続編を思いついたので投稿することにしました。
本作は自作小説「ポロッカの秘宝」の続編、並びにDollsNest本編の後の時系列になります。
そのため独自性が強い作品なのでご注意ください。
__深層。
その最奥、聖櫃へと続く道中にある円形のフィールドで、三筋の光が瞬いた。
フィールドには、障害物代わりのコンテナや廃材が雑多に積まれている。
その隙間を縫うように、三人のニンフが駆けていた。
「右から回り込むよ!」
幼精の一人が叫ぶ。だが次の瞬間、その機体が横合いからの狙撃で吹き飛んだ。
当たったのは実弾ではない。訓練用の赤い塗料弾が顔面で弾け、真っ赤に染まる。
「うぇっ!?」
「まず1人」
狙撃の主__ケルシュは淡々と呟き、その鎧殻の車輪を起動させる。
「パナシェがやられた!?」
「ま、まだ終わってない!!」
残った二人はまだ戦闘には慣れていないのか、オープン回線で会話をしており、ケルシュにはその全てが丸聞こえとなっていた。
「オープンチャンネルは使うなとあれほど言ったのに⋯⋯」
少しの溜息の後、彼女の耳に微かな推進音が聞こえた。
ケルシュは鼻で笑うと同時にコンテナから飛び降り、推進音の主の前に着地した。
「わわっ!?」
驚いた幼精は思わず銃を構えたが、ケルシュが狙撃銃を投げ捨てたのを見てそちらに目をやってしまう。
「なんで__」
ケルシュの手元で小さく発砲音が鳴る。
腰に携えていたサブマシンガンの一撃が、幼精の脳天を赤く染めた。
「⋯⋯え?」
「2人」
呆気にとられる幼精を他所に、ケルシュはそのカウントを増やした。
「もらったぁぁ!!」
と同時に、最後の幼精がケルシュの前に飛び出した。
彼女は手に銃を持っておらず、ブレードを両手で振り上げていた。
「甘い」
ケルシュは冷静にそう吐き捨てると、マシンガンを持ったまま後方に車輪を滑らせる。
そして後退しながら、幼精へ向けて弾丸の雨を叩き込んだ。
「わっ、わわわ⋯!?」
勇ましく武器を振り被っていた彼女も思わず取り乱し、回避に専念する。
硬い音と共に、最後の弾が打ち出される。
「よし、ここから__」
幼精が頬を緩ませ、一歩踏み出した時だった。
ケルシュは投げ捨てた狙撃銃を片手で拾い、構えた。
「__あ」
銃口が彼女を捉える。
間の抜けた声を、狙撃銃が射抜いた。
「3人」
その場で最後の一人も止まる。
ケルシュはゆっくりと、塗料まみれの三人の中心に歩き、声を掛けた。
「そこまでだ。前よりは幾らかマシになったが、まだまだ攻めが甘いな」
幼精達は呻きながら、ゆっくりと立ち上がった。
そしてケルシュは頭を掻き、ため息混じりに三人を指差した。
「それと、オープンチャンネルはやめろ」
◆
「まずは反省だ。オープンチャンネルは論外、それ以外で行くぞ」
ケルシュはボードを引き寄せると、慣れた手つきで文字を書き連ねた。
「『接敵時の声』、『味方が倒れた後の動き』、『陽動に対する反応』、『近接戦闘のタイミング』⋯⋯」
最初にやられた幼精__パナシェが、気まずそうに書かれた文字を読み上げる。
全て書き終えると、ケルシュは振り向いた。
「まず第一、包囲手段を口頭で叫ぶな。そして遮蔽物を使え、狙撃が来ると分かっているなら尚更だ」
自身の耳元を指でつつきながら、ケルシュは続ける。
「戦闘時に仲間と話す際は通常回線に切り替えろ。基本だ」
「はーい⋯⋯」
返事を聞き流しながら、ケルシュは板書に目を通す。
「他は場数を踏めば何とかなるが⋯⋯パスティ」
「むにゃ⋯⋯」
「パスティ!」
「!!?ひ、ひゃい!!」
戦闘後の座学で寝ていたパスティを、ケルシュの声が叩き起こす。
上擦った間抜けな返事が周囲に笑いを誘うが、ケルシュには通じない。
「何故あそこで堂々と剣を持って突っ込んだ?それも叫んで」
「えっ!?え、えーっと⋯⋯」
その言葉に、パスティは思わず目を丸くし、目を逸らしながらもじもじし始める。
「あのタイミングで真正面から斬り掛かって倒したら、カッコいいと思って⋯⋯」
「弾を食らう覚悟はあるのか?」
パスティは目を逸らす。
「ちょっとなら……」
「ならやめておけ。私の知る人は、手足が千切れても止まらなかったぞ」
目を丸くする幼精達を他所に、ケルシュは再び板書に目を移す。
「強いてあの状況で当てに行くとするなら、そうだな⋯⋯私がポワールの撃破に気を取られている隙に後ろから近づく。あの瞬間なら、一撃くらいは与えられた筈だ」
