ハァイ、南雲原。サッカー楽しんでる?   作:エヴォルヴ

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サッカー部がない南雲原にミームがいた理由
「雲明がいないサッカーなんざごめんだぞ」


馬鹿野郎お前勝つぞお前(天下無双)

 南雲原サッカー部が誕生した翌日。旧体育倉庫であった部室に集ったサッカー部メンバーは、とある理由でここに来ていた南雲原の生徒会長が去っていった後────

 

「はふっ、はふっ」

 

「うめっ……うめっ……」

 

「あ、ヤバいこれ本当に美味しいやつ」

 

 鶏ガラから作った水炊き鍋を突いていた。ぐつぐつと煮立った透き通るような黄金のスープは味付けが塩だけであるはずなのに、深みがある味となっていた。作ったのはもちろん立てば変人、座れば変態、歩く姿は神話生物たるミームである。見かけたら1d100のSAN値チェックが入る。震えて眠れ。

 

「にしてもキツイ減量(条件の隠喩)だったな、雲明」

 

「喧嘩を売ってきたのは向こうでしたよ」

 

「そうだけどさぁ……フットボールフロンティアかぁ……」

 

「息つく間もなくとはまさにこのことだな……」

 

 フットボールフロンティア。かつてはホーリーロードとも呼ばれていた中学生のサッカー日本一を決める大会だ。日本でサッカーをする中学生であれば誰もが夢見、憧れる全国大会の名前ではあるが、その名を聞いたサッカー部のほとんどが微妙な表情を浮かべていた。

 

 その原因は先程までこの部室にいた南雲原中学校生徒会長の千乃妃花(せんのひめか)の言葉であった。

 

 曰く、サッカー部設立のために雲明の担任を顧問にしたが、妃花自身はサッカー部を認めていない。認めてほしいのであればフットボールフロンティア一回戦で試合を行うライバル校西ノ宮中を倒せ────とのこと。だが、それだけではなかった。

 

「敗北=廃部か……」

 

 丈二が呟いた通り、西ノ宮中に勝てば晴れてサッカー部は認められるが、負ければ即刻解散────つまりは廃部であるという。恐らく雲明がサッカー部設立までにえらくハリキッタせいであると思われるが……本人は全く気にしていないご様子であった。心が強ぇやつなのかもしれない。

 

「ま、まぁ、生徒会長的には情状酌量の意味もあったのかもしれないね」

 

「あっ、そっかぁ……」

 

「とにかく勝たなきゃ話にならねぇ。一回戦に向けて残りのメンバーを探さないとな」

 

 大盛の白米と共に水炊き鍋を突いていた駿河がそう言うと、野球部との決闘の後マネージャーとしてサッカー部に入部した少女、百道唯奈(ももちゆいな)が頷く。

 

「現在のサッカー部には入部希望者が殺到していますから、選びたい放題ではありますね」

 

「なら、過去のデータなんかを参照して最終候補として15人、16人くらいを選んで────」

 

「5人だ」

 

「……え?」

 

 タブレットを駆使して入部希望者の厳選を始めようとしていた唯奈が、部室の端っこで玉露を淹れていたミームの言葉に驚いて声を上げる。鍋を突いていたメンバーも同じように驚きながらミームに視線を向けていた。

 

「今のサッカー部の状況で人を多く招くとリスクになる」

 

「リスク? 確かに五人で試合に必要な人数を超えるけどよ、万が一を考えりゃ控えも必要だろ?」

 

「単純にキャパが足りないんだ。戦術や特訓内容を考える雲明も、それを実行する俺達にもな。一回戦までの猶予がないから特に」

 

 いつものように胡乱な言葉を吐くのではなく、真面目な話を真面目な顔で語るミームの言葉には説得力があった。フットボールフロンティア一回戦までの時間は、息つく間もないと表現するのが相応しいほどに短い。そんな状態で右も左も分からない人間を試合で運用できるまでに鍛えるには、現状は人数を制限するしか方法がないのだ。

