ブルアカ転生〜カヨコのエロ同人描いてた俺が本人に惚れられるまで〜   作:どうたぬき

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第18話:戦闘、脱出、落下①

終わった。

誰もがそう思った。いや、そう思いたかった。

 

ナラム・シンの玉座の床にプレナパテスの巨体が膝を突き、色彩の禍々しい光が霧散していくのを見た瞬間、俺の全身から極度の緊張が一気に抜け落ちそうになった。大人のカードを握りしめていた右手の感覚はとうに麻痺し、両膝は生まれたての小鹿のように笑っている。

玉座の空間を覆っていた絶対的な死の気配が薄れ、ホシノたちが荒い息を吐きながらも互いの無事を確認し合う気配が伝わってきた。

 

だが。

「ハッピーエンド」を書き上げるための代償は、まだ支払い終わっていなかった。

 

『先生! 箱舟の自爆シーケンス、再起動準備に入りました。プレナパテスが、この空間の全エネルギーを自身の内部に収束させています』

 

シッテムの箱から発せられたアロナの切羽詰まった声が、束の間の安堵を無慈悲に粉砕した。

 

「……きたな」

 

俺が血塗れの顔を上げた瞬間。

プレナパテスが、再び、ゆっくりとその巨体を立ち上がらせた。

だが、こちらに向かって攻撃を仕掛けてくる気配はない。彼は玉座の中央で微動だにせず、ただ、黒く変質した両腕を広げた。

直後、彼の身体を中心にして、空間そのものを歪めるような圧倒的なエネルギーの奔流が巻き起こり、分厚い防壁となって彼自身を包み込んだ。

 

彼自身が意志を持ってやっているのではない。色彩の嚮導者としてのシステムが、主を失ったことで最後の防衛本能、箱舟の全エネルギーを自身に圧縮し、キヴォトス全土を巻き込んで自爆するという、最悪のフェーズを強制的に起動させたのだ。

 

ギギギギギギッ……!

 

箱舟の異質な有機的構造体が、限界を超えて悲鳴のような軋み音を上げ始める。

プレナパテスの防壁の内部で、エネルギーの密度が指数関数的に跳ね上がっていくのが、肌に突き刺さるような圧力で伝わってきた。

 

『先生! 聞こえますか、こちらブリッジのリンです!』

 

ノイズ交じりの通信が、イヤホンに飛び込んできた。

 

『箱舟のエネルギー収束率が臨界点を突破しようとしています。……このままでは箱舟ごと破壊されます』

 

「……脱出シーケンスに問題ないな!?」

 

『勿論です!』

 

だが、目の前のプレナパテスの自爆カウントダウンは、俺たちにその時間を許してはくれない。

 

「あの防壁を砕いて、エネルギーの圧縮を止めるんだ……ッ! 全員、撃てえぇぇぇっ!!」

 

俺の号令と共に、実働部隊の少女たちが一斉に銃の引き金を引いた。

 

「これで、最後ぉぉっ!!」

 

ユズの絶叫と共に、ゲーム開発部の面々が持てる火力のすべてをプレナパテスの防壁に叩き込む。

美食研究会のハルナたちが、対策委員会のホシノやセリカが、悲鳴を上げる銃身を抑え込みながら、弾雨の壁を構築する。

アコが、そしてカヨコが、ハンドガンのスライドが焼け焦げるほどの速度でトリガーを引き、プレナパテスの分厚いエネルギーシールドを削り取ろうとしている。

 

攻撃されているわけではない。だが、迫り来る「世界の終わり」という不可逆の死の圧力が、俺たちの精神と肉体をゴリゴリと削り落としていく。

 

「……くそっ、削りきれない……!」

 

俺はシッテムの箱を通じて全員の火力をブーストするが、プレナパテスが溜め込んでいる箱舟の全エネルギーは、あまりにも膨大すぎた。空間の圧縮が始まり、重力が狂い、ただ立っていることすら困難になっていく。

このままでは、脱出シーケンスの準備が整う前に、自爆が完了する。

 

その時だった。

 

『——実働部隊の皆さん、及び先生。直ちに衝撃に備えてください』

 

リンの、極めて冷徹で、それゆえに覚悟の決まった声が響いた。

 

『これより、ウトナピシュティムの本船主砲——アリスの「光の剣:スーパーノヴァ」の残存エネルギー15%を、玉座のプレナパテスに向けて直接撃ち込みます。……吹き飛ばされないように』

 

「主砲か……!?」

 

