ハァイ、南雲原。サッカー楽しんでる?   作:エヴォルヴ

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俺より強い奴に会いに行く(向こうから来てくれた)
禁断の連投ッッ!!


なんで長崎に……雷門がいるんだよ

 苛烈で熾烈を極めた特訓の日々を超え、新たにマネージャーを一人確保した状態で南雲原サッカー部は遂にフットボールフロンティア一回戦の日を迎えていた。

 

 ここで勝てばサッカー部は公式に認められ、負ければ解散────崖っぷちの状況ではあるが、雲明とミームのスパルタを超えたスパルタ、超スパルタサッカードリームプランによって鍛えられたサッカー部達がそのプレッシャーに負けることはない。

 

 フットボールフロンティア第一試合の相手は南雲原と同じ進学校であり、昔からライバル校である西ノ宮中。ミーム的には誰なんだ状態ではあるが、雲明とマネージャー、顧問が集めたデータを鑑みて、間違いなく南雲原が有利であると確信している。

 

 ここまでにやってきた特訓の成果を発揮して、油断大敵、メガトン構文など、ガバが無ければ問題なく勝てる────そんな状態であったのだが……

 

「なんで長崎に……雷門がいるんだよ」

 

「なるほど、帰属校の助っ人制度ですか」

 

「とはいえ過剰戦力過ぎて持て余すだろ、あれ」

 

 相も変わらずサラダチキンを貪りながら、フットボールフロンティア地区予選の開催地のベンチにて相手チームを眺めるミームが呟く。

 

 常に1d100のSAN値チェックを要求してくる神話生物の視線の先にいるのは、帰属校の選手派遣制度によって西ノ宮中のチームに加わっている二人。少年サッカー日本一、最強の王者と謳われる雷門中サッカー部キャプテンの月影蓮と、日本中のサッカーニュースを掻っ攫うサッカーモンスター円堂ハルの姿があった。

 

「……ああん?」

 

「ミーム?」

 

「いや、サッカーモンスターなんて言われてるけど、ただの人間じゃねぇかって思ってさ」

 

「そうですね。ミームに比べたらどんなモンスターも人間判定ですよ」

 

「お前んも人!」

 

 ミームからすれば、サッカーモンスターもただの人間である。確かにビリビリと肌を突き刺すような感覚はあるが、芯まで来るような痺れはない。雲明のサッカーを見た時のような衝撃も、どれだけボロボロになっても食らい付いてくる南雲原サッカー部のメンバーと練習している時に来る、全身に伝わる甘い痺れもない。

 

 恐らく、ミームは本能的につまらなそうにしているハルの空気を感じ取っているのだろう。サッカーが楽しいものではなく、つまらないものに見えている彼の纏う空気を。

 

「一緒にサッカーやれば話は変わんのかねぇ。……お、あの雲サッカーボールっぽくね?」

 

「ジョグレス進化して化け物が誕生する気がするので抑えてください。……確かにサッカーボールっぽいですね」

 

「君達、どうしてそんなに落ち着いてるの……?」

 

 ウォームアップを終えた来夏が少し引いたような表情を浮かべて声を上げた。まもなく試合が始まるというのに、この緊張感の無さは気が抜けてしまうというレベルじゃない。

 

 フットボールフロンティア地区予選一回戦から全国レベルと化した相手を前にして、どうしてそんなに落ち着いているのかと誰もが思っている。通常であれば西ノ宮中に実力で勝っている現状の南雲原サッカー部だが、蓮とハルを相手にするにはまだほど遠い。サッカー部の運命が決まるこの試合であんな強敵が現れるのは想定外も想定外だった。

 

 特訓でサッカー部はそれぞれ一つずつ必殺技を獲得している。戦術も学び、体に叩き込んできた。だが、足りない。最強と謳われる王者に挑むには時期尚早と言うほかない。まともに戦っても蹂躙されるだけだろう。

 

「壬為夢君」

 

「どした、鞘ちゃん」

 

「君の目から見て、彼らとまともに戦った場合の勝率はどれくらいかしら」

 

「んー……(勝率は)ないです。忌憚のない意見ってやつッス」

 

「そう……分かっていたけれど、遠いわね」

 

 ミームの忌憚なき意見を聞いた鞘は平静を保って納得しているように見えるが、手が真っ白になるくらいに握りしめられている。これ以上力を入れたら爪が皮膚を裂いて出血してしまうほどに。他のメンバーも歯噛みをしている中、戦術を組み上げている雲明が呟く。

 

