ハァイ、南雲原。サッカー楽しんでる?   作:エヴォルヴ

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次回にはほんへ行きます


悪いが腐れ縁達の宴の描写はキャンセルだ

 腐れ縁達の宴から二日後。今日も過酷な特訓を熟した南雲原サッカー部の部室に集まった部員達は、巨大な鍋で煮込まれたトマトチゲ鍋を我先にと口にしていた。今回は豚バラ肉を使っているため、ガツンとこってりなのにトマトと香辛料で無理なくたくさん食べられる仕上がりとなっている。

 

「うめっ、うめっ」

 

「汗やば……」

 

「涼しい環境じゃなきゃ熱中症待ったなしだぜ」

 

「前も思ったけれど、どうして鍋なの?」

 

「「「青春おでんをご存じない!?」」」

 

「いきなり増えないでくれる?」

 

「「「ハイデース。あと、鍋が一番栄養を取りやすいんだ。悔しいだろうが仕方がないんだ」」」

 

 汗だくで鍋をつつくサッカー部達を見て、生徒会長兼サッカー部マネージャーの妃花が問いかけると分身しつつもちゃんと理に適ったことを口にしてくるミーム。体を磨くために料理についてもあれこれ勉強している男だ、面構えが違う。ちなみに教材及び指導は雲明以上のデータキャラである唯奈が行った。対価はミームの筋肉の研究。このマネージャー、マタギ並みにスケベなのかもしれない。

 

「今回のメイン食材は豚肉。そこに玉ねぎと少量のにんにくを加えることで疲労回復効果を高める。そして野菜をたっぷりと加えている」

 

「スープには大豆やナッツ類なども加えて作った特製タレです。スポーツ貧血というものもありますからね鉄分の確保は急務です」

 

「レバーとかのイメージあるけど、違うんだな」

 

「サプリもあるくらい、鉄分足りてない人間多いんだよな。赤身を食いなさいシンジ君」

 

 部室に備え付けてあるホワイトボードに留められている食材表を指さしながらはちみつをハンドミキサーで撹拌し続けているミーム。十分に空気を含ませてインスタントコーヒーをぶち込んで攪拌してから冷凍庫にぶち込めば、お手軽ジェラートの完成である。なお、この化生がそんなことをするわけもなく……凍りながら回転する【エターナルブリザード】の性質を利用して凍らせながら攪拌している。

 

「この時期ならカツオがいいぞ、雲明ィ……最近貧血気味だっただろ」

 

「なぜそれを知っている……?」

 

「見て触れたら分かるだろ」

 

「本当に距離を取れ」

 

 全身に鳥肌を立てつつ肘鉄を叩き込む雲明に、達人の間合いで回避しつつ迫るミーム。いつものことながら仲がいいなぁ、と誰もが思いながら鍋と共にご飯をかき込んでいると、ミームがフクロウのような首の回転を見せて口を開く。

 

「お前らも例外じゃないぞ」

 

「へ?」

 

「俺、見て触った人の身長体重諸々分かるんだよね」

 

「こいつ一度シバいても許されるんじゃありませんこと?」

 

 陽愛の言葉に頷きかける男衆と、少し殺意の波動が滲み出ている女衆。身長はともかく、体重という女の子としては知られたくない情報をこの神話生物が完全に把握しているというのは、非常に遺憾であった。記憶喪失になるまで囲んで叩くことも辞さない、そんな思考が女性陣で一致し始めている中、某宇宙戦艦が渦中に向かいそうな着信音が流れ始める。もちろんミームのスマホである。

 

「ちょっと失礼。────お待たせしてます、寝戸です」

 

「「「!?!?!?!?!!?!?」」」

 

 南雲原サッカー部に電流奔る────! 電話の相手が誰なのかはともかく、あの神話生物が、あの怪生物が、あのミームが、まともな言葉遣いで電話対応しているということが珍しすぎるせいもあって、何か恐ろしいものを見ているような気分になったのである。

 

「あ、船長! お世話になってます! 前送ってくれた魚美味かったです! 両親も喜んでました」

 

(船長……?)

 

(魚屋のことか?)

