死神部隊とニンフの言う。
大森林の僻地に、中層の種子殺しが現れる。
上層方面軍、アルカンドの戦場に、
無敵と謳われたガーディナ特殊戦闘部隊。
情無用、命無用の鎧化兵。
この命、金30億セル也。
最も高価な戦闘大隊。
『前日譚-襲撃』
カルト達よ、神に祈りは済ませたか。
__中層、大森林。
かつての繁栄を感じさせる巨大ビル群の続く広大な地。
その僻地を、とある一団が横切る。
ある者は己の鎧殻で、ある者は大型の輸送機に乗り、巨大ビル群に切り取られた狭い空域を進んでいた。
「卿!どうやらここのようです!!」
「よし、各々降下準備!野営地の設営と安全確保の後、下層降下に備えて休息を取る!」
卿と呼ばれたニンフ、ウィッターの号令と共に、兵士達は降下し始める。
輸送機からは多くの通常型や技師型のニンフが飛び出し、瞬く間に野営地の設営を終えた。
その場所は、かつてどこかのコロニーだったのだろう。ニンフの死体が転がり、かつて女王だった枯れた樹が静かにたたずんでいた。
「この辺りはガーディナの監視も緩いようですね」
廃墟に広がる大穴の底を眺める彼女の横に、士官が現れる。
「うむ。ここを降りてしまえばようやく下層だな」
穴の底に視線を向けたまま、ウィッターは呟いた。
「諜報員に聞けば、奴らの下層方面軍も壊滅しているとか⋯⋯これも主の思し召しですね」
ウィッターは小さく頷いた後、顔を上げる。
「根の国が実在するとは思わなんだがな⋯⋯そこを解放し、我々の新たな安住の地とするのだ」
「聖戦ですね、卿」
士官はただ、そう答えた。
「左様。ここまでの遠征だ、我々に失敗は許されんぞ」
拳を強く握りしめ、ウィッターは力強く答える。
「アゥラム」
士官が立ち去ろうとしたとき、突如として野営地の近くで数度の爆発が起きる。
「何事だ!?」
衝撃と揺れでバランスを崩したウィッターの前に、1人の通常型ニンフが現れる。
「卿!ガ、ガーディナの襲撃です!"種子殺し"です!!」
「何だと!?ならば私が直々に⋯⋯」
ウィッターは即座に踵を返し、白い多脚鎧殻へ向かう。
「なりません!」
鎧殻へ走ろうとするウィッターを、一人の声が止めた。
「チェルシー殿か、今は止めてくれるな!」
「貴女が死ねば、誰が我らを導くのです!ここは私が行きます!貴女は下層へ!!」
ウィッターは暫く唸った後、小さく頷いた。
「分かった⋯⋯死ぬなよ」
「アゥラム⋯⋯!」
チェルシーは頷き、ウィッターとは反対の方向へ駆け出した。
◆
「カルト共め、ガーディナの監視網を甘く見るなよ」
突如として野営地の上空より、ミサイルと銃弾の雨が振り注ぎ、休息を取ろうとした幾らかのニンフに風穴を開け、テントや輸送機を爆炎で吹き飛ばす。
「て、敵襲!敵襲だ!!」
「通常型と技師型は輸送機に避難!騎士たちは早急に鎧殻を纏え!!」
ニンフ達の悲鳴や怒声が上がる中、空中からガーディナの黒い鎧化兵が降下する。
その兵士達の右副腕と背嚢には、返り血が付いているかのような赤色のペイントがなされていた。
「あいつら、上層にいるガーディナの特殊大隊じゃないか!?」
「なんで中層のこんな僻地に!?」
「ここは安全じゃなかったのか!」
焦り、慌てた者たちは、上からの銃撃により地に倒れる。
「地上からも来__」
叫んだアルカンドの兵士は、真っ先に狙撃された。
狙撃と同時に、瓦礫の影より同じ色、そして同じ鎧殻を装備したガーディナ兵十数名が飛び出す。
「アルカンドの部隊を発見。指示を」
