麻美アンチの俺が転生したら麻美ちゃんだった件 ―原作通りに進めようとしたら世界が狂った―   作:甲楽わん

8 / 10
麻美アンチ、麻美になる。

満足度8


原作崩壊と彼女② 下田リターンズ

2. 下田リターンズ

「ぐおおおおお!俺のバカ!アホ!」

やってきたことが、あまりに麻美とはかけ離れている。

好き勝手暴走し、欲望の限り下田の海を満喫した。

千鶴姫のおっぱい、ぽよん、ぽよん、とか言って喜んでた。

水着姿を追いかけ調子に乗っていた過去の俺を殺してしまいたい。

結局昨晩は眠れなかった。

寝不足のまま何とかバイトを終わらせ、いま風呂に浸かって今後の対策を考えているところだ。

顔を湯船に埋める。

墨とリアルで会う方法を考えて見たが、桜沢墨という人物はネット検索ではヒットしなかった。どこの大学に通っているかも思い出せない。奇跡でも起きなければ会うことは叶わないだろう。

となれば、間違いを正す他ない。

いったんこの世界の”あるべき姿”を整理しよう。

今は2017年の九月初頭。和也は千鶴をレンタルし『彼女』だと言い張っている。この時点では二人は本当に付き合っているわけではない。単なる和也の片思いである。

映画製作編、ハワイアンズ編、同居編と経て、この噓は本物になっていく。

おそらく俺は、それまで二人の嘘の恋人関係が壊れないよう守り抜く必要がある。

頼りは原作のストーリー展開だ。

クソー。昔過ぎてイマイチ思い出せねー。

振り返れば、”間違い”はたくさんあった気がする。

しかし、どれを直せば元通りになるのか。そもそも今からでも直せるのか。それさえ分からない。

世界は本来あるべき形に戻ろうとする、なんて設定は良くあるが、この世界にもそんな力が働いているのだろうか。

とにかく一番怪しそうなのは下田でのキスだ。そこで原作通りフラグを立てていくしかない。

「ぐおおおお!こねくり回すほど、もっとおかしなことになりそう!」

「姉さん、うるせー!」

麻美の弟が脱衣所から文句を言い始めた。

風呂を覗くな!このシスコンが!

翌日俺は動き出した。

下田リターンズ作戦!!!

作戦はこうだ。

まず、ターニングポイントを下田の海で千鶴と和也がフェリーに乗ったときのキスだと仮定する。

キスと言えばやはりラブコメのビックイベント。BTTFでもマーティが生まれるか否かの分岐点は両親のキスだった。ターニングポイントだった可能性が高い。

とにかく千鶴と和也の恋仲を取り持ちフェリーに乗せるのだ。それにかけるしかない。

 

「ハロー。木部ちゃん」

「ちわっす」

手始めに大学に呼び寄せたのは木部だ。和也を下田へと連れてくる役は、コイツに手伝ってもらうのが最善だろう。

「別れる!?」

「この前たまたま聞いちゃって…」

木部に事のあらましを打ち明ける。和也と千鶴が別れ話をしていたということ、そのために下田の海にもう一度連れて行きたいということ。

木部は和也のだらしなさに文句を言っていたが、親友の為だと言って首を縦に振ってくれた。

「つまるところ、二人の仲を取り持とうって話か」

「そういうこと」

「でも、なんで下田?」

っく!

