”ひとつなぎの大秘宝”なんかいらないわ、それよりケーキバイキングよ! 作:mooma
「ドフィ、ボスが呼んでいる。ついてきてくれ」
母が亡くなってから数日と経たないうちに食料を買いに街に赴けば、いつもなら何も言わずに追いかけてくるか
あの取引以降は街に赴いても此方から出向かない限りは関わってこなかったのに、今日に限って呼び出しを受けるという不自然さに内心首を傾げつつも、気にせずヴェルゴについて行く
前回までとは違う集会場に連れて行かれると、そこにはなにやら難しい顔をしているボスがいた…
「んねーねー、ドフィ?ちょっ~と気になって調べたことがあるんだけど~、その、んねー、お願いだから怒らないで聞いてくれる~?」
ボスは無意識にドフィを上に見ているようで、よくこのようにドフィの機嫌を伺うような物言いになっている
「なんだ?」
ドフィはそういう扱いを受けても当然といった様子で、気にかける事は無い
その姿は堂々として自信に溢れ、神々しささえ感じられる
これほどの存在が、今目の前に、この薄汚れた国に、存在していることを赦して良いのか?
おれはそうは思わない…ドフィは、もっと、その身に相応しいところに居るべきだ
本来なら、この組織のようなゴロツキ共に名前を呼ばれていい身分ではないのだ
「ドフィのお袋さん、病気で死んだわけじゃないみたいなんだよねー」
「は?」
その瞬間、ドフィの顔から表情が消えた
「紹介した医者にさ~、薬の効きが悪過ぎたからエンバーミングのときに司法解剖してね~?ってお願いしたんだけど、その結果を送ってきて…死因は病気ではなくて、毒によるものだって」
「…ああ…、ああ…ッ!なるほど…そういう、ことかァ…ッ!アイツら…ッ!!」
ボスの言葉に、ドフィの顔が歪む
激情に駆られているドフィから発せられる怒気は、まるで真冬の嵐の中に裸で放り込まれたような感覚を呼び起こして…
「ッ!?…んッ、ね~、ドフィ…?いま、ドフィは…どんな気持ちなんだァ…?」
これは、恐怖か…?
身体の震えが抑えられない
いや、違う…
これは…
「生まれてはじめて…ッ!誰かをッ、母を殺した奴をッ!殺したいやりたいほど憎いと思った…ッ!!」
「ドフィ…!!」
これは、歓喜だ…!!
堕ちてきてくれた…!
堕ちてきてくれたのだ、ドフィが!おれたちと同じところにまで!!
ボスも同じような気持ちなのだろう…ドフィに気圧されながらも、その目には偉大なる存在の覚醒に立ち会った悦びのようなモノが映っていた
「…情報提供、感謝する…でも、もう、オレには関わらない方が良い…死ぬぞ?」
身を翻し、去っていこうとするドフィ…
その喚起はおれたちを案じての事だろう…
だが、おれにとっては、ドフィの為に死ねることが最高の幸福だ
いつも誰かを護ろうとして傷ついているドフィ
おれ以外がドフィを
おれ以外がドフィに
「…ね~ドフィ、最後にひとつだけ教えて欲しいんだよねー…ドフィは一体、なんなんだァ?」
「…ヴェルゴは察していたが?オレは…、『神』だ。……楽園を追放された『神』だけどな…」
ドフィが何者であろうと構わない…
ドフィがおれの
ドフィは、
どこからオレたちがまだ生きている事がバレたのかはこの際どうでもいい…問題は、今、誰がオレたちを狙っているのかということだ
天竜人の中には奴隷たちがもがき苦しんで死んでいくのを見て楽しんでいる奴らもいた…
奴らのうちの誰かが母に毒を盛らせて、苦しませて死なせたのだろうことは、ボスが見せてくれた医師の診断書に書かれていた毒の種類からわかった
あれは、この国では手に入らないものだ
いや、正確にはマリージョアでなければ手に入れるのが難しいもの、だな
猫がねずみを甚振って甚振って甚振って…息も絶え絶えな所でようやく死なせてあげるような、そんな殺し方をする薬…
使う薬の種類から誰がやったのか検討をつけることはできるだろうが、その前にやらなくてはならないことがある
全力で家に向かえば、立ち上る、煙
最悪の予感がした
「父上ッ!?ロシィッ!!?」
焼け落ちる家を掻き分けるようにして二人がいないか探す
炎に肌を炙られ、眩しさに目が灼けそうだけど、手を休めたくはない
「けほっ…げほッゴホッ…!」
熱い空気が喉を焼く…
腕で口を覆ったけど煙を吸い込んでしまって咳が止まらない
すべての部屋を確認すると、家にはもう誰も居ないことがわかった
このままここにいてはオレ自身も危険だから、急いで燃え盛る家を出る
家に誰も居ないとなると、どこかに連れて行かれたのか…?
