薬指身体派っす。婚活中っす。   作:薬指身体派

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アルビナは、脳をファシアに食べさせる前は感情的であるという説を採用しています。


アルビナの鑑賞──見えないものが見えるものを見えないとすること──っす

 

 どうもっす。薬指身体派スチューデント、ラクシアっすよ。

 

 身体派って、最終的に美しくて高性能な義体になるっすよね。

 義体は高額なオーダーメイドになりがちっす。

 

 そして、身体派は時代遅れの芸術って言われて作品が売れないんすよね。

 つまりっす。

 

「バイトっすよー頑張るっすよー働きたくないっすよー」

 

「どうして野獣派のギャラリーなんて掃除しなきゃいけないのかしらね……」

 

 今日はアルビナちゃんと二人でバイトっす。

 野獣派のギャラリー清掃っすね。

 

 野獣派っていうのは、獣の荒々しさなんかを表現する薬指の一派っす。

 原色みたいな鮮烈な色合いを好んで用いるっすよ。

 カリスト先生的には『暴悪』って評価っすね。

 カリスト先生がここまで言うのは珍しいっす。

 

 カリスト先生、野獣派のブノワってマエストロと仲が悪いっすからねー。

 カリスト先生がマエストロ剥奪される時に、ブノワさんが賛成票を入れたりしたんすかね?

 

「センスは悪いけれど展示に見応えはあるわね、ラクシア?」

 

「そうっすね。大湖の鯨の剥製とか初めて見たっす。

 鯨を縦にしているのは、鯨の動きよりも大きさを示したいんすかね?」

 

「鯨は縦に寝るそうよ。言葉だけじゃ想像もできないから、示してくれたのでしょうね」

 

 野獣派のギャラリーには、博物館みたいなとこもあるっす。シンプルな剥製とか骨格とか、色々置いているのは好きっすね。

 趣味の悪い芸術をしてなければ子供達に大人気だったと思うっすよ。

 

 野獣派の芸術は粗暴っす。

 『獣は臓腑を食べ散らすだろう?』っつって内臓を裂いて撒き散らすっすよ。

 『本能による表現』とか言って、ぐしゃぐしゃの筆致とサイケデリックな色彩を描くっす。

 

 獣だって知性を持てば、もっとマシな物を描く筈っす。

 賢いオオカミは、素敵な羊とか子豚の絵とかを描くっすよ!

 

 野獣派は、野生の荒々しさと無知性を区別できていないっす。

 獣の物真似ならお断りっすよ。

 どうしてこんなのが評価されてるっすかね?

 

「ラクシア、これ何の動物かしら」

 

「白い狼の頭に、山羊っぽい角と鳥の羽っすかね。悪くない趣向っす。どうやって接合してるっすか?」

 

「見えないわ。毛皮で隠すのは狡いわね」

 

「キメラを作ってから剥製にしたっすかね?野獣派ってキメラ好きっすし」

 

「かしらね。この中じゃ好きな作品よ」

 

 この作品は良いっす。作者はそのうちドーセントに上がれるんじゃないっすかね。

 

 じゃあ掃除やっていくっすよー。

 

 まずは天井っす。なんか便利なボタンを押したら綺麗になるっす。身体派のギャラリーにもあるっすよ。

 

 次に壁っす。ボタン押せばオッケーっす。

 

 床。ボタン。

 

「簡単っすね」

 

「全部前準備よ。餌やりをするわ」

 

 そしたら、いくつかの作品に餌をあげるっす。

 生きた作品は保管が大変っすよね。

 特に問題になるのが食べ物っす。

 

 身体派だと注射一発で済ませることが多いっす。

 針一つ傷つけたく無い場合は、消化器官としての役割を持たせた部分に垂らしてあげると良いっすよ。

 必要な栄養は作品前と後で全然違うっすから、そこを勘違いしないことっすね。

 

 これが野獣派だと話が変わって、食べ物を口を通して食べさせるって方式にすることがあるっす。

 捕食者たる誇りを保つとかなんとか。

 これが嫌なんすよね。

 

「どうどうどう。暴れるなっすよー。

 はい綺麗に食べるっす。

 食い散らすと掃除が面倒っすよ」

 

 捕食部の周りが汚れるっすし、大体毛皮とか羽根とかだから綺麗にするのが大変っす。

 こんな作業を他派閥に頼むなっすよ。

 給料高いから良いっすけど。

 

 ちなみに、野獣派は外郭に現れた珍しい動物を見物しに行ってるっす。

 カリスト先生とブノワは仲悪いっすけど、別に派閥で対立してる訳じゃないっすからね。

 助け合いは大事っすよ。

 

「ラクシア。ガラスを拭くのだけど、留め具を外してくれる?」

 

「良いっすよー」

 

 展示ケースのガラスは表面に指紋や埃が付くだけじゃなくて、意外と内側も汚れるっす。

 ガラスの両面を二人で拭いていくのがオススメっすよ。

 

 そうすると、ガラス越しにアルビナちゃんと向き合うことになるっす。

 ガラス越しに見られると作品になれた感があって嬉しいっすね。

 拭いてる指先まで完璧に見せるっすよ。

 

「ラクシアは良い作品になりそうね」

 

「アルビナちゃんもなるっすよ」

 

「そうかしら。ラクシアなら私をどう仕上げる?」

 

「んーガラス片付けてからで良いっすか?時間が欲しいっすね」

 

 目、鼻、口、髪、肌、アルビナちゃんの体全ては、アルビナちゃんの美観に即して構成されてるっすね。

 素材としては最高っすけど、ただ俺が作ったんじゃアルビナちゃん自身がアルビナちゃんで作る傑作の下位互換っす。

 

