過酷を超えた過酷な特訓を超えたことで全国でも戦い抜く力を得た────と思われる南雲原サッカー部は、富士山の麓にあった施設から直接バスで都会の景色広がる決戦場へと向かっていた。
「このホビースペースを見なさい。これは一世を風靡するどころか現在進行形でブームとなっていると噂のLBXだ」
「おお、プラモが動いてる」
「ナインボールセラフ作ってみたら動いたって話もしようか?」
「「「マジかよ」」」
クッソどうでもいい、薬にも毒にもならない話をしながらバスに揺られていると、シャトルバスが完全に停止する。どうやら目的地に到着したらしい。ちなみにこのシャトルバスを運転していたのは千乃家お抱えの運転手三人。スリーマンセルで運転を回すことで疲労が溜まりにくくなるという寸法だ。
「どうやら到着したようですね」
「選手として来るのは初めてだわさ」
「ああ、そういえば寝戸の両親って確か寝具メーカーで働いてるんだったな」
「そうだよ(肯定ペンギン)。両親の仕事についてって見て回ったっけな」
バスが停車したのはサッカーをするもの、サッカーを愛する者であれば誰もが憧れ、焦がれる聖地。お台場サッカーガーデンと呼ばれる、サッカーの聖地でありサッカーファンの間でも観光地として愛され続けている場所である。
「サッカーガーデンと付近の宿泊施設ではうちの両親が働いてるメーカーの寝具が使われてるんだよね、凄くない?」
「ミーム先輩のご両親……どんな人か想像できないな?」
「どうしてこんな神話生物が生まれるのかって思うくらいいい人達ですよ」
「アルビノもビックリな突然変異体こそがこの俺! 悪名高い異能生存体ミームよ……!」
自分で突然変異体と名乗るわ異能生存体を名乗るわで、両親が嘆いていそうな予感がしなくもないこの男に苦笑しつつ、雲明を中心とした南雲原サッカー部のメンバーはお台場サッカーガーデンに選手として訪れることができたことに感動していた。
平常運転な神話生物も一応は感動している────わけだが、それ以上に何やら嫌な予感がして生まれたての小鹿の如く膝を震わせている。それにいち早く気付いたのは、隣で周囲の建物や空気感を観察していた鞘。
「どうかした?」
「ハッハァッ! なんか嫌な予感がして足が小鹿。見ろ、小鹿を超えたスマホのバイブレーションだ」
「「「どうしたお前!?」」」
足どころか全身バイブレーション状態となっているミームの目に宿るのは宇宙。今にも瞳の奥から地球外生命体が飛び出してきそうなコズミックエナジーを感じる真っ赤な瞳は、これからやってくる恐ろしい現実に対処するための防衛本能────なのかもしれない。
だが。
「ああっ、いい……! 凄くいいッッ! 激ヤバだ……!! あっはぁ、凄い筋肉密度……!!」
「────ミ゜ッッッッ!!」
その防衛本能が発揮されるには時間が足りなかった。そもそもここに来た時点でコズミックエナジーなど意味のないものである。
「ふーっ、ふーっ……! 君の匂いも相まって興奮が止まらないよ……! 少し触っただけで絶頂しそうだっ……!!」
南雲原サッカー部が気付いた時にはそれはいた。ベタベタ触るを超えて、密着状態で愛撫するかのようにねっとりとした手つきでミームの体を舐め回すが如く撫でまわす変態がいた。いや、舐め回すが如くではない。
「もっと深く匂いを感じさせてくれないかい? いいよね? ありがとう! すぅうううううううううううううう……うっ……ふう……すうううううううううううううううううううううううううっっ」
びし、と硬直したミームの髪に顔を突っ込んで猫吸いならぬミーム吸いを始めた麗人。ミームの身長よりも少し高い背丈のイケメン女子、もしくは麗人という言葉が合うはずなのに、全世界の麗人という言葉を冠するに相応しい者に土下座外交した方がいい気がしてならないレベルで変態行為を行う少女にフリーズするしかできない南雲原サッカー部。
「「「ヤダーッッッ!!!!????」」」
