大晦日ネタもあるけど。
大晦日。新たな年の前日に当たるこの日は万国共通なので、前世との違いを感じていたヴァルトルートは少し安心した。
前世では申し分程度の掃除と勉強、年越蕎麦を啜りながら紅白と行く年来る年を見て大晦日から新年を迎えていたヴァルトルートであるが、今の彼女は軍に所属する将官の一人である。将官ともなると、部下も増えて責務も増える。
片付けるべき重要な書類を片付けて、地方出身の部下達から優先的に休暇を取らせた。やはり子供の元気な姿を見れば親御さんも安心するだろう。
なお、当の本人は大晦日が来ても執務室で書類を片付けていた。仕事を最後まで片付けたいというのが本人の弁だが、流石に周りの面々からそろそろ休めと言われている。残っている仕事も次の年に回しても問題ないものなのだが、手許にあるものを片づけないということは彼女のプライドが許さないのだろう。
そんな彼女に対し、親しい面々は実力行使を敢行しようとしてきた。
そして今回も―――――
「ルート殿ォオオっ!!お休みくだされぇぇエエエエエッ!!」
アレックス・ルイ・アームストロングが突撃してきた。なお、前日突撃してきたのは戦友クリステル、その前は増田英雄……ロイ・マスタング、そしてその前は実弟マースである。
「あ―――……、アルごめん……今やっているやつ終わったら帰るから……」
「今回はそうは言っていられませんぞ。すぐに仕事を中断してお休みになられるべきです」
「でも、まだ残っているやつがあるのに止めたら後に響きそうな気がするんだけど……」
「倒れる一歩手前になっているのにまだそう言うか」
聞き覚えのある凛とした声に視線を向けると、アレックスの姉…オリヴィエが執務室に入ってきた。
「え……ね…少将?」
「全く。お前は一つのことに集中するあまり他が見えなくなるというのは分かっていたが……食事もとっていないとは、体調管理がなっていないぞ」
「ええと、ですから…気づいた時にとっていましたから」
「言い訳はいい。というか気づく頻度が心配なレベルだ。とにかく今日は撤収しろ。そして三、四日は休め」
「え、ちょっ、なんですかこの体勢は!」
「決まっている。駄々をこねている部下を楽に運ぶ方法だ」
ヴァルトルートが抗議した理由――――オリヴィエ曰く駄々をこねている部下を運ぶ体勢、一般的にお姫様抱っこと呼ばれているものである。
ヴァルトルートはエイヴィヒカイトの恩恵を受けているが、精神的な疲れは自動回復されないので、地味に身体的疲弊にも影響してきている。故に、オリヴィエの手から逃れられないのである。
「アレックス、私は准将を連れて行く。お前も連絡を入れたらすぐに来い」
「分かりました」
「ちょっ、人の話聞いてください、というか降ろしてください~!!」
ヴァルトルートが叫んでいるが、それを意もせずオリヴィエは執務室を出て行った。
『―――というわけで、そろそろ着くと思われます』
「そうか。ありがとう、少佐」
マースはそう返事を返すと、アレックスからの電話を切った。姉の癖は理解しているが、今回ばかりは流石に休むべきだと思っていた。先日もそれを言いに訪ねて行ったが、聞いているような様ではなかった。姉を連れてくる少将に礼を言わなければならないなとマースは思った。
キッチンを見やると、自分の妻と姉の元で住み込みの家政婦をしているというキャスターがごちそうを作っている。彼女達も、姉のことを心配していた。さっきも、電話の会話を聞いて顔を見合わせて微笑んでいた。
(姉ちゃんは自分より他人を優先するのは分かるけどさ、たまには自分のために時間作ろうぜ)
ヴァルトルートとオリヴィエがヒューズ家の玄関に着き、呼び鈴を鳴らすまであと少し。
転生者姉、これからもよろしくお願いします!!