ハァイ、南雲原。サッカー楽しんでる?   作:エヴォルヴ

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オラッ!化身!化身解除!

 強化合宿某日。教室のような一室で、ジャージ姿のミームと向かい合っている少年がいた。我らが縁の下の力持ち、兵太だ。

 

「というわけで雲明から言われていると思うけど、化身についてお話します」

 

「あの……なんで俺なんですかね?」

 

「南雲原式化身闘法に最も適性があるのがお前だからだが?」

 

 兵太を一言で言えば、誰とでも合わせられる超安定した繋ぎプレーを行える選手。本人は特に何も言うことはない、誰にでもできるようなことをしているだけと公言しているが、貴様のような縁の下の力持ちがいて堪るかと誰もが思っているし、誰もが兵太に言い返した。

 そんな彼の誰とでも合わせることができるという強みをさらに高めるための手札────それが南雲原式化身闘法である。

 

「んで、早速だがそもそも化身って何だよって話からしていこうか。兵太、化身ってどんなイメージがある?」

 

「えーっと……なんか凄くて、試合をひっくり返すこともあるもの……?」

 

「YES! そういう漠然とした強力なものってしかほとんどの人が理解してないわけだが────」

 

 話ながらもホワイトボードに絵を描いていくミーム。

 

「化身とはいわゆるオーラの具現! サッカープレイヤーの気力が一定以上に高まった時、具現化する存在!」

 

「一定以上……てことは、化身の出力とかに個人差があるってことですか?」

 

Yes indeed(そうさね).かつて化身使いが勝敗を分けることもあった。ゆえに低出力の化身の力を底上げをする方法もあるわけだ」

 

 描き足されたのはいくつかのパターン。一つ目は化身を発動させているプレイヤーの隣にもう一人化身使いを用意して、力を合わせる方法だった。

 

「一つ目は化身融合。化身と化身を合体させることで新たな化身を生み出す方法! 複数人の化身使いがいるチームではこれが使われることも少なくなかった」

 

「そうなると、南雲原じゃ使えない……?」

 

「お、そうだな。兵太を化身使いとする場合ならどうするか────そこで出てくるのが化身ドローイングという戦術だ」

 

 次に描かれたのは、化身使いのプレイヤーを中心に、他のプレイヤーがエネルギーを送り込むようなイラスト。その上には『化身ドローイング』と書かれている。

 

「簡単に言えば他の選手の気を集め、化身の力を半永久に高める戦術だな」

 

「……元気玉ってことです?」

 

「正解! 兵太に習得してもらう化身闘法はそれの応用になるな」

 

 かつて南雲原にあったサッカー部、そこで使われていた化身は選手一人で生み出している者ではなかった。決して何かに特化しているような、とんでもない強みを持っているわけでもない選手だったFW。彼が化身を発現させた方法は、化身ドローイングを応用したものであり、考えられた丁寧なゴリ押し戦術である。

 

「一人じゃ気が足りない? じゃあ皆から集めればいいじゃない! ってなわけで仲間からエネルギーを集めて化身を生み出す!」

 

「それが、南雲原流の化身ってことですか……」

 

「そうだよ(肯定ペンギン)」

 

「でも本当にどうして俺が? それこそ、ミーム先輩でもいいんじゃ……」

 

「俺は俺で化身いるから」

 

 喋る、光る、動く。そんなDX版の化身がいるので、ミームにこの南雲原式化身闘法は使えない。そもそもこのエネルギーを集めて形にするという方法自体、ミームの得意ではない。やろうと思えばやれるが、何も考えずに南雲原式闘法を行えば吸えるだけ吸い上げて干乾びさせてしまうのがオチである。

 

「えっ!? ミーム先輩って化身使いなんですか!? だったら尚更俺程度が化身を使えるようになっても────」

 

「だって化身使いの才能があるの、兵太しかいねえもん」

 

「ええ!?」

 

「他の人もできないとは言わないけど、この方法で化身を発現させるとなれば、適性があるのが兵太しかいない」

 

 仲間の動きを補い、そのプレーを最適な状態に整えるどころか、影のように同調することで向上させるプレイスタイルを無意識的に確立している兵太だからこそ、南雲原式化身闘法が使える。全員のエネルギーを均して自分自身のものにして具現化させる────そんな化身の使い方をするための下地や才能が、兵太には備わっているのだ。

