ブルアカ転生〜カヨコのエロ同人描いてた俺が本人に惚れられるまで〜   作:どうたぬき

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第2話:空気を目撃する

カヨコのあの思わせぶりな挑発から数日。

俺はシャーレのオフィスで、未だに「あれはからかわれただけなのか、それともガチの誘いだったのか……」と、大人としての理性を総動員してぐるぐると悩み続けていた。いや、取り乱してはいない。ただちょっと、夜も眠れないくらい気になっているだけだ。

 

そんな中、今日の日課であるD.U.地区の見回り当番は、偶然にもカヨコだった。

 

「……先生、あっちの路地、ちょっと騒がしい」

「え? ああ、本当だ。またヘルメット団か何かかな」

 

カヨコが愛用のハンドガンに手をかけながら、警戒混じりに路地裏を覗き込む。

小規模な小競り合いなら、俺たちの手でササッと片付けるつもりで角を曲がった、その瞬間だった。

 

「な、何なんです、あなたたちは! 私はただ、プライベートの買い物で通りかかっただけです! 風紀委員の増援を呼びますよ……ああっ、来ないでくださいっ!」

 

聞き覚えのある、やたらと高圧的で、だけど今は完全にテンパっている声が響き渡る。

見れば、ヘルメット団の不良たちに囲まれているのは、ゲヘナ学園風紀委員会の行政官——天雨アコだった。いつもなら冷徹に軍勢を率いている彼女が、今日は私服姿で、両手にパンパンの買い物袋を抱えて孤立している。

 

「アコ……!? なんでこんなところに」

「なっ、カヨコ!? それにシャーレの先生……!? な、なんであなたたちがここにいるんですか!」

 

アコが驚愕に目を見開いた瞬間、不良たちの容赦ない銃撃と、誰かが投げた手榴弾が彼女のすぐ近くで炸裂した。

 

「キャーーッ!?」

 

ドガァァァン!!

 

「危ない!」

「っ、ハァッ!」

 

俺の指示より早く、カヨコが鋭い踏み込みで不良の頭を殴り倒し、制圧射撃を開始する。俺も慌てて指揮を執り、なんとか不良たちを撃退することには成功した。

 

成功したのだが……。

 

「う、ううう……最悪です、信じられません……。私のプライベートの大切な休日が、どうしてこんなことに……っ!」

 

硝煙が収まった路地裏で、アコは文字通り「散々な姿」でへたり込んでいた。

 

爆風の流れ弾で近くの消火栓がブチ壊れ、大量の水を頭から浴びたらしく、自慢の青髪も私服もびしょ濡れ。さらに、抱えていた買い物袋の中身が地面にぶちまけられ、泥と水浸しでぐっちゃぐちゃになっていた。

 

「とりあえず……ここで立ち話もなんだし、シャーレのオフィスが近いから戻ろう。アコ、着替えとシャワー、貸すからさ」

 

「……っ、うぅ、お、お断りしたいところですが、このまま帰るわけにもいきませんし……! 仕方ありません、お邪魔しますっ!」

 

最悪のコンディションで素が出まくっているアコを連れて、俺とカヨコは、ひとまずシャーレのオフィスへと引き返すことになった。

 

◇ ◇ ◇

 

シャーレのオフィスに戻ると、カヨコは一切の無駄がない動作で作業を始めた。

 

「アコ、とりあえずこれ。使いなよ」

 

カヨコが自分の鞄から、ごく自然に、かつ無言で差し出したのは、綺麗に畳まれた大判のハンカチだった。

 

「……あ、ありがと」

 

アコはいつもの風紀委員としてのトゲトゲしさをどこかに置き忘れたように、素直にそれを受け取る。

 

それだけじゃない。オフィスに戻る道中、私服が水に濡れて薄らと肌が透けそうになっていたアコを、カヨコは周りの視線から遮るように、さりげなく自分の位置を調整して歩いていた。アコもアコで、カヨコがその位置に回るのが「当然」であるかのように、自然にその陰に隠れて歩を進めていたのだ。

 

「先生、悪いけどシャワー、アコに貸してあげて」

 

「あ、ああ、もちろん。あっちだから使っていいよ」

 

「うう、お借りします……」

 

アコがバスタオルを抱えてシャワールームへと消えていく。

その間に、カヨコはシャーレの給湯室へと向かった。

 

トントン、と小気味いい音を立てて用意されたのは、二つのマグカップ。

カヨコはアコに「何が飲みたいか」も「どんな味が好みか」も、何一つ質問しなかった。ただ黙々と、手慣れた様子で温かいコーヒーを淹れ、そこへ躊躇なくスティックの砂糖を投入していく。

 

一本、二本、三本。

 

(……え? 砂糖三個? カヨコ、それさすがに甘すぎじゃ——)

 

口を出しかけて、俺はハッと息を呑んだ。

俺は公式設定の知識の引き出しをマッハでひっくり返す。ゲヘナ学園風紀委員会・天雨アコ。彼女のプロフィール、そして大好物は……俺のデータベースに無い!

