”ひとつなぎの大秘宝”なんかいらないわ、それよりケーキバイキングよ!   作:mooma

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けいやく、ゆうじょう、たいよう


ミイトーリア

人は死ぬ

 

早かれ、遅かれ、人は死ぬ

 

男も女も、富めるものも貧しきものも、健やかなるものも病めるものも…

 

いつか、皆等しく死を迎える

 

その男にとってそれは、病によるものか人の手によるものかだけの違いでしかなかった

 

だからこそ…

 

 

 

 

 

 

 

折角の故郷だってのに、檻の中ばかりはつまらねぇ…

 

そう思って窓から漏れる月明かりを眺める

 

今頃ルージュはどうしてるのか…

 

泣いてたりしてねぇか?

 

いや、あいつはそんな健気な女じゃねぇや、

 

きっと怒り狂って手当たり次第に八つ当たってんだろ

 

胎のガキに響かなきゃァいんだけどよ

 

結局息子か娘か知らねぇままだけど…

 

おれの勘が息子だって告げてるから息子なんだろうなぁ…

 

おれとルージュの息子なら、ルージュが大暴れしたところで元気に生まれてきそうじゃねぇか

 

「なぁ、そうは思わねぇか?無粋な侵入者さんよぉ」

 

「…あなたの息子なら、燃えるように熱い男になるんじゃないかしら?海賊王ゴール・D・ロジャー」

 

物陰から現れたのは闇を映したような紫色の目と光をそのまま糸に梳かしたような金の髪が印象的な乙女…

 

この厳重警備の中、誰にも見つからずに此処まで来れたという事実に反して、一件ただの少女のようにしか見えねぇが…

 

「で?堕ちた竜の姫君が、おれに一体なんのようだ?」

 

この少女がどういう存在なのかは、風が教えてくれる…

 

風もこの少女には何かを感じていたのかも知れない…やけに詳しい情報まで知っているようだった

 

「どうやって知ったのかは聞かないけど…女の子のプライベートを覗き見るなんて紳士的じゃないわよ?」

 

ふふふ…と笑顔を浮かべて注意を促してくるが、生憎覗いてるのは風であっておれじゃない

 

一応風を睨みつけておけば、止めるつもりはないのか口笛を吹きながらあらぬ方向に向き直っていて…

 

「あ~…悪かったな、今後は気をつける」

 

おれ自身が気をつけてもあまり意味はないんだけどな…

 

更に風をじと目で見てやればケラケラと笑ったから反省する気はなさそうだ

 

「……そこに何か、いえ、誰かがいるの?」

 

「!!」

 

そんなおれの態度に、彼女が聞いてきた質問は、おれと風の度肝を抜くには十分な威力があって…

 

なにか、と言いかけて、誰かと正したあたり、こいつにも多少なりとも才能が有るのかもしれないな

 

全般的に、思春期前後の女性の方が感受性が豊かで見えやすい傾向はあるとは聞いていたが…

 

「見えるのか…?」

 

「いいえ、見えないけど…でも誰か居そうだと思って…なんとなく?」

 

首を傾げたり、目を細めたりして、見ようとはしているが…そういう努力の仕方じゃ見えるようにはならないのは知ってる

 

それで見えるようになるなら、おれだってレイリーに殴られるような事が減っただろうに…

 

思い出してへこみかけるおれに、風がまた声をかけてきた

 

《その子、生まれつき目が悪いんだよ、ロジャー…オイラとかなら良かったんだけど、その子の家のヒトみぃんな光がついてたから、もし見えてたらそのせいで目が灼けちゃうと思うよ?なんだっけ?え~っと…》

 

「羞明?」

 

《そう、それ!それで明るいのが、ダメ…って、あれ?今の、もしかして…》

 

風が思い出そうと頭を捻っている時に答えを言ったのはおれではなく…

 

驚いて彼女の方を見れば申し訳なさそうな顔をしていて

 

「なんか…糸使ったら声が聞こえたから答えたんだけど…ダメだった?」

 

「聞こえたのか!?」

 

「う、うん…見えない誰かが居るなら触れないかなぁって思って糸を伸ばしたら、ちょっと引っかかったみたいになって、声が聞こえて…え~っと…どうしたらいいの?」

 

見えはしなくとも声が聞こえるなら才能がある事は確実だな…

 

どうしたらいいのかわからないように困惑した表情を浮かべている少女は視線を彷徨わせていて…

 

娘もいいなぁ…ルージュに似た娘だったら絶対に嫁には出さないがな!