そんな状態からすぐに復帰したのは拘束から瞬時に抜け出したミームと、その少女の存在を知っている雲明と征。世界から音が消えたのではないかと思うような高音絶叫は、南雲原サッカー部メンバー全員の思考停止を終了させるほどであった。
「あっ……もう、恥ずかしがり屋さんめ。久しぶりの再会なんだからもっと熱い抱擁を交わしてもいいだろう? 雲明と征もそう思わないかい?」
「う あ あ あ あ……へ、変態がサッカーガーデンを練り歩いている……!」
「ネット無事か!? 傷は深いぞ!!」
奇声を発した後、空を見上げて両手でL字を作っているミームの目には光は無く、宇宙の彼方に何か交信を行っているかのような表情となっている。
「大きな星がついたり消えたりしてる……あははは……大きい! 彗星かな? いや違う、違うな。彗星はもっと、バァーって動くもんな!」
「「帰ってこい情けない奴ッッ!!」」
「お前今頭シャア・アズナブルって言ったか?」
持病はどこに行ったのかと言わんばかりの勢いで神話生物の土手っ腹にロケットパンチを叩き込む雲明と、それを補助するように動いた征。この二人、連携が取れすぎている。恐らく雲明が健在であれば【ファイアートルネードDD】を放てるくらいには上手い連携でミームの意識を虹の向こうから取り戻してきた。
「酷いなぁ。同じ小学校、同じサッカークラブ、同じ釜の飯を食った中じゃないか」
「「「別の小学校だが!!?」」」
「そんなに逃げるなよ……興奮しちゃうじゃないか」
三人寄れば文殊の知恵ならぬ、三人寄れば変態から逃れるを体現するように抱き合って距離を取ろうとする三人。それを止めるのはサラッと【影縫い】でミームの影を捕まえて逃げられない状態にする変態麗人。
「────おや?」
突然影縫いが切り裂かれ、少しだけ驚いた表情を浮かべた変態麗人の前に立ったのは、威嚇するポメラニアンの如き七南と、表情は変わっていないが空気が鋭く研ぎ澄まされている鞘。彼女らが【影縫い】を切り裂いたのだ。
「い、いきなり何なんですかあなた!?」
「壬為夢君が怖がってるのだけれど……あなたは一体誰?」
「へぇ……彼とサッカーをするだけあってやれるんだね。……うん、君達も凄くイイね……」
粘つく視線で二人の少女を見つめる変態麗人は、警戒色に染まった南雲原サッカー部のメンバーも舐め回すように見つめ────ニッコリと笑う。
「初めまして、南雲原サッカー部。私の名前は
「ファーストインプレッションが最悪すぎる……」
「こんな変態ばっかりなのか、京前嵐山って」
「勘違いさせたようで申し訳ないんだけど、愛が溢れて止まらないのは私だけだよ」
「「「一方的過ぎんだろ!?」」」
「嫌よ嫌よも好きのうち……そう言うだろう? むしろ拒絶された方が燃え上がるというものさ」
ヤバイ、こいつマジの変態かもしれない。
南雲原サッカー部のメンバー全員の考えが一致しそうになったところで、情報収集に余念がない唯奈が口を開く。
「藤堂千陽……京前嵐山のサッカーモンスター?」
「可愛らしいお嬢さん。そんな無粋な名前で呼ばないでほしいな」
「は、いつの間に……!? というか顔近……!!」
恐ろしい身体能力を駆使し、唯奈に急接近した変態麗人────千陽は彼女の耳元に顔を近づけ、囁くように声を発した。
「私のことは……異常サッカー愛者と呼んでほしい」
「「「悪化してんだろそれ」」」
「彼に染められた私にとっては名誉な名前なんだよ」
未だに雲明と征にしがみついている神話生物にジットリ、ねっとり、ぽわ〜おぐちょぐちょとした湿度が高いどころか水没していそうな目を向ける千陽は、楽しい時を過ごしているミームとそっくりな笑みを浮かべる。
「雲明に征、そして本命の壬為夢……最高のサッカーができそうだよ」
「え、お前試合出るの」
「もちろん。雷門や帝国学園も粒ぞろいだけどね、やっぱり君とのサッカーが忘れられないんだ」
あの、壊れてしまうくらいのサッカーが。