『皆殺しだ』
「了解」
その通信と同時に、ガーディナ兵達は各々持っている武器を非武装のニンフ達やまだ装備を付けていない戦闘型に向けて発射する。
「貴様らよくも!!」
鎧殻をつけた航空騎士二人が飛び出し、銃を構える。
だが、騎士の一人が狙撃され、その勢いのまま地面に落ちる。
「なんだ⋯⋯がっ!?」
狙撃された騎士に気を取られたもう一人は、目の前に現れたガーディナ兵の持つ射突杭に貫かれた。
倒れた騎士に、さらに別の兵士が銃弾を浴びせる。まだ息のあった彼女は即死した。
「死神共めぇ!!」
別の場所では、航空騎士の一人がレーザーブレードを兵士の一人に突き立てて撃墜するも、近くを通りがかった兵士に頭部を撃ち抜かれた。
「僥倖だ、残さず殺せ。ガーディナの地を踏み荒らした報いを受けさせろ」
司令官であるゼクトは部下達に淡々と命じる。
そして自身もライフルを取り、視界に映るニンフを作業のように射殺していた。
「そこまでだ!!」
ガーディナ兵達が野営地を荒らす中、一人のニンフがその場に降り立つ。
「⋯⋯ふむ」
アルカンドの巡礼が纏う重装鎧殻に身を包んだニンフが、ゼクトの前に立ちはだかった。
「貴様が種子殺しのゼクトだな?相手にとって不足はない!」
胸には近衛騎士の紋章。周囲には、数体のガーディナ兵の死体が転がっていた。
「私はアルカンド近衛騎士が一人、チェルシー!貴様に決闘を申し込む!!」
チェルシーは大型のレーザーブレードをゼクトに向ける。
「この決闘に主の加護ぞあれ!アゥラム!!」
だがゼクトの声色は冷ややかだった。
「そうかい」
言い終わるや否や、チェルシーは持っていたレーザーブレードを構え、エネルギーを貯めながら突撃する。
「同胞達の仇ぃ!!」
長大なビーム刃を振り下ろし大地を抉るが、ゼクトはそれを先読みしていたかのように飛び上がる。
『付近の部隊へ通達。爆発を合図に囲め』
それと同時に、チェルシー後方の輸送機一隻に向けて副腕のミサイルとレーザー砲を殺到させる。
「ぎゃあぁぁ!!」
「嫌だぁぁ!!」
爆発と同時に、技師型達の悲鳴が上がる。
チェルシーはそれを聞くや、自ずと拳に力が入った。
「貴様ぁ!!」
ゼクトの着地点に向けて再びレーザーブレードを構え突っ込むが、突如として彼女の持つ大剣に強い衝撃が走り、手から離れる。
「な⋯⋯!?」
彼女が振り向くと、狙撃銃を構えた兵士が立っており、その後方より更に別の兵士がチェルシーに向けてバズーカを発射する。
「⋯⋯!?」
チェルシーはなんとかそれを避け、副腕のレーザー砲で二人の兵士に砲撃する。
だが、砲撃した頃には先ほどの兵士は既に散開しており、瓦礫を焼くに留まる。
「くっ、卑怯な⋯⋯!」
チェルシーは小型のレーザーブレードを取り出し、周囲を見渡す。
間を置いて、別の兵士が短機関銃の弾幕を浴びせ、副腕の装備を破壊する。
「舐めるな!!」
その兵士に斬りかかろうと突撃するが、その兵士も先程のゼクトのように飛び上がる。
「フェイズ1完了。2に移行します」
そして、懐より手榴弾を落とした。
「⋯⋯っ!?」
爆発をまともにくらうはずの距離だったが、それは爆弾ではなかった。
「煙幕か!?」
チェルシーは一瞬だけ息を止めた。
闇雲には振らず、センサーの感度を限界まで上げる。
「そこか!!」
チェルシーがレーザーブレードを後方に振るうと、煙の奥にいたガーディナ兵の武器と右副腕を吹き飛ばした。
『武装損失。任務継続に支障なし』
ゼクトは小さく息を吐いた。
