かな「………ふう!はい、今日はありがとう御座いました。『空き家の子供(渦人形・ひょうせ)』をお送りしました。次回は『禁后(パンドラ)』『姦姦蛇螺』『ジンカン』をお送りします。どれも田舎の風習ものだから、お楽しみに」
かなは怪談朗読を終えた。汗を拭いながら、スマホの配信を切る。コメント欄はかなの演技力と怖さ、そして物語へのツッコミの上手さを称賛する声で溢れかえっていた。
今回の話は、とある空き家に出現した日本人形の呪物に遭遇した主人公達が、何処までも追い掛けて『ホホホ……』と笑う呪物相手に闘い続ける話だった。因みにひょうせとタイトルに出てる理由は、この話に出てくる怪異の正体が『ひょうせ』という妖怪の仕業と思われてたからだ。しかし、正体は首が伸びる正体不明の呪物。最終的には呪いの影響故か感情的になった主人公が蝋燭で燃やした事で、呪物は動かなくなって事件は一応解決した。最も、人形の正体は現在も不明だが。
かな「……怪談にホラゲー実況。これだけでも充分かもしれないけど、次は何処か場所を変えてみましょうか?」
かなは立ち上がった後に冷蔵庫へ向かい、ヨーグルトを取り出した後にコップへ移し、飲み始める。
かな「……事故物件、引っ越せないかしら?旅行感覚で泊まる位なら出来た筈よね?でも………アイツの同伴は嫌なのよね」
母親の事だ。前世の記憶を思い出した以上、もう関わりたくもないと思っていた。仕送りはしてくるが、最低限しかない。
かな「まあそれは、コラボで入れてもらえる位でいいわよね。高校卒業位しないと許可貰えないだろうし、それまで怪談朗読してけばいいか」
かなは映像を編集し、動画を投稿。今回の洒落怖朗読も、かなりの再生数を記録した。
かな「この黒布も良いけど、やっぱり怪談朗読の場所に相応しい感じにしたいわよね………お札でも貼ろうかしら」
変に結界らしく貼る必要はない。大量に貼った方がそれらしいだろう。また、注連縄と神棚も購入した方が良いだろうが、札の方が安くて済むだろう。先ずは札を可能な限り購入すべきだ。
かな「よし、休日に札を買いに行きましょうか」
こうしてかなは、後日の配信で部屋の黒布に大量の札を貼った光景を背景にした事で、視聴者を驚愕させる。模様替えもした事でより怖がる視聴者も増えていき、チャンネル登録者と視聴率も上昇。そしてかなの演技力も相まって、今回の怪談朗読も無事に成功した。
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怪談朗読、ホラゲー実況を開始してから実に数ヶ月が経過した。原作の舞台になる陽東高校入学を迎え、芸能科に所属したその年の春頃。
有馬かなは、現在はフリーの女優として活動している。今までの彼女は、受けの演技を得意としていた。配信活動中にも、女優として仕事を受ける日が来る。
怪談やホラー実況を続けて来たかなだが、それがホラー関係の業界関係者の目に留まった事で、かなは事務所でオーディションの話を持ちかけられる。
スタッフ「かなさん。ホラー映画の撮影オーディションを受けてみませんか?」
かな「ホラー?私が?」
スタッフ「はい。こちらが台本になります」
スタッフが用意した台本を受け取り、読んでいく内にかなは気づいた。
相手の演技を受けるのにピッタリな役だ。これは、かながこれまでして来た相手を見て反応する演技が、この台本ではそのまま恐怖表現になる。
とはいえ、通過点にはなるだろう。かなはそう考えて、オーディションを受ける事にした。
そして、オーディションの日。ホラー俳優希望の若手役者達が多く集まっていた。かなもその一人だ。
では様々な若手の女優が演じていく中、かなの出番が来た。
かなは、撮影の中で怖がる演技をしてみた。するとカットが入り、監督からこんなアドバイスが来た。
監督「有馬さん。怖がらなくていいよ。今の状況を理解しようとして」
そう言われた。かなはそこで、「あ、これ……私の得意分野じゃん」と気付く。
ホラーにおける恐怖は、必ずしも大声で叫ぶことじゃない。
「何か変だ」
「でも、何が変なのか分からない」
「目の前の人間を信用していいのか?」
という相手への反応が重要になる。
つまり、かなの「受けの演技」がものすごく噛み合う。かなはそれを理解した後、叫ばずとも疑念を抱くような演技を披露し始めた。
演技が一通り終わると、オーディション参加者一人一人の演技が映像として流され、最後に評価がくだる。
一人一人の映像を観ていく中で、大半の演技が大声で叫びながら怖がる演技をする中で、かなの映像だけはかなり異質だった。
何かをして、理解しようとしている少女。
それが、かなの演技でより鮮明に引き出されていた。それは映像を観てるかな自身も驚いていた。
監督「これを見る限り、有馬さんは下手に怖がるよりずっと良いよ」