 

「今年は……あー……ちょっと部活入ったので夏休みに沖縄行くかどうかちょっと微妙なんすよね。釣りしたいっすけど。両親も忙しいですし」

 

 ミームの電話相手は沖縄にいるようだった。青い海、白い雲と砂浜で海水浴するどころか、海の上を爆走しかねない神話生物が沖縄で船釣り────まぁ、そういう妖怪なのかもしれないと誰もが納得するだろう。下手するとカジキマグロを一本釣りしているかもしれない。そんな信頼がミームにはある。

 

「あ、そうなんですよ。サッカー部です。南雲原の。…………あ、はい、はい。あー……マジですか。今年そんな感じで……なるほど。そりゃそうだ。残念」

 

 何かに納得して苦笑するミームを見て、首をかしげる南雲原サッカー部メンバー達。ミームが残念と言うようなことを電話相手から聞かされたらしい。心なしかミームの背中が労働後に疲れ切った社会人のように見えた。心なしか、というレベルなので気のせいかもしれない。

 

「じゃ、機会があったらサッカーしましょ。ええ、はい。もちろん。……じゃあ失礼します」

 

 電話を切ったミームはそのまま南雲原サッカー部メンバー達に向けて何かを言おうとした直後、征がミームを指さす。

 

「こいつ偽物じゃないか?」

 

「なにっ」

 

「偽物って……誰かが寝戸に変装してるってことか?」

 

「まさか────“S”?」

 

 電話を真面目な感じで受けていただけでこの対応、ミームという男をどう扱えばいいのか学び始めている南雲原サッカー部メンバー達は、恐らく社会の波に揉まれようが生きていけるタフなメンタリティーの持ち主だと思われる。

 

「まぁ、俺が“S”だったとしても君達にいいニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きたい?」

 

「じゃあ悪いニュースから────」

 

「いいニュースはお前達が立派なフットボールフロンティア地区予選突破者となったことだ」

 

「選択肢の意味はどこへ!? ……って、予選突破?」

 

「おう(威風堂々)。次の対戦相手、海祭りに参加するから決勝戦棄権だってさ」

 

「「「………………はああああああああああ!!?」」」

 

 まさかの事態に叫ぶ南雲原サッカー部。サッカーをやっている人間であれば、誰だって憧れるフットボールフロンティア、その全国出場を賭けた試合を前にして棄権するような学校があるとは思ってもみなかったのだ。

 だが、決勝戦でぶつかる予定だったのは沖縄の強豪、大海原中。かつて円堂守世代のイナズマジャパンとして活躍した男、綱海条介が監督として率いている学校であり────結構ノリと勢いで生きているような人間が集まっている。

 

「大海原中がある村で行われる海祭りは地元の人間にとって最も大事な行事。地元の人間がこれに出ないのは、人間を辞めるに等しい……!」

 

「大会よりも祭りを優先するのか……」

 

「風邪引いて寝込んだ船長が血涙流してたから、マジで大事な行事なんだよなぁ……」

 

「そんなにかよ……というか、なんで船長? から大海原中が棄権するって話が来るんだ?」

 

「え? さっき電話してた船長が大海原サッカー部の監督だからだけど」

 

「「「え?」」」

 

「で、悪いニュースだが────」

 

「待て待て待て待て!! 結構デカい爆弾情報投下してそのまま話を進めるな!?」

 

 そんな要望を聞くようならば、寝戸壬為夢は神話生物として名を上げていない。駿河の訴えを無視して、南雲原サッカー部にとっての悪いニュースについて話題を変える。

 

「強敵との戦いを一つスキップしたことでレベルアップの機会を一つ失ったこと……これが悪いニュースだ」

 

「そうかな……そうかも……」

 

 ミームと関わり続けたせいで、戦闘狂として目覚めかけている可能性がある哀れな南雲原サッカー部のメンバー達。もう重症で手遅れな気がしてならない。

 

「まぁ、何にせよ全国出場校に選ばれたのはめでたいことよな。祝いの席を用意しなければ……な」

 

 なんだか拍子抜けするというか、事実を受け入れるまでに時間を要するし、騒ごうにも騒げない驚き方をしてしまったせいで、喜んではいるがそこまではしゃぐレベルではない南雲原サッカー部。そんな彼らは鍋をつつきながら雲明の方を見る。

 

「何にせよ、今日で全国出場が決まったことはめでたいです。ここまで来れたのは皆が活躍して、そこの怪生物の無茶振りを超えてきたからだ。……本当に、ありがとう」

 

「本当の戦いはここからだけどな……サッカードリームプランルナティックってなんだよ」

 

「あれのさらに先があるので楽しみにしておいてください。ミーム監修のエクスドリームプランです」

 

 どうしよう、絶対に参加したくないけど、参加したら絶対に強くなれるのが分かる────そんな葛藤を抱えて苦悩する南雲原サッカー部のメンバー達を見渡し、雲明はスケジュールがみっちり記載されたノートを開く。