カヨコの指は三本目のスティックを切る時にも、速度が変わらなかった。

 

やがて、シャーレの備え付けのジャージを借りて、少し落ち着いた様子のアコがシャワールームから出てきた。髪からわずかに湯気を上らせながら、ソファに腰掛ける。

 

「アコ、これ。冷えないうちに飲みなよ」

 

「……」

 

差し出されたマグカップを見て、アコは一瞬だけ、動きを止めた。

 

「なんで私の好みの砂糖の量を知っているのよ」なんて野暮なセリフは、彼女の口からは一言も出てこない。ただ、少しだけバツが悪そうに視線を泳がせ、黙ってカップを両手で受け取る。

 

フーフーと白い湯気を吹きながら、アコがコーヒーを小さく一口、口に含んだ。

その瞬間、アコの表情からいつものヒステリックな「風紀委員モード」が完全に消え去った。

しおらしい、とまでは言わない。だけど、いつも俺に向けてくるような狂犬じみた棘の出し方とは、明らかに違う。どこか拗ねたような、それでいて完全に心を許した相手にだけ見せる、甘えの混じった面倒くさいモード。

 

「……ちょっと、甘すぎるんじゃないかしら。これじゃ太っちゃうわ」

 

「そう。じゃあ残せば? 私はアコがそれくらい平気で飲むって知ってるけど」

 

「……っ、残すなんて言ってないでしょう! せっかく淹れてもらったんだから、飲みます!」

 

ぷいっと顔を背けながら、アコは嬉しそうにまたコーヒーを口に運ぶ。

カヨコはそんなアコを、呆れたような、だけどどこか優しい眼差しで静かに見守っていた。

言葉による説明は、何一つない。

ただ、二人の間に流れる時間、距離感、そしてあまりにも自然に共有されている『過去のデータ』。

 

俺はオフィスのデスクから、書類を持つ手を完全に硬直させたまま、その一連の光景を、瞬きすら忘れて見つめていた。

 

(アコカヨ……アコカヨじゃん……!! ガチのやつじゃんこれ、リアル供給の尊さで脳細胞がトップスピードで爆発四散しそうなんだけど!?)

 

俺の内心は、すでに限界を迎えたオタクのネット掲示板のごとく大炎上していた。

なんだあの自然なハンカチの渡し方は。なんだあの位置取りは。そして極めつけの「砂糖三個」。質問もなしに相手の致死量の糖分嗜好を把握しているとか、どんな交流関係を経てきたらそうなるんだ。

 

目の前でリアルタイムに展開される尊いディテールの数々に、俺の同人作家脳は沸騰し、今すぐ壁に頭を打ち付けて「てぇてぇ……」と咽び泣きたい衝動に駆られていた。

だが、表面上はシャーレの「先生」だ。書類に目を落とし、ペンをカリカリと動かしながら、世界一平穏を装ったポーカーフェイス(実際は限界すぎて口元がピクピクしている)を維持する。

 

しかし、その限界オタク特有の熱い視線を、あの鋭い天雨アコが見逃すはずがなかった。

 

「……ちょっと、先生! さっきから何なんですか、そのジロジロと不躾な視線は! びしょ濡れになってジャージを借りている私を見て、何か良からぬことでも考えているんでしょう! 本当にゲヘナの風紀を乱す最悪の大人です、今すぐ風紀委員会総員でシャーレを包囲して——」

 

カヨコの前で恥ずかしい姿を晒した照れ隠しもあってか、アコがいつものヒステリックなマシンガントークで俺にキレ散らかしてくる。地雷を踏めば、さらにヒートアップして面倒くさいことになる定番のルートだ。

 

だが、今の俺にはアコの絆ストーリーやイベントをやり込み、彼女の「精神構造」をミリ単位で理解している原作知識という名のチートスキルがあった。

彼女が本当に求めているのは、拒絶でも、的外れな謝罪でも、からかいでもない。

 

