『Kölsch -盟友、再び』   作:ゆらNari

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本作の後日譚になります。
読んでくださると幸いです。


『後始末』

「__以上が、今回の経緯となっております。よろしいですか?女王様」

 

ナレフカは街の最奥、無数のパネルで構築された円舞台に来ていた。

純白の若木、女王にこと経緯を伝え、揶揄うように笑った。

 

「……もうっ。女王呼びはやめてよ」

 

虹の瞳を持ち、灰色の肌をしたニンフ。

__リエルが若木の裏から顔を出していた。

彼女は頬をむくれさせ、抗議する。

 

「分かってるわよ。けど、他の子達が居る時は合わせてよ?司令の面子があるんだから」

 

「分かった……それで、今回殺し過ぎじゃない?捕まえた技師型の子たち、怯えてるよ?」

 

リエルは苦笑しながら尋ねる。

 

「侵略者に慈悲なんて無いよ。満場一致だったし」

 

「……なんか、私の方が浮いてない?昔の私、あんなに過激だった?」

 

「もっとね。上層に上がってたかも」

 

ナレフカは苦笑する。

 

「そっか……」

 

リエルは肩を落とし、ため息を吐く。

__確かに、昔はやんちゃだった。

母を弑したであろうイーデンは、この手で引き裂いて、異形の餌にした前科もある。

だが、我が子達がそれをするのは納得が行かなかった。

 

「情操教育……頑張ったんだけどなぁ……」

 

リエルは、パナシェが敵の耳を持ち帰ったことを気にしていた。

 

「仮想敵がたくさん居る内は仕方ないんじゃない?愛はともかく、慈悲を教えると殺す時辛いし、内部で割れるわよ」

 

ナレフカはしみじみと呟く。

彼女もまた、旧友を思い出していた。

 

「……そうだね」

 

リエルは肩を落とす。不満はあるが、納得していた。

 

「それで、テトリーの処遇はどうするのよ?」

 

ナレフカはそう言って2本のスチール缶を取り出し、一本をリエルに投げた。

 

「とりあえず、幼精達の教師をして貰おうかなって」

 

「キョウシ?」

 

「炭素生物がやってた、知識を教えてくれる人のこと。ほら、あの子上層で英才教育受けてるから」

 

リエルは「ヨヨブレンド」と書かれた缶コーヒーを開け、ひと口飲む。

苦い風味が突き抜け、嗜好品を作れる余裕が出来たことに喜びを感じた。

 

「へぇ……名案ね」

 

ナレフカもまた、コーヒーをひとくち口に含んだ。

 

「うん。これで一件落着__」

 

リエルがそう言いかけた時、ナレフカはコーヒーを吹き出した。

 

「……これ、異形の冷却水じゃない」

 

そう聞いた瞬間、リエルは缶を投げ捨てる。

 

「ヨヨッッ!!」

 

そして、今は大人になった相棒への文句を叫んだ。

 

 

一方__

 

中層方面軍司令、スタウトは自らの執務室で苛立っていた。

 

「私の腰巾着め……偉くなったものね」

 

彼女は一枚の端末を手に、歯軋りする。

それは、上層方面軍による、下層調査依頼だった。

 

「ああ。まあ偉いんでな」

 

執務室の扉を、ゼクトが蹴破って入る。

 

「ゼクト!!」

 

スタウトは端末を握り潰し、テーブルに手を突いて立つ。

 

「聞こえてるよ、中層方面軍司令官殿」

 

ゼクトは苦笑する。

 

「あなたね!自分の立場を分かっているのかしら!?」

 

叫ぶスタウトに対し、ゼクトは窓を眺める。

 

「大橋攻略の立役者。当代の霧を援護し、ギプロベルデの陥落に貢献した者だ。あなたはどうだ、閑職殿?」

 

スタウトは拳銃を引き抜き、据わった眼差しでゼクトに銃を向ける。

 

「撤回なさい」

 

凍りつくような空気が流れる。

しかし、ゼクトはそれに竦むことなく言葉を続けた。

 

「それは女王の意思か?」

 

ゼクトもまた、目でスタウトを射抜いた。

スタウトは銃を下ろし、椅子に座る。

そして、大きくため息を吐いた。

 

「__分かったわよ。私はアンタが嫌いで、アンタも私が嫌い。それじゃ、司令同士の話をしましょう」

 

スタウトは怒りを収め、落ち着いた様子でゼクトを見上げた。

 

__あなたに付き合うほど子供じゃないの。

 

と、彼女は小さく呟いた。

 