確かに。下田には今シーズン行ったのだから、二度も行くのは明らかに不自然。かのかりの世界を元に戻すため、って言っても意味不明なだけだろう。

「き、木部ちゃん知らないのー!?下田の海でキスをすると、恋愛が成就するんだってー」

テニサーで聴いた噂だ。嘘ではない。

「なるほど。麻美ちゃん詳しいね」

「でしょー!あははは」

木部がアホで良かった。

木部が言うには、おそらく和也の方は割と暇しているから、千鶴さんの予定に合わせた方が良いという事だった。

「あと、木部ちゃん、お金貸して」

「金欠なの…?」

そうだよ!金欠なんだよ、俺は!出かけるにも資金がねー。

「実はお父さんが超厳しくて。あの子と関わるなーとか、門限を守れーとか」

「やばっ。毒親みたない感じか?」

「それそれ!で、ちょっと外で遊んでたら一か月クレカ止められちゃって。とりあえずバイト始めたけど、バイト代が入るのもっと先だから」

板についてきた麻美ムーブで懇願すると、あっさり信用してくれた。

何かあれば連絡してもらうよう伝え、別れる事にした。

次は千鶴の方だ。

こちらは和也のアホとは違いうから、少し大変かもしれない。すでに予定が詰まっている可能性も十分ある。急がなくては。

千鶴の連絡先は木部も俺も知らなかった。直接会うしか方法はないのだが、今は夏休み真っ只中。キャンパス内で会えるはずもない。

となれば、会う方法は一つ。

「千鶴さん、こんにちは」

「え…?」

丁度帰宅したばかりの千鶴を捕まえた。

練馬のアパートの前で粘ること3時間。夏の太陽の下、日傘にスポドリ、ハンディファン、日焼け止めクリームを持ち込み、粘った甲斐があった。

千鶴はレンカノの仕事の後だろうか。白の薄手ブラウスに淡いブルーのロングスカート。黒髪と相まって清楚にまとめていた。

「あの、ご用件はなんでしょうか…?」

「ごめん、驚かせるつもりはなかったの。たまたまそこで見かけて、後を着けてきちゃった」

本題を切り出す。

「一緒にお出かけしない?ほら、和くんも一緒に」

「和也さんも、ですか…?」

「うん、そう!」

しかし千鶴の反応が鈍い。右斜め上に視線をやり考え込んでいる様子。

「でも、どうしてまた下田へ…?」

怪しまれてるー!

「千鶴さん知らないのー!?下田の海でキスをすると、恋愛が成就するんだってー。あははは。それにフェリーも乗り損ねちゃったし。また行きたいなーって思って!うん!うん!」

同意を促すように何度も頷く。

突然麻美から誘われて何か裏があるのではないかと疑って当然だ。千鶴からしたら誘う目的が不明過ぎる。

「和也さんは、なんて…?」

「和くんは木部ちゃんから誘ってもらって」

「そうですか」

まずい。どうも乗り気でない様子が垣間見える。

「和也さんと相談して、連絡しますね」

第一候補は来週水曜日。和也と予定を合わせて後々連絡してくれるらしい。

表面上は前向きの返答だが、真意は分からない。『突然都合が悪くなるかも~その時はごめんなさい~』みたいな雰囲気があった。

千鶴と別れた後、ドラッグストアに寄ってから自宅に向かう。

ぎりぎり首の皮一枚つながったが、果たして了承してくれるだろうか。

よくよく考えれば、デートをするには和也が千鶴をレンタルしなくてはいけない。その辺の同意が曖昧なままでは決められなかった、とうことなのかもしれない。和也が金欠で”借りられない”という可能性もあるのだ。

和也。ケチるなよ。お前の人生がかかってるんだからな。

 

キター!下田だ!

結局二人はOKしてくれたのだ。第一関門クリアである。

俺は二人分のフェリーのチケットを持って、再び下田の海に乗り込んだ。

九月初旬の下田の浜辺は、七月に来た時とは少し違う顔をしていた。あれほど密集していたパラソルや浮き輪はまばらで、家族連れや学生たちの騒ぎ声も少ない。恋人たちが海を満喫するには丁度良い雰囲気だ。

千鶴、和也、木部、そして麻美(俺)が水着に着替えて浜に飛び出した。

千鶴は水着の上からパーカーを羽織っているものの、滑らかなラインは隠せていない。圧巻のグラビアボディ。

うむ。さすがのおっぱいだ。お尻も良き。何より柔らかそうな太ももが…

いかん!いかん!目的を忘れるな!

ペシ、ペシ!

俺は手のひらで自分の頬を叩く。

俺が木部に合図を送ると、奴もうんと頷いた。さぁ、作戦決行だ!

「みんなー。ビーチボールやろうよー」

作戦その1。『ビーチボールで仲良くなる作戦』だ!

この時期は海水浴に不向きなのは調査済みだ。クラゲも出没するようになるし、なにより水が冷たい。遊びの主戦場は砂浜。となれば、ビーチボールが鉄板だろう!

砂浜で四人、円になった。行くよーと俺が声をかけビーチボールを打ち上げる。

和也、千鶴、木部とボールが弧を描きながら渡って行き、いくよ!はいよ!と声が上がる。

「よしっ。連続50回目目指そーぜ!」

打ち合わせ通り、木部が連続チャレンジを提案する。

50回は素人集団にはハードルが高い。だがその分、成功すれば絶対盛り上がる。

絶対落とすわけには行かねーぜ!

「千鶴さん、パス」

「次、麻美さん!」

「はい、木部」

50回に向け、1回、2回、3回とパスがつながる。

千鶴はさすがだった。踏み込みも反応も速く、ボールの真下に入って正確に返す。

和也や木部もハッスルし、次々とボールを返していく。

一方、七海麻美の身体の俺は、どうもタイミングが合わない。

スタートは出遅れ、足は砂に取られ、ボールは変な方向へ飛ぶ。

これが男女の身体能力の差ってやつなのか。俺だけミスが明らかに多い。足を引っ張ってしまっている。

45、46、47、48…

あと少しだ!