そう言って自分の体を抱き締めるようにしながら恍惚の笑みを浮かべる少女を見て、南雲原サッカー部のメンバー全員の脳裏に歓迎会のミームが震えるような存在がいることを思い出した。思い出し、確信した。この少女こそが、ミームが進化を促し、壊してしまった少女なのだと。
「あの時私が壊れたのは私が真にサッカーを愛せていなかったから」
しかし。
「……そして、強者である君に寄りかかってしまっていたから」
しかしだ。
「何よりも、君を壊したい……そんな思いが足りなかった」
どこからどう成長すれば、こんな進化の仕方をするのだろうか。恋愛の「れ」の字も分からない人間であっても、何となく分かるだろう。この少女がミームに向ける愛がよく分からないレベルで錐揉み回転しつつ空中分解するギリギリのところで超屈折しながらぶっ飛んでいるということを。
「これは宣戦布告だよ、壬為夢」
「……」
「私は私の愛している、君の愛しているサッカーで、君を壊す」
叩き付けられたのは殺意にも似た愛。異常サッカー愛者から、異常サッカー愛者に向ける歪んだ愛情が込められた宣戦布告に対し、ミームは先程まで震えていたとは思えない空気と笑みを浮かべて口を開く。
「しばらく見ないうちに変態レベルが上がってるのは予想外だったけど……サッカーに対するあれこれは変わってないようで安心したよ」
千陽は千陽なりに、サッカーを愛し続け────ミームや雲明、征と同じ異常サッカー愛者となっていた。サッカー好きに変態は居れども悪い奴はいないことを信じているミームにとって、それは何より嬉しい吉報であった。
「あれこれ言うのもSAN値削れそうだし、これだけ言っておく。サッカーやろうぜ。お互い、全力で」
「────ああ、もちろんだ」
特殊メイクをしていない素顔で笑ったミームは、千陽にサッカーやろうぜと誘った。そして千陽はそれを受けた。異常サッカー愛者の間に、それ以上の言葉はいらなかった。
「そういうわけだから、試合になったらよろしくね。……ああそれと、そこの女の子二人」
「「?」」
「彼、私のだから」
「────へぇ」
「うるるるる……」
「フフッ。じゃあ、次は開会式か試合でね」
あの変態麗人、特大の爆弾落としていきやがったとは、誰の呟きだったのか。とんでもない爆弾を投下して嵐のように去っていった千陽に振り回された南雲原サッカー部は、特訓してきたどの日よりも精神的に疲れたと感じつつも深呼吸。心を穏やかにして、キャプテン兼監督である雲明に視線を集める。
「なんか、初っ端から変態麗人にエンカウントしたせいで色々ありましたけど────僕達の目標は変わりません。全員でサッカーをして……」
「「「てっぺんの景色を見る!!」」」
「ええ、そうです。その通りです。僕達で勝ち取りましょう、頂点を!」
「「「おおーっ!!」」」
全員で拳を突き上げて鬨の声を上げる。全員の中に宿る闘志が燃え上がり、これから待ち受けているであろう強敵達とのサッカーに心を躍らせる南雲原サッカー部。
日本全国の頂点を決める戦いが、始まろうとしていた。
藤堂千陽
オリキャラ。
ミームに進化を促された結果、ぶち壊された後に歪んだ性癖を持った異常サッカー愛者になった少女。ミームほど自在ではないが、サッカーモンスターとして日常的に必殺技を使えるようになっている。女の子にモテるタイプのイケメンガール。
根っからの異常サッカー愛者なので
メンタルもフィジカルも鍛えており、
男ではミームがドストライクというだけであって、
女もイケるしね。『ヌッ』
とのこと。鞘も七南も結構ドストライクなので恐らくロックオンされてる。
神話生物
ちいかわになってた
雲明
変態麗人とエンカウントした結果ちいかわになった
征
変態麗人とエンカウントした結果ちいかわになった
鞘
「ふぅん」
ロックオンされたことに気付かない鞘ちゃんに悲しき過去
七南
「うるるるる……」
ロックオンされたことに気付かない七南に悲しき過去