(完全版)リュカとビアンカ、息子に愛を語る。 作:アロンの杖
「ねえ父さん、母さん。“愛”ってなに?」
「・・・・・?」
「どうしたんだ?ティミー。いきなりそんな事を聞いて来るなんて・・・」
ある夏の日の昼下がり。
王城の近くの高台にある木陰に寝そべって休んでいたリュカの元に、まずは愛妻王妃であるビアンカが歩み寄り、彼に撓垂れ掛かるようにして自らも甘い匂いのする肢体を横に添わせたその後で、暫く経ってから彼等の息子で第一王子であるティムアルがやって来た。
16歳になった彼は“恋”や“愛”、そして“性”にも目覚めておりその手の話題に興味津々である。
「みんなさ?恋人同士とか夫婦の間でよく“愛してる”って言うけれど。でもよく考えたなら“愛”ってなんだかよく解らないんだよね・・・」
「“愛”ってね、感じるモノなのよ?ティミー・・・」
そう言って訝しがる息子に対してまずは、夫の逞しい肉体に上からもたれ掛かりながらもビアンカが口を開いた。
「あなたには無いの?その人の事を思うといても立ってもいられなくなってしまう程の衝動って言うのかな?自分で自分が抑えられない程の旨の高鳴りを覚えた事が・・・」
「えっ、えっ?うう~ん・・・」
「その人の為だったら自分なんて顧みないでも良いと思える程の激情って言うのかな?とにかく凄い確かで真っ直ぐなモノなんだよね、愛って・・・」
「そうだね・・・」
愛妻の肩を抱き寄せ、高貴なバラの花糖蜜のように透き通る甘さのする彼女の体臭を肺いっぱいに吸い込みながらリュカもビアンカの言葉に同意した。
「例え己を差し置いてでもその人に尽くそうとする凄絶さ、それが感じられていれば“愛とは何か”がより解りやすくなると思うんだけど・・・」
そう言って青年国王が愛妻王妃のおでこに口付けをすると、ビアンカは“あんっ♪♪♪”と嬉しそうに短く呻いて切な気な眼差しを夫に向けた。
「今の若い人って言うのはさ?愛を自分の情欲の捌け口にしてるって言うか・・・。どうしてもセックスと結び付けて考える、だからおかしな事になっちゃうんだよね・・・」
「・・・愛ってセックスをする事では無いの?父さん」
「セックスは確かに“最高の愛情表現の一つ”ではあるけれど、“愛”そのものでは無いからね。まあ強いて言うなら?“お互いの愛情を確認し合う為の最良のコミュニケーション手段”とでも言えば良いのかな?ザックリと言ってしまえばそんな感じなんだけど・・・」
「・・・・・」
「まあ、それはともかくとして・・・。愛にはね、ティミー。実は3段階があるんだよ・・・?」
「・・・・・?」
「3段階・・・?」
愛妻王妃の語り口を受け継ぐ形で青年国王が愛息に声を掛けた。
「まず第1段階が相手を認めて許すこと、第2段階が相手に無償の奉仕をすること。で、第3段階が相手の為に祈る事だよ?」
「・・・祈る?」
「そうだ。特にね?その人の救済と幸せを祈ってあげる事が大切なんだ・・・」
そう言うとリュカはビアンカのハチミツ色をした長い頭髪を撫でながら、彼女のおでこにキスをする。
「可愛い、ビアンカ・・・」
「あんっ❤もうっ、あなたったら・・・っ!!!」
それに対してビアンカは少しも嫌がらずに、むしろ嬉しそうな表情を浮かべたまま甘い声を発して彼に肢体を押し付けた。
「・・・・・」
(まったくもう、なんなんだよ父さん。って言うか母さんも、イチャイチャするなら人のいない場所でしてもらいたいよな・・・!!!)