「いや、ごめんアコ。そうじゃなくてさ」

 

俺はペンを置き、アコの目を真っ直ぐに見つめて、あえて声音のトーンを落とした。

 

「風紀委員の行政官として、いつもゲヘナの重圧を一人で背負って戦ってるアコがさ。……今日、こうして私服で、自分のための買い物を楽しもうとしてたんだなと思ったら、なんかその……そのささやかな時間を守れなかったのが、先生として本当に申し訳なくて。……風紀委員としてじゃなく、一人の女の子としてのアコの休日を、もっとちゃんと守ってあげたかったなって、そう思って見てたんだ」

 

「……え?」

 

アコのマシンガントークが、ピタリと止まった。

 

完璧な地雷回避。

 

アコの顔が、みるみるうちに耳の先まで真っ赤に染まっていく。

 

「な、な、何を言っているんですかあなたという人は……っ!? いきなりそんな、恥ずかしげもなく……っ! 私は別に、そんな、女の子扱いされたいなんて一言も……う、ううう! 最悪です! 先生のせいで調子が狂いました、もう信じられませんっ!!」

 

アコは顔を真っ赤にしてフンスフンスと鼻を鳴らし、さらにキレ散らかしてはいるものの、そのトゲは完全に折れていた。それどころか、マグカップを両手で包み込んだまま、嬉しさを隠しきれずにジャージの襟元に顔を埋めてデレている。

 

(よし、完全に対アコ地雷を全回避して完全勝利……! いや、っていうか、アコちゃん面倒くさ可愛いな! )

 

「……っ」

 

アコは真っ赤になった顔を隠すように、ふいっと顔を背けて熱いコーヒーを無理やり一口に啜った。当然、熱さに悶絶しかけてさらに顔を赤くしている。

 

「う、うう……もういいです、コーヒーのおかわりをいただきますからねっ!」

 

「はいはい、わかったから。ほら、自分で淹れるのは危なっかしいから、私がやる」

 

真っ赤になって空になったマグカップを突き出すアコから、カヨコがごく自然にそれを手取る。

そんな二人のやり取りの横で、俺は「ふぅ……」と胸を撫で下ろしながら、額の汗を拭っていた。原作知識のおかげでアコの地雷を踏まずに済んだが、精神的な消耗はデカい。

 

(いやー、やっぱりゲヘナの行政官は伊達じゃないな。人間理解の難易度が最高峰すぎる……)

 

そんな風に、内心で「これ原作ゲームのおかげだからな……」と、チートの種明かしを自分自身に言い訳していた、その時。

 

——ゾクッ。

 

背筋に、冷たいものが走った。

視線を感じて顔を上げると、コーヒーの準備をしながら、カヨコがこちらをじっと見つめていた。

いつもより、少しだけ細められた切れ長の瞳。

その瞳の奥にある光は、この前、俺のドスケベな目線に気づいて面白がっていた時の、あのからかい半分の悪戯っぽいものとは、明らかに種類が違っていた。

 

「……先生」

 

カヨコが低く、静かな声で俺の名を呼んだ。

 

「なんでそんなに、アコのこと知ってるの?」

 

「ぶふっっ!?」

 

直球、ど真ん中へのストレート。

 

俺は危うく、自分の唾を喉に詰まらせて盛大にゲホゲホと咳き込むところだった。

 

「いや——シャーレの資料だよ。生徒のプロフィールや行動傾向は、一通り目を通してる」

 

嘘ではない。シャーレの資料にも、ある程度の情報は載っている。ただ、アコの「頑張りを認められたい」という心理の核まで資料に載っているかと言われれば——載っているわけがない。

 

「……生徒のプロファイリングまで、シャーレの資料に載ってるんだ」

 

カヨコの声が、平坦だ。平坦すぎる。この娘が声のトーンを落とす時は、怒っているか、あるいは本気で興味を持っている時だ。どっちだ。

 

「……まあ、半分は勘だけどな。先生やってると、生徒の考えてることが何となく分かるようになるんだよ」

 

苦しい。苦しいが、ギリギリ大人の言い訳としては成立していると思いたい。

 

カヨコはそれ以上、俺を追及することはしなかった。ただ、マグカップにコーヒーを注ぎながら、その薄い唇の端を小さく動かした。

 

「……ふーん」

 

この前の「ふーん」とは、響きが違う。

俺はカヨコの視線から逃げるように、再び目の前の書類(内容は全く頭に入ってこない)へと、必死に目を落とした。

 

