの話。

 

 そして待ちに待ったお泊まり会当日、7時30分頃に集合した腐れ縁達。雲明と征は飲み物を買ってくると言って離脱し、鞘と七南が一足先にミームの自宅へと足を運んだ。ほとんど毎日顔を合わせているというのに、休日にこうして会いに行くと少しだけソワソワしたりドキドキしたりするのはご愛嬌というやつである。

 

「……あら? 出てこないわね」

 

「寝てるんですかね、ミーム先輩」

 

「ううん……ちょっと前にメッセージを送ったら既読と返信が来てたと思うんだけれど」

 

 インターホンを鳴らし、ミームがドアを開けるのを待ってみたが、開く気配はない。神話生物が近くにいることを示す、あの妙なオーラというか、周囲の空気とは違ううるさいのに静か、静かなのにやかましいという矛盾した空気感が家の中から放たれているため、間違いなくいるはずなのだが……ミームが出てくる気配がない。

 

 試しに何度か、一定間隔でインターホンを鳴らしてみるが、ミームが出てくる気配は変わらずない。

 

「うーん……入っちゃいます?」

 

「……そうね。幸い、鍵はもらっているし」

 

 腐れ縁には自宅の鍵を渡しているミーム。恐らく神話生物には悪用される可能性とか、襲われるとか、そういうリスクがすっぽ抜けていると思われる。

 

 そうして預かっていた合鍵を使ってミームの家の鍵を開けてドアを開けた瞬間────

 

「早ぇよ鞘ちゃん。いらっしゃい。雲明達は?」

 

 いかにも風呂上りで慌てて玄関に来ましたという風のミームが視界に飛び込んできた。それを目撃した二人の少女の性癖はバキバキに砕かれたと言ってもいい。そこ、元々ぶち壊されているとか言わない。

 

 乾かす暇がなかったのか、かき上げられた髪はほんのりと湿って艶やかで、風呂上りでほんのり赤くなっている顔と併せて色っぽい。無駄を削ぎ落し、背中に鬼が宿り始めている体は相変わらず心臓どころか脳に悪い。そんな体を隠すポロシャツは薄い生地ということもあってか拭き切れていなかった水気を吸ってミームの肌に張り付いている部分もある。さらに言えば慌てて出てきたせいでボタンを留めていないために胸元ががっつり開いていて、鎖骨などがはっきりと見える。

 

 鞘と七南に電流が奔ったと同時に性癖がぐちゃぐちゃにされた瞬間────そう言わざるを得ない。

 

 元々、ミームは、寝戸壬為夢という男は凄くアレなのだ。黙っていればミステリアスでそこはかとない艶を感じさせる男なのだ。常に胡乱な言葉を吐くし、神話生物だし、怪生物だし、化生なのだが。

 

 中学2年となったミームはどういうわけか色気が出始めたのだ。こう……本当に、何とも言い難い艶やかで妖しい雰囲気が出始めたのだ。それを帳消しにするような勢いでミームは常に神話生物しているわけで、気付いている人間も少ない。

 

 そもそもの話、親譲りで顔がいいミーム。関わったら破滅しそうな感じの、ミステリアスで、近づきがたいのに近付いてしまいそうになるような、危険な香りがする顔付きというべきだろうか? 南雲原サッカー部がそんな話を聞いたら真顔でスッラのようなことを言うレベルで顔以上に人間性が恐ろしいのが神話生物たる由縁。

 

 そんな男が凄く柔らかい笑みを浮かべたり、獰猛な笑みを浮かべたり、子供らしいはしゃぎっぷりを見せたりするというギャップが脳を狂わせる。きっと胡乱な言葉を吐きまくったり、明らかに人間の挙動ではない行動をしない世界線のミームはそれはもうモテたのだろう────そんな確信が、腐れ縁達の間にあるくらいだ。実際、県外に遊びに行った時、少し年上の────高校生くらいだろう────女性にナンパされていたところが目撃されている。ナンパをしたJK達はもう少し男を見る目を鍛えた方がいいと思われる。

 

 まぁ、とにかく。ミームは纏う空気も顔も体つきもエロいのだ。このまま成長していけば立派なドスケベで死ぬほどエッチな男に変貌すること間違いなしの男なのだ。そんな男の色気ある姿を見れば誰だってフリーズする。誰だって脳が壊れる。誰だって性癖がめちゃくちゃになる。

 

 そんなデンジャラスビーストに招かれ、どうにかフリーズから復帰した二人は通された居間に用意されたお菓子類に目を奪われた。

 

「相変わらずとんでもないというか……」

 

「ふわぁあ……! クロカンブッシュなんて初めて見ました!」

 

「マカロンタワーも考えたけど、やっぱりこれがいいかなって」

 

 鞘と七南の視界に映るのは、巨大なシュークリームの山。プチシューがクリスマスツリーのように積み上げられ、カラメルで固定されたクロカンブッシュである。ちなみに土台も食べられるように外側サクサク、中はふんわりクロワッサンが無駄に洗練された無駄な技術で積み上げられている。

 

「さて、あと5分経って雲明と征が来なかったら探しに行くかな」

 

「程々にしてあげなさいね」

 

「え? あの程度の女装は序の口でしょ。チョコラテかよ鞘ちゃん」

 

「あんなガチガチの女装大会はさすがの私も同情しちゃいますよ?」

 

 モニュ……とクロカンブッシュのプチシューと呼ぶには少々大きいプチシューを口いっぱいに頬張った鞘と七南は、口の中に広がる暴力的な甘さと、用意された紅茶に舌鼓を打ちつつ苦笑した。ミームはもう準備体操を始めて雲明と征を探しに行く準備に入っている。

 

「お邪魔します!」

 

「あっぶねえ! 地獄が始まるところだった!!」

 

「チッ、もっと早く探しに行けばよかった」

 

「「命と尊厳を拾った」」

 

 もう少しで探しに行って女装大会が始まる、そんなタイミングでロードランナーが如く飛び込んできた雲明と征。本当に持病があるのかと思うような速度だったかもしれないが、気のせいである。




ちなみに私は男性受けが好みです。女の子にバチクソに攻められて男としての尊厳とか色々滅茶苦茶になるくらいが私好み。はい、これで君達とも親友だな。
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