動きを簡易的な絵と共に説明するが、それを聞いて幼精達はそれぞれ不満そうに声を上げる。
「えー!ひきょうだー!!」
「後ろからなんてやだー!!」
「お母さんは真正面から斬ってたー!!」
ケルシュは小さくため息をつき、頭を掻く。
「あいつ(リエル)の真似をしてると命がいくつあっても足りんぞ⋯⋯」
板書を手で消し、ボードを元あった位置に戻すと、ケルシュは3人を一瞥する。
「まぁいい、今日はここまでだ。大好きなギリー・ベルにでも遊んでもらえ」
「「「わーい!!」」」
彼女が手を叩いた瞬間、幼精達はまるで風のように駆けていく。
ケルシュは呆れたように、だがどこか満ち足りた様子のまま鼻で笑う。
「隊長もすっかり感化されたようですな」
その声に少し驚き、声のした方へ振り向く。
置いていた資材の奥から、部下の一人が現れた。
「昔はいつも仏頂面で、何にでもイライラしてそうな顔だったのに」
「⋯⋯うるさい」
部下の軽口に対してケルシュは、目を逸らしながらそう答えるしかできなかった。
「パナシェ、パスティ、ポワール⋯⋯あの問題児共には特に困ったものだ」
遠くでは、パナシェがパスティとなにやら跳ねており、ポワールはギリー・ベルにしがみつく。そこに他の幼精たちも混ざり始め、彼女の鎧殻に乗ったり走るなどして遊び始めた。
そんな平和な光景を眺めながら、ケルシュは淡々とそう答える。
「じゃ、なんでその問題児たちの面倒見てるんですか?」
「⋯⋯ナレフカ新司令に頼まれただけだ」
兵士はからかうように「そうでしたねぇ」と肩をすくめながら、その場を立ち去る。
立ち去る兵士を目で追った後、まだ遊んでいる彼女たちをケルシュは見つめる。
「⋯⋯これが平和か」
長年、戦場にのみ生き続けた彼女にとって、懐かしい感覚が込み上げてきていた。
こんな日が続けば良い、と思う傍ら、違う感情が彼女の心で燻っていた。
__このままで良いんだろうか
そんな考えが、胸の奥に引っ掛かって離れない。平和であるはずなのに、どこか落ち着かなかった。
物思いに耽る彼女を、警報が現実に引き戻した。
考えるよりも先に、ケルシュは通信機を耳に当てていた。
「敵襲か!?」
『い、いえ!どうやら所属不明のニンフが居るみたいで⋯⋯』
先程教導で使っていた鎧殻を装備し、銃のマガジンを実弾のものに切り替える。
「はぁ?この深層でか?」
昇降機に乗り込み、起動させる。
問題なく上昇している感覚に身を任せ、一息ついたところで再び通信機を手に取った。
「私も出撃する。警戒を怠るな。⋯⋯人命優先だ、死ぬなよ」
『了解!』
通信を切った後、幾らかの疑問がよぎる。
ガーディナの追っ手か、アルカンドか、それとも脱走兵なのか。
脱走兵ならば良いが、残りの二つが最悪だ。だが、脱走兵もその限りではない。
何かの罠ではないか__
昇降機が止まったと同時に、スラスターを全開で吹かし、突撃した。
◆
「いやぁ〜助かったよ。資材調達してたらまさかこんなところにつながってたとは」
二人の兵士が銃口を向けているにもかかわらず、そのニンフはまるで気にした様子もなく肩を竦めた。
「まだお前がただの亡骸漁りと決まったわけじゃない。不用意な行動は慎め」
「連れないなぁ⋯⋯同じ元ガーディナの仲間じゃないか」
そのニンフは外套を纏っており、その内側はガーディナの軍服だった。
後ろには荷物運搬用の自動機械が控えており、その背には大型のコンテナが載せられていた。
兵士達が睨みを利かせている中、駆動輪の音が彼女達の耳に入ってくる。
「隊長!」
その声を聞き、音の鳴る方へニンフが振り向く。
彼女にとって、最も懐かしい相手が姿を現した。
「ケルシュ⋯⋯!?」
ケルシュもその姿を見て、戸惑いが混じったような表情を見せた。
「⋯⋯ピルス?」
読んでくださりありがとうございました。
次回は5/31(日)12:00〜になります。
ケルシュ
https://docs.google.com/document/d/1RPwX2fvq6PC6mSktv6ONoR2aNABQqFfCCf3SeT93iO0/edit?usp=drivesdk
ケルシュ(教導仕様)
https://docs.google.com/document/d/1tuIpAM6tsZexJtPGi_TZi2poTMckSPeniytAu329psA/edit?usp=drivesdk