 アルビナちゃんの素材で意外性を求めるなら腱っすね。

 特にアキレス腱なんすけど、アルビナちゃんは力強く固くする表現としてアキレス腱を直線に使うと思うっす。

 それを敢えて柔らかく使うことで、アルビナちゃんの弱さみたいな部分を引き出したいっすね。

 

 でも中を暴いたらもっと違うアルビナちゃんがあるかもっすからね。

 一旦内側を丁寧に見てみたいっすね。

 腹部があんなに細いのに、内臓が入ってる筈っすから。

 

 中を傷つけないように丁寧に刃を入れて、細い腰一杯に詰まった腸を見るっすよ。

 それと肋骨の内側。

 カリスト先生に倣って楽器系に仕上げるのも……

 

「……シア。ラクシア。気持ち悪いわよ」

 

「なんすか急に。いつも格好良いラクシア君っすよ」

 

「急にお腹を熱っぽく見てくる奴は格好良くないわ」

 

「……悪かったっす」

 

「そんなに反省しないで。訊いた私も悪いもの。それでどうやって仕上げるの?」

 

「色々考えたっすけど、捌いてからじゃないと分からないっす」

 

「ああ、それはそう。今後の楽しみに取っておいてね」

 

「そうするっす。逆にアルビナちゃんは俺のことをどうやって仕上げるっすか?」

 

「そうね……」

 

 あ、アルビナちゃんが考え込んだっす。

 凄い冷たい眼で見られて、顔から首いったすね。

 ……結構首を見るっすね。

 これあれっす。思ったより照れるっすね。

 首周りから骨の広がりを見られてるっすかね?

 

 急に下がって今度は脚っすか。

 ズボンの上からで判断できるっすかね?

 すぐ上がって今度は胸。

 心臓の方か、胸筋か、ワンチャン乳首もあるっすね。

 アルビナちゃんの手の動き的に心臓っす。

 

 更に視線が下がってお腹……を通り過ぎて股間っすね。

 股関節はかなり面白い部分っすし、男根も陰嚢もうまく使えれば豊かな表現が可能っすよ。

 男根はやっぱ海綿体が面白いんすよね。

 その上尿道もある。

 

 陰嚢まわりなら、射精管と尿道の合流するあたりが楽しい素材っすね。

 血管でも似た部分はあるっすけど、材質が違うっすから違う感じになるっすよ。

 

 ……………………長いっすね。

 そんなズボンの上から分かる事多くないっすよ。

 アルビナちゃん、あの、アルビナ……アルビナさん?

 照れる通り越して恥ずかしいっすよー。

 俺もアルビナちゃんも。

 

 なまじ全身完璧人間なせいで格好ついてるっすけど、今この場にいるのは男性の股間部を見て思索に耽る女性っすからね?

 なんかこのまま絵画にできそうな雰囲気っすけど状況が台無しっすよ。

 

 ……なんか動いたら負けな気がするっすね。

 かなり、いや凄く恥ずかしいっすけど動いたら負けな気がするっす。

 折角同期で友人で同輩が自由に想像を働かせてるっすから、それを応援するのが友ってものっす。

 うん。

 

 それに、俺は今言うなれば鑑賞されている作品な訳っす。

 作品の気持ちになれば、一部をじっと見られるなんて日常茶飯事っす。

 

 例え友人が俺を使って芸術するときに股間部の何らかのパーツをメインに据える可能性が高いとしても、それは何ら恥ずべき事じゃないっす。

 うん。

 作品に心は無いっすから。

 や、あるかもっすね。

 うん。

 

 …………そう言えば、割とどの派閥の薬指も大事にしてる考えがあって。

『削れる』って奴っす。

 

 作品を鑑賞するのは良いっすけど、見過ぎると作品が削れるって考えっすね。

 第一感を大事にするっすから、見過ぎて慣れちゃいけないっす。

 

 丁寧な鑑賞も大事っすけど、新しい発見のない鑑賞は駄目っす。

 作品から絶対に何かを捉えるってことは覚えといてくださいっす。

 

 確か薬指の恋愛映画で、『そんなに見ないで。削れちゃうわ』みたいなシーンも有名っすよ。

 内輪向け過ぎて全然流行んなかったっすけど俺は好きっすね。

 …………………………んー。

 

「あのーアルビナちゃん。

 削れちゃうっすから、その、股間部を見つめるのは止めて欲しいっす……」

 

 あ、直った。

 目が合った。

 

「…………真っ赤な顔も可愛いっすよ?」

 

「…………その、悪かったわ」

 

「すっす。飲み物買ってくるっすねー」

 

「私のもお願い……」

 

 んー誰も居ない廊下って気分が良いっす。

 アルビナちゃんが股間部を評価してるなら、俺もその辺の使い方を再構成しても良いかもっすね。

 

「買ってきたっすよー」

 

「ありがと。考えてみたら私、どうせあなたの見るのよね」

 

「すっす。公序良俗置いとけば、別に見られて恥ずかしい仕上がりでも無いっすからねー。

 その時の楽しみに取っといてっす」

 

「ええ」

 

「それで、アルビナちゃんは俺をどんな風に仕上げるっすか?」

 

「んー、捌いてみないと分からないわ。ラクシアに刃を入れて、どんな反応をするのか次第ね」

 

「確かにっす。優しく捌いて欲しいっすよ?」

 

「そうするわ。じゃあ、仕事を終わらせるわ」

 

「頑張るっすよー」

 

 バイト終わりのレストランはアルビナちゃんが奢ってくれたっす。

 次は俺が奢るっすよー。

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