涙が溢れてくる…拭っても拭っても止まらない
きっと煙のせいだ
こんな格好じゃ、町にも向かえない…
二人を探しに行く前に顔を洗ってこようと、森の中にある湧き水が出ている場所へと向かえば、動物のものとは違う動きが見えた
思わず身構えてしまったけど、それは懸念した相手のものではなく、
「ドフィ!?よかった、無事だったのだな…!?」
「兄、上…ッ!」
探していた二人のものだった
少し煤けてはいるものの、二人に大きな怪我はなく、以前の経験と口煩く注意していた事もあってか、あると助かるものは大概持ち出していたようだ…
「…~っ…!…っ、ぅぅ…ッ、よかった…っ二人とも無事で…ッ!!」
力が抜けて、地面に座り込んでしまったオレを、父上は抱きしめて…
「…ッ…ふ、ぅッ…!」
「…ロシィ、ちょっと水を汲んできてくれないか?まずは煤を落として怪我が無いか確認しなくては…」
「え?う、うん…そう、だね…行ってきます」
少し困惑した様子のロシィはそれでも素直に鍋を持って水を汲みに行ってくれた…
優しく、頭を撫でてくれる父の手の感触に、オレは縋りつくのを抑えることができなくて
「すまない、ドフィ…私が至らないばかりにお前には苦労ばかりかけて…お前は自分がしっかりしなくてはならないと思っているのだろうが…もう、我慢する必要は無い…私はお前たちの父親だからな…子供を支えるくらい出来なくてどうする?…お前はドゥルシネーアが亡くなったときにもほとんど泣かなかったし、いつでも我慢させてばかりだった…」
もう、涙を止める事もできなかった
「ドフィ、すまなかった…私達はお前を護ろうとするあまり、視界が狭くなっていたのかもしれない…だが、どうしても早い内にマリージョアを出なければならなかったのだ……こんな時に言うつもりはなかったが…最早何があるか解らない以上、今教えておこう…ドフィ、私達はお前を息子として育ててきたが、本当はそうではないのだ。お前は、私達の娘…女の子なんだ。だが…天竜人の中でも特に性根が腐った者が、かつてお前の母のことも欲していた者だが、ヤツが娘が生まれたなら嫁に寄越すようにと命じてきたため、お前を護るために男として育ててきた…そしてお前が女であることが知られない内にマリージョアから逃げてきたのだ。ドフィ…もしも捕まりそうになったときは、私達を見捨ててでも逃げなさい。お前は女の子だから、捕まってしまえば普通よりもずっと辛い目に遭う…もう、私達を護ろうとしないでくれ。お前はまず、自分の事を第一に考えなくては駄目だ…いままで、すまなかった…!!」
父は、痛いほどオレを抱きしめて…
「ぅああ゛あ゛ぁぁぁぁぁ…ッ!!」
オレは父に抱きついて、声を上げて泣いていた
もう、一杯いっぱいだったのだ
母を奪われ、父と弟も奪われたと思った
心が磨り減って、悲鳴を上げて、でも進み続けるしかなくて…
本当は、誰かに頼りたくて、でも誰も頼れなくて、苦しくて、でも諦めたくなくて…
自分でも、どうしたいのかわからなくなるくらい、グチャグチャだった…
ああ、でも…それでも、オレは父が、母が、ロシィが大好きで、愛していて…
いまはじめて、疲れた羽を休めるところを得られた気がした
国中にビラでも撒かれたのだろう…その日から終わりの見えない逃亡生活が始まった
人に見つかって、噂の元天竜人だとバレると、暴力に襲われる
まだ女だとは知られていないからそれ以上の暴力が無いことは救いだけど
店から食べ物を買うこともできない
逃げ隠れて暮らしていく中で、時には残飯を口にせざるを得ないこともあった
「ロシィ、これを食え。他のよりはマシだ」
「兄上…どうして僕たち、逃げ暮らさないといけないの…?」
「…いいから、早く食え。人が来る…ッぐ…ッ」
口にした果実の腐ったような味に吐きそうになって、でも飢えを満たすために最後まで残さず飲み込み、他に食べれるものが無いか残飯を漁り続ける
