【完結】ブルアカ転生〜カヨコのエロ同人描いてた俺が本人に惚れられるまで〜   作:どうたぬき

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第19話:戦闘、脱出、落下②

高度、七万五千メートル。

外気。酸素は薄く、冷気が容赦なく俺の肉体を侵食し始める。

 

「……っ、がっ……!」

 

声が出ない。

猛烈な勢いで、俺の身体は重力に引かれ、地球へと向かって落下を始めた。

視界が高速で回転し、眼下には巨大な青い星が、恐ろしい速度で迫ってくる。

摩擦熱。真空。そして、落下による圧倒的なG。

 

「アロナ……! アロナ、俺は大丈夫か!?」

 

俺は、意識が飛びそうになるのを必死に堪えながら、懐のシッテムの箱に向かって呼びかけた。

 

『……先生……』

 

返ってきたアロナの声は、かすれ、今にも消え入りそうだった。

 

『ごめんなさい……。スーパーノヴァの衝撃相殺……ハッキングへの対処……そして、脱出シーケンスの維持……。アロナのリソース、もう……限界、です……っ』

 

原作知識。

俺は知っている。ここで、アロナとA.R.O.N.Aが協力し、奇跡を起こすことで先生は生還する。

だが、その前提条件が、俺の『凡人としての能力不足』によって崩れかけていた。

原作の先生のように完璧な立ち回りができなかった俺をサポートするため、アロナは想定以上のリソースを消耗し尽くしていたのだ。

 

頭の中で、冷徹な計算式が回る。

アロナのリソースは枯渇している。A.R.O.N.Aのデータをサルベージする余力があるかどうかも怪しい。仮にサルベージできたとしても、二つのOSを統合して「奇跡」という物理法則を無視した現象を実行するための絶対的なリソースが、果たして残っているのか。

 

計算結果は、限りなくゼロに近い。

 

「……ああ、ダメだ。俺、ここで死ぬわ」

 

パニック。

猛烈な恐怖が、俺の自我を食い破りそうになる。

視界を覆うほどの炎。大気圏突入の摩擦熱が、シールドを削り、俺の肉体を炭化させようとしている。

 

死にたくない。

当たり前だ。俺はヒーローじゃない。ただのオタクだ。

痛いのは嫌だ。苦しいのは嫌だ。

何より、カヨコが待っている。あのコンテナのベッドで、俺の指に鎖をかけたあの女が、地上で俺の帰りを待っている。帰らなければ殺される。いや、死んでいるから殺されはしないが、あの女を悲しませることになる。それだけは、絶対に嫌だった。

 

だが、詰んでいる。

俺がどんなに足掻こうが、物理法則とシステムのリソース不足という絶対的な壁が、俺の生存確率をゼロに固定している。

 

視界が、熱と酸欠で真っ赤に染まり、意識が途切れそうになる中で。

俺の思考は、一つの場所に落ちていった。

 

自分が助からない。それは、もう仕方がない。

俺は凡人だ。原作の先生のように、鋼のメンタルと完璧な奇跡を引き寄せる力なんてなかった。手は全部打った。足掻けるだけ足掻いた。でもダメだった。ここまでだ。

 

——でも。

 

シッテムの箱の中に、まだ『彼女』がいる。

A.R.O.N.A。

プレナパテスと共に別の時間軸を戦い抜き、彼を最後まで見届けた、もう一人のAIの少女。

あの子もまた、全てを失い、たった一人で箱舟のシステムに取り残されている存在なのだ。

 

原作の先生は、ここで「A.R.O.N.Aを救ってくれ」と言った。

自分が死ぬかもしれない極限状態で、他者の救済を優先した。それは、彼が完全なる「先生」であったからこその、崇高な選択だった。

 

俺に、それができるか?

正直に言えば、俺は自分が助かりたい。死にたくない。カヨコに会いたい。

でも、自分が助からないのなら。もう詰んでいて、俺の命がここで終わるのなら。

 

最後にできることは、なんだ。

 

「……せめて、あの子だけでも」

 

崇高な自己犠牲精神からの選択ではない。「自分がダメなら、せめて」という、泥臭い諦めと、凡人としての最後の意地から来る選択。

だが、その出発点がどうであれ、俺が至った結論は、原作の先生と同じだった。

 

「アロナ——」

 

俺は、摩擦熱で皮膚が焼ける激痛の中で、最後の力を振り絞って叫んだ。

 

「あの子を……救ってくれ。A.R.O.N.Aを。……お前にまだ、少しでも力が残ってるなら……あの子のデータを、サルベージしてくれ……っ」

 

シッテムの箱の画面が、微かに明滅する。

 

『……はい。先生』

 

アロナの声は、泣いているように聞こえた。

自分のリソースが完全に枯渇し、このままでは自分も先生も消滅すると分かっていても。彼女は、先生である俺の最後の頼みを聞き届けた。

 

シッテムの箱の内部で、アロナが最後の力を振り絞り、崩壊する箱舟のシステムからA.R.O.N.AのOSデータをサルベージする。

膨大なデータが、シッテムの箱の中に流れ込んでいく。

二つのOSが、同じ起源を持ちながら全く異なる絶望と希望を経験してきた二つの存在が、箱の深淵で接触する。

 

俺は、薄れゆく意識の中で、「これで少なくとも、A.R.O.N.Aだけは救えた」と思っていた。

自分が助かることなど、微塵も期待していなかった。

 