「ねえティミー・・・」
ティムアルが気まずそうに、かつ照れ臭そうにそんな事を考えているとー。
リュカが再び口を開いた。
「君は誰かの為に祈った事があるか?ちなみに“ちゃんとした形で祈りを捧げる”と言うのはそれ自体が中々に大変な事なんだ、まあそれは“極大呪文”をいくつか使える君ならば解っているとは思うけど。でも実際はそれだけじゃない・・・」
「・・・・・?」
「ティミー、君は神父様から“神学”を勉強しているハズだよな?それなら解ると思うけれど“カルマ”と言う言葉を聞いた事があるだろう?あれが問題になって来るんだ・・・」
父王の言葉にティムアルが思わず身を乗り出すが、ここで言う“カルマ”と言うのは平たく言えば過去世からの課題や罪科、要するに“時空を超えて働く罰則”の事である。
人は皆、誰しもが“輪廻転生”を繰り返して魂を磨いて行くのだがその過程でどうしても過ちや罪を犯し、しかもそれを償い切れずに新たな人生へと旅立ってしまう事が多々あるのであり、それどころか場合によっては他人を犠牲にしたり傷付けたり、はたまた甚大な被害を被らせたまま“新たな魂の旅路”に出てしまう、等という事例も出て来る訳で、そうなると事と次第に寄ってはこれら被害者の怨念すらをも背負わされたまま転生を余儀なくされる、と言う状況すら発生して来てしまうのだ。
「さっきの話に戻るけど・・・。下手に他人の為に祈りを捧げるとね?この“カルマ”が自分に来てしまうんだよ、“お前がコイツの怨念や
「・・・
「・・・そうだ」
ビアンカを愛でつつも、リュカは静かに頷いた。
「間違いなくその人はカルマからの攻撃対象にされるだろう、だけどね?ティミー。仮にそうだとしても。それでも尚も相手の事を救いたい、いつまでも笑っていて欲しい。本気でそう思って祈りを捧げられるだけの、いじらしいまでの健気さや暖かさ。例え一時己の身を犠牲にしてでも“それでも相手を守ってあげたい”と本気で
「・・・・・」
「ちなみにね?ティミー。祈りを捧げている間は決してそれを他人に漏らしてはいけないんだ、あくまで神様と自分だけの秘密にしなければならない。そうじゃないと“祈りの効力”が無くなってしまうんだよ?だから祈祷者本人は誰にも感謝される事も無ければ評価もされない、非常に孤独で冷たい道を歩む事を余儀なくされるんだけど。・・・まあでも?それが“純愛”ってモノだからね、“真に人を愛する”とはそう言う事だから」
そこまで言うとリュカはまたビアンカのホッペにキスをして、次いで唇にバードキスをかましていった、如何に愛妻に、とは言えどもやりたい放題であり対するビアンカもビアンカで、ウットリとした顔色を浮かべたままリュカに抱き着き口付けを返していった。
「・・・じゃあ父さんは。“愛する人の為には死ぬまで祈れ”って言うのか?」
「まさか!!!」
恐る恐る問い質して来る息子に対してリュカは明るく笑いながら応えた。
「いくらなんでも、そんな恐ろしい事を言うつもりは流石に無いよ?祈りを捧げるのは自分が“カルマの攻撃”に耐えられるギリギリいっぱいまでで良いのさ?それにもしどうしても疲れたり、“もうこれ以上は続けられない”となったら止めれば良いさ。だけどね?ティミー、さっきも言ったけれど。“カルマの攻撃に耐えながら”、それも“ちゃんとした形で祈りを捧げる”と言うのは中々に大変だよ?君に出来るかな。例え一時だけとは言えども自分の立場や都合・心情なんかを脇に追いやって相手の為に一心不乱に祈りを捧げる、等という真似が。さっきビアンカも言っていたけれど、それはね?“比類無き激情”であり“凄絶にして確かなる一途さ”、その発露に他ならないんだよ・・・」
「・・・・・」
「お母さんはね?ティミー。今まで何度もそうやって、僕を助けてくれたんだよ。この子が居なければ僕は既に死んでいただろう・・・」
そう言うとリュカはビアンカに視線を向けて、“有り難う”と礼を述べた。
「君は奇跡だよ?本当に。出会えた事もそうだけど、存在自体が眩しくて尊くて。それにとっても愛しい!!!」