 

《めっずらしい~、ククリの能力解放できたんだ?イトイト持っててもあんま使われないっていうか、そもそも簡単には見つけられない能力だから、オイラ自身忘れてたよ、あったこと》

 

「ククリ?」

 

《そ、ククリ。糸って括ったり結んだり繋げたり紡いだりするものでしょ?その関係で、色んなものと縁を括ることが出来るククリの能力もあったんだけど、今までその能力が使えた人間なんてほとんどいなかったんだよね~!ククリの能力を手に入れられたのが偶然だとしても、すっごく使える力だから、キミすっごい幸運だと思うよ?》

 

楽しそうな声で少女に語る風に、少女は真剣に耳を傾けていて…

 

見えてなくても意思疎通は出来るんだなって、まあ、当たり前か

 

そう思うと今まで考え付きもしなかった方法でレイリーに知らせる事も出来たかもしれないことに気がついて

 

おれの目もまだまだ曇ってたみたいだなぁ…

 

まだ幼さを残しているからか、あるいは他の理由からか、純真無垢な輝きを残したままの少女の双眼に、自分もいつの間にか俗世に染まっていたんだということもわかった

 

「まあ、気にするようなことでもねぇか……んで?なんでおまえはおれに会いに来たんだ?」

 

そんな気分を振り払うように、少女にもう一度声をかける

 

一瞬きょとんと目を瞬かせた後、思い出したようにあ…っと溢した顔はなかなか可愛かった

 

もちろんおれのルージュの方が可愛いし美人なんだけどな!

 

娘~…いいよな、こんな感じの可愛い美人な娘…

 

もちろん息子だっていいんだけど、ルージュに似た可愛い娘って言うのも憧れる…

 

男でも、女でも、一緒にやりたかったことがたくさんあって…

 

それでも、もう先の長くないおれは、こうすることでしか、おまえたちを護れないから…

 

「教えて欲しいの、あなたの知った天の秘密を…それが、きっと、私の家族が殺された理由だから」

 

真っ直ぐとおれを見つめる彼女の覚悟は、どんな宝石よりも強い輝きを生んで…

 

「教えたところでおれに何の利益があるんだ?」

 

明日、人々を焚きつけてから殺されるつもりのおれにとって、こいつに教える利益は今のところない

 

理由を知るだけで済むとは思わないしな…

 

「ん~?将来大変な目に遭うことがわかりきっているあなたの家族を、私が助けてあげるって言ったら?」

 

「なに?」

 

確かに政府がルージュと腹の中の子を放っておくとは思えない…

 

でも、だからと言ってまだ子供の域にあるような、目の前の少女に頼むのは…

 

「私、こう見えても“北の海(ノース・ブルー)”じゃあそれなりに影響力があるの。今すぐあなたの奥さんを助けに行っても護りきれる自信はあるわ。そして、それは過信じゃなくて、事実よ」

 

それなり?北の海(ノース・ブルー)の半分近くを治めておきながら、まだそれなりでしかないつもりなのか?

 

だが、それが天竜人ゆえの強欲さであるようには見えなかった…

 

まさか…本当に世界を相手に戦争するつもりなのか…?