 

「俺はポテンシャルを引き上げることはできても、皆に同調はできないからなー」

 

「染め上げる側ですもんね、ミーム先輩」

 

「おう(威風堂々)。だから、この化身の運用は兵太にこそ相応しいんだよ」

 

「いや、でも……俺みたいな無個性なやつが化身なんてって思っちゃうというか……」

 

「? 誰とでも上手くやっていけるってのは凄い個性だろ」

 

「いやっ、聞いてくださいよ。俺の個性なんてどこにでもあるありふれたものですって」

 

 南雲原のアイドル的な存在である来夏や、ザ・不良という感じながら意外にも面倒見がよかったりするギャップで密かに人気がある丈二────様々な個性が集まる南雲原サッカー部。その中で兵太は誰とでも上手くやれるように、どうにか溶け込んでいけるようにする術を実践しているだけだという。兵太曰く、自分の個性とはハリボテなのだ。

 

「俺ってこういう感じで、初対面の人とかにも接してて……だからその……陰で色々言われたりもして……だから、ですかね。自分に自信が持てないというか」

 

「ふぅん、そういうことか」

 

「こんな俺に、皆を繋げることなんて────」

 

「お前さ兵太さ、繋げるとかそういうの考えなくていいんじゃねぇの?」

 

 突然何を言い出すのかこの神話生物。そんな思いで顔を上げた兵太の前には、なぜか全身を有刺鉄線で雁字搦めにして黄金の風が吹いてくるような奇怪なポーズをしている怪生物の姿があった。その有刺鉄線はどこから出したのかとか、なんでそんな奇怪なポーズをしているのかとか、疑問が浮いては消えていく中で、ミームは笑う。

 

「好きにやりゃあいいんだよ」

 

「好きな、ように」

 

「自分はこういうやつだって、好きな方向に進んでいけばいい。今や神話生物として常に1d100のSAN値チェックを要求している俺が言うんだから間違いない」

 

「自称するもんじゃないですよね!?」

 

 自分のターンどころか、自分だろうが相手だろうがNPCだろうが行動する際にSAN値チェックを要求してくる神話生物と比べてしまえば、どんな個性であっても霞んで消えていくだろう。こんな個性の極致みたいな存在がいるのだから、個性がないとか考えるなど意味のない話である。

 

「とにかくやってみようや。安心しろ、できなくても俺が無理矢理引きずり出してやる」

 

「あれ? もしかして今、ぶっ壊す宣言しました?」

 

「気のせいだろ。んじゃ、化身を発現させるに当たって必要なのは体力と精神力。……というわけで、今から重力施設で体力づくりに励んでもらおうか」

 

「いきなり不穏な単語が出てきたんですけど?」

 

「大丈夫だって安心しろよ~。丈二とかのFW陣よりは過酷じゃないから」

 

 ああ、と納得した兵太の脳裏に浮かび上がるのは、ミームにトダーと呼ばれている警備ロボットを先頭にした警備ロボット軍団に追い掛け回されながら高速で動く床を全力疾走していたFW陣。しかも質が悪いことに、動く床は前後左右ランダムに動くため、ゴールに辿り着くためには様々な筋肉と思考を駆使しなければいけないのだ。

 ちなみに警備ロボットに追いつかれた場合、馬鹿みたいなレベルの警備ロボット達とサッカーバトルを行うことになっている。常人であれば退けば老いるぞ、臆せば死ぬぞの精神で挑まねば心が持たないまであるが、南雲原サッカー部は常人ではなく、異常サッカー愛者に追いつくために走っている者達。心はあずきバーよりも強固なものとなっている。

 

「とりあえず皇帝ペンギン一号10発撃っても壊れない足を作るか」

 

「あの、一号ってそんなに危険な技なんですか? ミーム先輩、バンバン撃ってませんでした?」

 

「エネルギーについて何にも学ばずに使えばそうなるってだけだぞ? 何事も勉強は大事なんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ」

 

 どこかの少年達が苦い顔を浮かべそうなことを言い切ったミームは、両腕を獣の咢に見立てた構えを見せた。

 

「【ビーストファング】だって、エネルギーを外に放出させることに集中させるせいで手がズタズタになるってだけだし」

 

「てことは……保護するためのエネルギーを放出するのと同時に使えばいいってことですか?」

 

