薬指身体派っす。婚活中っす。   作:薬指身体派

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身体派の様態──材料であることが額縁であることを強要するということ──

 

 血管をこんなふうに捻ると、鮮やかな発色が得られるっす。

 躍動感を活かすから、筋肉は大きく使うっすね。

 顔は一部だけ使うっす。

 

 解体する時にパーツを意識するのは大事っすけど、発想がパーツにとらわれて退屈なパズルになっちゃ駄目っす。

 大胆に骨を切るようなアプローチも必要っすよ。

 

 見えなかったものが見えるようになるっていうのは、マジで大事っす。

 時には思いもしなかった着想を、材料が提示してくれることすらあるっす。

 材料を探求するってのはほんとに大切っすよ。

 

 

 

 一旦完成っす。

 あとは乾かせばオッケーっす。

 カリスト先生の娘?さんが触らないように、高いとこに置いとくっす。

 

 今回のはそれなりの作品に出来たっすね。

 クラシカルな手法が活きる良い材料だったっす。

 素朴な美があるっすね。

 

 材料から見出した美しさを、不要な装飾を削って分かりやすくする。

 カリスト先生から最初に教わったのはそんなことだったっす。

 

 今回の材料から見出した美は、俺の手でこんなに明瞭になったっす。

 なりたがっている形すらも見える、良い材料だったっす。

 もっと丁寧な観察をすれば、土から石を取り出すように美しい形を取り出せたかも知れないっすね。

 

 材料への向き合い方は難しいっす。

 決まった答えがあるわけじゃ無いっすからね。

 

 美を見出し、それを露わにすることは身体派の基本っす。

 じゃあ、美が見出せなければどうするっすか?

 この問いは、みんな違う答えを持っていて面白いっすよ。

 

『全ての材料に美は宿ると信じてるっすから、見出せるまで観察するっす。

 それでも見えなければっすか?

 俺の観察不足っす』

 

『美が見えない材料は、美が無い材料よ。

 美が無いことが意味を持つ作品に使うために解体しましょう。

 美しさは人を惹きつける大切な要素だけれど、作品が持つ数多の要素の一つに過ぎないわ』

 

『私が見られない美を、誰かが見出すこともあるでしょう。

 他者の美観を受け入れ、学び、捉え直すのです。

 他者の美観に染まるのではなく、他者の美観で感性を研ぐのですよ。

 そうして、鋭い感性で美しさを見出すのです』

 

 とか。

 面白いっすよね。

 俺は美学を言葉にするのが苦手っすけど、格好良く答えられてるアルビナちゃんとかカリスト先生は流石っす。

 

 

 

 

 さ、変な話をしたっすね。

 余計な言葉で飾ると作品の本質が隠れるっす。

 余った材料をどうするか考えるっすよ。

 

 普段なら薬指の材料処理係に持っていくっすね。

 人間の材料は喜ばれるっす。

 後、クリスマスにお礼として筆とかクレヨンとかをくれるのも嬉しいっす。

 

 昔は余った材料を適当に組み合わせて作品にしたっすけど、やっぱうまくいくことは少ないっすね。

 アルビナちゃんに『これは積み木みたいな遊び?』って訊かれてから止めたっす。

 

 後は丁寧に解体して、細かい材料にする方法っすね。

 神経、血管、腱なんかはよく使うから、持ち歩くことも多いっす。

 あ、爪は細かいのに替えが利かないんで取っておくと良いっすよ。

 でも最近は余りがちなんすよねー。

 

 決めたっす。

 処理係のとこに持っていくっすよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 着いたっす。

 どっかの薬指の保護区域っす。

 ここ、裏路地じゃなくて外郭っぽいんすよね。

 掃除屋が来ることが無いっすから。

 

 処理係はなんかイケメンなお兄さんっすね。

 材料渡したら、すぐに受け取ってイケメンスマイルをくれたっす。

 まあ薬指って大体美男美女なんすけど。

 

 あ、でもここだけの話、一番見てくれが良いのは身体派っす。

 なんせ自分が材料っすからね。

 

 手入れを欠かすわけも無いっすし、人体への理解は群を抜く派閥っすから。

 かく言う俺も、つむじから爪先、なんなら体内まで完璧に整えてるっすよ。

 

 俺的なこだわりは、美しさと素材の良さの両立っすね。

 美を見出せるのは大前提で、強靭で頑丈な武器になるための頑健さっていうのも重視してるっす。

 

 素材として俺を評するならA+っす。

 美しいっすけど、時代で言えばやや遅れた美観なんで客観評価は下がるかもっす。

 まあ現代の潮流より美しいって俺が証明するんで問題ないっすね。

 