背中がゾワゾワして、人が近づいてくるのが解っても、まだ余裕があることを知っているからすぐには逃げ出さずに食べ物を探す
皮肉な事に、この状況が見聞色の精度を上げることに一役買っていた
「…ロシィ、そろそろ行くぞ。近くまで人が来てる」
「…うん…」
父に渡すためにいくらか食べ物を持ったままその場を後にすれば、ちょうどすれ違うようなタイミングでオレたちを探している人間がその場に着いたようだった
父のところまで逃げ帰れば、今夜休める場所を準備してくれていた
「父上…兄上…寒いよ、どうして火を消してしまうの?」
「来なさい、ロシナンテ。みんなで固まれば寒さも凌げるさ、ほら、ドフラミンゴも来なさい」
今夜の寝場所である洞穴に吹き込む風からオレたちを護るようにして抱き込む父は、ここしばらくで肉が落ち、年よりもずっと老けたように思う…
それでも昔と比べればずっと生き生きとしていて…
少し、安心した
ある朝、オレは刺されたような痛みを首の後ろに感じて叩き起こされた
飛び起きて周囲を確認すれば、ひとつふたつ…二十を超えたほどの気配に、包囲されていた
「見つけたぞォ!!」
声に起こされ、ロシィを抱えた父にも、状況がわかったのだろう…
できるだけ人の少ない方へとオレを庇うように立ちふさがっていたが、今日の奴らは今までの奴らとは違っていた
的確に足を狙って放たれる矢や弾丸
獣を追い立てる猟犬のようにオレたちを追い込んでいく狩人たち
「ドフィッ!!」
死角から現れた影に驚く間もなく頭を強打された
「やめろ!!やめてくれ…!!子供達は許してやってくれ…!!!この子達はなにも知らないのだ!!すべて私の責任だから!!!攻撃を加えるのは私にだけにしてくれぇッ!!!!」
父の慟哭を聞きながら、オレの意識は闇に落ちた…
再び目を醒ました時、オレは酷い頭痛とぐるぐる狂った平衡感覚に犯されていて、自分の置かれている状況がすぐにはわからなかった
なにか盛られているのか、瞼の裏がチカチカしたり変な模様を描き出したりして、気持ち悪い
騒音しか聞こえなくて、でも急に腹部が蹴られたように痛くなって、えずいてしまう
どれほどの間そんな状況だったのかもわからぬまま、ただただこの悪夢に屈しないように頭を動かす事だけは辞めないで耐える
その内に気色の悪い感覚が消え、五感が正しく働くようになった時には、オレはロープのようなもので縛られていて、そしてガンッと宙に放り出されていた
ギシッと恐ろしい音を立ててロープが張り詰めたかと思うと、壁かなにかに背中から打ち付けられ…
もう、いやだ…!
オレがなにをしたって言うんだ…!!
神様のミスで殺されて、転生させられたと思ったら、こんな目に合わされて…!!
ロシィの泣き叫ぶ声が、父の呻き声が、聞こえる…
民衆が、オレたちに怒りを、憎しみを、苦しみを、ありとあらゆる負の感情をぶつける音がする
オレたちは、直接、お前の家族を傷つけたか?
オレたちは、直接、お前らから家族を奪ったか?
オレたちは、直接、お前らを害したか?
…いいや、オレたちは、なにもしていない…
我がドンキホーテ家は、昔はどうだったか知らないが、奴隷は人道的に扱っていたし、一定期間の奉仕の後でなら自身の身請けをすることも許していたし、受け取っていた税金は無駄にせず大事に使ったし、なにより上に立つものとしての責務を果たすべく努力していた!!
それなのに…
それなのに…ッ!
なんだこの扱いはッ!!
「どけ…」
ある種の人間が誰かを害したからって、その種の人間すべてに責任があるのか…?
「退け…!」
親の罪は、子供の罪でもあるのか…?
「退け!」
悪に染まった場所で暮らしているものは、悪い奴だけなのか…?
「退けぇッ!!」
違うだろ!!?
「今すぐその薄汚い手をオレの家族から退けろォォォッ!!!!」
ピシッ、ピシッと音がしたかと思うとオレは何故か
ある人間の罪は、あくまでもその人間だけの罪であって、他人は関係ない…!!!
