ブルアカ転生〜カヨコのエロ同人描いてた俺が本人に惚れられるまで〜   作:どうたぬき

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第17話:プレナパテス対峙③

俺のそのひどく俗っぽくて、それでいて傲慢な宣言は、ナラム・シンの玉座に満ちていた絶望の空気を、ほんの一瞬だけ、強引に停止させた。

 

足元で泣き崩れていたシロコ*テラーが、すがるような、けれど信じきれないというような、ひどく怯えた目で俺を見上げている。

隣に立つシロコは、俺の横顔をじっと見つめたまま、何かを測るように沈黙していた。

ホシノたち対策委員会の面々も、息を呑んでこちらを見ている。

 

だが、俺の視線はもう、彼女たちには向いていなかった。

俺が見据えているのは、玉座の中央で沈黙を保ったままこちらを見下ろしている、白く巨大な『動く死体』色彩の嚮導者、プレナパテスだ。

 

そして俺は、玉座にいる全員に向けて、いや、何よりもまず、目の前に立つ『もう一人の自分』に向けて、口を開いた。

 

「——俺は、偽物だ」

 

その言葉は、静かだったが、空間の歪みを切り裂くように真っ直ぐに響いた。

 

「え……?」

 

シロコが、困惑したような小さな声を漏らす。

だが俺は止まらない。一度引いた線を最後まで描き切るように、自分自身の最大のタブーを、この世界の深淵で曝け出す。

 

「俺は、この世界の『先生』じゃない。無限の愛と責任感を持った、立派な大人なんかじゃない。……別の世界から来た、ただの同人作家だ」

 

俺の口から放たれた「別の世界」「同人作家」という単語に、実働部隊の生徒たちが明らかに戸惑いの色を浮かべた。

『先生がまた、訳の分からないことを言っている』。彼女たちの目にはそう映っただろう。

 

箱舟の自爆シーケンスのタイムリミットが迫るこの極限状態で、なぜ先生はそんなメタフィクションのような寝言を告白しているのか。誰もがそう思ったはずだ。

 

だが、俺には関係なかった。

彼女たちにどう思われようと、俺は今、目の前にいる『同業者』に、真っ向から引導を渡さなければならないのだから。

 

「二次創作だよ。俺がここまでやってきたことなんて、ご都合主義の塊だ」

 

俺は大人のカードをプレナパテスに向かって突きつけるように掲げた。

 

「お前も、そうだろ?」

 

俺の言葉が玉座に響いた直後。

プレナパテスの傍らに浮いていた、OSの少女、A.R.O.N.Aが、無機質な、しかしどこか悼むような声で告げた。

 

『……あの人も……先生と、同じでした。この世界の外から来た、観測者』

 

その一言が、玉座の空気を決定的に変質させた。

プレナパテス。この恐るべき色彩の嚮導者であり、世界を滅ぼそうとしている元凶。それが、俺と同じ『別の世界から来た人間』であったという事実。

 

ホシノのオッドアイが見開かれ、ノノミが息を呑む。

玉座の隅で静かに状況を観測していたカヨコの瞳のハイライトが、微かに揺れた。

 

俺の言葉に反応したのか、それともA.R.O.N.Aの言葉に反応したのか。

プレナパテスの巨体が、ギクリと、ひどくぎこちない動作で微かに震えたように見えた。

 

こいつは、俺だ。

別の世界から来て、原作の知識を持ち、それでも運命の濁流に飲み込まれて、ハッピーエンドを書けなかった、絶望した同人作家。

だからこそ、俺はこいつを否定できない。こいつがシロコを泣かせたことには腹が立つが、こいつが救えなかったことを、俺は絶対に責めない。

俺だって一歩間違えれば、こいつと同じように絶望し、色彩に魂を売り渡していたかもしれないのだから。

 

「……お前が、どれだけ足掻いて、どれだけ絶望して、その結果こんなバッドエンドしか書けなかったのか。……同業者として、痛いほど分かるよ」

 