奇跡的にパスがつながっている。このチャンスを逃すわけには行かない。

「麻美ちゃん、パス!」

和也からボールが上がったが、軌道が逸れた。

諦めるな。必ず上げてみせるぜ!

ボールを追いかけ、セオリー通り軌道の下に入る。

よしっ。間に合った。

しかしその瞬間、砂浜に足を取られ、世界がひっくり返った。

やばっ。

ボールが砂浜に向け落下していく。

落とすものか!墨ちゃんとのデートがかかってんだぞ!

右脚を目いっぱい伸す。

届け!

ボールは俺の足の甲に当たって、方向を変えた。

千鶴がそれを拾いあげる。

50!

おおおおおおお!奇跡だ!

和也も千鶴も大喜び。ぴょんぴょん跳ねてハイタッチを交わしている。

「千鶴さん!和くん!木部ちゃん!」

俺も輪に入りハイタッチ!

いいぞ!すごくいいぞ!めちゃめちゃ盛り上がってる。

落ち着いたところでレストランに入り、昼食をとることになった。

各々が好きなものを注文し、皆が食べ終わるころ――。

さぁ、続いては作戦その2。『恋愛心理テストでドキドキ作戦』だ!

「心理テストやってみない?」

「面白そー!」

和也が誘いに乗ってくると、千鶴もそれに応答するように、やろう、やろうと口にする。

「直感で答えてください。考えすぎは禁止ね!第一問。あなたは海辺を歩いています。足元に落ちていたものは?」

A. 綺麗な貝殻

B. 大きなビー玉

C. 誰かの落としたキーホルダー

D. 何も気づかず通り過ぎた

皆しばらく考えた後、答えを口にする。

千鶴⇒C、和也⇒B、木部⇒Aという回答だ。ちなみに俺はA。

「この診断で分かるのは、あなたの恋の始まり方でーす!」

おお!と声が上がる。

「Cのキーホルダーを選んだ千鶴さんは、相手に頼られると弱いそうです!」

「Bのビー玉を選んだ和くんは、”尊敬”から”恋”に発展するタイプ!」

「そしてAの貝殻を選んだ私と木部ちゃんは、ひとめ惚れしやすいそうです!」

当たっている気がする笑。

「えーマジ?」

「確かにそうかも」

「意外だな」

と各々口にする。

よしっ。なかなか盛り上がってるじゃねーか!

「第二問は…!」

「当たってるかも!」

「第三問は…!?」

「うそー!?」

「つーか、和也、悩み過ぎwww」

当たっていると信じるのも良し、意外だと新たな一面を見つめるも良し。心理テストは大いに盛り上がり、全10問を終えた。

ふふふ。ここからが本題だ。勝手ながらこの心理テストには“総合評価”なるものを設定させてもらった。

A-Dまでの4つの選択肢のうち、どれを選んだ回数が最も多かったかによって4タイプに分類してしまうのだ。

そこで俺がタイプごとに相性があるとでっち上げ、『えー!?千鶴さんと和くん、相性めっちゃ良いって!さすがー』と言えば、『運命かも!』と思ってしまうのが人の心というものだ。

これこそが『恋愛心理テストでドキドキ作戦』の肝である。

「みんな、ABCDのうち、どれが多かったかな?」

「私はAですね…」

「俺はDかな」

よし、今だ!

「凄ーい。Aの千鶴さんとDの和くんは、相性100%だって!慎重派の千鶴さんには情熱的にアプローチしてくれるDタイプの人とうまく行く可能性が高いです」

「すごい。運命かもー」

「なんか嬉しいなー」

千鶴は瞳を丸くし、和也も喜んでいる。

「お似合いじゃねーか!」と木部が煽ると、二人は目を合わせて照れ始めた。まんざらではないようだ。

ナイスアシスト木部!効いてる!効いてるぞ!

「で、俺はどうなの?Cタイプと相性が良いのは」

ここでなぜか木部が突っかかってきた。

お前が知ってどうする!?

「…えっと。感情に素直なCタイプと相性が良いのは、信頼を重視するBタイプ。相性120%」

しぶしぶ答えると、「あー、Bタイプの女の子に出会えなーかなぁ」と木部が口元を緩めアホ面で妄想を始めた。

アホ。作戦を忘れるな。

「麻美さん、どのタイプでした?」

「あ、私は…」

千鶴に聞かれ、俺の回答を確認すると、千鶴と同じA。

まずい。麻美も和也と相性が良いとなれば、先ほどまでイイ感じの雰囲気が台無しだ。

「あ、あたしはBかな」

「B?俺と相性120%じゃん!?運命かもな!」

「木部ちゃん…」

木部は前のめり。目を見開き、真顔でその顔を俺に近づけてくる。

怖えーよ…。

「そっかー。うちら相性良いかも。あははは」

コイツに協力を求めたの、人選ミスだったかもしれん…。

落ち着いたところで、レストランを出て浜に戻ることにした。

「麻美ちゃん、作戦は予定通り?」

「もちろん」

作戦を木部に尋ねられ、俺はにやりとほくそ笑んで見せた。

作戦その3。『イチャイチャ・ツイスターゲーム作戦』だ!

