(完全版)リュカとビアンカ、息子に愛を語る。 作:アロンの杖
ある晴れた春の日の事、その日は久方振りに朝から時間が空いていたリュカとビアンカは一日中、“グランバニア城”の最奥部分にある王族専用スペースの、そのまた最奥部分、リュカ専用の書斎に籠もって朝からイチャコラしていた。
ちなみに彼等夫婦が二人きりの時は余程の事が無い限りかは大抵、誰も近付かないようにしていた、リュカがともかくビアンカが物凄い形相で睨み付けて来るからであったがそんな両親の元を彼等の愛息の一人にして長男の“ティムアル・エル・ケル・グランバニア”が訪れていたのである。
「ねえ父さん」
「なんだいティミー。なんか用なのか?」
「・・・手短に済ませてね?ティムアル。私達は今、すっごく忙しいの!!!」
父王の下に赴いた王子に対して案の定、母王であるビアンカが牙を剥いて牽制して来た、リュカにベタ惚れな彼女は普段の時はともかくとしても、夫と二人きりの時間を邪魔されるのを何よりも嫌う傾向があって、ついこの間も空気が読め無い上に中々帰ろうとしない“ラインハット”からの使者二人組を相手に不満を爆発させそうになったばかりである、リュカが上手く対応してなんとか事無きを得たのだが周囲は“どうなる事か”とヒヤヒヤしながら事態の推移を見守っていたのだ。
「ねえ父さん。前に父さんは教えてくれたよね?“他人のために祈る事がその人を愛すると言う事だ”と。それは一体、なんでなの?」
「そもそもが“祈り”とは誠意を尽くし切った後に現れる、“純粋なる思念エネルギーの結晶体”だからだよ?簡単に言うと・・・」
そんな母王の鋭くも冷たい視線に耐えつつも、ティムアルから発せられた素朴な疑問にリュカが応じた。
「ありとあらゆる障害にも負けず、様々な誘惑にも決して惑わされる事無くどこまでもどこまでもただひたすらにその事だけを追究して行った結果として。突き詰めて行った結果として現れる、もうそれ以上刮ぎ落とす事が出来ない“真心の結実”であり混じりっ気の無い極めてピュアな光り輝きの顕現。それこそが“祈り”の正体なんだ、そして“それ”は森羅万象の全てを貫いて対象となる存在や現象の本質に徹底的に作用する特性を秘めている。何故ならばこの“祈りの光り”と言うのは宇宙全体を創造した“始源の超神”の解き放つ“純粋法力”と同質同等の力を宿した代物だからね」
「・・・“始源の超神”?それに“純粋法力”ってなんなのさ」
「・・・そうね、それは私も聞きたいわ?ねえあなた、“純粋法力”ってなんなのかしら。“光の波動”とどう違うの?」
リュカが落ち着き払って進める言の葉に、段々と興味を持ったビアンカとティムアルとが身を乗り出して尋ねて来た。
「“純粋法力”と言うのはね?神々だけが発生させられる特殊な波動の事さ。それは絶対的意志力に支えられた無限エネルギーの発露であり、特に“始源の超神”や“善なる神々”の“出でよ”、“生まれよ”、“有れ”と言った純粋にして暖かな思念の迸り。それそのものに他ならないんだよ?君に解るかな、瞬時にこの宇宙全体を作り変えてしまうほどの比類無き“意志力”。それは人間の言葉に直すなら“強大無比な精神感応波”とでも言うべき代物だろうね・・・」
「・・・・・」
「“神の精神感応波”、と言う事ね?確かに神様の意志ならば物凄く強力そうだけど・・・」
「そりゃそうだよ?ビアンカ、何しろ“神様になる”為にはまず“混じりっ気の無い純粋なる光そのもの”になる必要があるんだからね。当然の事ながらそれはとても厳しい道で、脱落者が後を絶たないらしいんだ。あっ、ちなみに言っておくと“神々の厳しさ”とは“嘘や妥協を許さない”、“紛い物を決して認めない”と言う事だよ?頑張っている人には優しいけれど、適当に生きている輩には辛口と言うか。中々に厳しいからね神様は・・・」
「・・・“適当を認めない”か。それはなんとなく解る気がするな」
「でも、だけど・・・。私は神様ってやっぱり優しいと思うわ?だって本当に厳しいだけの存在だったら“過ち”とか“罪科”とかを許してはくれないハズでしょ?だけど・・・」
「・・・人間の中にはね?ビアンカ。そんな神々の優しさに付け込んで平然と悪事を為したり、酷いヤツらだと魔物と結託している連中もいるんだよ。悲しい事にさ」
自らに撓垂れかかりながらもそう告げて来る“天空の花嫁”に対してリュカが苦笑しながら述べ立てた。