「まぁ、そうすると若干出力は落ちるかもだけどな。あと、鍛え方が足りない。筋肉とかを育てずに使えばそりゃ壊れる」

 

 禁断の技と呼ばれ、二回使えば二度とサッカーをすることができなくなるとされる必殺技を撃ってもそこまで負担にならないのが神話生物たる由縁。サッカーだろうが何だろうが気になることは徹底的に体を張って調べ尽くす男にとって、禁断の技もまた研究材料に過ぎなかった。なぜ壊れるのか、なぜ負担が大きいのか────様々な視点、様々な状況を作り出して調べに調べたからこそミームは禁断の技を呼ばれているそれらを手札として運用できている。

 

「出力を落とした【ビーストファング】を俺は【ハイ(レベルな技術を要求してくるわりには使い勝手に欠ける気がする)ビーストファング】と呼んでいる」

 

「何か含みが凄いことになってませんでした?」

 

「気のせいだよ。最初は2倍から慣らしていくぞ。気合い入れろー?」

 

「────まぁ、やれるだけやりますか!」

 

 元々、ミームの間合いにいる時点で逃げるという選択肢はとうに消えていたのだ。やれるだけやって、化身が出れば御の字、出なかったのならそれはそれで木曽路兵太という男はやっぱりその程度の男だったということ……なんて、自分のことを卑下しつつも、兵太は特訓に付き合ってくれるらしいミームに応えるために気合を入れ直す。

 

「とりあえず走り込みだな。体を温めるっていうのも含めて」

 

「よろしくお願いしますね、ミーム先輩!」

 

「おっす、お願いしまーす」

 

 こうして兵太の特訓が幕を開けたわけだが────ミームという神話生物のサッカーエクスドリームプランを前にして、兵太は生き残ることができるのだろうか? それはサッカーの神様だけが知っているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

『まだまだ甘いヤンケ。そんなんじゃ壬為夢の玩具にもならないヤンケ。エクスドリームブートキャンプはもう始まってるヤンケ』

 

「ぜーッ……! ぜーッ……! んなことは分かってんだよ……! 俺達が、一番……!」

 

『口答えできる余裕があるようで何よりヤンケ。何発でも撃ってくるヤンケ』

 

「やってやろうじゃねえかこの野郎!! 【剛の一閃・改】ッッ!! 

 

 地獄の強化合宿でいつも以上に過酷な特訓が続いている南雲原サッカー部、そのFW陣はミームがトダーと呼んでいる警備ロボットを相手に必殺シュートをひたすらに打ち込んでいた。自分が今シュートを打っているのか、そもそもボールをキープできているのかも分からないくらいの疲労に苛まれながらも、ひたすらにシュートを打ち続けている。

 

『まだまだキレキレヤンケ。筋繊維が千切れてない証拠ヤンケ。本気ではやってるけど全力でできてない証拠ヤンケ』

 

「本気でやってるのに、全力でできてない……って、どういう……こと……?」

 

『今日これ以上は実りがないヤンケ。作業は成長には繋がりにくいヤンケ』

 

 意味深なことを言って、サッカーモードから通常の警備モードに移行したトダーと呼ばれている警備ロボット。今日の特訓が終わったことに安堵すると同時に、何やら心に靄が残る終わり方だ。

 

「なあ、寝戸はいつからここで特訓とかしてたんだ?」

 

 とはいえ、特訓が終わったのは事実。今にも気絶しそうになる体に鞭を打って、静のストレッチを行う駿河達は、気になったことを警備ロボットに問いかける。

 

『随分昔ヤンケ。確か6歳の頃にはここに来てたヤンケ。レベルは少し下がるけど、今のお前達と同じように特訓をしてたヤンケ』

 

「ろっ────!?」

 

「そ、そんなに昔から……!?」

 

『あの頃から壬為夢は笑ってサッカーしてたヤンケ。……あ、でも最初の方はずっと本気で全力な基礎トレーニングばっかりだったヤンケ』

 

 ミームは自由でぶっ飛んだサッカーをするが、そのサッカーを成立させるための理がある。土台となる揺らぐことのない基礎が存在している。だからこその型破り。型覚え無くして、型破りは成せずである。

 

「本気で全力ってどういうことだ……?」

 

『ついてくるヤンケ』

 