「近衛を名乗るだけはある」
『フェイズ2.1に移行しますか?』
「いや、そのまま続けろ」
視界が遮られる中、チェルシーが感じ取れるのは、羽蟲と誹られていた消音スラスターの音と、わざと直撃を避けているような銃弾の掠る感覚だけだ。
「く⋯⋯っ!」
センサー感度を限界まで上げたのが仇となり、少しの攻撃でもアラート音が鳴り響く。
警告が多すぎる。
本命の殺意が、どこから来るのか分からない。
『フェイズ3に移行。後は私がやる』
ゼクトの通信と同時に、兵士達は射撃を止める。
チェルシーの呼吸は荒くなり、ついにレーザーブレードを構え、見えないままに振り回す。
「どこだ!どこにいる蛮族め!!正々堂々と戦え!!」
そう叫んだ瞬間、彼女の目の前に射突杭を構えたゼクトが姿を現した。
「え⋯⋯?」
「死ね」
彼女の胴体に、射突杭が音を立てて突き刺さる。衝撃で身体が大きく揺れ、口から多量の血を吐く。
「ぐぅ⋯⋯っ、テト⋯⋯リー、⋯⋯ウィッター卿⋯⋯を⋯⋯」
チェルシーが息絶えたと同時に、ゼクトは乱雑に死体を投げ捨てる。
それと同時に、副官であるハインより彼女に通信が入る。
『閣下、野営地の制圧を完了しました』
「被害状況、知らせ」
『死者5名、軽傷、無傷他35名。敵被害、およそ180名中108名死亡。逃亡者約72名、うち10名の掃討に入ります』
まだ掃射の銃声と兵士の歩行音が響く中、その通信にゼクトは眉を顰めた。
「残りはどうした?」
暫くの沈黙の後、ハインは硬い声で答えた。
『⋯⋯申し訳ありません、残りは野営地を放棄し、下層に逃げました』
「何?」
ゼクトは背嚢の観測装置を起動させ、下層に続く大穴を一瞥した。
その先で、逃げ延びたアルカンドの輸送機を視認した。
「奴らはガーディナが目当てじゃないのか?」
その後ゼクトは思案するが、無駄だと分かると即座に通信機を耳に当てた。
「ハイン、掃討中の兵士に通達しろ。まだ残っている奴がいるなら殺すな。一人でいい」
『私の失態です⋯⋯処分は後ほど』
「それができたら取り逃しは不問にしてやる」
『了解しました』
通信を切り、ゼクトは再び大穴に視線を向ける。
「奴ら、何で下層に⋯⋯」
__まぁ、生き残りが教えてくれるだろう。
ゼクトはそう心の中で呟くと、兵士達の前で左腕をゆっくりと上げながらその場を後にした。
◆
深層の一室。
「今日はやけに砂が落ちてくるな」
ケルシュは武器を磨きながら、天井を見上げる。
「ケルシュおねーちゃん!早くー!!」
ケルシュが声のした方へ振り向くと、三人の幼精が手を振っていた。
「あぁわかった。今行くよ」
ケルシュはやや面倒くさそうな声を上げながら立ち上がる。
「⋯⋯杞憂なら良いんだが」
ケルシュは胸の奥に小さなざわめきを覚えながら、ゆっくりと幼精達の方へ歩いて行った。
本来はプロローグとして戦闘パート抜きのを書いていたんですが、文字が足りないのと戦闘パートがあるとゼクトのほうが目立つだろうなという点、そして削るには(あくまでも個人的なわがままだが)惜しいという理由で前日譚として投稿させていただきました。
チェルシー
テトリーと一緒にウィッターの防衛についていた人。バウカーン製の大剣を装備しており、豪快さと高い近接火力がウリ。ゼクト相手に一騎打ちを求めたが、ゼクトが従うはずもなく殺されてしまった。
ちなみに本人はテトリーと仲が良いと思っているが、遠慮せずグイグイ話しかけてきたりするためテトリーにとってはあまり良い人では無い。