ノートに書きだしていったらキリがない。というわけで載せます。
今回からイシュヴァール殲滅戦です。原作の面を省略することになるかもしれませんが、ご了承ください。
拾漆話 取引
1908年。それはアメストリス史に大きな事変を遺した年。
事変の名は『イシュヴァール殲滅戦』。
表向きは以前より対立していたイシュヴァール人への粛清。だが、その真の目的は、アメストリスに住まうすべての人間を贄にした国土錬成陣の血の紋を刻む為の大量虐殺。
良心ある者は何故このようなことを、と悩むが大総統の決定故に反論することは出来ない。
この戦いには戦場での実用を確かめる為に多くの国家錬金術師が導入された。国家錬金術師は国から研究費が支給される
従軍する者には、ロイ・マスタング、アレックス・ルイ・アームストロング、マース・ヒューズ、さらに士官生であるリザ・ホークアイも含まれていた。
だが、正史には存在しない人間、ヴァルトルート・ヒューズ。彼女が介入することで、運命は少しずつ変化する。
イシュヴァール殲滅戦の最前線、イシュヴァールを見つめる人物がいた。
青い軍服の上に白の外套をマントのように肩に引っ掛けた黒髪―――ヴァルトルートだ。
数日後には戦場となる地を見つめながら、ヴァルトルートはこれまでのことを考えていた。
フェリスティの言葉で決意を新たに固めた。そして必要な準備を重ねてきた。鋳造した戦闘用ホムンクルスは一個師団クラス。完成したもの達からイシュヴァール付近に拵えた地下空間に待機させている。これらはイシュヴァールの民を守る為、アメストリス軍に差し向けるのだ。もしバレたらただでは済まないということは分かっている。
さらに犠牲者を減らす為に、ヴァルトルートはある人物とコンタクトを取った。
ヒースクリフ・アーブ。かつての同級生だった青年だ。情報屋に消息を掴んでもらい、使い魔に伝言を託した。“ただの友人”として会って欲しい、と。
そして約束した場所で二人は数年ぶりの再会を果たした。
方や生まれに誇りを持ち、偏見に苛まれながら民族の待遇を良くしたいと希望を持ちながら夢破れた者。
方や自分の大切な人達を守りたいと才と努力を重ね、転機が重なったことで地位を得た者。
この時ばかりは、そのことを忘れた。
ヒースクリフは消息を絶ってからの行動を、ヴァルトルートは士官学校を卒業してからの自分達の歩みを語り合った。特に准尉から少佐に昇進した経緯を話したときは、二人とも元凶となったオリヴィエの手腕に呆れると共に笑みが零れた。
懐かしい話もほどほどに、ヴァルトルートは決行される殲滅戦について話し始めた。ヒースクリフもいずれ大きな手を打ってくるとは予想していたが、国家錬金術師を導入してくること、自分のかつての友人達も駆り出されるという事実に驚愕していた。
そしてヴァルトルートはある提案を切り出す。
少佐の地位に在る自分が持つ情報―――軍がイシュヴァールの民を閉じ込めて皆殺しにしようとしていること、行軍ルートを伝え、非戦闘員の女子供だけでも脱出させるように仲間を説得するよう頼む。
彼女と親しかったヒースクリフはともかく、多くのイシュヴァールの民はアメストリスに反感を持っている。アメストリス、しかも軍に所属する人間の言うことに耳を貸すとは思えないが、少しでも犠牲をなくす為にも、一種の賭けだった。ヒースクリフもヴァルトルートの思いを察して何とかやってみると引き受けた。
その後、ヒースクリフに預けた使い魔から呼び出しがあって行ってみると、ヒースクリフの他に何人かのイシュヴァールの民がいた。そして上座にいたのはイシュヴァラ教最高指導者ローグ・ロウだった。
まさかの展開に驚きながらもヴァルトルートは彼らと対峙した。何故軍部の情報を横流ししたのかなど、様々な質問(という名の詰問)をされながらも相手を刺激しないように答えていった。
そんな折、ローグ・ロウはヴァルトルートにこう尋ねた。
“自分の命と引き換えに、同朋の命を救うことは可能か?”
彼に付き従う者達は思わず声を上げた。それは降伏を表すものだから、彼らが動揺するのも無理はない。
ヴァルトルートは大総統の指示のもと行われる悪夢の末を知るだけにあわれに思ったが、“お父様”の命令で動く大総統――
理解はしていたのだろう、答えを聞いて、そうか、とだけ呟いた。小さな嗚咽が、周りから聴こえた。
ある程度落ち着き、ローグ・ロウは姿勢を正した。そして、提案を受け入れることを告げたのだった。
「ルート、こんな所にいたんだ」
聞きなれた声に、ヴァルトルートは思考の海から浮上した。振り返ると、白の外套をきちんと着込んだクリステルが立っていた。
ヴァルトルートが引き連れている部隊に所属するクリステルは副官として動いている。兵達に戦いの準備を指示したクリステルは報告の為にヴァルトルートを探しに来たのだろう。
「兵達には基本の装備を身に着けておくように言っておいた。仮に上から指示が来てもすぐに出れる」
「そう…分かった」
二人の間に静かな時間が流れる。時々風が高い音を立てながら吹く。
沈黙を破ったのは、クリステルだった。
「……ヒースクリフは、みんなと一緒に行ったんだよね」
「……ああ」
軍がイシュヴァールに到着する前日、ヒースクリフは避難するイシュヴァール人達と共に旅立った。今、イシュヴァールにいるのはそれでも死ぬ時はと残ることを決めた者、徹底抗戦を唱える者。それだけでもかなりの人数がいる。そして、ヴァルトルートが鋳造したホムンクルスも各地に配置している。敵味方問わず犠牲が出るのはある意味必然だ。
ヒースクリフも残ろうとしていたが、ヴァルトルートが懇願して脱出行に旅立たせた。
これはある意味自分の我儘だと、ヴァルトルート自身理解している。それでも、かつて共に学んだ友と敵として相見えるよりかは。
「卒業してから全然会っていなかったからなぁ~、一度顔見たかったな」
「……会えるさ、全てが終わったら」
その“全て”がこの殲滅戦なのか、内乱なのか、はたまたこれから先に起こることなのかは分からない。
それでも、彼らは信じる。その先に明日があることを。
ヴァルトルートは腰に穿いた剣の柄をそっと撫でた。
イシュヴァラ教最高指導者が早くも登場。大総統に会うことなく脱出行に出られました。
とある武僧とその兄、医者夫婦は残っています。彼らの運命は……?
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