 

彼女が上に立つようになって精々五年ほどだろう

 

その間に北の海(ノース・ブルー)の治安は海軍から見れば悪くなったように見え、一般人から見れば大幅に改善されたように見えている…

 

それだけの期間で、まだ子供であった彼女がそこまで出来るという事は…

 

真っ直ぐにおれを見つめる彼女の側にいる精霊たちを見る…

 

彼女の両肩と頭の上には幼児ほどの大きさの光たちがいて、彼女の足元には足を掴んで離さない小さな子供ほどの大きさの闇がいて…

 

全員、彼女なら大丈夫だと言わんばかりの笑みを浮かべている…

 

「わかった…おまえになら教えてやってもいい。その代わり、嫁さんと子供は頼むぞ?」

 

「ええ、任せて。誓約するわ、あなたが私に天の秘密を教えてくれる代わりに、私はあなたの家族を護る…私自身の家族を護るのと同じように護るわ。それで良ければ…契約成立かしら?」

 

「ああ…その条件で問題ないぜ?契約成立だ」

 

その言葉をきっかけに、何かがピーンッと繋がったような音がして

 

よくよく目を凝らせば、白銀の糸がおれと彼女を繋げているようで…

 

「?どうかした?」

 

「いや…」

 

無意識なのか…

 

恐らくは彼女が自身に対して強制力を発揮させるためだけの、ゲッシュのようなものなのだろう

 

…こいつがイトなら、糸で縛るなんて事もできるのか…いや、あるいは意図を縛るのか?

 

そう考えるとまだまだ世界には不思議がいっぱいだ

 

「さぁて、ちょっと長くなるかも知れないぜ?なんてったって明日には死ぬオッサンに、こんな美人な可愛い子ちゃんが会いに来てくれたんだ、なるべく長く話していたくなるのは自然の摂理だろ?」

 

「ふふ…変なことしようとしたら奥さんにチクるわよ?」

 

「おお、怖い!…っつっても、おれは嫁さん一筋の健気な男だからなぁ…誘惑されても他の女にゃ靡かねぇのよ、どっかの誰かと違って」

 

レイリーの女癖の悪さは、ありゃあもう一種の不治の病だ、しかもおれの病気より性質が悪ぃ

 

アイツ、いつか刺されるぜ?…刺されたところで死にそうにないけどな…

 

「ふふふ…そういうことも全部聞いてあげるわ。気の済むまでお喋り、お付き合いいたしますよ?ミスター?」

 

「おまえ、いい女だなぁ…変なヤローに引っかかって苦労するんじゃねぇぞ?」

 

「優秀だけど二癖も四癖もあるような変な男ばっかり引っ掛けて部下にしてるから、あんまり大丈夫だとはいえないかなぁ?恋愛的な意味ではトキメイてないんだけどね~」

 

くるっと指を回して能力で作った椅子に腰掛け苦笑した彼女は、それでも部下のことを信頼しているんだろう、満足そうな笑みを浮かべていて

 

ま、これから娘と語らうような気持ちを味わうのだということを思えば、それも悪くないと思え…

 

不思議な事に、朝日が昇るまで、誰にも邪魔をされずに楽しい時を過ごすことができた…

 

 

 

さすがに、朝日が昇り始めれば、彼女も帰らなければならない…

 

「もう…時間ね。不思議…つい数時間前にはじめて会った人なのに、そんな感じがしない…」

 

「あんだけ話が盛り上がってたんだ、そう思うのも仕方ない……後は頼むぜ?」

 

目を伏せ、髪を耳にかけた彼女はどこか寂しそうで…

 

そりゃあそうか…この日が沈むのをおれが見られないことを知ってるんだからな…

 

「ええ、任せて。友達の頼みはちゃんと叶えてあげる主義なの、私。安心して休んでていいから」

 

「ああ……眩しいのか?」

 

目を閉じ微笑を浮かべてくれたものの、なかなか目を開けようとしない彼女に、風が言っていたことを思い出す

 

牢の中にも割と強く光が届いている…それに彼女からは正面の方向から光が注いでいた

 

「…ええ。こんなに長くここにいるなんて思ってなくて、サングラス、持ってこなかったから…」

 

いつもはサングラスでその綺麗な目を隠してるのか…もったいねぇなぁ…

 

