ブルアカ転生〜カヨコのエロ同人描いてた俺が本人に惚れられるまで〜   作:どうたぬき

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第15話:プレナパテス対峙①

息が、喉の奥で焼け焦げるように熱かった。

 

暗く、ひどく冷たい回廊を抜け、俺とシロコはついにその空間へと足を踏み入れた。

アトラ・ハシースの箱舟、最下層セクション。

『ナラム・シンの玉座』。

 

そこは、箱舟の心臓部でありながら、異様なほどの静寂に包まれていた。

広大な空間。その中心には、巨大な構造物、玉座が鎮座しており、周囲を満たす未知のエネルギーが、青黒く、時に緋色に明滅しながら空間そのものを歪ませている。

 

そして、その光の中心に、三つの存在が立っていた。

 

俺は、荒い息を吐きながら、その「三つ」を凝視した。

まずは、黒い衣装に身を包んだ少女。シロコ*テラー。色彩に触れ、全てを失った果てのシロコの姿。

次に、彼女の傍らに浮かぶように存在する、青白いOSの少女。A.R.O.N.A。俺のシッテムの箱にいるアロナと瓜二つでありながら、その瞳からは一切の温かみが失われている。

 

そして、最後に。

中央に立つ、巨大で異形な影。

色彩の嚮導者、プレナパテス。

 

(……あれが)

 

俺は、無意識のうちに一歩、後ずさりそうになる足を、意志の力で床に縫い留めた。

 

俺は、あのプレナパテスの正体が何であるかを、知っている。

あれは、別の時間軸の『先生』だ。シロコを守るために全てを捧げ、色彩に侵食され、操り人形と成り果てた……

 

だが、画面越しで得た知識と、今、目の前にある現実の質量は、あまりにも違いすぎた。

目の前に立っているのは、自分と同じ背丈、同じ骨格を持った「死体」なのだ。

色彩によって、強制的に立たされているだけの、動く死体。

 

ぞわり、と。

背筋を這い上がるようなおぞましさと、鏡を見ているような共感がないまぜになった、名状しがたい感情が胸を塞いだ。

 

『先生……』

 

俺の持っているシッテムの箱から、アロナの震える声が響いた。

 

『この人は、もう——』

 

アロナがスキャンした結果を報告するまでもない。

プレナパテスの肉体は、生命活動をとうに停止している。色彩のエネルギーだけが、彼を「嚮導者」として無理やり駆動させているだけだ。

 

知っていた。俺は知っていた。

でも、アロナの口から「この人はもう死んでいます」と告げられる事実の重さは、俺の精神の柔らかい部分を容赦なく抉った。

 

俺にとって、プレナパテスはただの「ボスキャラ」ではない。

彼もまた、俺と同じようにこの世界にきて、俺と同じように生徒たちを愛し、ハッピーエンドを信じて走り続けた『人間』だったはずなのだ。

もしかしたら、俺と同じような「同人作家」だったかもしれない。同じように原作の知識を持ち、それでも運命に敗北した「転生者」だったかもしれない。

その『先生』が、今はただの亡骸として、かつての教え子を従えて立ち塞がっている。

 

「……先生」

 

隣に立つシロコが、静かに声を上げた。

彼女の視線は、自分と同じ顔をしたシロコ*テラーに真っ直ぐに向けられている。

 

「……行くよ」

 

シロコが、アサルトライフルを構え、シロコ*テラーへと歩み寄る。

自分と同じ顔をした、しかし全く異なる絶望を背負った存在。

シロコ*テラーもまた、無言で巨大な銃を構え、シロコを迎え撃つ体勢に入った。

 

激突。

 

銃声が玉座の空間に反響する。

だが、その勝敗は、始まる前から決まっていた。

 

「……っ!」

 

シロコの動きは洗練されている。アビドスでの戦闘経験、対策委員会としての誇り。

だが、シロコ*テラーは、そのシロコの動きを「知っている」かのように、いとも容易く躱し、捌き、そして圧倒的な力で弾き返した。

 