俺は目を見開いた。

本船の主砲を、俺たちがいるこの玉座に直接叩き込む。一歩間違えれば、プレナパテスごと俺たちも宇宙の塵になる諸刃の剣。

だが、その提案が意味するものを、俺の原作知識と指揮官としての理性が瞬時に弾き出した。

防壁を貫き、自爆のカウントダウンを強制終了させるには、もはやその外部からの絶対的なエネルギーを叩きつけるしかない。

 

決断の猶予は、コンマ一秒。

 

「やれ!! リン、主砲を発射しろォォッ!!」

 

俺は、喉が裂けるほどの声で、本船のブリッジに向かって命令を下した。

 

『了解しました。ウトナピシュティム、主砲発射!!』

 

俺が指示を飛ばした直後。

箱舟の天井を突き破り、目も眩むような純白の閃光が、ナラム・シンの玉座へと一直線に叩き込まれた。

 

ズガァァァァァァァァンッ!!!!

 

世界が白一色に染まった。

鼓膜が破裂しそうな轟音。箱舟の構造を根こそぎ破壊する圧倒的なエネルギーの奔流。

アリスが、ケイが命を懸けて放った光の剣の残滓が、プレナパテスの暴走するエネルギーと正面から激突し、凄まじい爆発を巻き起こした。

 

玉座の空間が大きく揺らぎ、崩壊が加速する。

だが、その一撃が、俺たちを圧殺しようとしていた死の圧力を、完全に吹き飛ばしてくれたのだ。

 

『……今です! 脱出シーケンス、起動!!』

 

リンの叫びと同時に、玉座の床に、淡い青色の転送陣が次々と展開され始めた。

 

「よし! みんな、順番に光の中へ入れ!!」

 

俺は、喉が裂けるほどに声を張り上げた。

時間が稼げた。この数分間、いや数秒間の間に、全員を地上へと帰す。

 

「美食研究会、入れ! フウカもだ!」

 

「先生、ご武運を!」

 

ハルナたちが光に包まれ、一瞬にして地上へと転送されていく。

 

「ゲーム開発部、次だ!!」

 

「先生! アリスたち、待ってますから!」

 

双子とユズが、意識を失ったアリスを抱えながら光の中へと消える。

 

「対策委員会!! 行け!!」

 

「……先生、絶対に帰ってきてよね!!」

 

セリカが叫び、ノノミが祈るように手を組む。ホシノが最後に振り返り、俺に向かって深く頷いてから、光の中へと消えた。

 

玉座の空間から、一人、また一人と生徒たちの姿が消えていく。

箱舟の崩壊は秒単位で進行しており、天井からは巨大な瓦礫が降り注ぎ、空間のあちこちで次元の断層が口を開けている。

その地獄のような光景の中で。

 

俺は、残った転送陣の一つに向かって歩みを進めようとしている、彼女の後ろ姿を見た。

 

鬼方カヨコ。

 

彼女は、光の陣の縁に立ち止まると、ゆっくりと振り返り、俺を見た。

言葉は、なかった。

前夜のコンテナで、彼女は言うべきことをすべて言った。「責任を取れ」「死んだら許さない」。その言葉は、既に俺の魂に呪いとして刻み込まれている。

 

だから、彼女はここで安い別れの言葉を口にしない。

ただ、赤い瞳で、俺の目を真っ直ぐに射抜いた。

 

その視線が語るメッセージは、極めて明確だった。

『帰ってこい』という祈りではない。

『帰ってくるに決まっている』という、絶対的な前提。事後承諾型の女が下した、俺の生還に対する事後承諾。お前の帰還は、私が既に決定した事項である。もしそれに背くようなことがあれば、地獄の果てまで追いかけて殺す。

 

俺は、崩壊する玉座の中で、彼女に向かって、ふっと笑ってみせた。

わかってる。お前の首輪が重すぎるから、死ねないんだよ。

 

カヨコの目が、ほんの一瞬だけ、微かに細められた。

それが満足の意なのか、それとも呆れなのかは分からない。

次の瞬間、青い光が彼女の身体を包み込み、カヨコはアコと共に、玉座の空間から完全に姿を消した。

 

(……良かった)

 

カヨコが消えた空間を見つめながら、俺の胸の奥底から、心底安堵の息が漏れた。

これで、彼女は地上にいる。安全な場所に帰った。俺が一番守りたかった、一番俺を縛り付けていた女は、無事に生還したのだ。

 

周囲を見渡す。

玉座に立っているのは、もはや俺一人だけだった。

 

