時は流れ、有馬かながホラー映画で成功を収めた日から、半年が経過した。前世の記憶を思い出したかなからすれば、あっという間に過ぎたと感じる時間。
芸能科という事もあって、芸能活動をする生徒として活躍し続けるかなは、陽東高校でも有名な配信者兼ホラー女優として知名度を獲得。
グラビア女優の先輩「有馬さん!この前の『光の誓い』、すっごく面白かったよ!」
若手男優の先輩「有馬さん、映画凄かったぜ!」
かな「あ、ありがとう御座います……」
先輩達から褒められて、かなは嬉しい反面恥ずかしく思っていた。
かな(確定申告は面倒だったけどなんとか調べて自分で出来たわね……高校生なのにかなりの税金取られたけど、貯金はやっぱり良いわね)
それは複雑になるので置いておくとして、かなはあれ以来様々な女優としての仕事が入るようになり、元天才子役という事もあり、一躍有名になった。中でもホラーは喜んで引き受けており、怪談配信者兼ホラー女優として成長し続けているのだ。
かな(そう言えば……)
かなは、活動する中で一人の女を気にかけていた。
かな(黒川あかね……彼奴、どうしてるのかしら?原作だと、私のライバルであり、アンチであり、ファンなんていう属性てんこ盛りな女だったわね。この時期だと接触は無かった訳だし、今も接触してないのよね。今頃どうしてんのかしら?)
かなが気に掛けたのは、黒川あかねの事だ。これだけ活動してるなら、寧ろ一声掛けてくる筈なのだ。
にも関わらず、公開記念の握手会や舞台挨拶にも来なかったし、配信のコメントにもあかねが書きそうなコメントも見当たらない(自力で探した)。
子供の頃から交流はあったが、かなが中学に上がってからはそれっきりだ。
かな「………まっ、接触してこないならいいか。テーマソングとオリジナルホラーの執筆でもやるか」
かなは現在、チャンネルのテーマソングの作成と、オリジナルホラーの執筆や編集も行っている。
雨穴の活度を参考にして、かなはホラー小説も執筆しているのだ。
この世界に雨穴はまだ居ない。かと言って同じストーリーにするつもりはない。ならば、自分なりのオリジナルホラーを作るまでだ。あくまで参考にするだけである。
かな(学校終わったら、始めますか)
放課後、スーパーでリアリティゴールド(この世界のリアルゴールド)を買い込み、テーマソングとホラー小説の作成に取り掛かるかなであった。
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遡る事、半年前。
かな『……以上、『光の誓い』でした。大体、U先生の名前が『うでちぎり』って何よ………光の誓いって歌も、木に藁人形を打ち込む遊びも……明らかに儀式的じゃない』
部屋の中で、一人の少女がテレビでユーチューブを見ていた。それは、有馬かなの怪談配信である。今回の怪談は、『光の誓い』というタイトルの怪談であった。
黒川あかね「かなちゃん……怪談上手くなったね……演技力が良いだけじゃなくて、登場人物の話し方までしっかり再現しているなんて………」
黒川あかねだ。彼女はかなの怪談配信を、常日頃から観ていた。勿論、かなが出演したホラー映画も観た。
あかね「あの映画で、かなちゃんの『当たり前よ!』と聞いた時………凄いと思ったし……悔しいと思ったよ……」
あかねがそう思うようになった。それも、全てはかなが中学2年の頃にまで遡る。
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その時、あかねはユーチューブをたまたま開いた時に、とある配信準備中の動画を見かけた。
あかね「なにこれ?『闇落ちした子役の怪談奇譚:八尺様』?」
八尺様は、あかねも把握してる有名なネットの洒落怖怪談だ。
幸いにも、配信はすぐに始まった。
かな『……始めまして。久し振りの人は久し振りです。元子役で現在はフリーで活動してる元子役です。今日から怪談やオカルト、ホラーへ活動を方向転換するわ。そして今日は、洒落怖の怪談を読み聞かせします。タイトルは、『八尺様』』