いや、だからって万民に見せてやるのも、なんか気分は良くねぇが…

 

「なら、ちょっとしたお節介さしてもらうぜ?おまえの後ろには三体の光の精霊と、足元に闇の精霊がいる…こいつらはおまえについてる奴らだから、いつでもおまえと一緒だ。どちらも好きな相手には尽くすタイプで、特に闇はおまえのためになることをするのが大好きだ!だから…そいつらに頼めばいい。それくらいなら喜んでやってくれるぞ?」

 

「え?…えっと…どんな感じで言えば…?」

 

糸を出して探してるのかもしれない…キラキラと輝くものが彼女の周りに見えるようになった

 

光を僅かに反射した瞬間に、辛うじてあるとわかる程度の細さの糸は、彼女の力量の表れだな

 

これほどの細さなら風にはかからないし、眼でも追えそうにない

 

見聞色でも追いきれるかどうか…不安が残るレベルだぞ、これは

 

「そうだな…そいつの目のほんのちょっと前で光の強さが弱くなるようにしてやれるか?」

 

《眼鏡の内側くらい~?》《それくらいの強さなら~》《覚えてるからできるよ~?》

 

《…目灼ク、強イ光…目入ル時、食ベテ消ス…目玉ノ少シ上……イイコ?》

 

「ああ、うん、いつもの眼鏡と同じくらいの明るさかもう少し暗いと助かるんだけど…」

 

どう?どう?と彼女の周りを飛び回る光に、彼女もゆっくりと目を開けて…

 

「あ…眩しく、ない…?…うん、うん、これくらいだと問題なく見えるよ!ありがとう!!」

 

満面の笑顔の彼女に、光も闇も嬉しそうで…

 

「ロジャーも、教えてくれてありがとう。ずっと大変だったから、これですっごく助かるよ!」

 

「なら良かったぜ!さ、海兵共が来る前に行け…捕まるんじゃねぇぞ?」

 

「うん…じゃあ、ロジャー…さよなら」

 

「ああ…さよなら」

 

おれと目を合わせてそう言ってから、彼女は景色に溶け込むようにしながら牢から出て行った…

 

窓の向こうではもう太陽が半分以上昇っていて…

 

おれの命日には相応しい、清々しいまでの青空が広がっていた…

 

 





独り言?

この話は(略)←


「なぁんかルージュに似てる気がすんだよなぁ…」

《光つきの、長い、ふわふわとした金髪だからじゃない?》

「そうかぁ?なんか…もっと根本的に…」

《包み込むような笑顔?》

「ん~…そんなんじゃなくて…」

《母性が強い?》

「ぬぅ~…あ!」

《わかったの!?》

「お嬢様的な見た目に反してすぐに拳が出るところが似てるんだ!」

《・・・・・・》

「…なんだ、その目は…」

《いや?ここにお花ちゃんがいたら殴られてるんだろうなぁ、とか考えてないよ?別に》

「…言わなかったことにしておこう…女子力物理は痛い……なんでおれの周りにはすぐに殴る人ばっかりあつまるんだろうな…」

《あの子の周りには各種変態が揃ってる事を考えれば、すぐ殴るくらいはまだマシじゃない?》

「そりゃあ、そうだけどよぉ…」

《諦めなよ、それが運命なんだから》

「…おれの子供にはもう少しまともな運命が欲しいぜ…」

《そればっかりは、生まれてみないとわからないんじゃないかな~?オイラ的には…無駄に過保護な兄弟たちにもみくちゃにされる運命が見える!!》

「いや、そもそも一人っ子なのは決定済みなんだけど?」

《あっるぇ~?う~ん…気のせいなのかなぁ~?》

「ぬぁに独り言いっとるかロジャー!」

「お、ガープ、なんだ?朝飯か?」

「…まあ、最後の飯くらい、わしが差し入れしてやろうと思ってな…粗末なもんで悪いが…」

「いや、肉なら何でも嬉しいぜ?ありがとな!」

「…ああ…」

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