「・・・・・っ。も、もうっ!!!あなたったら、何を言っているのよっっっ❤❤❤❤❤」
夫の本意に触れた愛妻王妃は顔を真っ赤にして俯いてしまうが、しかし続けて。
「だけど、でも・・・。あなただって私の事を何度となく助けてくれたわ?正直に言って何度、“もうダメかも”って思ったか解らないもの。だけどね?あなたはその度に私に勇気と希望を与えてくれたわ?ううん、それだけじゃない。あなたは初めて私に“愛とは何か”を教えてくれた人なのよ!!?」
「・・・ビアンカ!!!」
「私、あなたの事が好きなの。大好きなのっ❤❤❤だから、その・・・。これからも、よろしくお願いします・・・っっっ///////////////」
「・・・・・っ。ああ、よろしくね?ビアンカッ!!!」
二人はそう言うと照れ臭そうにクスクスと笑い合って、だけど少し経つ頃には再び甘く蕩けるような眼差しとオーラで互いを満たし、そのまま何度も何度もキスを交わして行ったのだが。
それを間近で見せられたティムアルは“やってられないよ、もう・・・っ!!!”と独りごちるとそのまま城の図書館へと向かい、歩みを進めていった。
だけど。
「・・・ねえでも。父さん、それに母さんも。もしもそれが“本当の愛”ならば、普段から僕達が思っている“愛”って何なの?」
途中で足を止めたティムアルが踵を返してなおも父王に疑念の言葉を向けるが、それはリュカの“答え”に否定的な思想を抱いたからではなくて、むしろ新しくもたらされた“愛の概念”を面白がっている様子ですらある。
「さっき父さんは祈る事が愛だと言った。だけど本当の愛って言うのはさ?欲望も純粋さも何もかも、お互いに全てを受け止め合って高め合って。そうやって新たな世界や絆を作り上げて行く事なんじゃないのか?お互いのお互いへの思いや気持ちをより強固で確かなモノにして行く事じゃ無いのかよ!!!」
「・・・いや、だから。それが“セックス”って言うモンなんだよ?ティミー」
尚も食い下がって来る息子の問い掛けに、リュカがあくまで冷静に、だけど何処かキョトンとしたように答えた。
「さっきも言ったと思うけど・・・。“セックス”って言うのはね?ティミー、“最高の愛情表現の一つ”であり“互いへの思いを再確認して気持ちをしっかりと伝え合い”、その上で“絆をより深めて行く為の最良かつ最強のコミュニケーション手段”なんだよ?だから思いを通わせ合った相手とセックスをすれば恍惚感や幸福感でいっぱいになるし・・・。ね?ビアンカ」
「も、もうっ。あなたったらっっっ///////////////だけど、でもね?ティムアル。それだけじゃないのよ・・・っっっ❤❤❤❤❤」
するとそこまで黙って話を聞いていたビアンカが、少しだけ恥ずかしそうに、だけどそれ以上に幸せそうに、熱く潤んだ瞳をリュカに向けながら口を開いた。
「そう言う思い人同士での“純愛セックス”でちゃんとイく事が出来たなら・・・。その瞬間、本当に記憶が飛んじゃうの。“自分が自分で無くなる位にまで快楽と愛欲とで満たされて”、“嬉しくなって幸せいっぱいになれる”って言うのかな?とにかく物凄い事になるのよ・・・っっっ❤❤❤❤❤」
「・・・・・」
それだけ言うとビアンカは、また熱烈かつ蕩けた眼でリュカを見た、その瞳の中にはもう、父しか映っていない様子であり、それをなんとなく無言の内に察したティミーは“そんなモンかな・・・?”等と思いながらも今度こそ本当にその場を後にしていったのである。
(セックスはそれ自体が必ずしも“愛”ではない、だけど“最高の愛情表現の一つ”である事には違いは無い・・・)
リュカは思った。
(だからビアンカが言ってくれた通り・・・。思いが報われた後のセックスって言うのはメチャクチャ気持ち良いし、それにとっても心地好いんだよ?ティミー。君にもいずれ解る日が来るだろう・・・)
“まあテクニックや体の相性ってのもあるけどね?”、“だけどそう言うのは回数を重ねる度にちゃんと補正されて行くモノだから・・・!!!”と離れて行く愛息の後ろ姿を見つめながら、ビアンカに求愛されつつもリュカは胸の内でソッと声を掛けた。