『経験』の差。

同じ身体、同じ能力を持ちながら、シロコ*テラーは「全てを失った後の時間」を生き延びてきた。

ホシノが死に、ノノミが去り、アヤネが息絶え、セリカが消えた。その絶望の荒野を一人で彷徨い、色彩に触れるまでの圧倒的な喪失の重量が、彼女の戦闘能力を次元の違うものへと引き上げているのだ。

 

「ぐっ……!」

 

シロコ*テラーの重い一撃を受け、シロコが後方へと吹き飛ばされる。

俺は咄嗟に前に出て、シロコの身体を受け止めた。

 

「シロコ! 大丈夫か!」

 

「……ん。平気。でも……」

 

シロコは怪我を負いながらも立ち上がろうとするが、ダメージは深い。

シロコ*テラーが、銃口を下げ、冷たい瞳で俺を見下ろした。

 

「……どうする?」

 

それは、原作通りに発せられた、シロコ*テラーからの問いかけだった。

自分の生徒が傷つけられ、強大な敵が立ち塞がるこの状況で、お前はどうするのか。

試している。この時間軸の『先生』が、プレナパテスと同じように自分たちを救おうとするのかを。

 

(……どうする、だと?)

 

俺は、シロコを背中に庇うようにして前に出た。

 

脳内で次のイベントフラグを立てる。

ここから始まるのは、P.H.T決戦。大人のカードを使った、プレナパテスとの真っ向からの削り合い。生徒たちが助けに来るまで、俺一人で凌がなければならない時間。

原作の先生は、鋼の意志でこれを凌ぎ切った。

だが、俺は凡人だ。ただのオタクだ。

 

それでも。

 

「……決まってんだろ」

 

俺は、震える手でスーツの内ポケットを探り、一枚のカードを取り出した。

虹色に光る、大人のカード。

 

同時に、プレナパテスもまた、その黒く変質した腕をゆっくりと持ち上げ、懐からカードを取り出した。

黒く染まり、歪に脈打つ、死者の大人のカード。

 

二枚のカードが、玉座の中心で対峙する。

同じ起源を持ち、同じように生徒を守るために使われてきた、二つの力。

 

(……来るぞ)

 

俺は奥歯を噛み締め、カードに己の生命力、時間と存在のエネルギーを注ぎ込んだ。

大人のカードの使い方は、ここまでの戦いで身体が覚えている。だが、プレナパテスという「同格」の存在に対して、どこまで通用するかは分からない。

 

「……来いっ!」

 

俺が叫ぶと同時。

プレナパテスの周囲の空間が爆発的に膨張し、黒いエネルギーの奔流が俺たちに向かって襲いかかってきた。シロコ*テラーもまた、側面から銃撃の雨を降らせる。

 

「アロナ!」

 

『はい、先生! シールド展開、最大出力!』

 

俺はカードの力を解放し、プレナパテスの攻撃を相殺するためのエネルギーを前方に展開した。

激突。

 

「——がはっ……!」

 

防御壁越しに伝わる衝撃だけで、全身の骨が軋み、肺から空気が強制的に絞り出される。

視界が赤と黒に明滅し、身体を構成する情報そのものが削り取られていくような、死に直結する激痛。

 

「はぁっ、はぁっ……!」

 

何度も膝を突きそうになる。もうダメだ、と脳が警報を鳴らす。

それでも、カードを握る手だけは絶対に緩めなかった。背後にはシロコがいる。俺が倒れれば、全てが終わる。

 

そして。

泥臭く、みっともなく、血と汗に塗れながら防衛戦を続ける中で。

俺のクリエイターとしての知覚、同人作家としての『観察眼』が、ある異常な事実に気づき始めた。

 

(……なんだ、これは)

 

プレナパテスの放つエネルギーの波、そのタイミング、力の配分。

シロコ*テラーとの連携の取り方、こちらが反撃しようとした時の防御の間合い。

 

それらがすべて。

ひどく、見覚えがあった。

 

(……同じだ)

 

理屈ではない。身体で、感覚で理解した。

プレナパテスの戦術の組み立て方、大人のカードのリソースの切り方が、俺と全く同じなのだ。

 

(こいつの動き……俺の『癖』と、同じだ……!)