あかね「えっ!?か、かなちゃん?」
あかねは困惑した。その声は、あかねにとって一番聞き慣れている声だったからだ。
あかね「……いやいや、まさか。でも……芸能界に返り咲こうとしてるのかな?」
その為の話題作りだろうと思っていた。
しかし、かなが怪談を始めた途端に、雰囲気が変わり出す。
声が変わる。
間が変わる。
登場人物によって喋り方が変わる。
そして怪異が迫ってくる場面では、わざと声を張らず、静かに読む。
あかねは途中から黙る。
あかね「………………上手い」
ここで初めて、「これ、かなちゃんが好きでやってるんだ」と感じるあかね。
そして、八尺様の怪談が終わり、次に『パンデミック』の話に入る。
かな『………それでは次に、『パンデミック』というお話を。とある村で起こった、土地の国津神様でも退治できず、半径数十キロにわたって周辺の村や陸軍基地までも積極的に襲って被害を拡大し、正体を突き止めようにも歴史が断絶して解明不可能で、現代に至るまで未解決な物語です』
かながあらすじを紹介した後、怪談を始める。物音は擬音で再現してる所がまた怪談っぽく、あかねも聞き入っていた。あかねの知らない洒落怖だったが、それでもストーリーは聞き入って耳が心地良かった。
パンデミックの物語は掻い摘むと、文明開化の時代に祟りを迷信と捉えた若者達が古いお寺に封印された勾玉を公開し、それが切っ掛けとなって村だけでなく隣村にまで怪異が及んだ。それで住職が国津神様の力を使って怪異を起こす『ナニか』の封印に成功。しかし、それから現代の時期にその勾玉が外国人であろう窃盗団に盗まれてしまい、今は何処にあるのか分からなくなった。そんな感じの怪談だ。
つまり、この話に出てくるナニかの正体も分からずじまい、陸軍基地や隣村にまで及んだ怪異は、神様でも退治出来ないという危険な怪異の未解決物語だ。かなは子役時代の経験も活かして、怪談話を読み上げていく。
あかね(最近物騒だからね。窃盗団にそんな特級呪物を盗んでもらって、寧ろナニかがもし海外に出ていったなら良い気がするけど……)
かな『今日は此処までとします。本日の怪談は………『八尺様』、『パンデミック』でお送りしました』
あかねはかなの配信を、いつの間にか聴き終えていた。見終わっていたという言い方の方が正しいだろうが、あかねはかなの怪談に聴き惚れていた。
あかね「かなちゃん凄い……」
そして、配信が終了したと思われた、その時だった。
画面のかなは画面にタッチした後、黒いフードを脱いで息を吐く。そして、ポカリスエットを飲み始めるかな。
あかね「……えっ?」
あかねは口が塞がらなくなる。
かなは画面上で、ポカリスエットを飲んで気付いてない。
かな『ふぅ…………ん?あっ、ヤバッ!』
かなはポカリスエットを飲んだ後、画面の方を向いて配信が切れてない事に気が付き、急ぎで画面に手を伸ばし、配信を切った。
コメント欄では、『今の有馬かな!?』といったコメントが数多く出ている。
しかし、あかねは気付いていた。
あかね「………かなちゃん……わざとだ」
有馬かなが、この様なミスをするなんて有り得ない。ましてや、あれだけの演技力をする子が、今さら配信の切り忘れや顔出しなんてミスをするのだろうか。
あかねは数分後にチャンネルを確認すると、チャンネル名が『有馬かなの怪奇譚』に変換されていた。
つまり、分かる人には分かるのだ。一連の流れは、有馬かなの計算された行動なのだと。
あかね「……かなちゃん。やっぱり、役者なんだね」
これが、黒川あかねの、かなの配信を初めて見た時の様子である。
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それからというもの、黒川あかねは有馬かなの配信は、可能な限り見た。どうしても観れない時はアーカイブで見た。メンバーシップにも勿論登録したし、CMの邪魔が入らないようプレミアムにも加入済み。
かな『以上が『光の誓い』となります。皆はどうだったかしら?U先生、ホントに何者だったと思う?』