かな「えっ?」
監督「大半の若手役者は、大きな声を出して怖がる事がホラーの本質と思ってるからね。でも、僕は違うと思うんだ。ホラーは何をすれば良いのか分からないまま、途方に暮れる人間を演じる方がよほど怖いと思うよ」
かな「あ、ありがとう御座います……」
それは、かなにとってこれまでの努力が認められた言葉のように聴こえた。自分の研ぎ澄まして来た武器が、ホラーというジャンルにも通用する事が判明したのだ。
かな(認められた………まあ、悪くないわね)
かなはその言葉を受け止めた。自分の演技が本気で認められた、初めての出来事だった。
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後日に行われる合格発表を待つ為に自宅へ戻り、怪談朗読配信に戻る。そして、予告した姦姦蛇螺、ジンカン、そして禁后(パンドラ)の話だ。
姦姦蛇螺の話は、不良グループの三人が肝試しで姦姦蛇螺の封じられた領域へ足を踏み入れて、其処で姦姦蛇螺に遭遇する話だ。
ジンカンは、ジンカンという怪物への対処法を行ったがジンカンを退治出来ず、ジンカンの倒し方を記している神社へ赴いたらという話
かな「…………はい。禁后(パンドラ)、お送りしました。以上で今回の怪談朗読を終わりにします」
かなは朗読を終えて、近くにあるペットボトルの水を飲む。すると、コメントの中である文章が流れ始めた。
『かなちゃん、フリーで女優してるんでしょ?ホラー映画とか出ないの?』
かな「……そうね。出たい………出たいわ。ホラー映画のオーディションを受けたんだけど……其処で受けが良かったのよ。だから………私ってホラーもイケるんじゃないかって」
するとコメント欄、『かなちゃんマジ推す!』『かなちゃん悲鳴楽しみでごわす!』『オッスオッス!』といったコメントが相次いだ。
かな「まだ合格してないから!でも………初めはまあやってみるかのノリだったけど……ホラー、好きかもしれない」
自分とホラーの相性が此処まで良いとは、思いもしなかったのだ。
かな「あっ、次回の怪談は『笑い女』と『遺言ビデオ』、それからマイナーだけど『光の誓い』という話もやるわよ。笑い女と遺言ビデオは皆もそれなりに知ってるでしょうけど、光の誓いは知る人ぞ知るって感じの話ね」
笑い女は、要するに近所でも有名な常に笑い続けてる女に酔った勢いで絡んだ主人公の友人が、両耳にペンを突き刺して自死するまでの話である。
遺言ビデオは、要するに遺言のビデオを残した友人の遺言映像が、恐ろしい事になっていたという話である。
そして、光の誓いという話は要するに、主人公が幼稚園で体験した不気味な先生と共に変な遠足と其処で歌った歌『光の誓い』というについての話だ。謎の残る話である事は間違いないだろう。
かな「次の配信でこの三つを朗読します。では、今日は此処までにします」
すると、コメント欄にあるコメントが流れたのを目撃した。
『かなちゃんって、テーマソング歌ったりしないの?』
そのコメントを見た時、かなの中で様々な思いが生まれてきた。
かな「……テーマソング、ね。そういえば……ホラー作品って、怖い話なのに、最後に流れる歌は意外と前向きだったりするのよね。学校の怪談とか、怪談レストランとか……そういうの、結構好きだった気がする。……うん。私、歌ってみたいかも」
かなの言葉に、コメント欄も『それがいい!』『聴いてみたい!』というコメントが出て来た。
かな「ホラーだからって、ずっと怖いままじゃなくてもいいものね。怖い話を見た後に、ちょっとだけ元気になれるような歌……そういうのなら、歌ってみたいわ」
ホラー映画に出られそうで、そしてユーチューブチャンネルのテーマソングも考える機会を得た。
かな「まっ、考えておくわ。じゃあ、今日は此処までね」
かなは配信を切る。ちゃんと切れてるかどうかも確認した後、パソコンを閉じて深く息を吐いてその場に寝転んだ。
時刻は午後23時。かなり長く怪談を続けていたのだと分かり、入浴を済ませた後にすぐ眠りに入った有馬かなであった。
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翌日。朝食を済ませたかなは、自宅でスマホを眺めながらソファーに座っていた。オーディションから数日。結果は今日届くと言われている。
かな「…………」
何度目か分からない確認。
メールは来ていない。
かな「……落ちたら落ちたで、まあ仕方ないけど」
そう呟きながらも、明らかに落ち着かない。
すると――。
ピコンッと、スマホが鳴った。
かな「!」
反射的に画面を見る。
そこには、先日のホラー映画オーディションを行った会社からのメール。
かな「…………」
一度、深呼吸。
そしてメールを開く。