「それ以上オレの家族に手を出してみろ…!!」
パサリとオレを縛っていたロープとオレの目を覆っていた布が落ちる
お前達の八つ当たりを、どうしてオレたちが受けなきゃあ、ならないんだ!!!?
「地の果てまでだろうと追いかけて!!!ひとり残らず血祭りに上げてやるッッ!!!!!」
殺意を込めて奴らを睨みつければ、奴らはひとり、またひとりと泡を吐いて崩れ落ちていって
「あ、悪魔め…!」
「来るなぁ!!こっちに来るんじゃないよォ~!!」
怯えたように後ずさっていく民衆に、一歩近づけば、その顔に更なる恐怖が刻まれ…
「なァ、知ってるかァ?悪魔ってのは、取引とか契約とか、そういったモンを至上とするんだぜェ?」
ブチギレているオレの顔は一体どれほど恐ろしいのか…
みんなマナーモードになっているみたいだな、フッフッフッ!
「お前たちはオレと『オレの家族に手を出さない代わりに命は助けてやる』っていう取引をしたんだ、わかるよなァ?死にたくねェなら…今すぐ消えろ」
蜘蛛の子を散らすように我先にと逃げ出したクズ共に嘲笑だけを送って振り向けば、いつの間にやら父とロシィも自由になっていたようで、父はロシィを抱きしめて宥めていた
…やりすぎたかな…?
「クソッ、目が痛ぇ…」
眩しくて何も見えない中でサングラスを探すのは骨が折れるんだろうなぁ…と思いながら父の方に向かおうとすれば、背後に突如現れた気配
振り向き様に裏拳をブチ噛まそうと腕を振りぬいた瞬間、その気配に覚えがあることに気付くも既に時は遅く…
ガチィィン!と金属がぶつかり合ったような音が、その場に響き渡った
「ドフィ、遅くなってすまない…迎えに来た」
自身のサングラスを手渡してきながらオレに傅いてきたのは、ここにはいないはずのヴェルゴで…
「ボスも他のメンバーも、ドフィが元天竜人だと知った上で助けたいと言っている。一緒に、来て欲しい…おれにドフィを護らせてくれないか…?」
オレのサングラスほどではないにしろ、ヴェルゴのサングラスでも十分に眩しさを抑えることはできて、改めて周りを確認すれば、オレたちを吊り下げていたのだろう建物は切り裂かれたようにバラバラになっていて、一体なにが起きたのか、理解できなかった
「君は…ドフィの…友達、かな?私たちのことを知った上で助けてくれるなんて…ドフィは優しい“お友達”を持ったようだね…」
感涙する父の横で、オレは見事にバラバラにされている建物に呆気にとられていたままで
「…ところで、ドフィはいつ、能力者になったんだ?さっきの糸の扱いは、見事だった…!」
「え…あ、ああ…」
恍惚としているヴェルゴ曰くオレがやったという建物バラバラ事件…
…ああ、そうか…あの腐った味の果実、イトイトの実だったのか…
あの時食べる前にちゃんと見ていなかったことに、今更ながら後悔していた…
能力者だって気付いてたら逃げられたかもしれないのに!
もしかしたら遠坂のうっかりのようにドンキホーテのドジも遺伝病なのかもしれない…
父上もドジッ子だからなぁ…ロシィほどじゃ、ないけど…
急に疲れた気がして、ため息をついたオレはその時は気付いていなかったんだ
ロシィがオレを見る目に、怯えが浮かんでいたことに…
父と男友達
本編とはあまり関係はありません()←
「ところで…ヴェルゴ君…うちのドフィとは随分と仲が良さそうだが…一体どんな関係なんだね?」
「ドフィとは…友達?」
「ほう…?」
「一緒に
「そうか…(そうは言うが…ドフィのことを狙っているのは間違いなさそうだな…出来る事なら娘にはあまり関わってほしくないタイプの男だ…)」
「義父上は、」
「ホーミング“さん”」
「はい?」
「ホーミング“さん”だよ、ヴェルゴ君…君と家のドフィの関係なら私を父と呼ぶのはおかしいだろう?(天地が反っても父とは呼ばせないぞ?)にこにこ」
「そう、でした…では、ホーミングさん…(さすがはドフィも尊敬する人…!威圧感が凄まじい…!!)」
「ああ、なんだね?ヴェルゴ君(これが娘に近づく
「…(なにやってんの?あの二人…なんか凄いバチバチ言ってんだけど…)」