アコがシャワールームから戻ってくるまでのわずか数分間が、まるで数時間にも感じられた。ようやくアコが帰ってきた。

 

「それじゃあ、私は風紀委員会に戻ります。……服、ありがとうございました」

 

ジャージからすっかり乾いた私服(カヨコが裏でせっせとアイロンをかけておいたやつだ、尊い)に着替えたアコは、最後までツンとした態度を崩さないまま、それでもどこか名残惜しそうにシャーレのオフィスを後にした。

バタン、とドアが閉まり、室内に再び静寂が戻る。

 

(……終わった。俺、生き延びたんだな)

 

どっと押し寄せる疲労感。だがそれ以上に、俺の胸の中は「アコカヨ元カノ概念」を生で、それも至近距離で目撃したという、同人作家としての圧倒的なカタルシスで満たされていた。

脳内のスケッチブックには、すでに二人の距離感、あの砂糖三個のコーヒーのシーンのネームがびっしりと描き込まれている。

 

その興奮が、俺の理性のブレーキを完全に狂わせていた。

片付けを始めようとしたカヨコの背中を見つめながら、俺の口から、抑えきれないオタクの「独り言」がポロリと漏れ出してしまったのだ。

 

「……いやぁ、やっぱり二人の『空気感』、マジで最高だな……」

 

「え?」

 

カヨコの手がピタリと止まる。

 

振り返った彼女の目は、完全に「今なんて言ったの?」と問いかけていた。

しまっ——と思ったが、もう遅い。脳内麻薬が出すぎていて口が止まらない。

 

「あ、いや、なんでもない! なんでもないんだけどさ、カヨコ。アコといる時のカヨコって、なんていうか……すごく、その——」

 

止めろ。止めろ俺。ここで止まれ。

 

「エモいっていうか、エロいなって……」

 

止まれなかった。

 

墓穴。しかも今度は、ただの不審者を通り越して、完全に「癖を持ったドスケベ」としての本音が100%露出した大暴言だった。

生徒に向かって「エロい」は一発アウトだ。いくら前世でそういう同人誌を描いていたからって、本人の目の前で言っていいわけがない。

俺は己の軽率さを呪いながら、カヨコの冷たい軽蔑の視線を覚悟して、ギュッと目を瞑った。

 

だが——

 

トツ、と静かな足音がして、目の前の光が遮られる。

恐る恐る目を開けると、いつの間にかカヨコが、俺のデスクを両手で挟み込むようにして、目の前に身を乗り出していた。

 

至近距離。カヨコの赤い瞳が、逃げ場のない距離で俺を真っ直ぐに見つめている。

そして、彼女はわざとらしく、自分の髪を耳の後ろへと掻き上げた。

この前も俺の理性を狂わせた、あの首元の「ほくろ」が、今度は照明の光を浴びて、はっきりと俺の網膜に焼き付く。

 

「……先生、さっきから余裕ないね」

 

カヨコがデスクの角に腰を預けた。俺を見下ろす角度になる。

 

「アコがいた時は、あんなに格好よく大人の対応してたのに。……私と二人きりになると、すぐそういう顔になるんだ」

 

「あ、いや……」

 

「アコといる私が『エロい』の? それとも……」

 

カヨコはさらに顔を近づけ、俺の耳元に、熱い息と一緒に言葉を吹き込んできた。

 

「今、こうして先生をからかってる私の方が……エロい?」

 

「っ……~~~~ッ!?」

 

脳のヒューズが完全にぶっ飛んだ。

 

アコカヨの尊さで殴られた直後に、カヨコ本人からの過剰なまでのダイレクトアタック。

 

「……じゃあね、先生。お疲れ様」

 

俺が言葉を失って真っ白になっているのを確認すると、カヨコは満足したようにフッと艶っぽく微笑み、鞄を持ってさっさとオフィスのドアへと歩いていく。

 

「あ、ちょっとカヨコ!? 待っ……!」

 

「またね。……次の見回りの時も、その『野生の勘』、期待してるから」

 

パタン。

 

今度こそ、静まり返るオフィス。

俺は椅子に深く崩れ落ち、真っ赤になった顔を両手で覆うことしかできなかった。

 

(キヴォトス、やっぱり危険すぎる……! 命も理性もいくつあっても足りねえよ、畜生……ッ!!)

 

俺は真っ赤な顔のまま、一つだけ確信した。次の見回り当番表、絶対に確認しないと死ぬ。

 

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