「……まともにやり合うのは馬鹿らしい……となれば……」

 

 サッカー部の命運が懸かった試合、何としても勝つべく、サッカー部キャプテンの雲明が戦術を完成させるのを固唾を飲んで待つメンバー達。

 

「……………………決まりました。恐らく、これしか勝つ方法がない」

 

 刻一刻と試合開始の時間が迫る中、遂に戦術を完成させた雲明が口を開いた。

 

「何かあるんだな? 勝算が……!」

 

「はい。この状況、このタイミングであれば間違いなく刺さります」

 

「その作戦はなんだ!?」

 

 期待の眼差しを向けるサッカー部メンバーを見渡した雲明は、覚悟を決めた表情で作戦を伝えた。

 

「僕の指示があるまで必殺技を禁じます。その状態で全力で守ることだけに集中してください」

 

「カベヲキョウカスル!」

 

「「「……え??」」」

 

「少なくとも前半はあの二人に好き勝手させましょう」

 

「「「────はぁ!?」」」

 

 サッカー部メンバーの困惑した叫びとほぼ同時に、まもなく試合が開始されることを告げるアナウンスが響き渡る。納得できない、抗議したいと顔に書いているサッカー部メンバー達ではあったが、アナウンスを聞いて慌てるようにコートに入っていく。

 

 一見すれば勝つつもりがない、八百長でもするのかと思うような作戦である。本当に勝つつもりがあるのかと困惑したり、抗議したくなる気持ちも分かる。しかし、この作戦が刺されば南雲原サッカー部は間違いなく西ノ宮中に勝利することができるだろう。

 

「しかし、キツイ減量(作戦の隠喩)だったな雲明」

 

「はい。でもこれしかないのも事実です」

 

「ね、ねえ、本当に大丈夫なの?」

 

 顧問である香澄崎栄子が不安げに声を上げる。同じベンチに座っているマネージャーも不安そうに雲明達を見て説明を要求しているが、雲明はこの作戦の意図を勝つためであるとしか話さず、ミームに至っては「“S”だ、“S”が姿を現すぞッッ」とか、「まだ一回表、試合は始まったばかりよ」としか言わない。

 

「で、実際ヤバかったらどうする?」

 

「そうはならないと信じています。ミーム、あなたはどうですか?」

 

「チームメイトを信じている」

 

「そうですか。……始まりますね」

 

 雲明がそう呟いた瞬間、試合開始のホイッスルが響き渡った。フットボールフロンティア一回戦の開始である。

 

 前半は西ノ宮中ボール。最初から雷門におんぶにだっこ状態になるつもりなのか、蓮とハルにボールを回した西ノ宮中。ボールを獲得した蓮とハルは凄まじい速度で前線を上げていく。

 

「おー……まさに稲妻だな」

 

「ですね。精度、技術、連携……どれを取っても一級品です」

 

 立ち塞がる障壁を前にして、蓮とハルは全く動じた様子もなく突破していく。辛うじて蓮を阻んだものの、ボールを持っているハルを止めることはできず、DFが阻む隙を与えることなくシュート体勢へと入った。

 

「……ひとつ」

 

 強烈なスピンをかけたシュートがハルによって放たれ、ゴールへ向かって飛んでいく。

 必殺技でもない、ただのシュートだというのに凄まじい威力を秘めたシュートは南雲原サッカー部にディフェンスをさせることなく我流に迫る。

 

「止めてみせる────────ぐああっ!?」

 

 迫りくるシュートを前にビビることなく真正面から受け止めた我流だったが、その威力に耐えることができずにボールと共にゴールネットへと押し込まれてしまった。

 

 得点を告げるホイッスルが鳴り響き、現地に応援へ来ていた観客が歓声をあげる。開始早々に決められた、圧倒的すぎるスペックの暴力によってもたらされた先制点により、開始数分で西ノ宮中が一点先取。

 

「「……」」

 

「ふ、二人共、なんだか顔が怖いのだけれど……?」

 

 チベットスナギツネのような表情を浮かべる雲明とミームにびくりとするベンチ陣。この一回戦に至るまでの付き合いで顧問やマネージャーとしては凄いプレーを見せられたのだから、このサッカーバカ二人は敵ながら見事、などと抜かすかと思っていたのだ。そう思っていたというのに、この問題児、ただし最強の二人は虚無虚無プリンで死ぬほど不満そうな表情を浮かべていた。

 

「ウルルル……」

 

「人語失ってますよミーム。気持ちは分かりますけど」

 