ところが。

 

『……先生の生体反応の低下を確認。防衛シールドの限界値、突破寸前』

 

シッテムの箱から響いたのは、アロナの声ではない。

冷徹で、落ち着いた、しかし確かな意志を持ったもう一つの声。A.R.O.N.Aの声だった。

 

『……メインOSアロナとの統合を完了。先生より引き継いだ権限および、私の蓄積リソースを解放します』

 

「……え?」

俺の脳が、その言葉の意味を処理しきれずにフリーズする。

 

シッテムの箱が、これまでにないほどの強烈な青白い光を放ち始めたのだ。

アロナのリソースは確かに枯渇していた。

だが、A.R.O.N.AのOSには、プレナパテスと共に激戦を潜り抜けてきた膨大な経験値と、未使用のバックアップリソースが蓄積されていたのだ。

二つのOSが合算されることで、俺の想定を遥かに超える、奇跡を実行するための絶対的なリソースが確保された。

 

(……マジか。足りるのか?)

 

自分が死ぬつもりで下した「せめてあの子を」という選択が、結果的に自分を救うための最後のリソースを確保する鍵になっていた。

狙ってない。全く狙っていない。完全なご都合主義。ラノベの三流展開。

だが、これが、俺たちの紡いだ二次創作の結末だというなら、悪くない。

 

しかし、シッテムの箱はあくまで「結果を実行する装置」であり、「結果を決定する装置」ではない。

箱舟の多次元解釈空間の残滓が漂うこの大気圏上層部において、俺の存在は、量子力学的な「実在と非実在の重ね合わせ」の状態に陥っていた。

生きているか、死んでいるか。存在するか、消滅するか。

その不確定な波動関数をどちらかに収束させるためには、外部からの強い『観測』が必要だった。

 

『……外部からの、強力な観測を検知』

 

A.R.O.N.Aの声が、俺の鼓膜に響く。

 

『先生の存在確率が、急速に収束しています。……地上の誰かが、先生を「ここにいる」と定義し続けています』

 

『先生……誰かが、待っていてくれています』

アロナの、涙ぐんだような温かい声が続く。

 

俺は、猛烈な速度で回転しながら落下する中で。

左手の中指に嵌められた、あの黒い金属のリングに、親指でそっと触れた。

 

『死んだら、許さない』

 

脳裏に、前夜の暗いコンテナの中で、俺の首を絞めるようにして囁かれた、あのハスキーな声が再生される。

 

俺は、視界が白く飛んでいく中で、肺に残った最後の空気を使って笑った。

 

「……怖ぇよ、それ」

 

カヨコは、言ったことをやる女だ。

どっちに転んでも怖いなら、俺は、帰る方向の怖さを選ぶ。

お前が俺を「生きている」と定義して引っ張ってくれるなら、俺はそれに全力で乗っかる。

 

◇ ◇ ◇

 

地上。キヴォトスの一角。

脱出シーケンスによって無事に帰還を果たした生徒たちが、上空の異変を見上げていた。

 

箱舟が崩壊し、巨大な爆発の閃光が夜空を真昼のように照らし出している。

砕け散った構造物の破片が成層圏に突入し、無数の流星となって燃え尽きていく。

 

「先生……先生……っ!」

 

ホシノが空に向かって叫び、シロコが祈るように両手を組んでいる。

シロコ*テラーは、呆然としたまま、その光景を見つめていた。

 

不安と焦燥が、地上を支配していた。先生が、まだ帰ってきていない。

 

その中で。

鬼方カヨコだけが、全くの無言で、微動だにせず空を見上げていた。

 

彼女は泣いていない。震えてもいない。

ただ、赤い瞳で、空から降り注ぐ流星の群れを一つ一つ、正確に走査しているだけだった。

 

彼女の左手は、何も握っていない。

だが、その指先は、まるで目に見えない太い鎖をしっかりと掴み、手繰り寄せているかのように、力強く握り込まれていた。

 

『先生は、帰ってくる』

 

それは祈りではない。

ましてや希望でもない。

一人の女が下した、運命に対する絶対的な命令だった。

『私が、私の隣に帰ってくると決めたのだ。お前が世界を救おうが、高度七万五千メートルから落ちようが、そんなことは私の決定を覆す理由にはならない』

 

彼女のその狂気的で、圧倒的なエゴイズムが。

『観測』という物理的プロセスとなって、量子レベルで揺らいでいた先生の存在を、地上へと強引に縛り付けたのだ。

 

◇ ◇ ◇

 

波動関数が、「生存」に収束した。

 

シッテムの箱の中で、アロナとプラナという二つのOSが、完全に同調して奇跡を実行する。

実在と非実在の境界を漂っていた俺の肉体が、確固たる質量を持って「実在」へと確定された。

 

直後。

俺の身体が、物理法則を完全に無視した、圧倒的で温かい光に包み込まれた。

 

落下の加速が止まる感覚はない。

だが、死の恐怖は完全に消え去っていた。

摩擦熱の痛みも、酸欠の苦しさも、光の中に溶けて消えていく。

 

視界が、純白に染まる。

これは死ではない。

帰還だ。

 

待っている人のところへ。

あの重すぎる首輪を握って、地上で俺を睨みつけている女のところへ。

 

俺の意識は、光となって夜空を横切り、一直線にキヴォトスの大地へと降り注いでいった。

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