 

ゲームのシステム的に同じだから、ではない。

もっと生々しい、「中の人間」の思考の癖だ。

同じ場所から来た。同じ身体に入った。同じように、手探りで大人のカードの使い方を覚え、同じように生徒を守るために足掻いてきた。

だから、ピンチの時の凌ぎ方や、捨て身になるタイミングが、恐ろしいほど俺と酷似している。

 

殴り合い、削り合いの激痛の中で、俺はプレナパテスが自分と完全なる『同族』であることを、痛烈に実感していた。

 

さらに。

プレナパテスの猛攻の中に、微かな、だが確かな『迷い』が混じっていることに気づく。

殺すための攻撃。しかし、どこか最後の最後で威力が殺されているような、手加減めいた間。

プレナパテスは、嚮導者として俺を殺さなければならない。だが、彼の中に残る『先生』としての意識が、同じ転生者である俺を、生徒を守ろうとしている俺を、自分の手で殺すことを無意識に躊躇っている。

 

(……お前も、俺と同じなんだな)

 

プレナパテスの放つ黒い波動をカードで弾き返しながら、俺の胸の奥で、悲哀と、どうしようもない怒りが混ざり合い始めた。

 

同じハッピーエンドを望みながら。

同じように生徒を愛しながら。

なんでお前は、死体になってまでこんなことをやらされてるんだ。

 

「……うおおおおおっ!!」

 

俺は、限界を超えた生命力をカードに注ぎ込み、プレナパテスの最後の大規模な攻撃を、真正面から相殺した。

 

ドゴォォォォォォンッ!!!

 

玉座の空間が光で満たされ、衝撃波が吹き荒れる。

光が収まった後。

 

「はぁっ……、はぁっ……」

 

俺は、全身をボロボロにしながらも、両足でしっかりと玉座の床に立っていた。

大人のカードのリソースは削られ、立っているのが不思議なほどのダメージを負っている。

原作の先生のように、涼しい顔で凌ぎ切ったわけじゃない。ひぃひぃ言いながら、みっともなく、命を削って凌いだ。

でも、結果は同じだ。俺は倒れなかった。

 

俺が立っていることを見て、プレナパテスとシロコ*テラーの攻撃が、ピタリと止んだ。

膠着状態。

 

「……凌いだ、ぞ」

 

血を吐き出すように呟いた、その時だった。

 

「——先生!!」

 

ナラム・シンの玉座へと続く巨大な回廊の暗がりから、真っ先に飛び出してきたのは、対策委員会のホシノだった。

続いて、ノノミ、セリカ。満身創痍で、制服をあちこち破き、硝煙と砂埃に塗れた彼女たちが、荒い息をつきながら玉座の空間へと雪崩れ込んでくる。

 

「先生、無事ですか!? ひどい怪我……っ」

 

ノノミが悲鳴のような声を上げ、駆け寄ろうとする。

だが、その足は数歩踏み出したところで、床に縫い付けられたようにピタリと止まった。

 

彼女たちの視線が、俺を庇うように立つシロコと、そして、その視線の先に立つ「もう一人のシロコ」を、同時に捉えたのだ。

 

「……嘘、でしょ」

 

セリカの喉から、掠れた声が漏れた。

ホシノのオッドアイが、限界まで見開かれている。歴戦の勘を持つ彼女の瞳は、目の前に立つ黒い装束の少女が、ただの偽物や幻影などではないことを本能で悟っていた。

 

自分の大切な後輩であり、家族同然の少女と、全く同じ顔をした、死神のような存在。シロコ*テラー。

 

対策委員会の三人に続き、ゲーム開発部の双子やユズ、美食研究会のハルナたちも次々と玉座へと駆け込んでくる。だが、彼女たちもまた、玉座の中央に立つプレナパテスとシロコ*テラーの異様な威圧感、そして俺とシロコの血みどろの姿を前にして、息を呑んで立ち尽くすことしかできなかった。

 

その、困惑と恐怖で凍りついた実働部隊の集団の、最後尾から。

 

足音すら立てず、一人の少女が、ぬるりと玉座の光の中へと姿を現した。

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