あかねもまた、配信で怪談を聞き入っていた。怪談をする時、かなには二つのパターンがある。一つは、演技しながら普通に怪談を語る事。もう一つは、怪談の要所要所でツッコミを入れる事。
何気にあかねが好きなのは、要所要所でツッコミを入れるパターンだった。勿論怪談の腕前は益々上がっており、あかねも物語の方に強く聞き入るようになる。
かな『それと、私からある事を告知します。私さ、それなりに洒落怖を中心に怪談配信をしてきたわよね?それで考えたんだけど、私が独自に考えたホラーを動画の方で、そして小説も執筆したいと思います。動画版と小説版で見せ方は違いますけど、どちらも同じ話なので』
あかね「えっ!?かなちゃんのオリジナルホラー!?」
あかねは部屋で食い付いた。あかねだけでなく、コメント欄にもそれを期待する声が多い。
『え!?オリジナル!?』
『待ってました』
『かなちゃんの怪談、めちゃくちゃ好きだから楽しみ』
『小説も!?』
『絶対読む』
『今まで洒落怖中心だったからこれは楽しみ』
『かなちゃん自身が考えた怖い話ってどんなのだろ』
『ツッコミありのホラー期待してます』
かな『……いや、アンタ達は私をなんだと思ってんのよ。ちゃんと作りますから、ツッコミは期待しないでください。まあ、入れるかも』
あかね(これは演技者として興味があるだけ……これは演技者として興味があるだけ……あるだけあるだけあるだけあるだけあるだけあるだけ…………)
あかね「よっし!よっし!」
あかね、物凄く楽しみにしていた。
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かなはフリーで女優として活躍しつつ、訪れた事務所で女性の臨時マネージャーと話をしていた。
臨時マネ「オリジナルホラーと聞いたけど、こっちが動画版でこっちが小説版ね」
臨時マネが見てるのは、動画版に編集された有馬かなのオリジナルホラーである。どうもホラーというより、最近何かと話題の怪異についての報告書みたいな内容であった。
かな「はい。非公式記録と私が独自に考えた怪異専門の対策組織、内閣への通達とか、その他諸々調べて………その土地の信仰や妖怪伝説、風習とかも調べて参考にしました」
臨時マネ「ホントに動画版だけでも上手く伝わってくるわ。それに、小説版は小説版で、報告書とは別に組織に属する部隊の隊員視点から、というのも良いわね」
因みに、これが動画の一部である。因みに、報告書はかな自身が淡々と読み上げている。
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タイトル:『【非公式記録:第001号】██県██村「夜に歩くな」と言われる理由』
画面は真っ黒。小さな白文字だけが出る。
非公式記録:第001号
本記録は公的機関によって公開されたものではありません。閲覧には注意してください。
注意事項
・本記録には失踪者の情報が含まれます。
・一部、現地住民への聞き取り内容を含みます。
・記録内容には現在も真偽が確認されていない情報があります。
・本件に関する██村への無断接触を禁止します。
【記録概要】
画面に資料が出る。
収蔵番号:██-001
管理符号:K-██-██
件名:██村における夜間行方不明事案
判定:要監視
対処:██県警・内閣官房██対策室による共同調査
概要
██県██郡██村において、過去██年間で██名の住民が行方不明となっている。
共通しているのは、全員が失踪前夜に「村の外れにある██道」を徒歩で移動していたことである。
【2007年11月18日 午前2時17分】
画面には日付。
そして古い防犯カメラ。
村の夜道。
誰もいない。
ナレーションが出る。
かな『最初の記録は、2007年11月18日です』
一人の男性が歩いている。
普通に歩いている。
しかし途中で、何かに気付いたように立ち止まる。
振り返る。
何もいない。
そしてまた歩く。
画面が暗転。
翌朝、男性は自宅に戻っていませんでした。