 

「ミームの言った通り、時間もキャパシティーも足りないんです。管理コストも人数が多ければ多い程かかりますから」

 

「なるほど、確かになぁ。それなら一回戦は11人で……あれ? あの、寝戸先輩」

 

 何かに気付いた兵太が手を挙げた。

 

「どした?」

 

「五人の部員を集めるってなると、全部で12人になりませんか?」

 

「そうだよ(肯定ペンギン2号)」

 

「保険っすか?」

 

「いや全然! 単に雲明の現状のキャパじゃ11人固定の戦術が限界ギリギリってだけ」

 

 だから、残り5人のメンバーを集めて11人の戦術を練習しようというのがミームと雲明の提案である。余った1人は今後運用するかもしれないが、今回は運用しないことになっている。

 

「使わないやつがいるってことになるが……誰なんだ?」

 

「ま、まさか亀雄とか言うんじゃ────」

 

「使われない人間とはこの俺……!! 悪名高き寝戸壬為夢よ……!!」

 

「「「……はぁ!!?」」」

 

 丈二、兵太、来夏が部室の窓ガラスが砕け散るのではないかという声量で叫んだ。叫んでいない我流と駿河も驚いたように目を見開き、選手の厳選を始めようとしていた唯奈は耳鳴りがしたのか耳を抑えている。

 

「寝戸、お前試合に出ないのか!?」

 

「そうですけど、何か?」

 

「何かじゃないでしょ!? どう考えても君は絶対必須でしょ!!」

 

「変なものでも食べたんすか!? あんだけ凄いのに試合出ないのはおかしいですって!?」

 

「サッカーは皆でやるから尊いんだ。絆が深まるんだ」

 

 混乱しているサッカー部メンバーに対して、ミームはどこ吹く風といった様子でサラダチキンを食べている。

 

 しかし、サッカー部の混乱も無理はないだろう。話を聞いているだけの駿河や唯奈はともかく、ミームの異常なまでの身体能力やサッカーの技量を体験した丈二、兵太、来夏、我流の混乱と驚愕は計り知れないものだ。ミームをチームに入れて試合を行えば確実に勝てるという確信があったからこそ。

 

 そんなサッカー部の混乱を宥めるように手を叩いて視線を集めた雲明は、戦術ノートから目を離してサッカー部の面々を見据えた。

 

「ミームを運用しない理由はいくつかありますが……まずは必殺技です」

 

「必殺技……?」

 

「はい。ぶっちゃけた話、ミームは必殺技を馬鹿みたいな数覚えています。そのほとんどが本来の用途とは違う場所で使われますが」

 

「必殺技の国立図書館とは俺のことよ」

 

 さらなる驚きがサッカー部に齎される中、雲明は続ける。

 

「同じ人類とは思いたくない体力と身体能力、自重を知らない無法で自由すぎる発想から叩き込まれる必殺技……全国レベルの実力でしょう。下手をすれば世界にも通用するような────そこの戯け以上の化生を僕は知りません」

 

「雲明君、それ褒めてるの? 貶してるの?」

 

「どっちもです。……さて、ここまで聞いて皆さんはこう思っているはずです。そこの戯けがいれば勝てる……そんな風に」

 

 雲明の言葉にサッカー部のメンバーが頷く。サッカーのためならなんでもするようなえらいハリキリ☆ボーイ笹波雲明が、貶しつつではあるが手放しで大絶賛するような選手を運用しないのは絶対に間違っているだろう。

 

「さっきミームが言った通り、サッカーは皆でやるから尊いんです。絆が深まるんです」

 

「ああ、それは分かるけどよ…………あ? ……そういうことか?」

 

「気付きましたか、桜咲先輩。そういうことです」

 

「…………な、るほどな……」

 

 はっとした表情を浮かべた丈二に対して雲明は頷いた。二人の様子とミームの発言から答えを導き出した駿河も苦い顔を浮かべて納得している。

 

