『Kölsch -盟友、再び』   作:ゆらNari

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※アルカンドは弱くありません。相手が悪すぎるだけです


『奇襲』

深層、中央大洞穴にて、アルカンドの主教たるウィッターが率いる兵士たちが、急拵えの陣地を形成していた。

 

「……強硬手段となってしまいましたね、卿」

 

アルカンドの制式飛行鎧殻に身を包んだ士官が、ウィッターを呼んだ。

 

「仕方あるまい。テトリー殿の潜入が失敗したのだ。この降下作戦で兵も疲弊している、後はないと心得よ」

 

ウィッターは重々しく呟く。

 

「我らに……大義はあるのでしょうか」

 

士官はふいに疑問を口にしてしまう。

口にしてしまった。

 

「死んだ同胞にもそれを問うかね?」

 

ウィッターの目は据わっていた。

士官は総毛立ち、片膝を付く。

 

「失礼しました……この身に替えても、必ずや成功させてみせます」

 

ウィッターは一歩踏み出し、遠くに見えるコロニーを見渡す。

陣地から離れた位置では、拠点攻撃用のロケット砲台が幾つも設置されており、それらが絶えず投下されていた。

 

「よろしい。テトリー殿が最高戦力を抑えてくれている。仕損じるなよ」

 

アルカンドの兵士たちが、次々とコロニーへ降下する。

それはまるで、蜂の群れが小さな巣へと侵攻するかのようだった。

 

「……はっ」

 

兵士はその場から引き下がり、陣地で待機していた30人もの部下の元に向かう。

 

「アゥラム」

 

ウィッターがそう呟いた時、天井から一人のニンフが降り立った。

 

「リアーヴドへようこそ」

 

外套を纏い、ナガラ製のカタナを手にした彼女は、兵士達の前にゆっくりと歩み寄る。

 

「敵襲__」

 

士官がそう言い切る前に、彼女の首が宙を舞った。

 

「それじゃあいつも通りに」

 

彼女がそう呟くと、上空から複数本のグレネードが地面に落ち、綿を押し詰めたような濃霧が周囲に充満する。

 

「これは……ガーディナの戦術か!!」

 

ウィッターは叫び、自身の四脚鎧殻へと飛び込む。

しかし、一振りのカタナが煙幕を突き破り、彼女の両脚を斬り飛ばした。

 

「えっ……あ」

 

バランスを崩したウィッターは鎧殻に顔を打ち、乗り込めないまま転げ落ちる。

 

「皆っ……!!」

 

ウィッターは顔を上げ、そして絶望した。

 

煙幕の中で絶え間なく銃声が響き、閃光が瞬く。

無数に飛び交う弾幕をくぐり抜け、振り抜かれたカタナが、部下たちを枯れ木のように払った。

 

「っ、空を飛べ!視界を確保__」

 

指示を飛ばした兵士の首が飛ぶ。

しかし、その意図を察した者達は煙幕を抜ける為に空を飛ぶ。

 

スラスターを限界まで噴かし、煙幕を抜けた瞬間、彼女たちは遠距離から飛来した砲弾に撃ち抜かれた。

 

「ヒット、入れ食いだよお姉ちゃん」

 

観測手役の幼精が呟く。

遥か遠方の高台から、何人もの重戦車鎧殻のニンフが滑空砲を構えていた。

 

「了解。火力支援を続ける」

 

煙幕から逃げたアルカンド兵を、無機質な火砲が撃ち抜き続けた。

 

「司令部、応答頼む、司令部!!」

 

場所は変わり、ロケット砲台に控えていた通常型のニンフが通信機に叫ぶ。

しかし応答はなかった。

 

「クソ、どうなって__」

 

彼女がそう言い切る前に、その胸を貫かれる。背後には、パスティがブレードを突き立てていた。

 

「よし、声を出さなかった」

 

「敵襲__!!」

 

パスティは、軽いステップを刻みながら、砲兵達を撫で切りにする。

 

「よくも同胞を!!」

 

上空から一機の戦闘型ニンフが、レーザーブレードを手に降下する。

しかし彼女は接敵する前に、その頭を撃ち抜かれ、地面に激突した。

 

「ナイスだよパナシェ」

 

パスティはそう言いながら、通常型を狩り続け、熱塵砲を手にしたパナシェが降り立ち、無機質にアルカンド兵を射殺し始める。

 

「根の国に攻めたのが間違いだったんだっ!!」

 

交戦中の兵士が、一人逃げ出す。

 

「主の怒りを、私たちは買ったんだ……」

 