調査員が村人に聞き取りをする。
村人A:
「ああ……あの道なら、夜は歩かない方がいい」
調査員:
「なぜですか?」
村人A:
「昔からそういう決まりだから」
調査員:
「誰が決めたんですか?」
村人A:
「……昔からだよ」
さらに別の老人に聞くと、「夜の道を歩くと、後ろから名前を呼ばれる」という話が出る。
しかし別の住民は、「名前を呼ばれるんじゃない」と言う。
調査員:
「では?」
住民:
「…………帰れ、と言われる」
村には古い神社がある。
そこに、「夜間、参道を通行してはならない」という古い石碑。
ところが村人に聞くと、「あそこは神社じゃない」と言われる。
調査員:
「では何ですか?」
村人:
「……昔の人が、そう呼んでいただけだ」
何なのか誰も説明しない。
内閣官房██対策室 内部報告
調査結果:
行方不明者██名
死体未発見
村外への逃走記録なし
防犯カメラ映像に複数の欠損
村民の証言に共通した記憶改変の疑い
古文書と現在の風習に一致点あり
そして最後に、
判定:通常の失踪事件ではない可能性が高い。
【調査】
調査員が夜の村に入る。
午前2時。
録音機に、
「……帰れ」
という声。
調査員:
「今、誰かいましたか?」
同行者:
「……いや」
そして録音を再生すると、
調査員本人の声で「帰れ」と言っている。
でも本人は言っていない。
さらに恐ろしいのが、
翌日の記録。
調査員:
「昨日の夜、何かありましたか?」
同行者:
「何もありませんでしたよ」
調査員:
「……そうですか」
視聴者には録音が残っている。
でも登場人物の記憶から、その出来事だけが消えている。
【対処】
ここで対策組織が動く。
村の夜間通行を禁止。
神社周辺を封鎖。
村人にも事情を説明。
そして、古文書から判明した対処法。
「夜道を歩く場合、後ろから名前を呼ばれても振り返ってはならない」
調査員が言う。
「では、呼ばれなければ問題ないんですね?」
老人:
「……違う。呼ばれた方が、まだいい」
……ここで終わる。
【事情聴取】
事件収束後。
村人への最後の聞き取り。
調査員:
「今回の件について、何か知っていることはありませんか?」
老人:
「……昔から、この村では夜に外へ出ちゃいけないんだ」
調査員:
「それは何故ですか?」
老人:
「外から来るものに、見つかるからだ」
調査員:
「外から来るもの?」
老人:
「……村の外にいるものじゃない」
ここで老人が調査員を見る。
「村の中にいるものだよ」
【まとめ】
かな「以上が、非公式記録第001号の内容です」
かな「現在、この村への立ち入りは制限されています」
かな「行方不明者については、現在も発見されていません」
かな「また、調査に参加した職員の一部には、事件当時の記憶に欠落が確認されています」
【記録終了】
追記:第001号に関係する行方不明者が、昨日██市で確認された。
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かなのオリジナルホラーは、これまでの怪談を読むだけとは異なり、SCP財団らしさも兼ね備えた不気味さとどうなったのか分からない未知への恐怖も相まって、瞬く間に再生された。
コメント欄も、
『第002号まだ?』
『これ創作だよね?』
『創作って言ってくれ』
『最後の追記何???』
『かなちゃん怖すぎる』
みたいな大騒ぎになった。
あかね「これを、かなちゃんが?」
あかねはその動画を見ていたが、あまりにも完成度が高い。演じるとか、怪談と共に物語を進めるなんてものではない。
あかね「凄い…………」
あかねは、かなのレベルアップを感じていた。
あかね「負けられない!」
だからこそ、ライバル意識が燃えた。
それ以降、あかねはこれまでの真面目ぶりを残しつつ、より強く演技に力を入れた。劇団ララライに属する彼女の演技はより一層強くなり、若手女優としての頭角を表しつつあった。
そして、有馬かなが2年になる4月。陽東高校に、アクアとルビーが入学する。