「“魔物”ってのは狡賢くて執念深いんだよ。まあ“鬼”や“悪魔”に比べれば魔力自体は全然、大した事は無いんだけどね?アイツらが人間に取り憑くとまず何をするのか、と言うと他人の言葉を聞かないように耳を塞ぐんだよ。で、次いで善悪の感覚を麻痺させる。例えば自らの手で愛を破虐させたり、最愛の人を汚させたり。中には神々をバカにしたりするような物語を作ってそれを吹聴させるような事をする輩もいるんだ。もちろん神々は優しいからそう言うことも見逃したりしてくれるらしいんだけど、そんな事を繰り返して行く内に人間は段々と魔物共の言いなりになって行く。“やっぱり神なんていないんだ”とか“バチなんて当たらないじゃないか”とか、そして“愛なんて下らない”とか言ってね?意識が狂わされて行くんだよ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「神々と魔物との戦いはずっと続いているんだよね、ちなみに神様が魔物に勝つ為にはたった一つの実にシンプルな事柄が必要なんだ。それは人間達が“神様は居るんだ”と知れば良いらしいんだよね、ただそれだけで神様は魔物に打ち勝つ事が出来るらしいんだけど・・・。たたそれは中々に難しいんだよ」
「・・・・・?」
「どうして?“神様は居るんだ”って私達が理解すれば良いんでしょ?だったら・・・」
「・・・確かに僕達にはそれが解る、感じる。だけどビアンカ、一般の人々にそれを知らしめる為にはどうすれば良いと思う?」
最愛の夫から突如として聞き返された問い掛けに、ビアンカは“う~ん”と唸って考え倦ねてしまった、確かにその通りである。
例えばリュカやビアンカ達は厳しい修行や運命の旅路を踏破する中で徐々に感覚や霊力が磨かれて行き、その結果として強大な呪文や戦闘技術を身に付けたり、また或いは“マスタードラゴン”や“天空人”、そして“妖精の女王”等とも知り合いになり、誼を結ぶ事が出来たがしかし。
「・・・確かにちょっと難しいかも知れないわね。例えば“霊能力者”だとか“占い師”だとかはともかくとしても、普通の生活を送っている人々に神々の存在を感じて理解してもらうためには」
「いやね?本っ当にそうなんだよ、面倒臭いったらありゃしないんだよね。これが!!!」
愛する妻の言葉にリュカが大いに頷いた。
「まあ確かに?一般人の中にも霊力や霊感の高い人々は一定数いるから、そう言う人々ならまだなんとかなるかも知れないけれど・・・。これが何も知らず、気ままに毎日を生きている市井の人々が相手だと。ね?」
「・・・前に父さんが言っていたね?“神々への道”は“登山”と同じだって。“険しい山道を最後まで登り切った人々にしか見えない景色と味わえない感動があるんだ”って。あれ、すっごい解りやすい例えだと思うよ?」
夫婦の会話に愛息が口を挟んで来た。
「“神々への道”はやった人にしか解らないもんなんだよね、“祈り”と全く同じなんだよ。と言う事で話しを元に戻すんだけど、例の“純粋法力”についてだったよね?あれを他人に対して発生させる、と言う事は即ち“その人に対する偽りなき誠意を尽くす”と言う事に他ならない。特に暖かな心根で誠意を尽くし切った時にのみ人は“純粋なる思念エネルギー”を発現させて用いる事が出来るんだよ?ちなみにその波動は完全なる“慈愛の光”、或いは“情熱の光”そのものなんだよね。それらはさっき言ったように対象となる存在や現象の本質に徹底的に作用する特性を秘めている、だから誠意を尽くせば必ずや思いは伝わり願いは叶うのさ」
「・・・解らないな、父さん。要するに“誠意を尽くす”とは“努力する”と言う事だろ?だけどこの世には努力しても叶わない事だってあるじゃんか、勝つ人もいれば負ける人もいるじゃないか。それはどう説明するの?」
説明を聞いていたティムアルが提示した素朴な疑問にリュカが静かな声で応えた。
「もちろん、それにも意味がある。今まで話した事柄には全て“基本的には”とか“自然状態下では”と言う前置詞が付くんだよ?良いかいティムアル、良く覚えておいて欲しいんだけど。この世は“意志と意志のぶつかり合いの場である”と言う事なんだよね。で、そうした場合はより強く誠意を尽くし、そしてより多く努力した方が勝者となる訳だよ。・・・ま、それに加えて“善悪”や“運命”、そして“カルマ”の力なんかが働く場合があるけれど」
「・・・“意志と意志のぶつかり合い”か」
「そうだ。例えば悪党とか性悪なヤツらなんかと対峙した時には、相手の執念や悪意を上回る程の誠意と真心を尽くさなくては。逆に取り込まれてやられてしまうんだよね、そこら辺も難しいし中々に大変な事なんだけど。だけど多分、大丈夫だよ?特にティミー、君は強い。強さとはこの場合“優しさ”であり“勇気”の事だ、君は真の勇気を持っている。立派な勇者なんだから、もっと自信を持つんだよ・・・」
そこまで話しを聞いたティムアルはちょっと照れ臭そうにしながらも、それでも納得は出来たらしく礼を述べ立てた後で書斎を出て行った。