ポワールが逃げる彼女の前に降り立ち、小銃を向ける。

 

「ああ……ごめんなさ__」

 

兵士の命乞いを、銃火がかき消した。

幼精たちは確かに、若き母の面影を宿していた。

 

「……そんな」

 

煙幕が晴れ、ウィッターは言葉を失う。

本陣に居たニンフ達は全て殺され、展開した部隊は掃き捨てるように潰されていた。

 

「技師型以外捕虜は要らないから。私達の女王(リエル)に毒盛ろうとしたんだよ?誰も残さなくていい」

 

カタナを手にしたニンフ、ナレフカが無線機で指示を飛ばしながら、ウィッターに近付いていた。

 

「あぁ……嫌っ」

 

ウィッターは腕だけで這いずり、ナレフカから逃げる。

そこに指揮官の威厳はなく、自らの末路に恐怖する一人の少女の姿があった。

 

「ああ……あなたは滅ぼす側だったもんね」

 

ナレフカは無機質に呟く。

 

「崩れていく住み家も、助けられなかった幼精の住み家も、塵に消えた戦友の痕跡も、あなたは知らないのよね」

 

彼女はウィッターを踏みつけ、殺意のこもった眼差しで見下ろす。

 

「笑ってよ。私たちの平和を荒らしに来たんでしょ?なら侵略者らしく、笑えよ」

 

「ひぃ……っ」

 

彼女が悲鳴を上げようとした時、ナレフカの蹴りが後頭部に炸裂し、意識を刈り取った。

 

「縛っておいて、後で色々解析しよう」

 

「分かった」

 

「おっけー」

 

ナレフカの後に続く何人もの戦闘型が、気絶したウィッターを鋼線で縛り上げる。

 

「お、終わったみたいだな」

 

廃墟となった陣地に、ギリーベルが到着する。

履帯の音を響かせながら、何人もの通常型を引き連れていた。

 

「ギリー!その様子だと、首尾は上々かしら?」

 

ナレフカは一転して明るい声音で尋ねる。

 

「まあな……市街地に来たのは全員仕留めたよ。密室じゃ奴らに負けないさ」

 

ナレフカは苦笑する。

 

「まあ、勝てるわけ無いわよね」

 

彼女がそう言った直後、都市から一筋の光線が放たれ、アルカンドの固定砲台を貫いた。

 

次の瞬間、誘爆したミサイルが大爆発を引き起こし、熱をもった突風が二人の居る陣地に吹き荒れる。

 

その光は、アスカロンによるものだった。

 

「技師型達は大喜びだろうな」

 

微笑むギリーベルに対し、ナレフカは眉を落とした。

あの日ヴァルクレムを落とした一撃、それがこうも安易に放たれるのは、少し思う所があった。

 

「……なんか、複雑だなぁ」

 

ナレフカは肩を落としながら、通信機でケルシュに連絡を取った。

 

「カルト達は壊滅させた。手伝いに行った方が良い?」

 

 

「いいや、不要だ。私だけでケリを付けたいんだ」

 

ケルシュは無線機越しに答える。

 

『友達なら捕虜にしてあげるわよ』

 

ナレフカは優しげに返事をする。

 

「ああ、恩に着るよ」

 

ケルシュは無線を切り、改めてテトリーの目を見る。

 

「残ってるのはお前だけだ。投降しろよ」

 

彼女は銃を下ろし、悲しみを湛えた瞳で見つめた。

 

「……私はっ、近衛騎士だ!!私の、私だけの誇りがある!!」

 

テトリーは叫び、一対のレーザーブレードを構え、走り出す。

その目には涙が浮かんでいた。

 

「馬鹿野郎が!!」

 

ケルシュもまた大粒の涙を浮かべ、怒号と共に自動小銃の引き金を引いた。

銃声が合図となり、二人だけの決戦が再び幕を開けた。

 

「……幸せな決着が付くことを祈ってるよ」

 

その景色を、純白に光る長髪のニンフが眺めていた。

 

彼女は虹に輝く瞳で見据え、灰色の手を伸ばして微笑んだ。

 

「あなたももう、私の種子なんだから」




読んでくださりありがとうございました。
次回は6/21(日)12:00予定です

ナレフカ新司令
https://docs.google.com/document/d/1NHz9N9XdVcJaohPIOhCpj-fPNOJJc-nUUuoVyfGiyko/edit?usp=drivesdk

ウィッター卿
https://docs.google.com/document/d/13S4exl8Zd4Y5ycHQ28KQY6YqBTlDJv6FoZLHheZTvyc/edit?usp=drivesdk
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