俺は、一歩、プレナパテスに向かって歩み寄った。

 

「でもな——」

 

ここから先は、懺悔ではない。

俺という、一人のしょうもないオタクの、人生を賭けた性癖の宣言だ。

 

 

「かわいそうは、抜けないんだよ!!!」

 

 

カヨコに同人誌の趣味がバレた時。

あの時はただの性癖の弁明だった。

 

だが、今。

この世界の命運と、少女たちの魂がかかった絶望の最深部で。

その言葉は、俺の血肉を伴った、絶対的な人生の信条として玉座に轟いた。

 

「俺は、ハッピーエンド以外認めない」

 

俺の視線が、プレナパテスを真っ向から射抜く。

 

「お前の物語も。シロコの物語も。ここにいる全員の物語も」

 

誰も泣かない。誰も死なない。誰も絶望しない。

そんなものは、ゲマトリアに言わせれば『物語の構造を無視した、ただの浅薄な落書き』かもしれない。ご都合主義だと嘲笑われるかもしれない。

上等だ。

 

「俺が、全部書き直す。……そういう作家なんだ、俺は」

 

しょうもない。本当に、心底しょうもない台詞だ。

世界の命運がかかっている場面で、大の大人が、血塗れになりながら「自分は同人作家だからハッピーエンドを書く」と喚いているのだ。

だが、これが俺の全てだった。

カリスマもなく、鋼のメンタルもない俺が、この世界で唯一信じられる、俺自身のエゴ。

 

その俺の傲慢な宣言を聞いて。

プレナパテスが、ごくりと、何かを飲み込むように微かに動いたように見えた。

 

そのデスマスクの奥で、かつて俺と同じようにハッピーエンドを夢見たであろう彼の魂が、俺のしょうもない宣言に対して、確かに何かを『応答』したのを、俺は感覚として感じ取っていた。

 

(……ああ。お前も、そう書きたかったんだな)

 

俺とプレナパテス。

二人の先生の間に、言葉のない、同業者としての確かな理解と共感が成立した。

 

「……先生」

 

シロコが、俺の背中にそっと触れた。

その手の温もりが、俺の過熱していた脳を現実に引き戻す。

俺は小さく息を吐き、彼女に向かって力強く頷き返した。

 

ここから、リライトを始める。

 

俺の「かわいそうは抜けない」という傲慢極まりない同人作家としての宣言が、玉座の空間に深く沈み込んだ直後だった。

 

『先生! 箱舟の自爆シーケンスが再起動準備に入りました。プレナパテスが、この空間の全エネルギーを収束させています』

 

アロナの切羽詰まった声が、シッテムの箱から響いた。

 

プレナパテスの巨体が、ひび割れたデスマスクの隙間から、これまでとは比較にならないほど強烈な光を放ち始めていた。

色彩の嚮導者としての最後の使命。自分という存在そのものを起爆剤にして、この箱舟もろとも俺たちを消し去るための、文字通りの自爆攻撃。

だが、その光の奥にあるプレナパテスのデスマスクは、どこか安らかに、すべての荷を下ろしたかのように見えた。

 

彼は、もう限界だったのだ。

死体である肉体を色彩の力で無理やり駆動させ、自我を削りながら、生徒を守るために立ち続けてきた。

そして今、俺という「同じ世界の人間」であり、「ハッピーエンドを諦めない同業者」に出会ったことで、彼はようやく、自分の握りしめていた重すぎるペンを置く決意をしたのだろう。

 

光が極限まで膨張し、玉座の空間全体が白く塗り潰されようとした、その瞬間。

俺の脳内に、いや、魂に直接、彼からの最後の言葉が響いた。

 

 

『——生徒たちを……よろしく、お願いします』

 

 

それは、原作のテキストで一言一句違わず読んだ、プレナパテスの最期の台詞だった。

 

