転生者はとあるキャラの姉   作:白燕狭由那

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投稿遅くなって申し訳ありません。
こんな感じという骨子はあったのですが、FGOにハマり過ぎたりしてました。

先に謝っておきます。ニーナファンの方々、すまない。


第弐拾壱話 戦乙女は救わない

「そういや大佐、一つ気になっていたんだけどさ」

 

機械仕掛けの肢を持つ金髪金眼の少年、エドワード・エルリックは目の前に座っている人物―――ロイ・マスタングに尋ねた。

 

「何かな、鋼の」

「駅で話していた女の人、誰なんだ?大佐にしちゃ顔が引きつっていたけど」

 

エドワード達とテロリストを鎮圧した女性を目にした瞬間、それまで余裕のある笑みを浮かべていたロイの表情が分かりやすいくらい引きつったのだった。

女性の方は気にした様子もなく、普通にロイに話しかけて言葉を交わしていた。対してロイは顔を引きつらせたまま、その背後に控えていたホークアイも閉口していたのだ。

あのロイ・マスタングにあんな顔をさせた女性はいったい何者なのだろう。

「ああ、彼女のことか……」

 

ロイは明後日の方向を見ながら遠い目をする。

 

「中央司令部所属、ヴァルトルート・ヒューズ。階級准将、そして……私の同期だ」

 

 

 

 

 

 

「……くしっ」

「おや、ルート准将。風邪でも引いたのかな?」

「いいえ、誰かが私のウワサをしているのでしょう」

 

東方司令部の応接室で私はグラマン中将と応対していた。グラマン中将との関わりはイシュヴァール内乱の頃まで遡る。リザ・ホークアイ中尉――当時まだ士官生だった――の祖父である彼とは軍の関係で何度か面識もあったが、何を考えているか分からない笑みを常に浮かべていた。

今でこそ閑職に追いやられているが、グラマン中将という人物は敵に回したら非常に厄介な人物である。

内乱後はホークアイとロイを通じて交流しており、公の場所以外ではこうして愛称混じりの呼び方をしてくれる。また、非公式に軍の裏の情報も共有している。

 

「マスタング大佐も頭を抱えていたよ。“なんでアイツはストッパーを連れて来ていないんだ”とね」

「はは…クリスには頼みごとをしているので…」

「ふむ、それは“傷の男”に関係することかな?」

「……流石中将、既に耳にしておりましたが」

 

グラマン中将はどうやらクリスを連れて来てない理由を見抜いていたようだ。

“傷の男”――国家錬金術師を狙い襲撃する謎の男。その正体はイシュヴァール内乱でキ○○イ野郎――、もといキンブリーに兄を殺された武僧であることは、私やクリスしか知らない。

しかし、国家錬金術師が犠牲になっていることから、軍部でも犯人確保が急がれていると共に、対象となる人物に護衛を付けさせるべきという声が挙がっている。

そんなことから、接近戦・隠密性に特化したクリスをある人物の護衛として置いてきたのである。

 

グラマン中将との対談を終えて部屋を出た私は廊下を歩きながら今後に起こる出来事に思いをはせる。

エルリック兄弟は合成獣の情報を求めて“綴命の錬金術師”ショウ・タッカーのもとを訪れて、娘のニーナと飼い犬のアレキサンダーと交流を深めているだろう。

このままだとニーナ達はタッカーによって合成獣にされる。ニーナ達を救う手立てもあるだろうが、私は手を出さないことを決めていた。

何故か?

エルリック兄弟のためだ。ニーナという犠牲があったからこそ、兄弟は前に突き進むことが出来たのだ。

要は等価交換と同じだ。何かを得るためには、それ相応の対価を支払わなければならない。

エルリック兄弟にとっての等価はニーナ達だった、ということだ。

生憎私は聖人君子でもない軍人だ。時に残酷な決断を下さなければならないのが現実だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、ショウ・タッカーは禁断の合成獣錬成を行い拘束された。翌日に中央に護送されて軍法会議にかけられるはずだったが、その夜侵入してきた何者かに殺害された。その傍らには、合成獣にされた娘の亡骸もあった。

ヴァルトルートは暗闇の中、二つの骸を静かに見下ろしていた。外は未だ闇に包まれ、この惨状が明らかになるにはまだ時間がかかる。

結局、彼らを救うことはしなかった。

読み手の立場で救済を謳うことは簡単だ。だが、当事者となってそれを為そうとするには、様々な弊害が生じてくる。

全てを救うなんて大それたこと、私にはできやしない。事情を知っているのもクリステルだけで、全員を説得するのも時間がかかる。それに、下手に情報が洩れて人造人間側に消されるのもごめんだ。

私は、私の世界を守るために行動する。

だが、せめてのものと死者への弔いの言の葉を口ずさむ。

 

 

『主の恵みは深く、慈しみは永久(とこしえ)に絶えず

あなたは人なき荒野に住まい、生きるべき場所に至る道も知らず

餓え、渇き、魂は衰えていく

()の名を口にし、救われよ。生きるべき場所へと導く者の名を

渇いた魂を満ち足らし、餓えた魂を良き物で満たす

深い闇の中、苦しみと(くろがね)に縛られし者に救いあれ

今、枷を壊し、深い闇から救い出される

罪に汚れた行いを病み、不義を悩む者には救いあれ

正しき者には喜びの歌を、不義の者には沈黙を

―――去りゆく魂に安らぎあれ(パクス・エクセウンティブス)

 

 

洗礼詠唱で彼らの魂を見届けたヴァルトルートは闇に溶けるようにその場を後にした。

 

 




ニーナ達の扱いは執筆当時悩んでいたのですが、ハガレン展を見に行った時、最終回の場面の再現でニーナの件がエドワード達の行動に影響を与えたことから、この展開となりました。

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