「俺は許そう……だがサッカーが許すかな!? 動物裁判だ……!」

 

『許す』

 

「許すらしいですよ」

 

「あっ、そっかぁ。終わり! 閉廷!」

 

「「「!?!?!?」」」

 

 脳内に直接響いてきた声に困惑する顧問とマネージャーを他所に、サッカーは寛容だなぁと呑気に笑い合う雲明とミーム。

 

 そんな呑気な二人の目は相変わらずチベットスナギツネのように虚無虚無プリンしているが、試合は続く。南雲原ボールで再開された試合だが、すぐにボールを奪われて守りに入らざるを得なくなってしまう。

 

「サッカーは皆でやるから尊いんだ。絆が深まるんだ」

 

「ええ、全くです」

 

 スペックが違い過ぎるのもあって、西ノ宮中は雷門の二人についていけていない。ゆえに雷門のツーマンプレーとなっている状態が続く。これ以上はやらせないと言わんばかりにインターセプトを仕掛けた南雲原ではあったが、それを軽々と突破した蓮がハルにパスを送る。シュートと錯覚するような勢いのパスを受けたハルはそのままダイレクトシュートを決めて、二点目を獲得してみせた。

 

「二点目……」

 

「ほ、本当に大丈夫なんですか……?」

 

「問題ありません。そのための作戦です」

 

「地獄を見せる愛情もある」

 

 コートに立っている選手達の焦燥感とは裏腹に緩い空気が漂う中、時間が進んでいき────前半戦が終了した。

 

 戦況は3-0という大差である。圧倒的な実力差に圧し潰されるような前半戦であった。

 

「おかえりー。どうよ、今の心境」

 

「最悪の一言だっての……!」

 

「あっ、そっかぁ……」

 

「おい笹波、もう3点差だぞ!? こっから攻めねぇと負けちまうぜ!!」

 

「まま、そう、焦んないで」

 

 ピンチだというのに全く動じないどころか、いつも通りの笑みを貼り付けて選手に飲み物を配ってくるミーム。一発ぶん殴っても許されるのでは? とサッカー部のメンバーが青筋を立てる中、サラダチキンをハムスターのように詰め込むミームがサラダチキンを飲み込んだ後、真面目な顔で口を開く。

 

「でもまぁ、これで勝てるよ」

 

「なんだって?」

 

「ミーム先輩、どういうことですか?」

 

 七南の問いかけに対して、雲明が逆に問いかけた。

 

「皆は前半戦、どう感じましたか?」

 

「バケモノが過ぎる」

 

「次元が違う」

 

「レベル差がある」

 

「圧倒的すぎる、かな」

 

 メンバーの答え、そのほとんどが雷門の二人に対する言葉である。次元が違う、レベルが違う、圧倒的────雷門から来た蓮とハルをそう思っているのだ。

 

「ではそれ以外は?」

 

「それ以外、って……このままだと負けてしまうから何か策を考えなくては、とか……?」

 

「そうじゃなくて、相手チームのこと。西ノ宮中は強い?」

 

「……え?」

 

 チームメンバー全員の頭の上に疑問符が浮かんだ。ミームが言った、西ノ宮中は強いか否かという言葉の意図が汲み取れずにいる。

 

「それが答えだよ。……ほら、そろそろ後半戦だ。行っておいで!」

 

 今夜はドン勝だぞーと笑うミームに背中を押され、コートに戻っていく南雲原サッカー部のメンバー達。

 何も分からないまま、後半戦が始まろうとしている。このままでは敗北は決定したもの……どうにか戦況をひっくり返す方法を探さなくては────誰もがそう考えている中、鞘が何かに気付いたかのように呟く。

 

「……待って。そういうことなの?」

 

「鞘先輩?」

 

「七南、西ノ宮中のフォーメーションを見て」

 

「え? …………あれっ!?」

 

 鞘に言われた通り、七南が後半戦に臨む西ノ宮中のフォーメーションを確認すると……前半戦であれだけの活躍という名の蹂躙を見せつけてきた雷門の二人がいない。どこにいるのかと周囲を見渡してみれば────ベンチに件の二人がいた。そして西ノ宮中の監督の表情は勝利を確信した慢心で満ちている。

 

「……鞘先輩」

 

「ええ、舐められてるわね」

 

 鞘と七南の会話を聞いた南雲原サッカー部のメンバー達も、西ノ宮中のフォーメーションとベンチを見て青筋を立てたまま笑みを浮かべていた。温厚な亀雄も含めて全員が青筋を立てているというのが現在の南雲原サッカー部の状況を物語っている。