「え、何? 何に気付いたんです?」

 

「木曽路、今の俺達は柳生の取り巻きだった連中の思考に近いんだよ」

 

「…………あ!」

 

 納得したように声を上げた兵太。その声と共に、他のサッカー部メンバーも納得と共に苦い表情を浮かべていた。

 

「もちろん柳生先輩に行われていた接待や忖度とは違うものです。皆でサッカーをやろうという意識はちゃんとありますから」

 

 ただ、と険しい表情を浮かべる雲明は言葉を区切る。

 

「現状の僕達ではミームのプレーについていけない。その状態で勝ち進んだ結果……僕達南雲原サッカー部はミームという神話生物に依存したチームとなってしまう可能性が高い」

 

「神話生物扱いに納得してるのが俺なんだよね。1d100でSAN値チェックしてもらおうか雲明ィ?」

 

「とにかくそこの怪生物を運用するにはもっと強くならなくてはなりません」

 

 雲明による収容違反を起こしている神話生物を運用するための説明を受けたサッカー部のメンバーに沈黙が舞い降りた。説明を受けたからこそ分かる。発展途上なチーム、未熟なチームに現在進行形で化粧を用いたゲーミング発光をしているミームを放り込んだ瞬間、大惨事が起こりかねない。ミームについていくことができずにリタイアしてしまう人間も出てくるかもしれない。

 

「ミームの言葉を借りるなら、僕達は飢えなくてはなりません。ただ飢えるのではなく、気高く飢えなくてはなりません」

 

「そうだな……現状の俺らにゃ寝戸についていけねぇ。だが、そのままじゃ絶対にダメなんだ」

 

「寝戸先輩に頼りすぎちゃ、この先やっていけない……俺達がやりたいのは個人競技じゃない。団体競技なんだよな」

 

 丈二と兵太の言葉にサッカー部の面々も頷く。ミームが言うように、サッカーは皆でやるからこそ楽しくて、熱くなれるものなのだ。全力でぶつかり合って、絆を深めていくことができるのだ。

 

「僕達が目指すサッカーは皆の力で勝利するサッカーです。食べ物で例えるなら、パフェのようなチームです」

 

 フルーツやカステラ、クリームや器にいたるまで、その全てが役割を持っているパフェのようなチームを目指す。それが雲明が目指しているサッカー部の形である。

 

「僕達はまだまだ発展途上。まだまだ強くなれます。フットボールフロンティアに出場する以上、僕は皆でてっぺんの景色を見たい」

 

 雲明の言葉に戸惑いながらも、内心ワクワクすることが止められないサッカー部のメンバー達。てっぺんの景色────つまりは少年サッカー日本一を取ってみせると宣言しているようなもの。まだまだ発展途上で、ミームが入っただけで空中分解しかねない未熟なサッカー部で日本一を問ってみせるのだと。

 

「というわけで亀雄も合流させて練習をします。ミーム、その無駄に多い引き出しを余すことなく解放してください」

 

「見たけりゃ見せてやるよ(王者の風格)…………ついてこれるか?」

 

 ミームがサッカー部のメンバーに目を向ける。次は何を魅せてくれる? どんな景色を見せてくれるんだ? そんな期待が籠った眼差しを向けられて、卑屈になったり、期待に応えようとしない人間はここにはいなかった。

 

「上等だ! てめえの方こそついてきやがれよ寝戸!」

 

「やってやりますよ! 先輩がかすむくらい強くなります!」

 

「どん底からてっぺんまで────最高じゃん!」

 

 燃え上がるサッカー部メンバーを見て満足そうに笑ったミームは大きく頷いた後、玉露の入った湯呑を置いて立ち上がる。

 

「ではこれより亀雄と合流して練習を開始する! 全速前進だ!!」

 

「「「「「おおー!!」」」」」

 

 

 

 そして、亀雄をいじめていた連中は絶命(比喩)した。

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