かな「……」
数秒後。
かな「…………え?」
目を見開く。もう一度読む。
そして――
かな「……合格……?」
思わずスマホを握り直す。
かな「……私、受かったの?」
その瞬間、胸の奥からじわじわと喜びが込み上げてくる。
かな「…………っ」
そして、少しだけ笑った。
かな「……やった」
女優として仕事を勝ち取った。
それだけでも嬉しい。
けれど、今回の仕事は今までとは違う。
かな「……ホラー映画、か」
怪談朗読。ホラー実況。そして今度は、自分自身がホラー作品の中に入る。
かな「……ふふ」
自然と笑みが浮かぶ。
かな「本当に出るんだ、私」
そして数秒後。
かな「……っていうか、待って」
急に現実に戻る。
かな「私、どんな役なのよ?」
合格通知には、役名と簡単な役柄も記載されている。
かなはそこを読む。
かな「…………」
目を通していく。
かな「……なるほど」
かなの表情が、女優のものへ変わる。
かな「……面白そうじゃない」
かなは笑う。自分にピッタリの役だ。
かなはこれからの事を思いながら、登校の準備を進めるのだった。
―――――――――――――――――――――――
そして、撮影の仕事の日が来た。学校にも仕事の説明を予め伝えており、担任教師からも『頑張って来い』と励まされた。流石は芸能科の教師である。
今回演じていくホラー映画は、監督や脚本家、原作を作った作家の三人で協力して日本ホラーに一石を投じる作品であり、いつまでも怪異に人間が負けるだけにしたくない思いから考えたらしい。
かな(これ、『サユリ』じゃない?タイトルは違うけど、内容は大方似てるわね)
但し少しだけだが違う所もある。途中から覚醒する高齢者は、認知症というより物忘れをよくする祖母で、おおらかでいつも笑ってるおばあちゃんという設定だ。
かなが演じるのは、競売で買った一軒家に引っ越してきた『大野家』の次女で、霊感のある長女に振り回される妹役だ。
撮影スタッフ「それでは、撮影を始めます」
そして、撮影が始まった。映画の撮影のメインとなるシーンの撮影から始まり、其処からメインのシーンが際立つように日常のシーンをより鮮明に撮影していく。
かなは怪異に振り回されて、何をすればいいか分からない恐怖に苛まれていた。長女の霊感に振り回されて、怪異に出会って、精神が追い込まれていく。
しかし、物忘れでおおらかで笑ってる祖母が覚醒し、怪異の原因である霊を倒そうと奮起しだす所で、かなはこれまで受け側だった演技から突然押せ押せと言わんばかりの演技力を見せた。
祖母「怖いものはね、怖いままにしておくから怖いんだよ!私達は立ち向かわなくちゃいけないんだ!!行くよ!!」
長女「おばあちゃん………分かったよ!!もう私、逃げるだけなんて嫌!!」
そして、かなも続いた。アドリブではあるが、かなもそれに続けて強い言葉を放つ。
次女(かな)「…………当たり前よ!!」
こうして、覚醒した祖母に続くように長女と次女が奮起し、怪異を起こす幽霊が彼女達の生命力に圧倒される事になるのだった。
そして、撮影が終了。かなはタオルで顔を拭いて水を飲むと、監督から拍手が送られた。
監督「いやー、有馬さん凄いよ!!まさかアドリブを入れてくるとは思わなかったけど、有馬さん受けの演技が最大の武器だと思ってたけど、攻める演技も自然に出来るんだね!」
かな「……」
監督「どうしたの?」
かな「……私、そんな演技してました?」
かな自身も信じられなかった。あの時のアドリブは完全に無意識だった。
監督「してたよ。しかも凄く自然に」
かな「…………」
かなは自分の手を見る。
かな(……そういえば……私、怖かったはずなのよね。なのに、あのおばあちゃんが『行くよ!』って言った瞬間……『当たり前』って、勝手に口から出た)
かな「……変なの」
監督「?」
かな「私、ホラーってもっと『怖がる演技』をするものだと思ってたんですけど」
監督「うん」
かな「……こういうのも、あるんですね」
すると、監督が頷きながら答えた。
監督「だから面白いんだよ。怖がるだけじゃ、最後まで怪異の話になる。でも人間が立ち向かえば、人間の話になる」
前世で観たサユリというホラー映画によく似た作品。しかし、演じてみてすごく楽しかった。登場人物を演じ切り、しかも楽しいと思える自分も居る。
ホラーは通過点の筈だった。しかし、自分に合うと思えるようになった。
かな「また、こういうのをやってみたいわ」
かなは楽屋で天井を見つめるように座敷で寝転び、自分の思いを吐露した。
その後、撮影が終わった映画は日本ホラーに一石を投じる作品として、またたく間に大ヒット。かなの何かに気付いた演技も、怖がる演技も、そして途中から奮起するシーンも話題になったのであった。
因みに、物忘れの祖母が一番話題になったのは、言うまでもない。