 

「けど、これが笹波君の作戦だったんですね!」

 

「そうね。……となればここからは────」

 

「シンプルな殴り合い! ですね!!」

 

「いいえ、違うわ。そうでしょう、桜咲君、忍原さん、柳生君?」

 

 強力なシュート技を獲得している三人に鞘が問いかける。

 

「おう……!」

 

「もちろんです……!」

 

「こっからは何もさせねぇ……!!」

 

 前半戦、最も鬱憤が溜まっていた三人からメラメラと強いプレッシャーが放たれているかのような圧が生まれ、それが南雲原に伝播する。全員が勝利を目指して全力を尽くすという心持ちになったところで、後半戦開始のホイッスルが鳴り響いた。

 

「こっから4点!! 一気に取って逆転勝利だ!!」

 

「作戦は!?」

 

「んなもん分かってんだろ!! ゴリ押しだオラァッッ!!」

 

 恵まれた体躯と、これまでの特訓で磨き上げられたボールコントロールで前線を一気に押し上げていく駿河。

 

「オラオラ退きやがれェッ!!」

 

「な、なんだ!? 急に動きが────!!」

 

「景気づけに行けよ! 桜咲!!」

 

 雲明が10万人に1人の逸材と称賛した足を持つ丈二に向けて、キラーパスを放つ駿河。そんな無理矢理なパスに追いつけるわけがない……西ノ宮中の誰もが考えている中、ベンチに座っていた雷門の二人は違った。

 

(いや、これは────)

 

(もう、いる……!)

 

 キラーパスを追いかけるどころか、並走していた丈二がその脚に力を込め……真紅のエネルギーを一気に解放する。

 

 

「まずは一点────【剛の一閃】ッッ!! 

 

 

 ドンピシャで叩き込まれ、真紅の閃光と化したシュートがゴールへと一直線に突き進んでいく。神話生物のシュートを除いて、現状最高威力の必殺シュートを前に西ノ宮中のゴールキーパーは必殺技を発動しようと構えるが────

 

「スウェットスティルネ────ぐあああああああああっ!!?」

 

 必殺技を発動する前に剛の一閃がゴールキーパーを弾き飛ばし、ゴールを揺らす。

 

「しゃあッッ!!」

 

 まずは一点目。南雲原の初ゴールによって、観客から歓声が沸き上がる。例え負けたとしても、一矢報いたと言えるだろう────なんて、観客や実況が考えている中で、南雲原は次の点に意識を向けていた。

 

 

 

「……つまり、死んだふりってこと?」

 

 ベンチで作戦の仔細を聞いた妃花の言葉に、雲明が頷く。

 

「はい。雷門の二人と戦うにはまだ時期尚早。まともにやり合うだけ無駄です」

 

「だから、前半戦、西ノ宮中に好き放題させていた……これ以上過剰戦力は必要ないと思わせるために」

 

「必殺技を使わせなかったのもそのためだったんだ……!」

 

 ベンチで会話が弾む中、またもや南雲原がシュートを決めた。今度は焦った西ノ宮中から兵太がボールを奪い、前線に上がっていた来夏の放ったブレイクダンスによって強烈な回転を与えて放つ必殺技、【ぐるぐるシュート】がキーパーの必殺技をすり抜けるようにしてゴールネットを揺らした。

 

「下手だなぁ、西ノ宮中……下手っぴさ……戦いのやり方が下手……!」

 

「ええ、お蔭で助かりましたがね」

 

 ケケケケ……と魔女のように嗤うミームと、ギャラクティック・ノヴァのように目を細めて暗黒微笑を浮かべる雲明が着々と点差を縮めていく戦況を見つめる。

 

「本来のサッカーを捨ててでも勝とうとしていたのに、追いつかれそうになっている……焦りますよねぇ」

 

「そうなれば絶対に大きなガバをやるのが人間ってやつよ……」

 

「そしてそんな隙を見逃すような特訓を、南雲原(うち)ではやっていないんです」

 

 どうにか点差を元に戻そうと前線を押し上げてきた西ノ宮中だが、綻びが生まれた箇所に切り込んだ七南と鞘によるスピニングカットの合わせ技により吹っ飛ばされる西ノ宮中の選手。ボールも一緒に吹っ飛ばされたが、その落下地点にいち早く辿り着いていた亀雄が近くにいた妖士乃にパスを出し。

 

「さぁ、ショータイムだ! 【シルバーウルフレジェンド】ッ!! 