「先日、アルカンドの大部隊が中層を抜けて下層に降りたようでな、七割方は刈り取ったが、死体には近衛騎士まで居た。物騒とは思わないか?」

 

スタウトは鼻で笑う。

 

「尻を拭いてあげるわよ?」

 

「拭かれる尻に心当たりが無いな?防衛線を張っていたでもなし、不意の遊撃で七割を削ったんだ。兵法から学ぶと良い」

 

「貴方は作法を学ぶべきね。まるで子供よ」

 

「マースが死んで日も浅い。下層には確実に何かがある」

 

スタウトは思案した後ため息を吐き、机の下から一枚の通行証を取り出す。

 

「良いわ、通行を許可します。ただし、仔細は陛下へ伝えること。良いわね」

 

彼女は事務的に答え、ゼクトはそれを手に取る。

 

「感謝する」

 

ゼクトは踵を返し、執務室の扉に手を掛ける。

 

「ヴォーグが死んでいたそうよ」

 

去り際にスタウトは呟く。

 

「何?」

 

「ヨドを殺した後自害していたわ……ホントに愚かね」

 

ゼクトは乾いた笑いをこぼす。

 

「確かにな……後は私たち2人か」

 

ゼクトは扉を開く。

 

「死ぬんじゃないわよ」

 

「……あんたもな」

 

ゼクトは扉を閉じ、スタウトの元を後にした。

 

 

数日後、ゼクトは少数の精鋭を連れ、下層に訪れていた。

 

「ここは使えそうにないな」

 

ゼクトは、下層方面軍司令部の跡地、その屋上に来ていた。

 

「様子はどうだった」

 

ゼクトの側にフル装備のニンフが降り立つ。

 

「寄生された同胞と、大量の死体だけです。再利用は難しいかと」

 

「……カルト達は霊廟を避けたようだな。別の道があると踏むべきか」

 

ゼクトは崩壊した基地を憐れむ。

 

「……死後に、大姉に会えてると良いな」

 

彼女はそう呟いた後、部下に振り向く。

 

「航路を変更だ。拷問した奴が吐いた二つ目のルートを目指す。推進剤と弾は死体から回収しておけ」

 

「了解」

 

そう告げると部下は高台から降り、遠くの砂漠を目指して飛翔した。

 

「……さて、人払いはしたぞ」

 

ゼクトは無人の屋上で呟く。

 

「気付けたんだ」

 

ゼクトの背後から、透き通った声が響く。

 

「下層は風が強い。だがな、種子の匂いはすぐに分かる」

 

彼女が呟くと、遅れてリエルが背後に着地した。

青白い肌をしたリエルを見て、ひと目で普通の種子ではないと彼女は判断した。

 

そして更に、リエルが右手に持っていたものを見て、肝を冷やす。

 

「そう、なら話は早いか。あなたはこれをどう報告するつもり?」

 

ゼクトは瞬時に考えを巡らせる。

 

「根の国を目指したカルトは下層で壊滅。マースは異形にやられて死んでいた」

 

リエルは右手に持っていたもの。

__ウィッターの生首をゼクトに投げ渡す。

 

「うん。上出来、耄碌した女王に変なことを吹き込むと死んじゃうかもしれないから」

 

リエルは微笑む。

 

「……根の国が実在したとはな」

 

ゼクトが呟いた瞬間、リエルの背から六枚の羽が飛び出す。

 

「今から口を縫い合わされたい?」

 

ゼクトは手を前に出す。

 

「失言だった。私は何も見ていないさ」

 

ゼクトはそう言って後ずさる。

 

「なら良いよ、見逃してあげる」

 

リエルは微笑み、翼を体内に格納した。

 

「……ところで、ケルシュは元気か?」

 

ゼクトの質問に、リエルは目を細める。

 

「どうして私に聞くの?」

 

「ただの勘さ。どうせ生きてるんだろう」

 

リエルは得意げに笑う。

 

「ピルスって子も一緒にね」

 

その返事にゼクトは目を丸くし、声を出して笑った。

 

「はははは!!それは良い、部下たちの前で口にしたいよ!!」

 

ゼクトはそう言って、屋上から背を向けて落ちる。

 

「なら厭味な司令官より伝言だ!ケルシュ、ピルス!貴様ら2人をガーディナより除名する。二度とガーディナの地を踏む事は許さん!」

 

彼女はそう言うと鎧殻の推進器を起動し、生首を片手に飛び去った。

 

「……だってさ」

 

リエルは服の下から通信機を取り出す。

 

『はは……相変わらず不器用だなぁ……』

 

通信機越しに、ケルシュは嬉しげに呟いた。

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