麻美アンチの俺が転生したら麻美ちゃんだった件 ―原作通りに進めようとしたら世界が狂った―   作:甲楽わん

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麻美アンチ、麻美になる。

満足度3


転生と彼女③ ポッキーゲーム

3. ポッキーゲーム

「なんか俺の彼女、来られるようになったみたいで…」

和也は仲間たちにわざとらしく話しかけ、そう言いまわっている。

刻一刻とその瞬間が迫り、俺の鼓動も高鳴ってきた。

十数分後、更衣室の設置された建物から彼女は姿を現した。

千鶴姫(水着ver.)だ!

長い黒髪が海風でふわっと広がり、陽の光を受けてサラサラと艶が流れるみたいに光っている。肌は信じられないくらい木目細かく、真夏の太陽さえ寄せ付けない完璧さ。ブルーのビキニが、その完璧なラインをさらに際立たせ、胸元の曲線も、腰のくびれも、脚の長さも、全部が“反則級のバランス”で完成されている。ガチでグラビアの表紙。

うおおおおおおおお!転生して良かった!!!!!

「千鶴さん、写真撮ってイ?」

パシャパシャ、パシャパシャ。あー、可愛すぎるー。マジ天使!男子の妄想の結晶!

千鶴の水着姿を独り占め。大満足。

「ねぇ、千鶴さん、ビーチボールで遊ぼっ?」

千鶴の腕を掴んで浜辺に突入。

「いくよ、千鶴さん!」

そう声をかけながら、力を込めてボールを打ち上げる。

千鶴はタイミングを計るように足を踏み込み、ひょいっと軽く跳んで、指先で受け止めた。

その勢いで、千鶴の膨らんだ胸が上下に弾む。

ぼよん、ぼよん。

これは…ニヤニヤが止まらんぞ!うほほほほっ。

ビーチボールが空に弧を描くたび、千鶴はその均整の取れた抜群のスタイルを見せつける。真に浜辺に舞い降りたビーナス!

「ちょっと、麻美さん! さっきから遠くに飛ばし過ぎです!」

「ごめん、ごめん」

周りの男子たちは千鶴から目を離せないようで、「やべー」だとか「和也が羨ましい」だとか、さっきからずっと騒いでいる。

女子からは「麻美って、和也の彼女さんと仲良かったっけ?」「体調悪いって言ってなかったっけ?」などと怪しむ声も聞こえてきたが、まさかこの俺が七海麻美に転生したなどと疑う人間はいないだろう。

あははは。なんと素敵な時間だろう。昇天するー。

 

一通り満足したところで、俺らは休憩することにした。千鶴と一緒に自販機でスポドリを買い、水分補給。その間も、千鶴のビキニから目が離せない。

喉を潤していると何やらテニサー陽キャ集団が騒ぎ出した。まばらに散らばっていたメンバーが一か所に集まってくる。

「なぁ、ポーカーやるぜー」

「いいねーっ」

モヒカンにピアスの笹野先輩(笹パイ)が音頭をとる。テニサーではポーカー大会が毎度のイベントらしい。

「私たちも参加します?」と千鶴が言うので、俺も混ぜてもらうことにした。

ポーカー大会が始まり一斉にカードを伏せる。

「じゃ、いっせーのでオープン!」

そして——

「……あっ」

「え、マジで?」

千鶴はワンペア、和也は見事にノーペア。二人そろって、テニサーの連中に完敗である。

カップルそろっての負けに周りは大爆笑。「和也、弱っ!」「運なさすぎだろ!」「二人とも仲良しだねwww」と、好き放題にやじり倒している。

「負けた二人は、ポッキーゲームな?千鶴さんと和也、覚悟は良いか!?www」

ポッキーゲームだと…!?キス寸前のドキドキ破廉恥ゲームではないか!?

