アビドス高校。
生徒会室。
「じゃあ、よろしくお願いします。」
燈矢がそう言った瞬間。
ユメの顔がぱあっと明るくなった。
「本当!?」
「はい」
「やったー!!」
勢いよく立ち上がるユメ。
そのまま両手を握られた。
近い。
近い近い。
「ありがとう燈矢くん!」
「いや、別に……」
むしろ助かるのは俺の方だ。
住む場所もある。
飯もある。
人もいる。
今の俺にとっては破格の条件だった。
そんな二人を見ながら、ホシノは深いため息を吐いた。
「はぁ……」
いかにも頭が痛そうな顔だった。
「どうした?」
「どうしたじゃありません」
ホシノは鋭い視線を向けてくる。
この頃のホシノは後のホシノよりずっと表情が出る。
そして目付きも鋭い。
まるで野良猫だ。
「素性も分からない人を入学させるなんて普通はありえません」
「まぁそうだな」
「認めるんですね」
「だって事実だし」
燈矢が肩を竦める。
するとホシノは少しだけ眉をひそめた。
反論されると思ったのだろう。
「でもよ」
「?」
「怪しい奴なのは自分でも分かってる」
「……」
「だから信用されなくても仕方ねぇよ」
その言葉にホシノは少しだけ黙った。
意外だった。
もっと言い返してくると思っていた。
ユメはそんな空気を吹き飛ばすように笑う。
「大丈夫だよ!」
「根拠は?」
「なんとなく!」
「一番怖い答え来たな」
「えへへ」
笑って誤魔化している。
やっぱりこの人はアクセル担当だ。
絶対にそうだ。
そんなことを考えていると。
――ドォォォン!!
突然。
校舎全体が揺れた。
窓ガラスが震える。
燈矢は思わず振り返った。
「何だ!?」
ユメの顔色が変わる。
ホシノも即座に立ち上がった。
「またですか……!」
窓へ走る。
外を見た瞬間。
ホシノが舌打ちした。
「ヘルメット団です」
「ヘルメット団?」
燈矢も窓から覗き込む。
校門付近。
ヘルメットを被った少女達が大勢いた。
銃を持っている。
そして。
普通に発砲していた。
ババババババッ!!
「うおっ!?」
思わず後ろに下がる。
何だあれ。
世紀末か?
いやブルアカだったわ。
知ってた。
「ユメ先輩はここにいてください」
ホシノはショットガンを担ぐ。
その姿はさっきまでの少女とは別人だった。
目付きが変わる。
鋭い。
真っ直ぐ敵を見据えている。
「ホシノちゃん気を付けてね!」
「大丈夫です」
そして。
ホシノは窓枠に足を掛けた。
「え?」
燈矢が固まる。
ここ三階だぞ?
ホシノは振り返った。
「燈矢さん」
「ん?」
「絶対について来ないでください」
真剣な声だった。
「危険です」
「いやでも」
「ヘイローも無いんでしょう?」
ホシノは少しだけ眉を下げた。
「死んじゃいますよ」
その言葉を残して。
ヒョイッ。
飛んだ。
「うおおおお!?」
燈矢が叫ぶ。
だがホシノは華麗に着地する。
無傷。
意味が分からない。
「マジかよ……」
ユメは慣れた様子だった。
「ホシノちゃん凄いでしょ?」
「いや凄いとかの次元じゃねぇ」
その時だった。
グラウンドで銃声が響く。
ババババッ!!
ホシノが走る。
速い。
とにかく速い。
敵の弾幕を掻い潜りながら接近する。
そして。
パンッ!
パンッ!
パンッ!
正確な射撃。
ヘルメット団が次々倒れていく。
「強っ」
思わず声が漏れた。
ホシノ一人で無双している。
だが。
燈矢は気付いた。
一人だけ。
倒れていない奴がいる。
グラウンドの端。
瓦礫の陰。
気絶したフリをしている。
そして。
ホシノの背後へ銃口を向けた。
「……あ」
まずい。
あれはまずい。
ホシノも気付いていない。
燈矢は辺りを見回す。
近くに置いてあった訓練用の拳銃。
たぶん予備だ。
手に取る。
ユメが目を丸くした。
「燈矢くん?」
「ユメ先輩」
「?」
「俺が当てたらジュース一本」
「え?」
「外したら俺の負け」
「今それやる!?」
やる。
なぜなら。
ホシノが危ないからだ。
燈矢は銃を構えた。
深呼吸。
狙う。
そして。
引き金を引いた。
パンッ!!
銃声。
次の瞬間。
背後から狙っていたヘルメット団員が倒れた。
「よし」
燈矢が拳を握る。
ユメは口を開けていた。
「当たったぁ!?」
グラウンド。
ホシノが振り返る。
倒れる敵。
そして。
窓から拳銃を構える燈矢。
目が合った。
燈矢は親指を立てる。
ホシノは数秒固まった後。
小さく息を吐いた。
「……」
そして。
ほんの少しだけ。
口元が緩んだ。
その後。
戦闘は数分で終わった。
ヘルメット団は撤退。
グラウンドには静寂が戻る。
◇
生徒会室。
ホシノは椅子に座るなり言った。
「なんで来たんですか」
怒っている。
ちょっとだけ。
燈矢は肩を竦めた。
「ホシノが危なかったから」
「私は大丈夫でした」
「いや撃たれそうだったぞ」
「避けられました」
即答だった。
自信満々である。
たぶん本当に避けられたんだろう。
怖い。
「それでも見捨てられねぇだろ」
燈矢がそう言うと。
ホシノは黙った。
少しだけ視線を逸らす。
「……」
沈黙。
数秒後。
「変な人ですね」
ぼそりと言った。
「よく言われる」
燈矢が笑う。
するとユメが嬉しそうに言った。
「仲良くなったね!」
「なってません」
即答。
だが。
ホシノの声はさっきより少しだけ柔らかかった。
燈矢は気付かなかったが。
ユメはちゃんと気付いていた。
ホシノが燈矢を見る目が。
最初より少しだけ。
優しくなっていたことに。