ゲームの進めるうちに二人の身体は密着!

どうしてこんなにドキドキするの!?なんてラブコメ鉄板のドキドキ演出で!体の距離と共に心の距離も一気に縮まるはずだ!

「みんなー。これやろー」

バッグの中に仕込んできたツイスターゲームを取り出すと、マットを広げた。

赤、青、黄、緑のカラーが砂浜の上に並ぶ。

「まさか、ツイスターゲーム!」

「楽しそうー」

千鶴も和也もノリがいい。

「じゃーわたし審判ね」と言って、ルーレットを手に取った。

「最初は、右手・赤!」

三人は頷くとマットに乗り、それぞれの場所に手を置く。

「左足・青!」「右手・黄!」「左手・赤!」

ルーレットが回り、各々身体を折りたたんで体勢を組む

ビキニ姿の千鶴が脚を開き、マットに手足を置く。ぶっちゃけエロい。

ただ、その柔軟な体を器用に使い、表情には余裕がある。

和也はすでに必死。

木部は刺激の強すぎる千鶴を見て、目が血走っている。アホ。

「次は、右足・緑」

すると木部と和也がぶつかり、互いの身体が重なる。

「ちょ、木部近い!」

「いやいや、寄ってきたのは和ちんの方だろ!」

おい、お前らが距離詰めてどうすんだよ!?つーか木部、ちゃんと仕事しろ!

和也は明らかに千鶴から距離を取ろうとしていたが、指示が進むにつれて逃げ場がなくなる。

「右足・黄!」「左足・赤!」「右手・緑!」「左手・赤!」

俺はどんどんルーレット回す。

少し、また少し。

気づけば肩が千鶴に触れそうな距離だ。

いいぞ。

次「青」が出れば、和也はもう千鶴の足の間に手足を入れるしかない。

密着チャンス!

ルーレットを回す。青、来い!

「左手・青」

キター!

和也が股を割いたギリギリの体勢で耐えながら左手を青の円へと伸ばす。その手がマットに乗り、和也の身体は徐々に千鶴に向かって傾く。近い。あと少し。

和也の肩が千鶴の太ももに触れた。

「きゃっ!」

「ご、ごめん、水原!?」

戸惑う千鶴。顔を赤らめる和也。

うおおおお!これぞラブコメ!作戦大成功!!!!

ところが、急に和也がその体勢を崩した。

おい、おい!なに日和ってんだよ!イイ感じだったじゃねーか!?

「えー!和くん、まだまだいけるって!」と俺は不満を漏らすが、奴はそれを聞く間もなく立ち上がる。

「麻美ちゃん、ごめん!」

一瞬何が起こったのか分からなかった。

和也はただ直立し、口を結んで俺を見つめていた。

「俺らやっぱ別れようって話になってるんだ。全部、俺が不甲斐ないせい。今日だって千鶴に無理言って付き合ってもらってるだけなんだ。だからこの手のノリには応えられねーつーか」

和也が深々と頭を下げる。

「俺らの為を思って麻美ちゃんと木部がやってくれるのは分かってる。でも、だからこそ、これ以上二人を騙すようなことはできない。ごめん!」

「麻美さん、木部くん、なかなか言い出せなくて、ごめんなさい」

千鶴もマットから手を離し、和也と並んで頭を下げる。

なかなか言い出せなかった、って――それじゃ、ふたりはずっと”理想の恋人”を演じていたというのか。

作戦が効いている、なんて、俺の思い込みだったって言うのか。

その告白を受け入れられず、後ずさる。

「ふ、ふたりとも。結論急ぎすぎだよ。じっくり考えたら…良くない…?」

しかし二人は深く頭を下げたまま、面を上げようとしない。

これ以上言葉が出てこなかった。

本当にもう決まってしまったのか。何か二人を説得する方法はないのか。

ダメだ…。思いつかねー…。

俺は顔をしかめて俯いた。

「千鶴さん、ちょっと話をさせてもらえませんか」

その声に振り向くと、木部が仁王立ちしていた。

木部…?

そこにいつもの軽々しさはなく、ただまっすぐ千鶴を見つめていた。

 

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