 アルビナちゃんも似た感じで、まず全身を美しくした上で加工しようって考え方っす。

 ただ、俺は材料としての使いやすさも重視してるっすけど、アルビナちゃんはマジで己が美観に全てを合わせてるっすね。 

 

 あ、カリスト先生みたいに体の全てを作品に使った人も多いっすけど、そういう人は作品の額縁として、やっぱり美しくなるっすね。

 

 そもそも人体の美しさを追い求める派閥っすから、人体を再構成できるってなりゃ美しくなるのは当然っす。

 

 ちなみに長生きするのも大体身体派っす。

 偶に居る長老血鬼とかは例外っすけど、人間の中ではマジ健康。

 それが身体派っす。

 

 人体に精通してるっすから、医者の真似事も余裕っすね。

 怪我したときは傷跡を残さないように仲間内で治療を頼むこともあるんすけどね。

 

 腕は確かだしお金は要らないし、何度か頼ったことはあるっす。

 でも、滅茶苦茶危ないっすよ。

 相手の胸三寸で作品にされるっすから。

 

 前にアルビナちゃんに頼んだとき、真顔で『ちょっと貰って良い?』って言われたっす。

 拒否ったんすけど、治療後に傷を確認したら明らかに肉を取られてたっす。

 

 でも仕方ないっすよ。

 逆にアルビナちゃん治してる時に分かったんすけど、素材の質が違いすぎてマジで欲しくなるっす。

 

 なんて言うんすかね。

 加工されていないことが不思議なくらい、肉体が作品になりたがってるんすよ。

 刃先を一寸沈めたら、勝手に骨も肉も分かれて作品が仕上がると思うっす。

 

 ほんとに派閥が一緒の同期を失うリスクより欲が勝るっすよ。

 ギリギリ踏みとどまって、ちょっと傷口まわりを多めに摘出するくらいで済んだっす。

 危なかったっす。

 

 一番上手に材料を使えるのはアルビナちゃん本人っすからね。

 ちゃんと治る範囲にするっすよ。

 

 ……ところで、K社のアンプルってあるじゃないっすか。

 死亡保険でも良いっすよ。

 これらを使うと、肉体が激しく損傷しても治るっすよね。

 

 つまり、材料取り放題チケットじゃないっすか。

 これ俺滅茶苦茶欲しいんすよ。

 もう喉から手が出るほど欲しいっす。

 身体派が言うと洒落にならないんすけどね、喉から手。

 

 まあ、色々問題はあるっす。

 身体派で使ってる人を聞いたことが無いんすよね。

 

 理由は二つあって、単純に超高額なのと、『たった一つの自分の身体で作った』って事実が作品の深みになることっす。

 

 貴重な材料を用いたものは、それなりの価値を持つっす。

 ガラス玉と宝石じゃ、どんなに似ていても価値は違うっす。

 体を複製するって事は、わざわざお金をかけて宝石をガラスに変える行為なんすよ。

 

 それに、作者の心持ちも大きく変わるっす。

 たった一つの自分の体を加工するのと、何百とある自分の体を加工するのじゃ意識が変わるっす。

 

 だから、身体派は義体が多いっす。

 自分の肉体を費やした傑作を手に持ち、全身を義体にした姿でいること。

 それによって、傑作をより優れたものとしているっす。

 

 額縁だとか、義体まで含めた芸術だとか、そう言われるっすね。

 

 でっも〜〜やりたいんすよね〜〜。

 そうして三日三晩悩んだ俺は、完璧な作戦を思いついたっす。

 

 アルビナちゃんと俺で、体を交換すれば良いんすよ。

 

 材料として互いに質は十分っすし、自分の体を自分で加工することの価値は落ちないっす。

 宝石を宝石のまま増やせる奇跡の魔法っすよ。

 思いついたときはあまりの天才さに驚いて、その場で頭部を切開して脳の皺を数えたくなったっすね。

 

 まあ勿論、ダイヤモンドが琥珀になるくらいに、この肉体は価値を失うっす。

 俺は作品のバックグラウンドを軽視してるから良いっすけど、アルビナちゃんが許してくれるかは話が別っすよね。

 

 そんなわけっすから、もうアルビナちゃんにも同意してもらってるっす。

 あの日はマジで人生で数番目に緊張したっすね。

 

 普段以上にバッチリキメて、『君が欲しいんだ』みたいな感じでプレゼンしたっすよ。

 

 言葉は簡潔に、無駄なく、聞き手に十分な想像の余地を持たせ、膨らませること。

 これが作品のキャプション書くときの基本っすからね。

 あらゆることに通じるっすよ。

 

 早くK社アンプルが欲しいっすねー。

 

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