罰ゲームにテニサー陽キャ集団はさらにそのボルテージを上げる。両手を叩きながら、「千鶴!」「和也!」の大合唱。

陽キャのノリ怖いーと呆れつつ、二人の取り出したポッキーから目が離せない。

囃し立てられ、千鶴と和也の二人はポッキーの両端をそれぞれ咥えた。二人は前歯で少しずつポッキーの端を削りながらそれを落とさないように唇の距離を詰めていく。

「そのままキスしちゃうなよーwww」

「そこまで求めてないよーっwww」

テニサー陽キャ集団の歓声が沸く中、千鶴はいたって冷静だ。

一方和也は、水着姿の千鶴に近づかれ、鼻の下は伸び、もはや”犯罪者”の形相である。

うおおおおおお!実に羨ましい!羨ましすぎるぞ!

ポッキーも残りわずか。千鶴と和也の唇が触れ合う寸前まで来てしまっている。

おい、おい、攻め過ぎでは!?キス!?キスしちゃうの!?

浜辺のボルテージは最高潮。マジのキスに期待感が高まる。

ところが、二人の唇が離れたと思うと、和也が立ち上がった。

「そ、それがさ。俺と千鶴、別れようって話になってて…。だからその手のフリには答えられないつーか!空気読めてねーのは分かってるんだけどさ」

和也が「なぁ、千鶴?」と同意を求めると、千鶴の方も頷いた。

まさか。突然の別れの告白。

さっきまでのボルテージは冷め切り、皆凍り付いたみたいに黙り込んでしまった。

「け、倦怠期つーの!?まっ、いろいろあるだろ!?」

「和ちん、チンコで恋してんじゃねーぞ!」

それを聞いた木部が和也の懐に飛び込む。高速右ストレート!

和也が倒れ込んだのを見て、すかさずマウントを取る。

「木部、落ち着けって!」

笹パイが木部の両腕を抱え込むと、今度は和也ターン。反撃のパンチが木部の顔面を捉えた。

「何、急に怒こってんだ、こらぁ!?」

「見損なったぞ!和ちん!いつからそんな打算的なクズになったんだ!」

「お前が何を知ってんだよ!俺がどんだけ麻美ちゃんを好きだったとか。フラれてどんだけ苦しんだかとか!お前は知ってんのかよ!?」

テニサー陽キャ集団がオロオロと成り行きを見守る中、俺の腹の奥底では何かが渦巻いて爆発しそうだった。

未練がましくしやがって!麻美みたいな性悪女のどこが良いんだよ!テメーには千鶴姫がいるだろ!

気付けば俺は和也に向かって駆けだしていた。浜辺の砂を蹴り上げてひとっ飛び!脚を折りたたんで溜め込んだ力を一気に解き放ち蹴り飛ばす!

「この大バカ野郎が!!!!!」

ドロップキック!!!

ひっくり返った和也は盛大に尻餅をつき、驚いた顔でこちらを見た。

和也の身体に馬乗りになる。

「馬鹿野郎!テメーが、そんな優柔不断だから、話が進まねーんじゃねーか!?は!?倦怠期!?ふざけんじゃねーよ!」

周りが止めにかかるが、お構いなし。ずっとこいつに言ってやりたかったんだ!

カッコいいところ見せたかと思えば毎回ヘタレやがって!瑠夏との関係もはっきりさせらねー!最近はあの性悪女の麻美にまで鼻の下伸ばしやがって!

俺は肺一杯に空気を吸い込み、叫んだ。

「いつも一生懸命で、一途なところが取り柄じゃねーのかよ!このクズやろうが!?」

和也は歯を食いしばり、俺を見つめていた。

その眼にははっきり涙が浮かび、ヒックヒックとしゃくりあげながら、それが頬を伝って浜の砂へと落ちていった。

和也は俺を押しのけて立ち上がり、一目散に駆け出した。その姿はみるみる小さくなり更衣室のある建物へと消えていった。

ふん!なんだよ、あの根性無しが!

「千鶴さん、和也のフォロー頼むわ。あいつバカだから、『もう死ぬー』とかアホなこと言いかねねーからさ」

「は、はい。分かりました。では失礼します」

木部に促され千鶴は奴を追って建物の方へ駆けて行った。

「ちょっと待って、千鶴さーん」

千鶴姫(水着 ver.)が消えていく。

マズった!これじゃ下田の海に来た意味がねーじゃねーか!