この言葉には、二重の呪いが込められていた。

 

文字通り「先生」としての託し。

自分は救えなかった。だから、この世界でお前が、あの子たちを、そして自分が最後まで守ろうとしたシロコ*テラーを、どうか守ってやってくれという切実な祈り。

 

そしてもう一つは、同じ転生者から同じ転生者への、同業者としての『原稿の託し』だ。

『俺は、力不足でバッドエンドしか書けなかった。でも、俺と同じ世界から来て、同じ物語の結末を知っていて、それでもまだ足掻こうとしているお前になら。お前なら、あのしょうもないハッピーエンドを、書き上げられるはずだ』

 

同じハッピーエンド至上主義者が、完全に筆を折る瞬間に、まだ諦めていない作家へと未完の原稿を託す。その途方もない執念と信頼。

 

光の中で、俺は深く息を吸い込み、その思念に対して、一言だけ返した。

 

「——任せろ」

 

短い。だが、これ以上の装飾は必要ない。

同業者同士の、命を賭けた最小限の契約。俺は、お前が投げ出したプロットを全部引き継いで、お前の望んだハッピーエンドを完璧に書き上げてやる。

 

俺のその返答を聞き届けたかのように。

プレナパテスの身体から、急速に色彩の光が抜け落ちていった。

彼を動かしていた力が完全に霧散し、巨大な白い死体は、糸が切れた操り人形のように、玉座の床へと崩れ落ちた。

 

「……終わった」

 

俺は、大人のカードを握りしめていた右手の力を抜き、深く、血の混じった息を吐き出した。

 

その時だった。

 

「——」

 

顔を上げた俺の視界の端。

玉座の空間の隅、非常灯の赤い光に半ば溶け込むようにして立っていた、一人の少女と、はっきりと目が合った。

 

カヨコ。

 

彼女は、俺が玉座の中央で繰り広げた一連の自己開示、世界観を根底からぶち壊すような狂った演説を、一文字も零さずにすべて聞いていた。

シロコや対策委員会の面々が、俺の言葉の真意を図りかねて困惑し、ゲーム開発部がメタ的な発言に目を白黒させていた中で。

カヨコだけが、全く表情を変えずに、俺の顔を真っ直ぐに見据えていた。

 

驚きはない。

同情もない。

軽蔑も、困惑もない。

 

彼女の赤い瞳の奥に浮かんでいたのは、極めて純度の高い『知ってた』という、静かな納得と確信だった。

 

無理もない。

昨夜、あのアビドス砂漠のコンテナで、彼女は俺の口から既に聞いていたのだから。

その上で、彼女は俺をベッドに押し倒し、俺の存在を自分の身体の奥深くに受け入れ、「死んだら許さない」という呪いをかけた。

 

だから、今ここで俺が何を言おうが、彼女にとっては「確認済みの事実」の反復でしかない。

だが、カヨコの瞳に浮かぶ感情は、ただの「既知の事実の確認」ではなかった。

 

彼女の瞳は、こう雄弁に語っていた。

『お前は、昨夜私にだけ打ち明けた秘密を、今、全員の前で曝け出した。その上で、世界中の絶望を全部書き換えるって、あの馬鹿みたいな宣言をした』

『……やっぱり、私の選んだ男は、間違ってなかった』

 

この極限の死地で、ボロボロになりながら、それでも己のしょうもないエゴを貫き通そうとする俺の姿を見て。

彼女は、自分の首輪をかけた相手が、自分の見込んだ通りの「狂った執念を持った男」であることを、確信を持って見つめていた。

その目には、一片の後悔もなかった。

 

俺は、口元だけで微かに笑みを作り、彼女の視線に応えた。

『お前の首輪が重すぎるから、ここで死ぬわけにはいかないんだよ』。

声には出さない。だが、日常で積み上げてきた蓄積が、言葉を介さない完璧な意思疎通を成立させていた。

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