——いや、違う。

もう一人、いる。

 

玉座の隅。プレナパテスの亡骸のそばで、力なくへたり込んでいる少女。

シロコ*テラー。

 

彼女は、自分以外の全員が光に包まれて消えていく光景を、ただぼんやりと、虚ろな目で見つめていた。

自分がまだここに残されていること。箱舟が崩壊しようとしていること。それらすべてが、彼女の意識の枠外にあるかのように、抜け殻のような顔をして座り込んでいる。

 

俺は、シッテムの箱のモニターを確認した。

脱出シーケンスの残り枠。エネルギー残量。

……一つ。

俺の分の、たった一つの転送枠。

 

知っていた。原作知識で、この展開が来ることは、痛いほど分かっていたのだ。

 

だからこそ、俺は事前に足掻いた。

箱舟への突入前、ヒマリに密かに通信を繋ぎ、「脱出時のエネルギー効率を極限まで上げて、転送枠を一つでも多く確保できないか」と提案していた。

だが、箱舟の崩壊速度とエネルギーの減衰は、天才ヒマリの想定すら上回っていた。原作知識というチートを使っても、システムの物理的な限界を超えることはできなかったのだ。

結局、用意された枠は、原作と全く同じ。俺を含めた「全員分ピッタリ」にしかならなかった。

 

俺は、足を引きずりながら、シロコ*テラーの元へと歩み寄った。

 

「……あ……」

 

シロコ*テラーが、うわ言のように小さく声を漏らし、見上げてくる。

さっきまで、世界を滅ぼした罪悪感で慟哭していた女の子。

自分のいた世界の対策委員会をすべて喪い、最後に信じた先生すらも色彩の化け物に変えてしまったと、絶望の底に沈んでいる女の子。

 

こんな子を、ここに置いて、自分だけが助かるために光の陣に入る?

そんな選択肢は、最初から俺のプロットには存在しない。

 

「……立つんだ」

 

俺は、彼女の細い腕を掴み、無理やり立たせた。

 

「先生……?」

 

「いいか。よく聞け」

 

俺は、崩落の轟音が響き渡る中で、彼女の耳元ではっきりと告げた。

 

「お前の物語は、ここで終わりじゃない。……俺が、そう決めた」

 

「かわいそうは抜けない」のだ。

俺は同人作家として、ハッピーエンド至上主義者として、目の前で絶望しているキャラクターを見捨てることは絶対にできない。

彼女もまた、シロコなのだ。俺が愛した、あの少しズレていて、仲間思いで、真っ直ぐなシロコと、根本的な魂の形は同じなのだ。

こんな悲劇のヒロインのまま、この暗い箱舟と共に宇宙の塵にさせるわけにはいかない。

 

俺は、シロコ*テラーの身体を、最後に残っていた青い転送陣の中へと強引に押し込んだ。

 

「え……? 先生、何を……っ! 先生の分は!?」

 

シロコ*テラーが、ようやく事態を把握し、青ざめた顔で陣の外へ出ようとする。

俺は彼女の肩を強く押し返し、光の中へと縫い留めた。

 

「俺のことは気にすんな。……俺は、しぶといからな」

 

「ダメ……っ! また、わたしを残して……先生が、死ぬなんて……そんなの……っ!!」

 

シロコ*テラーが泣き叫ぶ。その手が、俺の服の袖を必死に掴もうと空を切る。

だが、脱出シーケンスは既に起動していた。

青い光が、彼女の黒い衣装を眩く包み込んでいく。

 

「生きろ。生きて、新しいハッピーエンドを探せ」

 

俺が最後にそう告げた瞬間。

光は臨界に達し、シロコ*テラーの姿は、驚愕と悲痛に満ちた表情を浮かべたまま、玉座の空間から完全に消失した。

 

静寂。

いや、物理的な音は狂ったように鳴り響いているのだが、俺の主観的な世界からは、すべての音が遠ざかっていった。

 

玉座に、俺一人が残された。

空っぽになった転送陣の光が、フッと消える。

ヒマリたちが用意してくれた帰還への道は、これで完全に絶たれた。

 

ズゴォォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

直後、アトラ・ハシースの箱舟が、その限界を迎え、内側から爆発的に崩壊を始めた。

天井が砕け散り、床が割れ、壁が宇宙空間へと吸い出されていく。

重力が完全に消失し、俺の身体は、崩壊する構造物の破片と共に、虚無の空間へと放り出された。

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