 

 白銀の狼の咆哮と共に放たれたロングシュートは天高く、ゴールよりも高い位置へと向かっていく。西ノ宮中も、観客もシュートミスだと思っていたが、妖士乃の狙いはシュートを決めることではなく、確実にシュートを決めることができる人物にボールを渡すことである。

 

「これで同点ッ!! 寝戸のアレにはまだほど遠いが────喰らいやがれッ!!」

 

 腕を組み、堂々とした態度で天高く飛び上がった駿河に届いたシュートは停止しつつも威力をそのままに雷光を発生させる。

 

 

「【天空サンダー】ッッ!!!」

 

 

 力の限り蹴り込まれた雷鳴を纏うシュートが天高くゴールへと迫り、キーパーの必殺技をまるで紙切れのように吹き飛ばしてみせた。

 

「ちなみにグレートマックスなオレは山だが、天空サンダーは風だぞ」

 

「雷は全部風なんですかね?」

 

「ザ・タワーなんかも風属性だしな」

 

 必殺技って、不思議だ。

 悪い笑顔を浮かべている二人にちょっと引いているマネージャーと顧問。なんにせよ同点に追いついてみせたことで、西ノ宮中には動揺と焦燥が色濃く浮かんでいる。プライドを捨てて雷門の二人を助っ人に召喚したというのに、逆転されそうになっている。もう精神的にもきつい状態だろう。必殺技を使おうにも、メンタルがブレているせいで威力もなければ突破力もない状態だ。

 

「正直、最初から西ノ宮中だけのサッカーをしてたらこうはならなかったと思います」

 

「そりゃまたなんで?」

 

「自分達の力だけで強敵に勝つ────それはきっと、逆境を力に変える何かを生み出しますから」

 

「お、そうだな」

 

 かつての雷門も帝国学園、世宇子中などに逆境を糧にして勝利を掴んだ。誰かに頼るのではなく、全員の力を振り絞り、雷門はフットボールフロンティアを制したのだ。

 

「だからまぁ……僕としては、西ノ宮中だけのサッカーを見てみたかったとも思います」

 

 雲明がそう言ったのとほぼ同時に、残り時間が1分前まで迫った状況で焦りが出たのか手加減を知らぬパスを放ってしまう。凄まじいスピンがかかったパスはもはやシュートに近しいもので、パスを受け取ろうとしていた丈二が思わず目を見開いてどうにか追い付こうと走り────必殺技が間に合わないと判断してダイレクトシュートを打ち込んだ。

 

 

 瞬間。紫紺の閃光が放たれた。

 

 

「お?」

 

「ん……!?」

 

「剛の一閃じゃない……!?」

 

 ベンチでそれを見ていた誰もが驚く中、その紫紺の閃光はキーパーすら飲み込んでゴールネットを揺らした。

 

 

ピッ、ピッ、ピィィィィッ!! 

 

 

 ホイッスルが三回鳴り響いた。

 それは試合終了の合図だ。電子パネルに表示されているスコアを見ると────4-3。死ぬ気でゴリ押してみせた南雲原サッカー部が逆転勝利をしてみせたのだ。

 

「やりますねぇ!!」

 

「ええ、本当に見事な試合でした」

 

 西ノ宮中のメンバーが崩れ落ち、南雲原サッカー部が勝利に雄叫びを上げている。観客はお互いの健勝を称えるように歓声を上げていた。

 

「さて……一回戦突破のお祝いは何を作るべきか……」

 

「ここはリクエストを聞いてみては?」

 

「お、そうだな。さて、何が来るのやら」

 

 本当のスタートラインに立ったことを喜びつつ、一回戦突破を祝した料理をどうするか考えるミーム。リクエストは多岐に渡り、戦争が起きそうだなァ、と呑気に考えつつサラダチキンを貪るミームは気付かなかった。

 

「………………」

 

 西ノ宮中のベンチから視線が向けられていることに。




ミーム
地獄を見せる愛情によって南雲原サッカー部を鍛えた神話生物。
驚いたねェ、ボウヤ。どうしてそんなにつまらなそうにサッカーやってんだい?

雲明
しかし、笹波雲明には狙いがあった。
どうしてサッカーができるのにつまらなそうにやってんだオオン?
西ノ宮中オンリーのサッカーを最初からされていたら、逆転されていたのは僕達かもしれない。そう戒める男。

南雲原サッカー部
勝った!嬉しい!
そして祝勝会の料理のリクエストで小さい戦争が起こった。
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