 

「本来であれば大海原中対策をするところでしたが、僕達には1ヶ月という猶予が与えられた……つまり、超強化月間を設けることができる!」

 

「急げっ、乗り遅れるな! レベルアップ・ラッシュだ!!」

 

「なるほど、全国に向けてのチーム強化か……」

 

「今までの特訓や試合で見えてきた課題の攻略、個人技の強化に、サッカードリームプランなど、やるべきことはいくらでもありますからね」

 

 チームのレベルアップは急務を超えた急務であるため、この1ヶ月という長い期間を得ることができたのは間違いなく大きなチャンスである。

 

「この1ヶ月を使って全国に通用する南雲原サッカー部を作り出し────そして、そこの神話生物を実装します」

 

 バッ、とミームに視線を向ける南雲原サッカー部。その視線は喜びもあるにはあるが、それ以上に不安や疑問なども入り混じっていた。そして、その負の感情を消し去る以上の闘争心が、彼ら、彼女らには宿っていた。

 

「皆さん自覚しているとは思いますが、ミームとサッカーをするにはまだ足りない。土台はできています。ですが、そこの戯けた化生は僕達の予想を飛び出していく。そして僕達に死ぬほど期待してくる」

 

「えっ!? これからはもっと期待していいのか!?」

 

「ああ、今まで以上に期待しろ」

 

「サスガダァ……!」

 

「分身して自作自演で期待のハードルをぶち上げてくるのがこの神話生物です。しかもポテンシャルを引き上げるのが死ぬほど上手い最高で最悪の神話生物です」

 

 分身してふざけたダンスを披露している神話生物に対して辛辣な雲明は、そろそろどこかの鉄工所で鋼鉄製のハリセンを作ってもらおうかと考えつつ、強い眼差しを以って宣言する。

 

「この神話生物を逆に食い潰す勢いで、南雲原サッカー部を文字通り死ぬ寸前まで鍛えます!」

 

「まぁ、俺は豊穣(サッカー)を信仰してるから食われようが再生するし、お前らが死んでも彼岸から引っ張り上げるんだけどなブヘヘヘ」

 

「サッカーモンスターなんて生易しい表現はしません。異常サッカー愛者兼サッカー狂信者兼神話生物寝戸壬為夢を埋もれさせるレベルで、頑張ってもらいます!! これは決定事項です!!」

 

 スタメン入りしているメンバーも、今はスタメンに入っていなくとも、スタメンになる可能性を秘めているメンバーも含めて、雲明の言葉に強く頷く。全員で勝つ。全員で戦って、頂点の景色を見るんだという強い意志を宿した南雲原サッカー部は、間違いなく全国大会常連校に負けないくらいの熱量を持っていた。

 

「ミームのギアもフルスロットルにしていくつもりなので、ここからが地獄です! 張り切っていきましょう!!」

 

「「「おおーっ!!」」」

 

「あ、〆はチーズリゾットな。デザートもあるから腹に余裕を持って食え」

 

「「「おおー?」」」

 

「そんでもって────」

 

 ミームが部屋の片隅にあるテーブルを見れば、部屋の隅で資料を纏めていた改と、誰かと連絡を取っていたらしい栄子が盛り上がりを見せる南雲原サッカー部のメンバー達に顔を向ける。

 

「来週から強化合宿を行う」

 

「学校側の許可と、合宿の場所は先程決まったから、皆頑張ろうね!」

 

「「「……へ?」」」

 

「いやぁ、楽しみだなぁ! 富士山久しぶりに行くな!!」

 

「「「……え゛?」」」

 

 南雲原サッカー部、強化合宿のために富士山行き、決定!!




ミーム
虚無と書いてサッカー、豊穣と書いてサッカー、壊滅と書いてサッカー、愉悦と書いてサッカー、存護と書いてサッカー、記憶と書いてサッカー、といった感じでどんな神様であってもサッカーの神様として信仰してみせる異常サッカー愛者にしてサッカー狂信者。恐らく星の神様も使令も困惑する。困惑しているところを狙ってサッカーに参加させる。
質が悪いことに、ポテンシャルを引き上げるし、死ぬほど期待してくる。「やればできるじゃん!じゃ、もっと行ってみようか」を素でやってくる。質が悪い神話生物。

雲明
質が悪い神話生物の期待に応え続けてしまったせいでミームが「あっ、期待しまくっても応えてくれるし、遠慮しなくていいんだ」となってしまった元凶を超えた元凶。応えられてしまうサッカーモンスターが悪い。
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