 ストレッチを行うFW陣に突然ついてくるように言って、どこかへ向かう警備ロボット。その背中を慌てて追いかけたFW陣は、何の特長もないせいで、案内掲示板がなければ迷子になりそうな通路を通り────兵太と共に筋トレに励むミームがいる重力施設に到着した。

 

「そうだ兵太! そのフォーム! それでいいっ! それがBEST!! 作業じゃない! 一個一個の動きに意味を持たせろ兵太!」

 

「うおおおおお……! これ、いつもよりキッツイ……!!」

 

「ええぞ! ええぞ! できないと諦めるな! 肩肘張らず、どの筋肉を使っているかを意識しろ!」

 

 現在、兵太が行っているのは何の変哲もないプランク。確かにキツイ筋トレの部類だ。そこに重力が2倍の状態になっているとなれば間違いなくキツイ。だが────それだけでは説明が難しいほど滝のような汗を流している兵太と、鬼神の如き肉体を晒しているミームにFW陣は目を疑った。

 

『これが本気で全力を出したトレーニングヤンケ。今のあの二人の筋肉は120%の負荷がかかってるヤンケ』

 

「普通のトレーニングとは違うの?」

 

『当たり前ヤンケ。作業でやる100回の腹筋と、全身全霊で行う10回の腹筋は違うヤンケ』

 

 この筋トレによってどの筋肉が、どのように稼働して、どのように鍛えられるのか────それを意識し、感じながら行うことによって発生する負荷は、普段やるような筋トレ以上の効果を発揮する。ミームがいつも行っている筋トレを、南雲原サッカー部のメンバーが行ったとしてもミームのような肉体は手に入らない。全身全霊で筋トレをするという意識が無いからだ。

 

『シュートもそうヤンケ。ただ打つ、ただ必殺技を使う、なんて小学生でもできるヤンケ。そんな作業的なやり方じゃ必殺技は進化しないヤンケ』

 

「そして、肉体や精神も成長しない……か」

 

『正解ヤンケ。お前達とミームの差はそこにもあるヤンケ。空宮とか、小太刀とか、古手打とかに後れを取っているのもその差ヤンケ』

 

 現在別の場所で転がっては起き上がり、転がっては起き上がりを繰り返しながらも瞳に宿るギラギラとした光は消えていない征や、他のメンバーよりも成長曲線や特訓の段階が先に進んでいる鞘と七南の姿を思い返してみると、一つ一つの動きが丁寧だったり、余力が残っていない状態になるまでが早かったように思う。同じように雲明の特訓を超えてきたというのにどうしてかと疑問に思っていたが────その疑問が今ここで晴れた。

 

「作業、作業か……」

 

「確かにそうなっていたような節があるな」

 

「振り返ってみると心の片隅に雑念があった気がする……」

 

『自覚したようで何よりヤンケ。でも、だからと言って残業はさせないヤンケ。感じてる悔しさとかをバネに明日から精々頑張るヤンケ』

 

 そう言って、もう一度特訓をやり直そうとするFW陣を止めた警備ロボット。心の中に生まれた悔しさや、己を恥じる気持ちを今解放させるのではなく、明日以降の特訓で解放させることで更なるカタルシスを生み出すことができることトダーは知っているのだ。

 

『そもそもこの後は汗を流してから座学の時間ヤンケ。壬為夢を鍛えたお日さま園の座学は厳しいヤンケ。心して受けるヤンケ』

 

「「「おおっ!!」」」

 

『それだけ元気なら、明日はもっとハードでも問題ないヤンケ。シバくヤンケ』

 

 ロボットに人の心はない。だが、友人である壬為夢のためにこの人間達を極限まで鍛えてやろうとは考えている。

 それを心と言うのかもしれないが、この警備ロボットはミーム汚染を喰らったロボット。心があるのかもしれないし、ないのかもしれない。これがシュレディンガーの猫かもしれない。




ミーム
禁断の技を撃っても壊れない男。それはおかしい?それが神話生物。

兵太
南雲原式化身闘法を習得するために特訓開始。今までの特訓が遊びだったんじゃないかと思うような地獄のトレーニングによって明日は史上最大の筋肉痛。

FW陣
本気で全力、全身全霊で練習するというやり方を理解した。間違いなく爆発的に伸び出す。

トダー
シバくヤンケ
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