ところが次の瞬間、妙に周りの視線が俺に集中していることが分かった。

「あれ?あれれ?みんなどうしたの?」

こいつ誰だよ!?麻美と別人じゃね?まさか二重人格とか?プレデターに乗っ取られたとか?みたいな視線――。

やばいっ。さすがにまずかった。元カノの麻美が和也に蹴りを入れるなんて意味不明過ぎる展開だ。正体を疑われて当然。

「ごめん。ちょっとカッとなって思わず。だって、二人ともいいカップルだと思うし、簡単に別れちゃうなんてもったいないって。あははは」

そう取り繕うのだが、俺の暴走ぶりに陽キャ集団も混乱している様子で、ただただ気まずい雰囲気に場が凍り付いてしまっていた。

マジで、まずい…。

「麻美ちゃん、ちょっと話があるんだけど。いいか?」

木部にそう睨まれ、俺は嫌な予感しかしなかった。

 

バレてる!絶対バレてる!

虫を殺すのも無理~なんて、か弱いフリをしていそうな七海麻美が、突然ドロップキックをかましたのだ。おかしいと感づかれて当然。

木部は俺を人影のない木陰まで呼び寄せると、こちらを訝し気に睨みつけた。

咄嗟に背を向ける。

どう説明すれば…?

実は中身は社会人二年目の野郎なんです~、異世界転生したんです~って正直に打ち明けるか?いや、荒唐無稽な作り話にしか聞こえねー!?

木部が俺に一足また一足とにじり寄る。

ぐおおおお!バレた!バレたに決まってる!

「麻美ちゃん、すまなかった!」

「…へ?」

意外過ぎる木部の謝罪に、思わず気持ち悪い声が出てしまった。

「おれは麻美ちゃんを誤解してた。和ちんがフラれたって聞いたとき、どうせ童貞をバカにして楽しんでいただけだと思ってた。でも、麻美ちゃんは和也の良さに気付いていたんだな?」

あれ?思っていたのと全然違うんだが…?木部、お前は何か俺を誤解しているぞ。

「麻美ちゃん、俺を殴ってくれ!力いっぱいに頬を殴ってくれ!君がもし俺を殴ってくれなかったら、俺は君を友と呼ぶ資格はない!」

木部が目を真っ赤に充血させ、涙目で懇願してくる。

お前はセリヌンティウスか!?

「謝らないでいいよ、頼むから!その…私が誤解されやすいだけで、木部は悪くないって」

「殴ってもらいたいんだ!麻美ちゃんに!」

ドМか!?

「気持ちは十分わかったから」

そう言うと木部は納得して少し落ち着いたようだった。

「正直俺驚いちまったよ。だって、あいつクズだろ?バカだし、優柔不断だし」

うむ。異論はない。

「でもさ…(かくかくしかじか)」

そこから木部は和也がアサガオと間違えて雑草を育てた話を始めた。あー、確かそんなエピソードあったけかな?と思い出す。

「だから、今日はありがとうな。あいつの為に蹴りを入れてくれて」

「どういたしまして。あははは」

俺は体の力が抜け、背中側の壁に身を傾けた。

木部がアホで良かった…。心底そう思った。

「木部、麻美ちゃん、そろそろ宿戻るぜー」

「先行くよー」

浜に戻ると、テニサー陽キャ集団は俺が和也を蹴り飛ばしたことなんて忘れたようにいつもの調子を取り戻していた。

どうやらこの間、千鶴と和也は仲直りし、集団に復帰していたようだ。

その晩はBBQ、深夜には部屋で集まってゲーム大会。翌日も飽きることなく海ではしゃぎまくり、夜には温泉に浸かり花火もした。やはり千鶴の水着姿と浴衣姿は至高である。

そんなこんなで、俺の七海麻美として初旅行は大成功を収めたわけだ。

帰り道車に揺られながら、俺はかつて住んでいた世界の事なんてどうでも良くなっていた。かのかりの世界、最高!ありがとう、宮島先生!ありがとう、転生!

そうだ。帰ったら墨ちゃんに会いたい。レンタルしてみよう!いや、友達になれるかもしねー。もしかしたらそれ以上の関係にも!?そんな期待を膨らませるのであった。

 

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